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第29話 魔術師という存在

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 峡谷村の長を名乗る少女、レアナ・オルビーク。
 
 彼女は階段を上った先にある祭壇の前で仁王立ちし、腕を組んでお怒りだった。だが、こちらはまだどういうことかわかっていない。

 え、こんなに小っちゃい子が長? まだ見た目十歳くらいである。

「あの、冗談言ってます?」

「冗談なんかじゃないぞ! わらわは正真正銘、この村の長じゃ! む~~~あたまにきた~~~、成敗してくれる!」

 彼女はぴょんと階段に飛び移ると、三十段ほどある階段を一気に駆け下りて、俺の前まで走ってきた。

「はあはあ……お前、わらわを……はあ……侮辱……はあはあ……したな!」

「とりあえず、落ち着けよ。お前……完全に息上がってるじゃないか」

「わらわは長じゃからな。この村からは基本的に出ない。だから、運動不足なんじゃよ……はあ……」

 両膝に手をついて、完全にバテているレアナは、やはりどこからどう見ても子供だ。

 身長は俺の胸の辺りまでもないし、髪型も子供っぽいツインテール。

 ぱっちりとした大きな瞳は愛らしくて素敵だが、顔立ちはまだまだ幼く、どこからどう見ても長の要素はない。

「お主、わらわは子供だから、長にふさわしくないのではないか? と思っておるな」

「うん、まさにその通り」

「うが~~~~~!! わらわはこの隠れ村の本当の長じゃ! この場所に年功序列という概念はない。わらわが長の地位についているのは、魔術適性が一番優れていたからなのじゃ!」

「あー、それで少しでも威厳を出すためにそんな変な口調なのか」

「これは元からじゃ~~~~~~ッ!!」

 レアナ、激ギレ。

 ついつい遊び過ぎた俺も悪い。

 別に彼女が長であることを信じていないわけではない。
 
 先ほどから、俺の傍らに立っている『地獄骸』とアリカの目つきが変わっていた。
 
 目の前の少女から、何か特別な気配のようなものを感じとって警戒しているらしい。

『地獄骸』たちが何かを感じているのなら、彼女は本当にこの場所の長なのだろう。

 ちなみに、レーナは全く何も感じていないようで、ただただレアナの愛らしさに感動していた。

「魔術適性……ということは、レアナさんは魔術師なのですね」

 切り出したのは、アリカだった。レアナは満足げにうんうん、と頷く。

 この世界に来てモンスターや召喚術師にはあったが、魔術師という存在に出会うのは初めてだった。一見すると、普通の人間と何も変わらない。
 
 すると、俺が疑いの目で見ていることに気づいたのか、レアナはジト目になって視線を返してくる。

「いまいち、お前は信じていないようじゃな。よろしい。なら、わらわの力をほんのちょっとだけ見せてやる!」

 彼女は右手を天に向けて掲げた。
 大きく一度、指をパチンと鳴らす。

 その瞬間、この村中を照らしていた天井、地面、側壁、全てに設置された燭台の火が落ちた。

 闇が全てを覆い、視界を完全に奪われる。

「なっ――!? この村の火って……全部お前がつけてたのかよ!!」

「ふん、これでわかったろう。わらわの崇高な魔術の才能を!」

 俺が驚嘆の声を上げると、レアナはご満悦で再び火をつける。

「だから、わらわは長として慕われ、この村の人間たちはわらわを崇めるのじゃ!」

 レアナがそう言い切った後、村のあちこちからいくつも悲鳴が上がる。

「うわああああああっ!! 俺が大事にしてた壷がっ!! 誰だよ、予告もなく、火を消したやつ!! こんなことする奴は、クソ野郎に違いねえ!!」

「ぎゃああああああっ!! 火が消えたせいで、転んじゃったよ!! こんなことするなんて、絶対、性格悪い人に違いない!!」

 ……全て、いきなり火を消した人間への怒りと罵倒だった。

「非難轟々だけど……」

「う、うるさいっ」

 羞恥で真っ赤に顔を染めるレアナは、とっても可愛かった。なので、頭を撫でてみる。

「よーし、よし」

「撫でるなっ!」

 なんだかこの世界に来てから、美少女に合う確率が高いぞ?
 
 しかし、全員もれなくバカである……。
 それだけが惜しかった。

「か、可愛いですぅ……」

 俺がわしゃわしゃとレアナの頭部を撫でていると、それに抵抗する彼女の姿を見て、レーナが笑顔を浮かべていた。

「ほい、あげる」

「え、いいんですか!?」

 レーナも撫でたそうだったので、俺はレアナを渡してやる。
 
 すると、レーナはすぐに抱きつき、その大きな胸をレアナの顔にぎゅうぎゅうと押しつける。

「むぎゅ! うぅ……やわら……かい……」

 レーナの柔らかいらしい胸の中で、レアナは静かにがくっと項垂れた。

 単に圧迫されたのか、あまりの大きさにショックを受けたのかはわからない。レアナはこれからが成長期なので、まだショックを受ける必要などないように思うが。

「ほらほら~、もっと甘えてもいいんですよ~」

「やわ………ら…か……」

 そろそろ、レーナとレアナを引き離してやろう、と俺は二人に近づいていった。
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