あと1年、彼の隣に

伊月 慧

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本編

15日目---2

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 今日は土曜日。いつもなら煌夜は他の人との約束なんて取り付けないで、面会時間から会いに来てくれる。けれど今日は昼を過ぎても、煌夜は咲良の病室へは来なかった。
 代わりと言っちゃなんだけど、朝早くから来ていたのは湯島弘樹だった。
「煌夜はいつも来ないの?」
 そんなことを聞いてくる先輩に、こんな人だったっけ?なんて思いながら返事する。
「いえ。いつもは学校終わってからも来てくれるし、…多分今日は、何か予定でもあったんです」
「そう?…ていうか中西、煌夜と付き合ってるとは思わなかった」
「え?」
「ほら、中西って何て言うか、甘えたいけど甘えられない感じだろ。だから、…煌夜より、年上の男とか、どうなんだろって」
「…私は多分、煌夜の面倒見てるのが性に合ってるんです。それに、私は上手に甘えられないから」
「中西」
「先生からよく話を聞いていたのなら、知っているでしょう?…先輩も、もういなくなる私のことなんて放っておいた方がいいですよ」
「なんでそんなこと言うんだよ!兄さんが中西を死なせたりしないって!」
「…先輩。…心臓病ってね、いつ死ぬか分からないの。いつ発作が出るのか、それは知らないけれど。どれほど呆気なく死ぬのか私はよく知ってます」

 幼い頃、この病院に同じように入院してた。その時に仲の良かったお姉さんがいた。美人で優しくて、よく私と遊んでくれた。
 その人は目の前で、自分と散歩している最中に、呆気なく死んだ。人間なんて所詮、そんなものだ。その時私は涙なんて出なくて、(あぁ、私もこうやって死ぬんだろうなぁ)なんて考えていた。


「死ぬのは怖くないんです」
「中西、俺は、」
「ただ、あの人が心配」
 一言云えば浮気をやめるようなあの人が、本当は鎧を被っているけれど、優しくて脆すぎるあの人が、取り柄は顔だけのようなあの人が、本当に心配。
 なぜこんな言葉を先輩に言ったのか、それは湯島が一番分かっただろう。
「好きだ」
 そう言われると、直感で分かったからだ。湯島の雰囲気は、今まで咲良に告白してくる男と同じだった。
「…しばらく会ってなかったのに?」
「ずっと忘れられなかった。中学の時は諦めかけてたし、中西と連絡が途絶えたとき忘れようとしてた。けど再会して、やっぱ忘れてなかった。…中西が好きだ」
 人生、なにがあるか分からないものだ。余命一年もないかも知れない女に告白する奇特な人がいたなんて、知らなかった。
「…先輩みたいな人に告白されて、普通に嬉しいです。けれど私は、煌夜とは別れません」
「っ…煌夜には話してないんだろ!?なにも知らないでノコノコ来てるヤツなんか、」
 そこまで話して、咲良は初めて気が付く。
「…中学の時から、私のこと好きだったんですか」
「え?あ、うん…」
 嫌な予感がザワザワする。聞かない方が楽だと、分かっているのに。
「…どうして、小早川先輩と別れたんですか」
「え?あぁ、中西のこと好きになったから」
「ー……」
 つまり。湯島先輩が小早川先輩と別れたのは、私が原因。そして小早川先輩が煌夜と付き合ったのは。
「小早川先輩に、…そのまま、伝えたんですか」
「ん?もちろん、そうだけど」
 なるほど。この先輩、バカなのか。
 小早川先輩が煌夜と付き合ったのは、…私と煌夜が幼馴染みと知っていたから。だから、…煌夜が私に小早川を紹介してきたとき、煌夜は言った。
『咲良と恋仲になるとかあり得ねぇ』
 まるでその言葉にショックを受けているように見えた。それがずっと、不可解で仕方なかった。
 けれど今なら全て、辻褄が合う。
 小早川は煌夜を傷付けた。小早川は、湯島に傷付けられた。湯島は小早川を無意識のうちに傷付け、私は何も知らずにのうのうと生きて、傷付いている煌夜に漬け込んだ。
 全部、悪いのは私だったのに。
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