この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお

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後編

犯人が多すぎる?①

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「っ……?!」

 口を離しながら、反射的に手が出た。でも、その手はパシリとローデリヒ様に掴まれる。受け止められたと言ってもいい。
 おかしい。いつもだったら、ローデリヒ様をボコボコにしてしまうのに。
 唖然としてローデリヒ様を見上げると、至近距離から見下ろされる。海色の瞳が私を射抜く。

「そう何度も同じ手にはやられない」

 掴まれた手を握り込まれた。あれよあれよという間に、膝裏と肩に手を回されてベッドに引っ張り上げられる。ローデリヒ様の膝の上に横抱きにされて、抱き込まれた。

「えっ、ちょ、……ちょ?!」

 ギョッとして声を上げる。頬に吐息が触れる。リップ音が至近距離で聞こえて、私の肩に金髪の頭が乗った。

「なんだ……?体が、熱い……」

 うわ言のように呟きながら、グリグリと甘えるように擦り寄ってくる。
 え……?何この状況……?

 キャラ崩壊しかけているローデリヒ様の頭を撫でると、髪の毛がとてもサラサラしててとても羨ましい……と思うよりも先に、頭自体が熱くてびっくりした。

「ローデリヒ様?!熱!!やっぱり熱ありますよ?!」

 慌ててローデリヒ様の腕の中から抜け出して、ベッドから下りる。そして上体を起こしたままのローデリヒ様を無理矢理ベッドへ寝かし付け、掛け布団を被せた。

「……っぶ」
「あっ、ごめんなさい」

 勢い込んでローデリヒ様の顔面に掛け布団が当たってしまったけど、彼は緩慢な動作で布団から顔を出す。

「でも、目を覚ましてよかったです。気持ち悪いとかあります?なんか食べれます?」
「……目を覚ます?私は何故寝ているんだ?」

 やや意識がはっきりしてきたようだけど、まだまだぼんやりとした声音だ。頬もやや赤い。

「何故寝ているって……」

 そういえば、なんでローデリヒ様って眠ったままなんだったっけ?
 近衛騎士が呼びに来た時、「自作の薬を飲んだ」とか「国王の側室と同衾していた」とか言っていた気がする。

「……なんか私には深い事情は聞いていないんですけど、ローデリヒ様って自分で作った薬飲んだんですか?」
「飲んだが……、それがどうした?」
「いや、自作の薬なんて飲んじゃダメですって!!」
「大丈夫だ。問題はない。それにしても、睡眠薬を作って飲んだ訳では無いのだが……」
「いや、問題大アリでは」

 ローデリヒ様がサラッと重大な問題を流したけど、薬について私は全く分からないので置いておく。

「心配したんですよ。何か危なそうなものはもう飲まないで下さいね」

 ずいっとローデリヒ様に迫る。今度は私が寝転んでいるローデリヒ様を見下ろすと、「あ、ああ……」と気圧されたように頷く。

「……心配、したのか」
「当たり前じゃないですか」

 当然のことを何を言っているのだと思いながら、返事をする。ローデリヒ様は突然胸を抑えた。

「……また胸が痛い」
「え?!大丈夫……じゃないですよね?!ジギスムントさん呼び……」

 立ち上がろうすると、腕を引かれて「大丈夫だ」とローデリヒ様に止められる。

「私の薬は危ない物ではない。誤解するな」
「いや、いやいやいや」

 一体何飲んだか聞くのが怖いな本当に。

「ジギスムントさーん!!」

 ローデリヒ様が止めるのを遮って、扉の外にいるであろうジギスムントさんを呼んだ。やはり待機していたらしくて、ノックの後に入ってくる。ローデリヒ様付きの近衛騎士のイーヴォも入ってきて、扉付近に待機した。

「おやおや、目覚められましたかな?」

 ニコニコと害のなさそうな穏やかな微笑みと共に、ジギスムントさんはベッドの傍に椅子を持ってきて腰を下ろした。私も座っていた椅子に戻る。ローデリヒ様はまだ私の腕を掴んだままだ。

「体調に変化はありますかな?」
「……何故か体が熱い。あと寝てしまう前に吐き気がして、戻した」
「なるほど……」

 ジギスムントさんは簡単にローデリヒ様を診察する。流石に診察途中では離されたけど、終わった途端また手を繋がれた。

 え、これは何……。

「まあ、媚薬を盛られたらしいですからな。まだ抜けてないのでしょう。もうそろそろ抜けるとは思いますが」
「は?」
「媚薬?!」

 え、この世界って媚薬があるの?!

「一種の興奮剤です。高価なので一般的にはあまり出回ってはいませぬが、貴族の間では娯楽物として流通しているのです。健康な人間が服用しても問題はありませぬ。ローデリヒ殿下の場合、最近寝不足気味でいらしたので、体に負担がかかったのでしょう。おそらく急激に血圧が上がって、眩暈を起こして気分が悪くなられたのかと。血管にストレスが掛かった状態なので、一歩間違えれば、命の危険がありましたぞ」
「あ、あれ……?むしろローデリヒ様の自作の薬は?」
「……気休め程度のものですが、血管を広げるものです」

 それって……、逆によかったのでは?

「だから言っただろう?危ない物ではない、と」

 難しい顔をして偉そうに言い放ったけど、何故かローデリヒ様が私の手をスリスリと撫でてくる。

 待って、これって……。

「……まさか、これ媚薬の効果です?」
「そうでしょうな」

 ジギスムントさんが頷いたけど、ローデリヒ様はあまり認めたくないのかもしれないらしく、目元を覆った。

「私は理性的なはずだ……」
「ええ。よく持ちこたえていると思いますよ」

 ニコニコと微笑んでいるジギスムントさんがローデリヒ様を慰める。ローデリヒ様はあまり状況がよく呑み込めていないのか、深い息をついた。

「何故媚薬を飲んだんだ……?」
「そういえば、国王様の側室様と同衾していたみたいなので、その人が詳しく知っているかもしれません」
「………………は?」

 熱なんて全て飛んだとでもいうように、瞬時にローデリヒ様は真顔になった。赤かった頬は元通りになっている。

 人ってこんなにも顔色が変わるのかってくらいに、変化が激しかった。
 あ、もしかして、気まずいのかな。

「……あ、別に浮気が云々煩くするつもりはないですし、元々側室勧めちゃってましたし……、まず王太子様なんだから浮気と言わないだろうし……」

 と言いつつ、ローデリヒ様から目が段々と逸れていく。なんで、私の方が気まずくなっているのだろうか。おかしい。なんでだろう。

「いや、待て。父上の側室と同衾していた?私がか?」
「らしいですけど……」

 考えてみると、自分の父親の奥さんと寝たって……ドロドロしすぎじゃない?昼ドラかな……。

「休憩室で戻したのを最後に記憶がない……」

 月光のような金髪をくしゃりとかきあげて、ローデリヒ様は真っ青になった。

「ローデリヒ!起きてよかった~」

 心底ホッとしたような声と共にゾロゾロと人が入ってくる。あんまり会ったことがないエーレンフリート様、宰相、国王様にハイデマリー様まで。ローデリヒ様も目を見開いて彼らを見た。

「何故……」
「急に倒れたんだからびっくりしたんだぜ~?もう体調はいいのか?」

 エーレンフリート様がローデリヒ様を覗き込む。

「だいぶ良くなった。どうやら媚薬を盛られたらしい」

 ローデリヒ様がジギスムントさんの診断をそのまま言うと、まるで今日の晩御飯を教えるかのような気軽さでエーレンフリート様は口を開いた。

「あ~、それ盛ったの、オレ」
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