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 昼過ぎ、香織の携帯に電話が鳴った。
 着信を見て驚きつつも、その電話を取ってしまう。

「…笹野さん?」

 慎重な香織の声に、電話の向こうの相手ー…笹野陽一は笑った。

『他人行儀だな。さん付けなんて』
「…なにか御用ですか?」
『着信拒否されているかと思った』

 笹野がそう言った理由は一つ。数日前、香織は和樹には言わずに笹野と食事に行った。

 笹野とは学生時代の恋人で、遠距離恋愛だった。そんなもの上手くいくはずもなく、自然消滅してしまったのだが。
 食事に行った帰り、告白された。
 笹野は夫の会社の先輩だ。香織の夫との仲を省みることなく、笹野は香織に気持ちを伝えてきた。
 香織は何も言えなくなり、逃げ帰ったのだが。

『…今日だろ?』
「え…?」
『お前と、…広瀬の結婚記念日』

 驚いた。
 夫も覚えていないことを、出席しただけの笹野が覚えていたことに驚いた。

「…どうして…」
『…広瀬、女の子と約束してるみたいだぜ?』

 和樹の浮気相手までは知らないけれど、同じ会社ということは知っている。

「…それで?」

 苛立ち半分の声に、一言。

『ー…会いたい』

 と。
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