上 下
37 / 86

第37話 空中戦

しおりを挟む
 オルビークが顕現させた大炎の燭台によって、闇が消え去った峡谷。

 正面、頭上十五メートルほどの高さに『グラウンドイーター』の胴体がある。

 俺たちの乗った馬車は駆ける。

 通常であれば、高い位置に存在する『グラウンドイーター』に攻撃を加えることができない。

 しかし俺は全く怯むことなく、後退の指示を出すこともない。

 なぜなら、俺たちの攻撃は『グラウンドイーター』に容易く届くからだ。

『魔地馬』は脚を高速で動かして、地面を蹴り進む。

 牽引される馬車は『魔地馬』の能力で軽くなっている。そう、普段は重量を軽くするため使っている能力。それを使用するのだ。

「ちょっとした曲芸の時間だ」

 俺は指を鳴らして合図を出す。
 すると、『魔地馬』の身体から魔力の光が迸った。

「『魔地馬』! 重力操作の能力を最大に引き上げろッ!」

 俺が叫んで数秒後、ふわり、と馬車が浮いた。

『魔地馬』の能力は重力操作。

 故に、それを極限まで強めることで、馬車が受ける重力はゼロになる。

 これこそが頭上に坐する化け物に攻撃を加える秘策だった。

「跳べッ! 『魔地馬』!」

 自重ごとゼロにした『魔地馬』が地面を大きく蹴る。

 すると、『魔地馬』と馬車は『グラウンドイーター』が待ち構える上空まで一瞬で浮上した。

『グラウンドイーター』はさすがにこの行動を予測していなかったのだろう。

 馬車は『グラウンドイーター』の頭上を越え、敵はその大きな瞳で呆然と俺たちの姿を見上げる。

 馬車はくるりと体勢を変え、『グラウンドイーター』を真正面に捉えた。
 今こそが、攻撃の好機。

「よし、今だ! 後方に反重力展開! 自分の砲撃で吹き飛ばされるなよ。やっちまえ! 『邪神砲』!」

『魔地馬』が激しく嘶き、馬車後方に強力な反重力場が展開される。

 強烈な『邪神砲』の反動を無重力状態で受ければ、俺たちもコントロールを失うのは明白だった。そのための反重力場である。

「それじゃああああああ、さよならだぜええええええ!!! この化け物野郎ぉおおおお!!!!!」

 峡谷の主を地に落とす、鉄壁粉砕の一撃が『邪神砲』から発射される。

 邪悪な光を帯びた禍々しい砲弾が、超高速で『グラウンドイーター』に迫っていく。
 
 砲弾は斜め上から直撃した。

 厚い鱗と皮膚を破り、『グラウンドイーター』の身体を貫通した砲弾は、轟音と共に峡谷の底へと着弾する。

 強力な衝撃を上方向から受けた『グラウンドイーター』は抗うこともできず膝を折り、地に落ちる。

 砂煙が高くまで舞って、峡谷を覆った。

「よし、『地獄骸』と『地獄射手』は降下! 『剣豪―三刀―』を仕留めろ!」

 俺の号令と共に、『地獄骸』たちが馬車から飛び降り、砂煙の中へと高速で降下した。

 だが、敵も黙ってはいない。

 砂煙の中から、『剣豪―三刀―』の二本の魔刀が一直線に飛んできて、『地獄骸』たちを襲う。

「さすがは古の剣豪。この程度で地に足はつかないかッ!」

『地獄骸』は戦闘を楽しんでいるような声色でそう言うと、魔刀を弾き返す。

「ふん、僕は野蛮な近接戦は避けたいんだけどね」

『地獄骸』とは対称的に、少し嫌そうな『地獄射手』も同様に持っていた短剣で魔刀の攻撃を受け止めた。

 魔刀は一度弾いたからといって、『剣豪―三刀―』のもとに戻っていくわけではない。

 降下する『地獄骸』たちの周囲を執拗に飛び回り、無数の剣撃を加え続ける。

 そのまま『地獄骸』たちは砂煙に包まれて、ここからは視認できなくなった。

「くそっ! どうにかならないのか、この砂煙」

「ここはわらわに任せておけ、シュウト」

 そう言って、オルビークが馬車の後方から下を覗く。彼女に名前を呼ばれたのは初めてな気がした。

 もしかしたら、少しは認めてくれたのかもしれない。

 オルビークが目を閉じて念じると、無数の火炎球が馬車の周りに出現する。
 手をかざすと、それらは一斉に砂煙へと向かっていった。

 激しい風を巻き起こした火炎球は、視界を塞ぐ砂煙を次々に払っていく。

『グラウンドイーター』の背中では、『地獄骸』たちと『剣豪―三刀―』が剣を交えていた。

「さあ、魔術師が高潔かつ、最強の存在である所以、シュウトにも見せてやろう」

 オルビークの両目が赤く、獰猛に光る。

 さらに出現した火炎球が『グラウンドイーター』の巨体に降り注ぎ、手足の長い竜擬きはあまりの痛みに絶叫した。火炎球は『剣豪―三刀―』をも狙う。

 移動しても追尾する火炎球は、交戦中の『剣豪―三刀―』の頭上から急襲し、『剣豪―三刀―』の銀色の鎧を魔法の炎で焼いた。

 形勢は一気に傾いた。
 すでに決着はついたといってもいいだろう。

 俺は馬車を『グラウンドイーター』の背中に着地させ、『地獄骸』たちのもとへと駆け寄る。

「ようやく終わったな……」

 俺の眼前には、膝をついて全身を火炎に包まれた『剣豪―三刀―』の姿。

 やっと、戦闘は終わり、緊張を解くことができる。

 だが、それは甘かった。

 俺は軽く考えていたのだ。

『剣豪―三刀―』が遥か昔から生き残ってきたことの事実を。

 そして、それは最悪の事態を招くことになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

異世界転移は分解で作成チート

キセル
ファンタジー
 黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。  そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。  ※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。  1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。  よろしければお気に入り登録お願いします。  あ、小説用のTwitter垢作りました。  @W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。  ………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。  ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

【TS転生勇者のやり直し】『イデアの黙示録』~魔王を倒せなかったので2度目の人生はすべての選択肢を「逆」に生きて絶対に勇者にはなりません!~

夕姫
ファンタジー
【絶対に『勇者』にならないし、もう『魔王』とは戦わないんだから!】 かつて世界を救うために立ち上がった1人の男。名前はエルク=レヴェントン。勇者だ。  エルクは世界で唯一勇者の試練を乗り越え、レベルも最大の100。つまり人類史上最強の存在だったが魔王の力は強大だった。どうせ死ぬのなら最後に一矢報いてやりたい。その思いから最難関のダンジョンの遺物のアイテムを使う。  すると目の前にいた魔王は消え、そこには1人の女神が。 「ようこそいらっしゃいました私は女神リディアです」  女神リディアの話しなら『もう一度人生をやり直す』ことが出来ると言う。  そんなエルクは思う。『魔王を倒して世界を平和にする』ことがこんなに辛いなら、次の人生はすべての選択肢を逆に生き、このバッドエンドのフラグをすべて回避して人生を楽しむ。もう魔王とは戦いたくない!と  そしてエルクに最初の選択肢が告げられる…… 「性別を選んでください」  と。  しかしこの転生にはある秘密があって……  この物語は『魔王と戦う』『勇者になる』フラグをへし折りながら第2の人生を生き抜く転生ストーリーです。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

処理中です...