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しおりを挟む使節団が来れば国は賑わう。それは街に限ったことではなく、何度も催される宴を開く王城でも言えることだ。
「ミリア様、どちらが宜しいですか?」
「どちらも嫌」
アリシアの持ってきた二着のドレスは淡いピンク色の物と、濃いブルーの物。どちらも派手で、いくら今世の私の容姿が良くても、日本人としての感覚を持った私はこれを着ようとは到底思えない。
「あぁもう、早く城を出たい。こんなケバケバしいドレスなんか着たくないわ」
「そういうことは心の中で思って下さい。というかこれ、殿下から贈られて来たものですよ。どちらか着なければ失礼です」
「こんなのいつ着るのよ」
「今日の夜会ですよ」
「…そういえば、また私なの?」
今までは夜会があろうと放ったらかしにしていたくせに、使節団が来てからというものの、ウィリアムがうざったくなった。
「正妃様の体調はまだ悪いの?ていうかあの嫉妬深い正妃様が何もしてこないとか逆にホラーなんですけど」
「ミリア様、口に出すのはおやめください」
「はいはい。…あ、私も体調不良な気がする」
「いいんですか?リック様に会えなくなりますよ」
「…行く」
人が一大決心をしたというのに。
しばらくして部屋を訪れたウィリアムは冷たい視線で一言。
「今日からお前は来なくていい。正妃の体調が戻ったのでな」
それだけを言って帰っていった。
人の決心を返しやがれ。
「…明るいわね」
夜、窓の外を眺めれば、ずっと向こうの棟から眩いほどの光が見える。会場がこんなにも遠いのに、奥様方おきまりの「オーホッホッホ」という声はここまで聞こえてくる。
「ミリア様、外の風はお寒いでしょう。窓を閉められてはどうですか?」
アリシアが気を使って聞いてくる。
そうね、と窓を閉めようとした時だった。
「ミリア様!」
窓の外から聞こえる声に、私は驚きしかなかった。
「リック…?」
下を見れば、そこには確かにリックがいた。
「ど、どうして」
「貴女に会えると思ったのですが、何故か正妃様がいらっしゃって……帰れと、お命じになりますか?」
それは私のことだろうか。まさか。リックを追い返すなんてあり得ない。
「待ってて」
外から裏庭へ回ろうと思ったけれど、アリシアに制される。
「廊下に出られては誰かに見られる可能性が…」
「でも、リックが…ロープになるものは?」
「ミリア様、正気ですか!?」
ここは二階だし、降りることはそこまで難しくない。…どうしてここまでして、会おうとするのか。それは多分、夢見ていたからかもしれない。
昔からロマンティックな恋がしたかった。けれどお姫様にもなれない私は、ずっと、こんな風に、誰かが私を迎えに来てくれることに憧れていたのだ。
「…ねぇ、リック」
「ミリア様?」
「受け止めて、ねっ!」
アリシアの悲鳴が響き渡る。が、気にせず窓から飛び降りてやった。
「う、わ!」
ナイスタイミング。リックを下敷きにしたけれど、ちゃんと受け止めて貰えた。
「馬鹿ですか、アンタ!危ないだろう!」
「…ごめんなさい、でも、貴方が来てくれたから嬉しくて」
多分、私は恋をしているのだ。こんな風に迎えに来てくれて、受け止めて、危ないと、私を心配して叱ってくれたこの人に。
こんな時くらい、乙女に戻ってもいいよね?
「っ……貴方は、本当に…」
リックが何かを言いかけたその時だ。再び、アリシアの悲鳴が響いたのは。
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