天の絆

トグサマリ

文字の大きさ
上 下
17 / 17
【終章】

終章

しおりを挟む


 リグール上空に、透明に晴れ渡った大空を行く装甲機竜の一団があった。
 綾はいままで、操縦士と自分だけというひとり乗りの装甲機竜にしか乗ったことがなかったが、いまは隣にロフォーオゥがいる。肩にまわされた腕で、綾は抱き寄せられていた。
 そのロフォーオゥの目は、操縦士の動きに留められていた。
 ロフォーオゥは、実は装甲機竜の操縦が苦手なのだという。そもそもの最初の赤い満月の際も、もっと腕がたっていたら綾を手放すこともなかったのに。そう彼は、こっそりと苦い告白をしてくれたのだった。
 数日前、レイ・スヴェンリンナで、ロフォーオゥは教皇から新王の認可を正式に得た。ふたりはレイ・スヴェンリンナの装甲機竜に乗り、王都ハンセンへと向かっている。
 足元には紅葉美しい森が広がっていた。もうすぐリグールを抜ける。3ヵ月ほど前にこの上空を通ったときリグールには緑にあふれていたが、もうそれだけ季節が過ぎていた。
 あっという間のようで、とてつもなく長く感じた日々。
 あの空から、落ちてきたのだ。
 更なる上空を見上げる綾。
 深く青い空に、昼であるこの時間、辺縁の姿は見えない。
 けれど確かにあの空の果てしない向こうに、辺縁が―――日本がある。
 家族や友人がいる故郷、日本。帰りたい気持ちは、相変わらず強い。
(だけど)
 こちらには、ヴェーレェンには好きなひとがいる。受け入れるべき運命も、こちらにある。
 これからの88年がどんなものになってゆくのか、そのあとの時間がどうなってゆくのかも、まったく判らない。判らないけれど、
(ロフォーオゥさんがいるの。大好きなロフォーオゥさんが、いてくれるの)
 だから、きっと―――必ずやっていける。
(お母さん、お父さん。見守っていて。わたし、自慢できる娘になるから。ここで、誇りに思えるように生きてくから)
「―――寒くはないか?」
 ロフォーオゥがそっと訊いてきた。
 ヴェーレェンは秋真っ只中。上空は更にいっそう冷える。しっかりと厚着をしている綾は、安心させるように頷きを返した。
「大丈夫。寒くないです」
 ロフォーオゥに目を戻した綾のその瞳には、強い輝きが宿っていた。
「そうか。おれはちょっと寒いかな。もう少しこっちに」
 もちろん方便である。綾もそれは判っているので、遠慮なくロフォーオゥに身を寄せる。
 天の高みを見つめていた綾。辺縁に思いをはせていたのだろう。そして、なにかを決心した。家族を思うなにかだろうか。
 ―――御両親。あなたたちの代わりに、おれが、綾を守り抜きます。
 だから安心してください。
(必ず、幸せにするから)
 その決意を胸に、ロフォーオゥはそっと綾にくちづけを落としたのだった。


                        〈了〉



しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

風の唄 森の声

坂井美月
ファンタジー
開進大学の生物学の教授をしている双葉恭介には、2年間の記憶が抜け落ちていた。 32歳の若さで異例の大抜擢で教授になれたのも、日本の絶滅した筈の在来植物の発見と、繁殖に成功したからだった。 しかし、彼はその在来植物を発見する前の2年間の記憶が無い。 行方不明になっていた自分が、何処で何をしていたのか? そんなある日、在来植物を発見した山で恭介が植物を探していると、恭介を慕う学生の藤野美咲が恭介を追いかけて現れた。 そんな美咲を慕う片桐修治も現れると、神無月で伊勢神宮へ向かう為に開かれた龍神が住む世界に迷い込んでしまう。 3人の運命は?無事に元の世界へと帰れるのか?

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...