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本編
10日目~煌夜side~
しおりを挟む次の日も、煌夜は咲良と並んで学校へと行っていた。
「そういえばさ、父さんが仕事で遊園地のチケット貰ったの渡されたんだけど。行く?」
ポケットの中からチケットを二枚出す。
「遊園地?」
「名前忘れた。ほら…なんか、新しくジェットコースターリニューアルしたとかいうヤツ」
確か、パッとしない名前の。
「あぁ、ヨウシマランド?」
「そうそう、ソレ」
「うーん……ごめんね、私はちょっと」
遠慮がちに言う咲良に、思わず落胆してしまう。まぁ、歩き続けるが。
「あれ?咲良、乗り物ムリだっけ」
遠回しに理由を聞く。まさか、俺と遊園地行くのが嫌とかじゃないよな。
「ほら、親が心配するから」
えへへと笑う咲良に安堵しながらも、不可解に思う。
「あーね。てか、咲良んトコのおじさん達、過保護だよなー。最後に発作?みたいなの起こしたのって、小学校の時以来だろ?いつまで心配してんだよ」
それに、今は何ともないのなら。たまには一緒に遠出したいし、あわよくばちょっと綺麗なトコに泊まりたい、とか。
けれどそんな下心アリの願いは見事に打ち砕かれてしまう。
「ごめんね、でも本当、いつ体調悪くなるか分からないし」
なんだそれ。だから、数年前ならそうだったかもだけどさ。
「…お前、最近体調悪いの」
「え?ううん、別に?」
見ている限り、嘘ではなさそうだ。
「なら別にさ、」
「ごめん、煌夜。私、恥ずかしくて隠してたんだけど」
「なに?」
なんだよ、改まって。
「さっき煌夜が言った通り、あんまり乗り物得意じゃない…」
「………あっそ」
だったら初めにそういえよ、紛らわしい。
「…ごめんね?」
ていうか、俺、コイツのこと本当になにも知らないんだな。幼馴染なのに。恋人なのに。
そう思うと、不甲斐なかった。
その日の四時間目、咲良のクラスは体育の時間。
咲良が倒れたと聞いた。
慌てて保健室に行くと、そこにいたのは男子……だが、智樹ではないことに安堵を覚えた。
「咲良のこと運んでくれたのって、お前だったのかよ」
「…よう、煌夜」
佐伯隆太。智樹と仲が良かった時に、よく三人で遊んでいた。
「サンキュ。咲良、まだ寝てる?」
「おう。すげーぜ、男子のボールがガンって当たってさぁ。しかも顔に!」
「…なに笑ってんだよ」
「ザマアミロって思っただけ」
隆太がケタケタと笑う。
「はぁ?」
なんだ、いきなり。
「お前さぁ、まさかまだ、智樹と俺のことが咲良のせいとか言ってんの?」
「だったらなんだよ」
「あのな。アレは俺と智樹の問題で、咲良は関係ない」
「そうかもな。そんなつもりはなかったって言ってるんだろ、どーせ」
「違ぇよ。咲良はそんなこと言ってない」
隆太が咲良を嫌いなのは知っていたけれど、ここまでとは。
「じゃあ何だよ」
「咲良は悪くないって言ってんだろ」
「そうやってお前らが守るから、この女がつけ上がるんだろ。何の苦労も知りませんって顔してさぁ」
なんだよ、それ。
「…お前が咲良のなにを知ってるんだ」
「なにも知らねぇよ、知りたくもねぇ」
「お前っ…!」
思わず掴みかかろうとしたその時、咲良がもぞもぞと動く。
「…煌夜……?」
「!…咲良、起きた?悪い。大丈夫か?顔にボール当たったんだって?」
「あー…はは、ごめん、鈍臭いね、私」
「そんなこと、」
「マジでな。保健室連れてけって言われた俺の身にもなれっての」
「あ………えっと、ありがと、佐伯君」
「…チッ」
咲良を睨んでいた目が煌夜へと動く。
「おい、煌夜。お前もさっさとこんな女に捕まってないで、目ぇ覚ませよ」
そう言うと、佐伯は保健室を出て行ってしまった。
「はぁ?なんだ、アイツ。…咲良、あんなヤツの言うこと気にすんなよ」
「…うん」
「でもさ、ボールくらい避けろよ。しかも顔面って」
「あはは、ごめん」
その時少しでも、咲良のことを知っていたら、もっと側にいたのに。
「じゃあ俺、行くな」
「うん。私も先生来たら行くから」
「じゃ」
時間が許す限り、彼女のそばにいただろうに。
そう後悔したのは、もっと後の話。
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