俺は仕事がしたいだけなのに!?〜閻魔様はモテたくない〜

意流

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〜閻魔大王様の冒険の始まり〜

1和 地獄の閻魔様に一目ぼれ!?

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 哭鵺こくやは目立たないように歩いてはいるようにしていたが、鴉のように真っ黒な姿をしているせいですれ違う人達は必ず彼を見てしまう。
「あぁ、もう……金髪とかにすりゃあよかった……」
 街中を歩く前に髪の色を変えておけば目立たないようにできたであろうと思っていた哭鵺はため息をついて、ギルドらしき場所にたどり着き、扉を叩こうとすると後ろから来た冒険者であろう装備をした若者達が入ろうとするのを哭鵺は静かに扉から離れる。
 若者達についていくようにそろりそろりと入ると杖の持った魔法使いであろう年寄りの男性や筋肉の力でねじ伏せそうな屈強な男性、杖を持った妖艶な魔法使いであろう女性や弓を持った不安そうにする女性などの様々な職種の様々な種族が集まっていた。
 真ん中を突き進むにはさすがにそんな勇気はないので、壁伝いにこっそりと受付の人に近づいて自分が登録している存在なのかを聞くことにした。
「あの、すみません……」
「その真っ黒な髪に黒縁眼鏡、黒い着物のお姿……閻魔哭鵺様、ご本人様ですね! 架凛かりんからお聞きしております!」
「え?」
 受付嬢から笑顔で言われると面食らった表情を浮かべる。
 まさか彼女もここにいるのかと、いやあり得るなと考えていた哭鵺に受付嬢から受け取ったのは透明度が最高値、そしてサイズも大粒のダイヤモンドがあるネックレスと共にギルドカードを渡される。
 まさかダイヤモンドのネックレスを渡されるとは思っていなかった哭鵺は恐る恐る受け取るとダイヤモンドは輝きを放つ。
 その場にいた人達はまぶしくて目をそらし、哭鵺は慌ててダイヤモンドの輝きを抑えるために手を添えようとした時、彼の手の上に真っ白い羽を広げて白い髪に白い肌に白い肩紐ワンピースを着た少女が手を重ねた。
 輝きが落ち着くと彼女は微笑み、足元を見れば羽か魔法で浮いているを確認できたのと同時に足の甲に大きな真っ白なリボンの真ん中にダイヤモンド、同じような真っ白なリボンを足首の後ろにあるストラップリボンヒールをかつんと鳴らせて静かに着地する。
「嗚呼、この日をお待ちしておりました。 閻魔哭鵺様、貴方様は私を受け取ってくれると信じておりました」
 嬉しそうに笑う彼女が言ったが、哭鵺は眉を下に下げて明らかに困った表情を浮かべた。
「……俺、元の世界に帰りたいんだが?」
 名前を聞くわけでも、彼女の正体を聞くわけでもなく、彼は帰りたいと言った。
「え? でも、架凛様が哭鵺様を案内して差し上げろと……」
 哭鵺の言葉に目を丸くして困惑を隠しきれずに彼女は言うとため息をついた哭鵺は彼女の頭を撫でる。
「あんのサボり魔の考えてることはわからねぇけど、お前はあいつに言われた通りにしなくていい。 いいな? お前はこの宝石に閉じ込められていたんだろ? あいつが閉じ込めることはできねぇはずだから、きっと俺ならどうにかしてくれるって思ったのかしらねぇけど……」
 持っているダイヤのネックレスを少女に見せれば、彼女は小さくうなずく。
 哭鵺は哭鵺で少女をこのままギルドで別れると周りの人から反感を買うだろうとしばらく黙考するが、どう考えても避けられないのを理解したのか受け取ったカードを受付に見せてから彼女をパーティーに加えることを言った。
「そういえば、名前はなんていうんだ?」
「えっと…………アルビフローラです……」
「……白花曼珠沙華しろばなまんじゅしゃげ、つまりは白い彼岸花か。 ネーミングセンスはまぁ、悪くない方だが……」
