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しおりを挟むアスラーナ・ゼノ・ミドルトン公爵令嬢。それが私の名前であり、生まれた時から定められた地位である。
母譲りの金髪と雪のように白い肌。父譲りのスタイルの良さ。丁度二人を足して二で割ったような、そんな子供が私だ。
そして私にはもう一つ、生まれた時から決まっていたことがある。それはあの馬鹿(元王子)と十つになった時点で婚約するという、王家とミドルトン公爵家の間で交わされた約束である。
その内々の約束を知り、気に食わなかった者がいた。それは何十年と前からミドルトン公爵家と対立していたグランシャトー公爵家である。その家にもアスラーナと同い年の少女がいた。だが少々頭が弱いというか、昔から奇行に走っていたらしい。
五つになった頃、人並み以上に話せていたアスラーナとは違い、少女は言葉を全く理解出来なかったそうな。
それもありグランシャトー公爵令嬢と馬鹿との婚姻は考えられない物だったそうなのだが、それでも気に入らないのは人間の欲というものだろう。
公爵令嬢という身分在る者だからといって、その命が安全だとは限らない。気を抜いた瞬間に罠を掛けられている事など珍しくもなく、いつだって気の抜けない幼少生活を送っていた。
レミーアと出会ったのは丁度そんな頃だったか。誰にも心を許せず、信じるということも出来ず。そんな私に必要以上に踏み込んで来ず、かといって腫れ物に触るような態度でも無い。そんなレミーアの事が少しだけ好きだった。けれどやはり、心を許す気にはなれなかった。
あれは確か…八歳の頃だっただろうか。
友達と誰にも内緒で街へ遊びに行く。そのシチュエーションに憧れて、自分を友達だと言ってくれたレミーアを誘った。けれど。
「駄目よ、お父様に、どこかへ行くときは必ず連絡しなさいって言われているの」
絵に描いたような模範生のレミーアはやはりどこまでも真面目な子だった。
そんな彼女を、私は唆してしまったのだ。
「そんな事言うのなら友達にならないわ。せっかく、そろそろ友達になってもいいかしらって思ってたのに、残念だわ」
「えっ……」
「ちょっと友達として遊びに行くの、嫌なのね」
「い、嫌な訳じゃなくて…!」
「せっかく私が誘ったのに。ちょっとそこまで行くだけなのに…」
「わ、分かったわ。けれど少しだけよ、早く帰りましょうね?」
私は狡い子供だった。そう言えばレミーアは絶対に来てくれることを知っていて、言ったのだ。
初めて内緒で行った街はとても楽しかった。見たことのないもの、行ったことのない場所。
けれど幼いわたし達は気付かなかった。明らかに貴族の子女と分かる身なりをした子供が目立たないはずがないということに。
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