31 / 38
本編
21日目
しおりを挟むメールを読むなり病室に乗り込んできた母親は、泣きながら咲良に訴えた。
「どういうことなの!こんな状態で外出なんて、許せるわけがないじゃない!」
来るとは思っていたけれど、こんなに早く来るとは思わなかった。
「お母さん。病院よ?静かにして」
反抗的な態度を取るつもりも取った気もない。言ったことは当たり前のことだ。隣も向かいも病室なのに、こんな大きな声で騒がれていたら迷惑だろう。それに何よりも、咲良自身がまともに話し合う気はなかった。
「ねぇ、もっと良くなってからでいいじゃない?ね?」
「結局お母さんは、私がどこかへ行こうとするのが気に入らないだけじゃない。昔からそうでしょ、もっと良くなってからって。それを言われて待っていても、良くなるどころか二十歳まで生きられないって…私はお母さんの言いなり通りに生きる人形じゃないのよ」
「煌夜くんでしょう!?貴女が、そんな風に私に言うなんてっ…!別れなさい、あんな子がいたら、貴女に害よ!私が言ってあげるわ!」
「そんなことしたら、私はお母さんを絶対に許さない」
「咲良!」
「煌夜が毎日来てくれるから、大嫌いな点滴も注射も薬も、ちゃんとしてる。煌夜と別れろって言うなら、もう入院なんてしないし薬も飲まない」
「いい加減にして!私は貴女のためを思って、」
「本当に私のことを思ってくれるなら、私の望んでいることをさせて。もう私は高校生なんだから、自分のことは自分で出来るの」
酷いことを言うと思う。それでも、たった少し生き永らえるために煌夜から離れて治療なんて有り得ない。
「ねぇ、お母さん。ダメって言われてもどうせ行くの。私の主治医はお母さんじゃない、湯島先生よ。先生がいいって言ってるんだから、いいじゃない」
「駄目よ!もし何かあったら…!」
「そう言って!!」
いつも、そうだ。何かあったら駄目だからと、行きたいところもやりたいことも我慢して、丈夫に生まれなかった自分が悪いのだと歯を食い縛っていた。
「小学校の宿泊行事も、中学の修学旅行も、高校の行事もマトモに出られない!私の身体のことは私が一番良く分かっているのに!無理だとか、お母さんが勝手に決めないで!」
普通の女子高生みたいにバイトだってしてみたかったし、学校帰りにみんなで寄り道したりしてみたかった。けれどお母さんはいつもそれを許してくれない。
周りが話しているような大人みたいな真似だってしてみたいし、煌夜とお泊まりだって行きたい。
「私の身体なの!!!」
一頻り言い終わって、母の方を見る。
真っ白な顔をして、その後フラフラとどこかへ行ってしまった。何か言いたげだったけど、言わずに口をパクパクさせていた。
足音が消えた辺りで、咲良は泣いた。言いたくても言えなかったこと、傷付くと分かっていながら躊躇しなかったこと。それをしてしまったことへの後悔だった。
2
お気に入りに追加
814
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる