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しおりを挟む私の名前はレミーア・オルゼノフ。一応侯爵令嬢である。パッとしない外見は母親譲りであり、私はとにかく特徴がない。この世界、この国、この学園、この貴族階級の人間にとって私はモブでしかないことをしかと心得ている。それに目立とうなどとは思わない。そもそも人の注目を浴びるのは苦手だ。
なのに。
「アスラーナ・ゼノ・ミドルトン公爵令嬢!私はお前と婚約破棄する!お前は私の寵愛を受けたアンジェリカを傷付けた!男爵令嬢と蔑み、嫉妬し、あろうことかアンジェリカに暴漢を仕向けるとは何事だ!お前に極刑を言い渡す!」
辺りが騒然となった。国の至る所から有力貴族の集まっているこの夜会で、この国の王子様のファミール様はとんでもないことを仰せになった。
もちろん名指しをされ、私の親友でもあるアスラーナは固まっている。他の貴族もそうだ。そして私も固まっている。
「…ファミール王子、これは一体なんのおつもりですか?」
アスラーナは動揺しながらも返答をした。すると王子はアスラーナを笑い飛ばした。
「しらばっくれるつもりか!?証拠はもう掴んでいるのだ!お前は私の婚約者ということを笠に、アンジェリカを男爵令嬢だと馬鹿にして!恥ずかしいと思わないのか!!」
また驚いて瞳を開くアスラーナに、私は申し訳なくなってしまった。彼女は何かを言おうとしたが、私の方をチラリと見る。きっと私に気を遣ったのだろう。気にしないということを手振りで表すと、アスラーナは一拍置いてから、決心したように口を開いた。
「恐れ入りますが、何を仰っているのか理解出来ません。そもそも私は貴方の婚約者などではございません」
見ていて虚しくなる劇に、私は壁にもたれかかった。お父様が見たら怒られると思うが、今日ばかりは許してほしい。
「なんだと!?お前、私を侮辱するか!」
「侮辱なさっているのはファミール王子の方では?貴方の婚約者は、あそこにいるレミーアではありませんか」
そう。私は傍観者の一人ではなく、思いっきり当事者である。王子が何を勘違いしているのかは知らないけれど、婚約者はアスラーナではなくて私、レミーアだ。私は婚約者が私の親友に、有りもしない婚約を破棄するところを目の前で見せられたのだ。余りにも滑稽で、言葉も出ない。
「なっ…何を言っている!誰だその女は!」
まぁ、そうですよね。うん、知ってた。この人が救いようのない馬鹿だってことは知ってたよ。
けどここまで来たら、もう同等の生物とは思えない。…さて、反撃しますか。
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