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「ご機嫌ね、レミーア。何かいいことでもあったの?」
 教室で声を掛けてきたのはアスラーナだ。
「えぇ、少し」
「そういえば昼食はどこで食べていたの?食堂には見当たらなかったけれど…ごめんなさいね、お兄様が我儘を言うものだから」
 困ったように目尻が下がるけれど、嬉しそうに頷いていた彼女が言うかと考えて苦笑する。
「裏の中庭にいたの。あそこは人があまり来ないから静かでいいわよ」
「裏の?あぁ、それで…」
「? どうかしたの?」
「…別に。ただ、アゼル様が貴女を探していたことを伝えておこうと思って」
 アゼル様が私を?と首を傾げるけれど、理由は一向に思い当たらない。そういえば今日は一度も彼の姿を見ていない気がする。
「それで、貴女のご機嫌の理由は?」
「あ、それはね…」
 簡潔にこの間のアモナの花の話と、好きな本の著者だった話をする。てっきりアスラーナも良かったわねと喜んでくれる気がしたのだけれど、その表情は曇っている。
「今日の放課後に?」
「えぇ、もちろん」
「…私も行くわ」
「え?どうして?いいわよ、無理に私に付き合わなくて。アスラーナは植物への興味はないでしょう?」
「……貴女のそういう天然というか抜けているところ、私は好きよ」
「天然じゃないわよ!」
 失礼な、と眉を寄せると、アスラーナがため息をつく。
「天然な人ほど天然ではないと怒るのよ」




 というわけで。レミーアの昼の動向を知るためにと頼まれた通り、アスラーナはアゼルに報告していた。
「なに?その男が私のレミーアと昼食を共にしたというのか!?」
「共にというよりも、まぁ、話していたようですけれど」
「…他の男が…レミーアと…」
 ブツブツと呟くその様は殺気も混じっている。正直心底気持ち悪いが、親友が大切にされていることは嬉しい。
「というか私は貴方に雇われたつもりはないのですが。都合のいいように使わないで下さい」
「ラードの身辺女性の最新情報」
「どうぞ私を使って下さい」
 ごめんなさいね、レミーア。けれど、こんなに大切にされているんだもの。それをプラマイしてーーごめんなさい、やっぱりマイナスにしかならないわね。けれど気にしないで。
「私はアゼル様だから私のレミーアの隣にいることを許しただけで、他の男が私のレミーアの近くにいるなんて到底許せませんもの」
「君のものではない。私のレミーアだ」
「いいえ、レミーアにとって一番大切なのは…」
「親友は所詮恋人には勝てないんだよ」
「なんですって?」
「まぁいい。とにかく、放課後は頼むぞ」
「もちろんですわ」
 さて。邪魔者の排除を始めましょうか。
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