33 / 86
第33話 左右を守る者
しおりを挟む
「援護に感謝します、オルビーク殿」
『地獄骸』は自身を守ってくれたオルビークに対して礼を告げると、『剣豪―三刀―』に向き直る。
S級の『地獄骸』を以ってしても、全く引けを取らない『剣豪―三刀―』の様子を見て、俺は魔法記述具を顕現させた。
「時間を稼げ、『地獄骸』」
「承りました、召喚主」
『地獄骸』は俺の命令に頷くと、再び『剣豪―三刀―』との間合いを詰める。
その間に俺は万年筆を握って、新たな召喚モンスターの詳細を考え始めた。
瞬時にモンスターの詳細を考案することは、意外に難しい。
仕事としてモンスター設定を作ってはいたが、それは落ち着いた状況でパソコンに向かって行う作業だった。
こんな血生臭く、薄暗い空間で、死の危険と隣合わせで行うものではない。
万年筆を握り込んだ右手が震える。
『地獄骸』たちは俺のことを担ぎ上げるが、俺は冷酷な魔王ではないし、最強の存在でもない。ただ、恐怖に震える一般人なのだ。
それでも、俺が万年筆を手に取るのは、誰かを一人でも救いたいから。
それは、中央村でもこの場所でも変わらない。
だから、俺は魔法記述具を呼び出すのだ。
瞬間的にモンスター設定を組み立てなければならない場合は、ロジカルに攻めるべきだ。
ただ闇雲に特徴を書き込むのではなく、必要な情報を必要なだけ書き込むことにする。
まずは、名前。
次にモンスターの形状。
得意な攻撃は近接攻撃なのか、遠隔攻撃なのか。物理攻撃か、魔法攻撃か。
この場所の地形を考えると、あまり大きすぎるモンスターの召喚は適さない。
となると、小~中型のモンスターを近接攻撃、遠隔攻撃系の二つに分けて召喚するべきだ。
よし、頭は回っている。
あとは手を動かすのみ。
『地獄骸』と『剣豪―三刀―』は熾烈な剣撃を交わしていた。
時折、激しい火花が飛び散り、その太刀筋は目で追い切れない。
所々にオルビークの火炎球のサポートが入ることで、ようやく形勢は互角のようだ。
「よし、準備は整った! 文字召喚を開始する!」
俺はそう叫ぶと、高速で羊皮紙に文字を刻み込んでいく。
書き込むのは二体の新モンスター。
相手が三人分の自立思考を有しているのなら、『地獄骸』にも新たな自立思考を授けてやればいい。
今回のコンセプトは、『地獄骸』が従える二体の側近である。
書き込んだ文字列が光り出す。
俺はその光の文字列を親指で一息になぞった。
顕現待ちはない。
羊皮紙全体がすぐに光り出し、それは空間に生じた暗黒の闇に消えていった。
左腕のクリエイトゲージに目をやると、かなりの量が減少していく。だがそれは、強力なモンスターが生み出される証拠でもあった。
そして、次の瞬間。
暗黒色をした光の爆発と共に、二体のモンスターが顕現した。
〈地獄の暴食〉S級
地獄の食物を片っ端から腹に入れた結果、人間の成人男性三人分の大きさの肉体を得た贅肉モンスター。
得物はないが、その身体から生み出される拳の破壊力は地獄一。『地獄骸』の右を守る者。
〈地獄の射手〉S級
かつて、悪さをしていた『地獄の暴食』を仕留めようと立ち上がった地獄の英雄。 周囲の闇を矢に変換し、無数の矢による雨を敵に注ぐ。
『地獄の暴食』とは一戦交えた後に意気投合し、その後揃って『地獄骸』の軍門に下る。
地獄の中で、彼に勝る遠隔攻撃の使い手はいない。『地獄骸』の左を守る者。
「おかしら~~! ただいま、参上しましたよ~~~」
そうやって呑気な声を出したのは、贅肉に塗れた巨体を持つ『地獄の暴食』だ。
低音で汚い声色、しかしなぜか親しみやすさはある。
その腹には一体何が入っているのか、彼が一歩足を踏み出すと、地面が激しく揺れる。
しかし、本人はそれを一切気にせずに戦闘中の『地獄骸』へと近づいていった。
「『地獄暴食』か。ちょうどいい。敵の動きを封じ込めろ」
『地獄骸』は一旦、『剣豪―三刀―』から距離を取り、『地獄暴食』にその場を任せた。
俺がモンスター設定を作るまで、『地獄骸』の側近である『地獄暴食』というモンスターは存在しなかったはずだ。
しかし『地獄骸』は『地獄暴食』に対して、厚い信頼を持っているようだった。
新たな設定が召喚と同時に、過去に召喚したモンスターにも適応されたということだろう。
「お~~~し! 力を見せちゃおうかな~~~!」
飛び上がった『地獄暴食』は、その巨体の全ての重量を乗せて『剣豪―三刀―』に拳を叩き落とす。
