ロマン・トゥルダ

トグサマリ

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第二章

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 レーナの奇行は、ほどなくロマン・トゥルダ全体に知れ渡ることとなった。
 彼女の変化から、既に三ヵ月。
 夜会にも出なくなり、昼食会にも礼拝にも訪れない。ひとりふらふらとロマン・トゥルダをさまようばかりだった。その瞳は確固とした強い光に輝き、それは逆にレーナから見ると、他の者たちの目こそが虚ろにさえ映った。
 レーナは、ロマン・トゥルダの果てを探していた。
 楽園の果てになにがあるのか。ここから脱出できるのか、と。
 しかし、果てを見つけることはできなかった。気付くと、同じところをぐるぐるまわっているだけで、ちっとも前に進んでいないのだ。
 果てが、見つからない。
 “果て”とはなに?
 それは崖になっているのか、広大な湖が滝となって落ちているのか、天をつくほどの壁が立ち並んでいるのか。
 そして何故そんな具体的な事象で想像できるのか。 
 なにもかもが判らない。
 楽園の端にある崖の下は、滝や壁の向こうはどうなっているのだろう。
 考えは想像の範囲を超えることができず、納得できる確かな答えを見つけることができない。
 ロマン・トゥルダに果てはあるのか―――ないのか。
 ぐるぐると思考も歩む先もさまようばかりの自分は、逃しはしないと誰かに嘲笑われている気がした。
 人々は皆、ロマン・トゥルダに閉じ込められている。
 それに誰も気付いていない。
 気付かず薄っぺらい快楽によろこんでいるばかり。歓び、それに同調しない者を敬遠し、嘲笑う。
 ―――遠い。
 そんな彼らと一緒の行動など、もうできない。
 できないのだ。


 ひとり自室で物思いにふけっていたはずが、突然どこかに行ってしまうレーナ。かと思えば、誰も足を止めないのに公園や路上でロマン・トゥルダの疑問を問いかけ続ける。
 自分自身について疑問は抱かないのか。ロマン・トゥルダがなんのために存在するのか。わたしたちは何故毎日快楽ばかりを追求しているのか、できるのか。
 知るべきではないのか、と。
 彼女の言葉は、当然聖職者の気分を害した。が、捕まることはなかった。
 幸か不幸か、〝取り締まる〟という概念がないのだ。ただ、莫迦なことをするんじゃないと強くいさめられるだけ。
 どれだけ苦い顔をされても、レーナには止められなかった。むしろ、強く言われるたび、いっそう楽園のほころびが目についてくる。
 何故、気がつかない?
 この世界はなんと矛盾だらけなのか。
 尽きることのない食糧は、どこでとれるのだろう。狩りのとき以外姿を見せない森の動物たちは、普段どこにいるのだろう。
 そして。
 とめどなく湧きあふれるこの疑念や知識は、いったいどこから生まれているのか。
 謎だらけの楽園。
 人々はなにも気付かない。
 もどかしさは募るばかりだった。
 彼女のもとを訪れるヨアンも、レーナの葛藤を判ってくれない。
 毎日毎日、レーナの懸命な訴えを聞いているというのに、言葉は彼の心を通り抜けてゆくだけだった。
 レーナへの軽蔑や無視が広まる一方、ロマン・トゥルダの人々が感心したのは、異端者となってしまった彼女にずっと付き添うヨアンの存在だった。
 なにを考えているか判らないレーナのもとを毎日訪れ、断られ続けても夜会や狩りなどに飽きもせず誘う彼は、もはや称賛さえされていた。

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