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序章
少女のホラ話
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山田麗華は、ちょっと変わった人だ。
腰まである黒色の毛髪が、教室のカーテンに合わせて揺るぐ。
校則では、長い髪は一つに結ばなければならないのだが、先生方も彼女の全く揺るがぬ意思に根負けしたのだろう。もう注意する者はいない。声をかける者さえも。それほどに彼女はクラス、いや、学校全体で浮いている。
そんなことから、彼女は嫌がらせを受けている。今日も机に花瓶を置かれていた。しかし、彼女はそれに動じない。
気弱な僕は、嫌がらせを注意することも出来ず、放課後に誰もいなくなってから、わずかに残った良心で、花瓶を片付けてあげる。
いつしかその行為は、僕の日課となっていた。
今日も、いつものように誰もいなくなってから、花瓶の水を水道に流す。
「何してんねん。」
それは、この地域では珍しい関西弁だった。
驚いた僕は、水が半分入った花瓶を落としてしまった。
床に叩きつけられた花瓶と共に悲鳴をあげる僕。
「や、ちゃったぁ…。」
そんなとき山田麗華は、
一歩下がって、その惨劇を見つめていた。
それは、イタズラを企む子供のようだった。
「やってもぉたなぁ!」
慰めの言葉を期待していた僕は、豆鉄砲をくらった鳩のようになった。
彼女はもっとこう、クラスの学級委員のような人だと思っていた。けしてそんな立派な人ではなくとも、アネゴ肌の優しく頼もしい人だと、キリッとした顔立ちから勝手に思っていた。
しかし、今目の前にいるのは悪魔にしか見えない。
「大切な花瓶なのに、アカンなぁ?畑田くん?」
今更だか、僕の名は畑田康太。名前に「タ」が3つも入っているのが気に入っていない。おかげであだ名は、「タ」が3個でターザン。ジャングルが好きそうな名前っ!
最近は、ターザンとしか呼ばれていなかったから、「畑田くん」と呼ばれるのは、新鮮な感じがした。
そんなことより。僕は訳がわからなくなっていた。
僕がやっていることは、彼女を思っての行為である。それを彼女は知ってか、知らないでか、意地悪なことを言ってくる。
…ちょっとは優しくしてよ。
「そんな大罪を犯した畑田くんに、いい話があるで。」
「このことには目を伏せる。その代わりな、私の怖い話を聞いてくれへん?」
は?
「畑田くんって、霊感あるやろうしなぁ。」
ちょっと待て待て。何勝手に話を進めちゃってくれるのか。というか、霊感あるとかないとか、適当なこと言わないでよ。
…しかし、どっちにしろこの話は聞かなけばならないだろう。
「それじゃあ、はじめるで。」
彼女は、大きく、大きく息を吸って、ゆっくり話を始めた
腰まである黒色の毛髪が、教室のカーテンに合わせて揺るぐ。
校則では、長い髪は一つに結ばなければならないのだが、先生方も彼女の全く揺るがぬ意思に根負けしたのだろう。もう注意する者はいない。声をかける者さえも。それほどに彼女はクラス、いや、学校全体で浮いている。
そんなことから、彼女は嫌がらせを受けている。今日も机に花瓶を置かれていた。しかし、彼女はそれに動じない。
気弱な僕は、嫌がらせを注意することも出来ず、放課後に誰もいなくなってから、わずかに残った良心で、花瓶を片付けてあげる。
いつしかその行為は、僕の日課となっていた。
今日も、いつものように誰もいなくなってから、花瓶の水を水道に流す。
「何してんねん。」
それは、この地域では珍しい関西弁だった。
驚いた僕は、水が半分入った花瓶を落としてしまった。
床に叩きつけられた花瓶と共に悲鳴をあげる僕。
「や、ちゃったぁ…。」
そんなとき山田麗華は、
一歩下がって、その惨劇を見つめていた。
それは、イタズラを企む子供のようだった。
「やってもぉたなぁ!」
慰めの言葉を期待していた僕は、豆鉄砲をくらった鳩のようになった。
彼女はもっとこう、クラスの学級委員のような人だと思っていた。けしてそんな立派な人ではなくとも、アネゴ肌の優しく頼もしい人だと、キリッとした顔立ちから勝手に思っていた。
しかし、今目の前にいるのは悪魔にしか見えない。
「大切な花瓶なのに、アカンなぁ?畑田くん?」
今更だか、僕の名は畑田康太。名前に「タ」が3つも入っているのが気に入っていない。おかげであだ名は、「タ」が3個でターザン。ジャングルが好きそうな名前っ!
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