Cocktail Story

夜代 朔

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#001 スコーピオン (番外編)

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    薄暗い店内。揺らめくキャンドルの炎。静かなジャスサウンド。
    世界各国から取り寄せたであろうお酒のボトルが並ぶ棚。

    そして、カウンター席に座って、一人ウイスキーを飲んでいた彼。

    私は、彼に一目惚れをした。




    初めて彼と出会ったのは1か月前。
    それから毎日のように店に行っては、彼の姿を探した。
    彼はここの常連らしく、いつも同じ席で、同じウイスキーを飲む。

    その姿を少し離れた場所で見ながら、いつ声をかけようかとドキドキしていたけど、よく考えれば、どう声をかけたらいいのかもわからないし、相手にされなかったらどうしようと不安になると、なかなか声をかけることができなかった。

    けど、私は彼と近づきたかった。
    理由は分からない。
    彼が私好みのタイプかと聞かれれば、別にそういう訳では無いし、彼が驚く程イケメンだったとか、そういう訳でもない。

    ただ、無性に彼に惹かれて、気がついた時には恋をしていた。

    自分に振り向いて欲しい。自分を愛して欲しい。

    一度も話したことの無い赤の他人に、ここまでの感情を抱いたのは初めてで、自分でも戸惑ったけれど、だからこそこの感情を大切にしたいと思った。

    とはいえ、このままじゃ何も進展しないということは自覚していたので、私は、彼とよく話しているバーテンダーくんに協力をしてもらうことにした。

    バーテンダーくんは「喜んで」と快く承諾してくれて、何度も相談に乗っては、アドバイスをくれた。

    そして今日は、バーテンダーくんと前々から練っていたプランで、彼に話しかけてみようと思う。
    その名も、実は私たち一度会ったことあるんですよ大作戦。

    この作戦がうまくいくかはわからないけど、バーテンダーくんからも背中を押してもらったし、彼にも正面から気持ちを伝えたい。

    今年で27歳になる私。彼とは二回りくらい歳が離れているだろう。けど。恋は何歳になっても素敵なものだし、今更そこばかりを気にかけても仕方がない。

    私は、絶対彼を惚れさせてみせる。

    そう心に決めた私は、コンパクトミラーを見ながら、自分の唇に真っ赤な口紅を塗った。
    緊張で強ばった顔を解すようにして、鏡の中に映る自分に笑いかける。

    「…よし。行こう」

    かすかに震える手で、ドアノブを握る。
    店のドアを開けると、彼の後ろ姿が見えた。

    「いらっしゃいませ」

    バーテンダーくんが、微笑んでこちらを見ている。

    私は静かに頷いて、カウンター席に座っている彼の方へ、その一歩を踏み出した。


    「…さぁ、行くわよ」

ー完ー


 今回のカクテル  「スコーピオン」
 …ハワイ生まれで「さそり」の名を持つカクテル。
    口当たりがよく飲みやすいため、つい飲みすぎてしまい、酔いがかなり回ってしまうことから、さそりの毒に例えられている。

    12星座である「さそり座」の誕生石トパーズの色をモチーフにした、トロピカルカラーのカクテル。フルーツなどでデコレーションをされる事が多い。

    ホワイトラム、ブランデー、オレンジジュース、レモンジュース、ライムジュースで作られる。

    カクテルの意味は「瞳で酔わせて」
    見つめ合いながら乾杯をすれば、そこからは2人の情熱的な時間が始まる…








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