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 自業自得だと分かっている。ただ、完璧すぎる彼女に劣等感を抱いていた。


 美しくて綺麗な婚約者のリオナはいつでも俺に合わせてくれた。俺が何もしなくても、ただそれを見ているだけだった。
 彼女は俺と違って優秀で、学園での成績もよかった。そのうち俺は、あり得ないと頭のどこかで思いながらも、彼女が自分を見下しているように感じて仕方なかった。



 ミーシャに惹かれたのは、自分にはない自由な心を持っていたからだ。
「私なら、エドワード様の側にずっといるわ」
「…あぁ」
 俺はきっと、その言葉をどこかで求めていたのかもしれない。自分の側にずっといてくれる人を求めていたのだ。
 けれど俺はリオナを愛していた。けれどミーシャの存在を知っているはずなのに全く気にもしない態度で接してくる彼女に苛立ちがあった。
 彼女は婚約破棄に頷いた。
 悲しかった。
 けれど妾になると言われたとき、心のどこかでホッとしていた。俺は好かれていたのだと。ミーシャのことは適当なところで縁を切ればいいと思った。
 最近、ミーシャがうざったくなっていた。
 自分の求めていた自由な彼女の言動の端々に目がついてしまった。
 言葉遣いも歩き方も、エスコートのされ方も。全てにおいてリオナより完全に劣っている…というか、比べるまでもない。学もない。普通に考えてくれれば分かるはずだと思った俺が馬鹿だった。伯爵家の次期当主がたかが使用人風情を正妻にするなどあり得ないのだ。

 そして夜会の日。使用人のくせに遠慮のないミーシャと、美しく現れたリオナとでは雲泥の差だったのだ。
(…誰だ、その男は…!)
 顔をよく見て気付く。絶世の美女と唱われているリオナと釣り合っている容姿。ローレンス公爵家の嫡男だということに。
(知り合い?仲がいいのか?)
 俺は彼女のことを何も知らないのだ。
「ねぇエドワード様、これ美味しいわよ」
 置いてある食事をまるで分別のない猿のように平らげていくミーシャに吐き気がした。こんなに良識のない女を連れて歩いていたのだ、今まで。
「…これ以上、俺に恥をかかせないでくれ…」
「エドワード様?どうしたの?」
 よく見れば平凡…どころか、所々に見えるそばかすの痕。
(…何をやっているんだ、俺は)
 情けなくて泣けてくる。
 リオナを探したいのは山々だけれど、先にミーシャを馬車に詰めて送り返そう。そう思って、入り口に向かったときだ。
 どこぞの令嬢の話し声が聞こえてくる。
「ねぇ、お知りになって?リオナ様とオルキス様、実は恋人なのだそうよ」
「あら?オルキス様が想いを寄せているだけでないの?」
「どちらにせよ、リオナ様とてあのオルキス様に想いを寄せられたらイチコロよ。あぁ、あの美しい瞳に映ってみたい…」
「本当にねぇ。それに同じ公爵家だもの。幼馴染みですって」
 幼馴染み?あの二人が?そんなこと聞いたことない。
(っ…駄目だ、落ち着け)
 まだ婚約者は俺だ。まだ、間に合うはずだ。
 そんなことを考えながらエドワードはミーシャを無理矢理馬車に詰め込み、会場を駆け出すのだった。
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