あと1年、彼の隣に

伊月 慧

文字の大きさ
上 下
11 / 38
本編

10日目~煌夜side~

しおりを挟む



 次の日も、煌夜は咲良と並んで学校へと行っていた。
「そういえばさ、父さんが仕事で遊園地のチケット貰ったの渡されたんだけど。行く?」
 ポケットの中からチケットを二枚出す。
「遊園地?」
「名前忘れた。ほら…なんか、新しくジェットコースターリニューアルしたとかいうヤツ」
 確か、パッとしない名前の。
「あぁ、ヨウシマランド?」
「そうそう、ソレ」
「うーん……ごめんね、私はちょっと」
 遠慮がちに言う咲良に、思わず落胆してしまう。まぁ、歩き続けるが。
「あれ?咲良、乗り物ムリだっけ」
 遠回しに理由を聞く。まさか、俺と遊園地行くのが嫌とかじゃないよな。
「ほら、親が心配するから」
 えへへと笑う咲良に安堵しながらも、不可解に思う。
「あーね。てか、咲良んトコのおじさん達、過保護だよなー。最後に発作?みたいなの起こしたのって、小学校の時以来だろ?いつまで心配してんだよ」
 それに、今は何ともないのなら。たまには一緒に遠出したいし、あわよくばちょっと綺麗なトコに泊まりたい、とか。
 けれどそんな下心アリの願いは見事に打ち砕かれてしまう。
「ごめんね、でも本当、いつ体調悪くなるか分からないし」
 なんだそれ。だから、数年前ならそうだったかもだけどさ。
「…お前、最近体調悪いの」
「え?ううん、別に?」
 見ている限り、嘘ではなさそうだ。
「なら別にさ、」
「ごめん、煌夜。私、恥ずかしくて隠してたんだけど」
「なに?」
 なんだよ、改まって。
「さっき煌夜が言った通り、あんまり乗り物得意じゃない…」
「………あっそ」
 だったら初めにそういえよ、紛らわしい。
「…ごめんね?」
 ていうか、俺、コイツのこと本当になにも知らないんだな。幼馴染なのに。恋人なのに。
 そう思うと、不甲斐なかった。


 その日の四時間目、咲良のクラスは体育の時間。
 咲良が倒れたと聞いた。
 慌てて保健室に行くと、そこにいたのは男子……だが、智樹ではないことに安堵を覚えた。
「咲良のこと運んでくれたのって、お前だったのかよ」
「…よう、煌夜」
 佐伯隆太リュウタ。智樹と仲が良かった時に、よく三人で遊んでいた。
「サンキュ。咲良、まだ寝てる?」
「おう。すげーぜ、男子のボールがガンって当たってさぁ。しかも顔に!」
「…なに笑ってんだよ」
「ザマアミロって思っただけ」
 隆太がケタケタと笑う。
「はぁ?」
 なんだ、いきなり。
「お前さぁ、まさかまだ、智樹と俺のことが咲良のせいとか言ってんの?」
「だったらなんだよ」
「あのな。アレは俺と智樹の問題で、咲良は関係ない」
「そうかもな。そんなつもりはなかったって言ってるんだろ、どーせ」
「違ぇよ。咲良はそんなこと言ってない」
 隆太が咲良を嫌いなのは知っていたけれど、ここまでとは。
「じゃあ何だよ」
「咲良は悪くないって言ってんだろ」
「そうやってお前らが守るから、この女がつけ上がるんだろ。何の苦労も知りませんって顔してさぁ」
 なんだよ、それ。
「…お前が咲良のなにを知ってるんだ」
「なにも知らねぇよ、知りたくもねぇ」
「お前っ…!」
 思わず掴みかかろうとしたその時、咲良がもぞもぞと動く。
「…煌夜……?」
「!…咲良、起きた?悪い。大丈夫か?顔にボール当たったんだって?」
「あー…はは、ごめん、鈍臭いね、私」
「そんなこと、」
「マジでな。保健室連れてけって言われた俺の身にもなれっての」
「あ………えっと、ありがと、佐伯君」
「…チッ」
 咲良を睨んでいた目が煌夜へと動く。
「おい、煌夜。お前もさっさとこんな女に捕まってないで、目ぇ覚ませよ」
 そう言うと、佐伯は保健室を出て行ってしまった。
「はぁ?なんだ、アイツ。…咲良、あんなヤツの言うこと気にすんなよ」
「…うん」
「でもさ、ボールくらい避けろよ。しかも顔面って」
「あはは、ごめん」
 その時少しでも、咲良のことを知っていたら、もっと側にいたのに。
「じゃあ俺、行くな」
「うん。私も先生来たら行くから」
「じゃ」
 時間が許す限り、彼女のそばにいただろうに。
 そう後悔したのは、もっと後の話。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

処理中です...