『剣豪―三刀―』はそれを三本全ての太刀で受け止めるが、踏ん張った地面下に大きく陥没した。
『剣豪―三刀―』が飛び退いた後には、小規模なクレーターのようなものが出来ている。
「お~~~ら! やったれ~~~射手~~~!」
距離を取った『剣豪―三刀―』を『地獄暴食』は追わなかった。
その代わりに口にしたのは、自身と同じく『地獄骸』を守るもう一人の側近の名前。
そしてそれに呼応するように、今度は『剣豪―三刀―』の周囲に残っていた薄闇の中で動きがあった。
『地獄骸』は自身を守ってくれたオルビークに対して礼を告げると、『剣豪―三刀―』に向き直る。
S級の『地獄骸』を以ってしても、全く引けを取らない『剣豪―三刀―』の様子を見て、俺は魔法記述具を顕現させた。
「時間を稼げ、『地獄骸』」
「承りました、召喚主」
『地獄骸』は俺の命令に頷くと、再び『剣豪―三刀―』との間合いを詰める。
その間に俺は万年筆を握って、新たな召喚モンスターの詳細を考え始めた。
瞬時にモンスターの詳細を考案することは、意外に難しい。
仕事としてモンスター設定を作ってはいたが、それは落ち着いた状況でパソコンに向かって行う作業だった。
こんな血生臭く、薄暗い空間で、死の危険と隣合わせで行うものではない。
万年筆を握り込んだ右手が震える。
『地獄骸』たちは俺のことを担ぎ上げるが、俺は冷酷な魔王ではないし、最強の存在でもない。ただ、恐怖に震える一般人なのだ。
それでも、俺が万年筆を手に取るのは、誰かを一人でも救いたいから。
それは、中央村でもこの場所でも変わらない。
だから、俺は魔法記述具を呼び出すのだ。
瞬間的にモンスター設定を組み立てなければならない場合は、ロジカルに攻めるべきだ。
ただ闇雲に特徴を書き込むのではなく、必要な情報を必要なだけ書き込むことにする。
まずは、名前。
次にモンスターの形状。
得意な攻撃は近接攻撃なのか、遠隔攻撃なのか。物理攻撃か、魔法攻撃か。
この場所の地形を考えると、あまり大きすぎるモンスターの召喚は適さない。
となると、小~中型のモンスターを近接攻撃、遠隔攻撃系の二つに分けて召喚するべきだ。
よし、頭は回っている。
あとは手を動かすのみ。
『地獄骸』と『剣豪―三刀―』は熾烈な剣撃を交わしていた。
時折、激しい火花が飛び散り、その太刀筋は目で追い切れない。
所々にオルビークの火炎球のサポートが入ることで、ようやく形勢は互角のようだ。
「よし、準備は整った! 文字召喚を開始する!」
俺はそう叫ぶと、高速で羊皮紙に文字を刻み込んでいく。
書き込むのは二体の新モンスター。
相手が三人分の自立思考を有しているのなら、『地獄骸』にも新たな自立思考を授けてやればいい。
今回のコンセプトは、『地獄骸』が従える二体の側近である。
書き込んだ文字列が光り出す。
俺はその光の文字列を親指で一息になぞった。
顕現待ちはない。
羊皮紙全体がすぐに光り出し、それは空間に生じた暗黒の闇に消えていった。
左腕のクリエイトゲージに目をやると、かなりの量が減少していく。だがそれは、強力なモンスターが生み出される証拠でもあった。
そして、次の瞬間。
暗黒色をした光の爆発と共に、二体のモンスターが顕現した。
〈地獄の暴食〉S級
地獄の食物を片っ端から腹に入れた結果、人間の成人男性三人分の大きさの肉体を得た贅肉モンスター。
得物はないが、その身体から生み出される拳の破壊力は地獄一。『地獄骸』の右を守る者。
〈地獄の射手〉S級
かつて、悪さをしていた『地獄の暴食』を仕留めようと立ち上がった地獄の英雄。 周囲の闇を矢に変換し、無数の矢による雨を敵に注ぐ。
『地獄の暴食』とは一戦交えた後に意気投合し、その後揃って『地獄骸』の軍門に下る。
地獄の中で、彼に勝る遠隔攻撃の使い手はいない。『地獄骸』の左を守る者。
「おかしら~~! ただいま、参上しましたよ~~~」
そうやって呑気な声を出したのは、贅肉に塗れた巨体を持つ『地獄の暴食』だ。
低音で汚い声色、しかしなぜか親しみやすさはある。
その腹には一体何が入っているのか、彼が一歩足を踏み出すと、地面が激しく揺れる。
しかし、本人はそれを一切気にせずに戦闘中の『地獄骸』へと近づいていった。
「『地獄暴食』か。ちょうどいい。敵の動きを封じ込めろ」
『地獄骸』は一旦、『剣豪―三刀―』から距離を取り、『地獄暴食』にその場を任せた。
