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#010 ワインクーラー
しおりを挟む…よし、そろそろ閉店準備するかー。……っておいおい、お前はまーだいじけてるのか。
誰のせいよ。って、誰のせいだ?
俺ぇ? 何でだよ。別になにもしてないだろ。
冷たくなんかしてねぇよ。いつもと何も変わらん。
いやいや、十分優しかっただろうが。
他のお客にばっかりって…、そりゃあ俺はこの店のマスターやってんだから。色んなお客に接客して当たり前だろ。
お前に付きっきりなんてことは無理なんだよ。
というか、お前は逆に自分の立場を利用しすぎだ。
他のお客がいる前でベタベタされたらたまったもんじゃないんだよ。
それでも、俺はお前が呼べばすぐ行くようにしてるし、こっそり内緒で割引だってしてやってるのに…
一体、何がそんなに不満なんだ。
……私のことを子供みたいに扱うところ。って、お前なぁ…そんなの当たり前だろ?俺とお前は15個も離れてるんだから。
ハァ…ようやっと20歳になったかと思えば、未だにガキみたいなこと言いやがる。幼稚園の時と変わらんよ。
お前がもう少し、年齢にあった素振りを見せていれば、俺だってそれなりに気を遣って接するかもしれないが、現状それは厳しいようだな。
あー!はいはいはいはい!
わーったから。また今度ちゃんと相手してやるから。そんな駄々こねんなよ、全く…
……あのな? めんどくさいとかじゃなくて、今俺は忙しいんだよ。閉店準備しなきゃいけないんだから。
いや、お前に手伝わせるとろくな事が起きん。
なんだよ。別に先に帰ればいいだろうが。
待ってろ。なんて、俺は一言も言ってないし。なんなら、早く帰ってくれた方が俺としてはありがたいんだがね。
…あー、もう。そういじけんなってー…。
ほら。今日は特別に、もう一杯だけ作ってやるよ。何が飲みたい?
はいはい、わかったわかった。一緒に帰ってやるから。とりあえず、今はなにか飲んで待ってろよ。お前の相手してるだけで時間があっという間に経つんだから。
で? 結局何にするんだよ?
……ワインクーラー?
いや、別にいいけど…、
お前の言ってるワインクーラーって、ワインを冷やすために使うやつじゃなくて、カクテルのことでいいんだよな?
だって、お前ワインなんて飲んだことあったか?
ないけどって…、お前…
ただでさえアルコールに弱いんだからやめとけよ…何か他のに…
あーあー、わかったよ!作ってやるから、ギャーギャー騒ぐな!
(カクテルを作る)
ほら。お前でも飲みやすいようにしてやったから。
いいか? ゆっくり飲めよ?
…ん? そりゃあ俺が作ったんだからうまいに決まってんだろ。
…それより、お前よくこのカクテル知ってたな。いつもカシスオレンジしか飲まないのに…
このカクテルの意味? お前、そんなの俺が知らないわけ………
(間を開ける)
……お前、本気で言ってるのか?
このカクテル…、ワインクーラーの意味を知ってて、頼んだのか。
そうか、なるほど……
(間を開けたあと、フッと吹き出すように笑って)
…いやー、お前成長したなぁ…!
カクテル言葉調べる!とか言い出した時は、本当に大丈夫か心配したけど、何だかんだちゃんと知識として取り混んでるみたいじゃねぇか。
そうかそうか。ちゃんと覚えてんだな。感心感心。
……なんだよ急に猫なで声出しやがって。
褒めろって? いやお前な…、将来バーで働きたいって言ってる奴がこんなことも出来なくてどうすんだって………あーはいはい。わかった。わかりましたよ。
(めんどくさそうにため息をつく)
偉い偉い。よく頑張りまちたね~(赤ちゃん言葉)
やめてって、褒めろって言ったから褒めてやったんだろー?
それにな、いいか? こんなんまだまだ序盤だぞ。本気で考えてるなら、今後も本気で勉強しねぇとな。
ちゃんとやらねぇと、うちには雇ってやらんぞ。
雇うことを視野に入れてるのは、お前が必死な形相で頭下げて来て、そこから色々とやる気が見えたからなんだからな。
…フッ、まぁせいぜい頑張れよ。俺も若くねぇからな。気長には待てんぞ。
じゃ、俺はこれから作業するんで。お前は大人しくしてなさい。
…あー、そうだ。お前、そのカクテル俺以外の前で飲むなよ。
なんでもだよ。いいから言うこと聞け。わかったな。
よし、じゃあもうちょい待ってろ。すぐ終わらす。
…ったく、余計なもん覚えてきやがって…俺の心労も考えろっての…ガキ。
ー完ー
今回のカクテル 「ワインクーラー」
ワイン、オレンジジュース、グレナディンシロップ、ホワイトキュラソーで作られる。
オレンジジュースで爽やかさと果実味が強く感じられるカクテル。
ベースのワインは、赤、白、ロゼのどれを使っても構わない。使う種類によって、味わいや色味が変わってくるので、その日の気分によって変えられるのも、このカクテルの特徴。
オレンジジュースを多めにいれれば、サングリアのような感覚で楽しむことが出来るうえに、アルコール度数が抑えられるので、アルコールが苦手な人にもオススメ。
意味は「私を射止めて」
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