 哭鵺が少女に名前を聞くと受付に出された資料にアルビフローラと自分の名前を書いてパーティー編成の申請をする。
 申請が通るとカードを返され、受取ながらアルビフローラの分のパーティーカードを渡す。
「さて……どうやらお前の言う通りの事だったら、サボり魔はこの世界にいないことは確定したし……元の世界に戻る方法を探すとするか」
 ギルドの掲示板を見ながら何か地獄に戻る方法の手がかりを探すとは言ったものの、行き当たりばったりでは見つかるものも見つからない。哭鵺の妻である架凛がこの世界に一度来たことがあるという事実だけで、あとは何も手がかりがないということにため息がつく。
「せめて、なんか……こう、帰れる条件ぐらい教えてくれたっていいだろうが……」
 そう呟きながらとりあえず低ランクの依頼を受けようと掲示板に手を伸ばそうとした。
「閻魔さん!」
 彼の手を止めたのは受付嬢だった。どうして彼女がと疑問に持つのと同時にギルド内がただならぬ雰囲気で充満しているのに哭鵺は首を傾げた。
「あの、説明し忘れていました。そこは申し訳ございません。それでなんですけど……閻魔さんのランクはこの街にいる唯一の最上位の方なのでお願いしてもよろしいでしょうか?」
「え、あぁ……大丈夫ですけど……」
 哭鵺は戸惑いながら受付嬢に案内されて掲示板から離れて奥の部屋へとアルビフローラと共に行く。
 歩きながら他の冒険者の視線が痛いと思いながら、ふとこの世界に行く前に架凛が言っていたことを思い出す。

『哭鵺くんはなんでもできるようにしてあるのよ? チート能力っていうのかしら?』

 この現状と周りの反応、そして架凛の言葉で深い長いため息をついて彼は一言。
「そういうことかよ!!」
 怒りに任せた声に驚くアルビフローラと周り、それを気にせずその場でしゃがみ込む。
「あの……哭鵺様?」
「あ、あぁ……ごめんな」
 恐る恐る声をかけたアルビフローラの頭を撫でながら立ち上がるとギルドにいた人たちの方を向く。
「突然に皆様を驚かせてしまい、申し訳ございません。それでは、失礼します。」
 丁寧な言葉と頭を下げて謝る動作は慣れているようで、彼はしばらく頭を下げてからゆっくりと頭を上げて申し訳なさそうな表情を浮かべながらギルドの奥の部屋に入ると、ソファーに座るように言われては先にアルビフローラを座らせてからその隣に哭鵺は座る。
「哭鵺様、先ほどは……」
「あー、最上位ランクなのは元から俺の能力値的なもので判断されたものなのと……帰る方法は多分、俺がここにいたいと願うことだろうな」
 なんでもできるようにしてあると言われ、そしてそれがチート能力扱いになっていることでこの世界にいる魔物や魔王は簡単に倒せるならば倒したことで帰れるわけがないと。そして自分の一番の願いは元の世界に戻って仕事をすることで架凛の願いは自分の仕事を忘れて旅行気分で気分転換をしてほしいこと、それでいて腐っても彼女は地獄の閻魔女王だ。
 簡単に楽しい気分で帰らせるわけがないというのを考えれば、哭鵺が仕事を忘れるくらい楽しく幸せに暮らして一生ここにいたいという気持ちを持った瞬間に元の世界の地獄へと戻されると推測した。
 あくまでも推測の話だが、無慈悲な地獄の閻魔の女王様となれば自分の中で納得せざる負えない。
 ただ元の世界に戻るには一つ難点があった。
「俺、元の世界の仕事全部捨ててきたわけだから……あいつがちゃんと仕事するか心配で心配で異世界で楽しめる気がしねぇ……」
 うんざりした顔を浮かべた哭鵺は今後のことも考えてアルビフローラと会話していると依頼人であろう騎士の男が受付嬢と共に入ってくる。
「これはこれは……なんとも、異色な組み合わせですな。いや、悪く言ってるわけじゃなくてですね」
「……いえ、大丈夫ですので。本題をお願いします」
 騎士の男の言葉に短く返しながら依頼内容を聞きたいと告げると男は哭鵺達の前にあるソファーに座り、資料を机の上に出す。