俺がモンスター設定を作るまで、『地獄骸』の側近である『地獄暴食』というモンスターは存在しなかったはずだ。
しかし『地獄骸』は『地獄暴食』に対して、厚い信頼を持っているようだった。
新たな設定が召喚と同時に、過去に召喚したモンスターにも適応されたということだろう。
「お~~~し! 力を見せちゃおうかな~~~!」
飛び上がった『地獄暴食』は、その巨体の全ての重量を乗せて『剣豪―三刀―』に拳を叩き落とす。
『剣豪―三刀―』はそれを三本全ての太刀で受け止めるが、踏ん張った地面下に大きく陥没した。
『剣豪―三刀―』が飛び退いた後には、小規模なクレーターのようなものが出来ている。
「お~~~ら! やったれ~~~射手~~~!」
距離を取った『剣豪―三刀―』を『地獄暴食』は追わなかった。
その代わりに口にしたのは、自身と同じく『地獄骸』を守るもう一人の側近の名前。
そしてそれに呼応するように、今度は『剣豪―三刀―』の周囲に残っていた薄闇の中で動きがあった。
0
お気に入りに追加
1,587
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
異世界転移は分解で作成チート
キセル
ファンタジー
黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。
そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。
※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。
1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。
よろしければお気に入り登録お願いします。
あ、小説用のTwitter垢作りました。
@W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。
………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。
ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜
白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。
光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。
目を開いてみればそこは異世界だった!
魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。
あれ?武器作りって楽しいんじゃない?
武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。
なろうでも掲載中です。
女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう
サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」
万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。
地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。
これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル
14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった
とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり
奥さんも少女もいなくなっていた
若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました
いや~自炊をしていてよかったです
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※毎週、月、水、金曜日更新
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる