上 下
65 / 102

65

しおりを挟む


 その日は少し遠出をして、陽一は休みだというのにわざわざ香織の買い物に付き合っていた。

「買いすぎだろ」
「ちゃんと自分で持つわよ」

 香織のお腹はもう、誰が見ても妊婦だと分かる。陽一もそれがあるから一人では行かせられなかったのだろう。


「…え」

 その帰り、晩御飯を外食で済ませて帰ろうとしたときだった。

 こちらを見ている男を、香織はつい見てしまった。あまりにも視線が痛かったから。
 そこにいたのは、何となく分かっていた元夫だった。
 結局荷物を持ってくれた陽一は、先にスタスタ歩いている。出来るだけ目を合わせないようにしたけれど、見てしまった。

(…なんだ、彼女できたんだ)

 側に、威嚇するようにこちらを睨む彼女に笑ってしまう。そりゃそうだ、あの女誑しの和樹なんだから。

(心配して損した!)

 喋ることなんて何もない。
 香織は何も見なかった事にして、陽一の後ろを追いかけた。

「香織ー…」

 名前を呼ばれた。それは分かったけれど、(バカじゃないの)と思ってしまう。
 彼女といるのに他の女の名前を呼ぶなんて。

「…陽一っ、待って!」

 バカじゃないの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完]僕の前から、君が消えた

小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』 余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。 残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。  そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて…… *ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

離婚届と喘ぎ声

ヘロディア
恋愛
私は今、離婚届を書いている。夫に突きつけられた離婚届だ。ー 結婚生活に行き詰った男女の物語。 しかし、主人公にとって、捨てたのは恋だけだったのかもしれないー

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

男装の公爵令嬢ドレスを着る

おみなしづき
恋愛
父親は、公爵で騎士団長。 双子の兄も父親の騎士団に所属した。 そんな家族の末っ子として産まれたアデルが、幼い頃から騎士を目指すのは自然な事だった。 男装をして、口調も父や兄達と同じく男勝り。 けれど、そんな彼女でも婚約者がいた。 「アデル……ローマン殿下に婚約を破棄された。どうしてだ?」 「ローマン殿下には心に決めた方がいるからです」 父も兄達も殺気立ったけれど、アデルはローマンに全く未練はなかった。 すると、婚約破棄を待っていたかのようにアデルに婚約を申し込む手紙が届いて……。 ※暴力的描写もたまに出ます。

離婚活

詩織
恋愛
急に離婚を言われ、何がなんだか… 数日前まで仲良くショッピングモールにも行ってたし、どういうことかさっぱり理解できない。

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

離縁の脅威、恐怖の日々

月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。 ※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。 ※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。

処理中です...