 出された資料を哭鵺は手に取り、無言で資料を見つめる様子に困惑するアルビフローラは騎士の男の方を恐る恐る見ていた。
 1~2分ほどで読み終えたのか哭鵺は読んだ資料を静かに机の上に戻しながら騎士の男の方に戻すように置く。
「ご丁寧にどうも……」
「いえ……ところでこの依頼内容なのですが…………複数の高ランク冒険者が行方不明と……その調査をお願いしたいんですね?」
「え、えぇ……」
「この資料では情報が少なすぎます。行方不明になった時間、連絡が取れなくなる前に何をしていたのか、そして彼らの高ランク冒険者全員のリストを追加できますでしょうか。それさえあれば、この依頼を引き受けますのでどうか宜しくお願い致します。」
 淡々と丁寧に依頼内容の事細かの詳細を記載した資料をくれるように言えば、騎士の男は面食らったように哭鵺を見る。
「………ですが、全員のリストは用意はできるが……そのほかはわからないんだ」
「そうでしたか。では……私の方である程度の資料をお作りしたいので、その時はお手伝い願えますか?私は高ランクの冒険者と呼ばれていますが、貴方様のような王族に配属された騎士よりも弱く、彼女のような頼れる仲間も他にいないのでご協力していただければと。」
 哭鵺にここまで丁寧に言われたことがなかったのか面食らいながらもそれならと承諾し、今後は連絡手段として通信用の小型魔法石を哭鵺に渡してギルドを去っていく。
「哭鵺様、慣れてらっしゃいますね?」
「つい、癖でこういう……こういう依頼の話は本来は架凛がやることを全部俺がやってたから慣れてんだよ……」
 立ち上がって奥の部屋から出ると、待ってましたと言わんばかりにギルドにいた冒険者たちが哭鵺に詰め寄る。
 最高ランクなのになぜこの街にいるのか、そしてどんな話をしたのか、どうしたら最高ランクに行けるのかと次々に話しかけられる哭鵺は驚きながらも、この既視感は見覚えがあると思いながらある程度答えられる質問には答えていく。
 そして冒険者たちの質問を捌いた哭鵺は死にそうな表情でギルドの机に突っ伏していた。
「これ、あれだ……学校の転校生が割といいやつだったり、強かったりしてメディアに取り上げられた時の感覚だ、これ」
 ぐったりとした哭鵺はアルビフローラが微笑みながら住める場所がないかと受付嬢と相談しているのを眺めていた。
「高ランク冒険者様がなぜこのような場所に?」
 金色の短い髪、金色の瞳で装備はそこそこいいものだがお洒落に気崩している男が哭鵺の前の席に座りながら声を掛けてくる。
「わからん、俺にもさっぱりだ」
「そうか……にしても、その装備の服は初めて見たよ。どこで取り寄せたんだい?」
 おしゃれに気を遣う男かとめんどくさそうに机に突っ伏したまま元の世界で着ていたものだからこの世界にはあるかは知らないと答える。
 アルビフローラの声が遠くから聞こえる様子を見ながら、一時的に住む場所が決まったのだろうと起き上がると話しかけてきた男と目が合う。
 ほんの数秒間、男は目を丸くして動かなくなっている様子に少し首を傾げる。
「じゃ、住む場所が見つかったんで」
 動かない様子に少し困りながらも立ち去ろうとするが手首を掴まれてしまい、掴まれた方を見ると男は目を輝かせていた。
「待ってくれ!やっと見つけた!」
「え?何が?」
 嬉しそうにする男に状況が飲み込めないで困惑しながら疑問符を浮かべる哭鵺。
「君だよ、君!僕が見つけた美しい恋人フィアンセ!」
「んん!?いま、なんて?」
 予想外の言葉に聞き間違いかと思って再度同じことを聞こうとすると男は哭鵺を抱き寄せる。
「あぁ、こんな綺麗な美しい方がいるなんて!君はうちにくるといい!」
「いやいやいやいや、落ち着けよ、お前! 恋人フィアンセて言ったか!? 恋人フィアンセって! 俺は男だから無理だろうが!」
