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しおりを挟むそれはそれは顔面蒼白で現れられた国王陛下は今にも倒れそうなほどフラフラで出てこられました。
「なにを、やっているんだ…」
「ち、父上っ!私はこの女狐を成敗しようと、」
「この愚か者がっ!!」
国王陛下の泣きそうな顔にアスラーナがにっこりと笑いかける。
「国王陛下。お久しぶりでございます」
「…久しぶりだな、アスラーナ嬢。すまないが私は現状が理解できない。説明してくれるか…」
「承知しました」
笑顔を浮かべたままのアスラーナが、さっきよりも楽しそうな声で話し始めた。
「つい先程、私はファミール王子から婚約破棄を言い渡されました」
「なっ、なに?」
「婚約破棄、でございます。有りもしない婚約を大衆の前で破棄され、挙句、私の友人でありファミール王子の婚約者であるレミーアを、王子は誰だその女はと言った挙句、私の婚約者はお前だ、などと虚言を申されるのです」
「虚言を申しているのはお前だ!いいか、私の婚約者はお前なのだ!そんな平凡な女ではない!」
レミーアの方を指差しながら震えるファミール王子に、そろそろ国王陛下も我慢の限度が過ぎたようですね。
「お前は馬鹿か!!!お前は、お前はっ!自分の婚約者も理解しておらぬだと!?一体いつからそんな能無しになってしまったのだ!!!!」
「父上!アスラーナが私の婚約者のはずです!でなければ何故アンジェリカがアスラーナから嫌がらせを受けるのですか!!!」
「馬鹿者がッ!たかが男爵令嬢に誑かされ、そのような事を、こんな場で申すとは!!」
「なっ!ひっどぉい、殿下っ!はやくあのおじさんを処罰しちゃって!」
アンジェリカの声に、アスラーナも、レミーアも、国王も、それを見ていた者も、ファミールでさえ固まった。
「な、なにを、言ってるんだ?アンジェリカ…ち、父上に対して、なにを」
「えー?だってファミール殿下が一番偉いって言ったじゃない!あんなおじさんよりもファミール殿下の方が次期国王なんだから、偉いんでしょ?」
「は?」
どうしたんだろう、あの男爵令嬢は。脳のどこかが欠陥しているのだろうか。
「…国王陛下。ファミール王子はあの男爵令嬢を寵愛されているようですが、私としても、親友であるレミーアをここまで侮辱されて黙ってはおけません」
それ以前にアンジェリカは国王を公の場で侮辱ーーでは言い切れないほどの不敬を働いてしまった。
「ていうかアンジェリカ思うんだけどぉ。嫌がらせしてきたのあの女な気がするっ!」
レミーアの方を指差すアンジェリカに、アスラーナの口端が引き攣る。
「…ア、アンジェリカ、気がするって…」
「殿下、早くあの女とあのおじさん処罰しちゃって!」
そろそろ百年の恋も冷めた頃かしら。そう思ったレミーアはもたれていた壁から背中を離し、ゆっくりとアンジェリカの隣へ行く。
「お久しぶりでございます、国王陛下。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。なにせ、信じられないことが目の前で起きていたので放心しておりました」
「あ、あ、いや……レミーア嬢、本当に、こんなことになって…申し訳ない…」
流石の国王様も今何をするべきか分からなくなったようだ。
「聞いておりましたが、婚約者と婚約破棄を望むほど、ファミール様はアンジェリカ様と結ばれたいようなので。婚約者とも認識して頂けなかった私ですが、婚約破棄を受け入れようと思います」
「……考え直しては、くれぬか…」
「申し訳ございません。私が至らぬばかりに…」
「レミーア嬢、本心からそう思ってくれるのなら、」
その先に続く言葉を予測して、アスラーナが遮った。
「陛下。婚約破棄を望まれたのはファミール王子でございます。一方的に破棄をしたファミール王子の幸せを願うなど、レミーアは本当に慎ましいとは思いませんか?」
「っ……」
「まぁ…最も、王子があの男爵令嬢と結ばれたところで、それを民が祝福するか否かは疑問ですが」
この話はきっと、国中に広がるのでしょうね。そう言ったアンジェリカの言葉を最後に、国王は気を失って倒れ、従者たちが慌てて部屋へと連れて行く。
その様子を見た王子は男爵令嬢を振り払って国王の側に行こうとしたが、周りがそれを許さない。
当事者ながらもモブの私は、それを面白そうに見ているだけだった。もちろん、アンジェリカと共に。
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