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【終章】
終章
しおりを挟むリグール上空に、透明に晴れ渡った大空を行く装甲機竜の一団があった。
綾はいままで、操縦士と自分だけというひとり乗りの装甲機竜にしか乗ったことがなかったが、いまは隣にロフォーオゥがいる。肩にまわされた腕で、綾は抱き寄せられていた。
そのロフォーオゥの目は、操縦士の動きに留められていた。
ロフォーオゥは、実は装甲機竜の操縦が苦手なのだという。そもそもの最初の赤い満月の際も、もっと腕がたっていたら綾を手放すこともなかったのに。そう彼は、こっそりと苦い告白をしてくれたのだった。
数日前、レイ・スヴェンリンナで、ロフォーオゥは教皇から新王の認可を正式に得た。ふたりはレイ・スヴェンリンナの装甲機竜に乗り、王都ハンセンへと向かっている。
足元には紅葉美しい森が広がっていた。もうすぐリグールを抜ける。3ヵ月ほど前にこの上空を通ったときリグールには緑にあふれていたが、もうそれだけ季節が過ぎていた。
あっという間のようで、とてつもなく長く感じた日々。
あの空から、落ちてきたのだ。
更なる上空を見上げる綾。
深く青い空に、昼であるこの時間、辺縁の姿は見えない。
けれど確かにあの空の果てしない向こうに、辺縁が―――日本がある。
家族や友人がいる故郷、日本。帰りたい気持ちは、相変わらず強い。
(だけど)
こちらには、ヴェーレェンには好きなひとがいる。受け入れるべき運命も、こちらにある。
これからの88年がどんなものになってゆくのか、そのあとの時間がどうなってゆくのかも、まったく判らない。判らないけれど、
(ロフォーオゥさんがいるの。大好きなロフォーオゥさんが、いてくれるの)
だから、きっと―――必ずやっていける。
(お母さん、お父さん。見守っていて。わたし、自慢できる娘になるから。ここで、誇りに思えるように生きてくから)
「―――寒くはないか?」
ロフォーオゥがそっと訊いてきた。
ヴェーレェンは秋真っ只中。上空は更にいっそう冷える。しっかりと厚着をしている綾は、安心させるように頷きを返した。
「大丈夫。寒くないです」
ロフォーオゥに目を戻した綾のその瞳には、強い輝きが宿っていた。
「そうか。おれはちょっと寒いかな。もう少しこっちに」
もちろん方便である。綾もそれは判っているので、遠慮なくロフォーオゥに身を寄せる。
天の高みを見つめていた綾。辺縁に思いをはせていたのだろう。そして、なにかを決心した。家族を思うなにかだろうか。
―――御両親。あなたたちの代わりに、おれが、綾を守り抜きます。
だから安心してください。
(必ず、幸せにするから)
その決意を胸に、ロフォーオゥはそっと綾にくちづけを落としたのだった。
〈了〉
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