 抱き寄せられて慌てて離れようとする哭鵺の言葉など聞こえていないのか彼は嬉しそうにしていて、頬擦りをしようとするのを哭鵺は両手で止める。
「照れないでおくれ、我が愛しの恋人フィアンセ!」
「お前の恋人フィアンセになるつもりはねぇし! 無理だって、言ってんっ、だろうがぁぁっ! 」
 聞く耳を持たない男の様子に哭鵺はあまりの自分の危機感に耐えきれず男を思いっきり吹き飛ばした。
「哭鵺様!?」
 慌てたようにアルビフローラが駆け寄ると顔を青ざめた彼の様子に吹き飛ばされた男の方を見る。
 男は悪びれもなく満面の笑みを浮かべて近寄ってくるよをアルビフローラは哭鵺の前に出る。
「さすが、僕が惚れた恋人フィアンセだ」
「……恋人フィアンセ、ですか?」
 アルビフローラは困惑した声で哭鵺の方を見ると彼は全力で首を横に振る。となれば、男が勝手に言ってるのだろうと考えるには時間はかからなかった。
 彼女は哭鵺を守るように男を睨みつける。
「あぁ、彼は僕の愛しの──」
「ラブロックさん、やめてください。 あなたのせいで高ランクの冒険者さんが居なくなるじゃないですか」
 名を呼ばれた男は声のした方を見るとアルビフローラと話していた受付嬢だった。
「知り合いなんですか?」
「まぁ……腐れ縁のようなものです。彼はレナート・デ・ラブロック、この通りクソ野郎です」
 レナートと幼なじみで名はイーグレット・サ・リリー。
 哭鵺はアルビフローラとイーグレットの間に隠れるように移動しながらふと先ほどのイーグレットが言った言葉を思い出す。
「そういえば、さっき『また』って?」
「あぁ、実はここ最近の出来事なのですが……」
 詳しく話を聞くとレナートが目を付けたのは軒並み高ランクの冒険者で老若男女問わず彼は話しかけて一緒に冒険をしに行った際に行方不明になっていたと言う。
 依頼人の騎士もこのことは知ってはいるが彼を犯人にするには証拠が不十分で放置しているということ、何故か彼だけは行方不明になる前に逃げ延びていた。
 少し気になった哭鵺は腕組をしながら考え、自分が吹き飛ばしても平然としていることも考えて逃げ切るのが特化しているにしても彼だけが毎回生き残っているのが不思議に思えた。
「哭鵺様?変なこと考えてませんよね?」
「あ、いや。元の世界で逃げ足と回復力が似たような奴がいたなって」
 アルビフローラが顔を覗き込むように不安そうな表情を浮かべて哭鵺に聞くと彼は苦笑いしながら答える。
 逃げ足と回復力に特化しているのであれば、なんとかなるだろうとそしてレナートに微笑んだ。
「どうしたんだい?我が愛しの恋人フィアンセ!」
お前の恋人フィアンセじゃねぇけど、お前にしかできないことを頼みたい。それ次第ではお前を仲間に入れてやらんでもない」
「本当かい!?」
 目を輝かせるレナートに対して哭鵺は頷いた。
「俺に一目ぼれしてくれたんだろう?なら、俺は純粋に尽くす奴は好きだからな。頼みごとを受け入れてくれるやつが一番だ」
 思ってもないことをさらりと言いながら彼の笑顔は輝いていた。
恋人フィアンセのお願いなら何でも受け入れるよ!」
「おっと、なんでもって言ったな?それ、忘れんなよ?」
 望んでいる言葉を待ってましたと言わんばかりの悪いヴィラン顔で楽しそうに言う彼に背筋が凍るような感覚になったレナートはもう前言撤回の余裕すら与えられなかった。
「今回のクエスト、お前ひとりで行け。何か成果が得られるまで戻るな。お前だけが頼りなんだ。いいな?」
 レナートの肩に手を置いて、目だけが笑っていない笑みを浮かべながら問いかける様子はそれは逃げることは許さないと言いたげで哭鵺のお願いと報酬のために頷いてレナートが誰一人としてクリアできないクエストを引き受けることとなった。
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