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しおりを挟む話が食い違っている。ーーあ、また私は忘れていた。誤解を解くことを。
「違います、寝ていたけれど、それはその、」
「…あの男を確実に殺してしまえばよかった」
「エドワード様!?」
何を言い出すのだ、この人は。
「このまま君を拐ってしまうのもいいかもしれない。どうせ俺は役所に捕らえられるのだろう」
「ーーまるでそうなさりたいかのようですが」
「君が手に入らないならいっそ、夢など見たくない。君と永遠に会うことのない場所で、俺は…」
「…貴方には、罪を償って貰うわ」
我ながら馬鹿だと思うけれど、仕方ない。恋というものはすぐに消える。憎しみもいつしか消える。けれど愛は、永遠に残るのだ。いつまでも、憎んでも、それがまた愛の形として心に残っていく。
「私と結婚なさって。もちろん正妻として、貴方の側にいるわ。私の隣でオルキスへの罪を償って下さいませ」
「…公爵が許しはしない」
「そうね、貴方は愚かだもの」
けれど人はいつだって間違えるものだ。それが人間という生き物であり、男という生き物である。
「愚かな俺を許すと?」
「許しはしないわ。私は貴方と、罪を償うだけ。オルキスに決して消えることはないであろう傷を作った貴方と、罪を償うの」
「どうしてそこまで…」
「だって貴方、傷付いているでしょう」
「……え?」
「殺してしまえばよかったなど、思ってもいないことを言って誤魔化していらっしゃるのね。貴方の方が刺されたみたいよ」
エドワード様の顔に手を当てると、ひんやりと冷たかった。
「ここまでした貴方を、私は放っておけないもの」
「……君が、どうしようもなく好きだ」
「知っているわ。どうでもいい女のためにここまではしないもの」
エドワード様は歪んでいる。けれどその歪んだ愛情を、友の血を流させたというのに嬉しいと思ってしまう私も、十分歪んでいるのだ。
「愛している、ずっと、俺の側にいてくれ…」
言われなくてもそのつもりだった、初めから。
「…私も、貴方を愛してるわ」
あぁ、とエドワードが泣きながらリオナを抱き締める。
「こんなに温かいなんて、知らなかった…」
温もりは優しくしっとりと、エドワードの胸に溶け込んだのだった。
「この度は、本当に申し訳なく…」
「お前なんかの謝罪はいらない」
「オルキス!そんな子供みたいなことを言わないで」
「いいんだリオナ、俺が悪かったから…」
エドワードにもやってはいけないことの区別は分かっていたのだ。それが抑えられなかっただけで、犯罪を犯してしまった自覚はあった。
「…リオナとお前は釣り合わない。俺の方がよっぽど幸せにできる」
その言葉がエドワードに火をつけた。
「…幸せの定義が何かは知りませんが、少なくとも貴方が決めることではないのは確かですね」
「なんだと!?お前、この俺を刺しておきながらっ!」
「オルキス落ち着いて、傷に障るわ」
「おいリオナ、考え直せ!こんな男と…!」
「オルキス!」
そもそも煽ったのはオルキスの方だ。確かに手を出したエドワード様の方が悪いけれど、それとこれとは別の話である。
「…帰るわ」
「リオナ、もう帰るのか!?せめてもう少し…」
「これ以上エドワード様とここにいても、お互いに良いことはないでしょう」
「っ……」
黙ってしまったオルキスに踵を返し、部屋を出る。
「いいのか?君は残った方が良かったんじゃ…」
「…そうして良いのなら、そう致しますが」
「…嫌だ」
素直なエドワード様に笑ってしまう。
「では良いでしょう。それに…そろそろ離れないと、オルキスのためにならないでしょうから」
私たちは幼馴染みとしての距離が近すぎた。オルキスが私を結婚相手にと考えるのは、私が近すぎて周りが見えていないからなのだ。
(さて、どうしましょうか…)
とりあえずこの足で、お父様の元へ行かなくては。
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