上 下
30 / 36
第3章

29:服のゴミは掃除機で吸うもの

しおりを挟む
 ビスケットを食べまくっていた魔王がなぜか幼女になってしまった。一体何を言っているのかわからないだろうが、これはありのまま起きたことを私は言っている。

 まあ、魔王の根源となる瘴気の力が弱まったことが原因だろう。元に戻るためには見習いメイドのアリアが作る料理を食べなければならないのだが、ミィはヤケになって浄化作用がある主のビスケットを食べまくっていた。
 もしかするとそのうち消滅するんじゃないか、あいつは。

「う、うぅ。なぜじゃ、なぜこんなにも愛らしい姿になってしまったんじゃ!」
「わかりません。ですけど、ミィ様とってもかわいいです。今度、私のお下げをあげますね」
「いらないのじゃ! ああ、数十年かけてやっと大きくなってきた胸が小さくなってしまったのじゃ。なぜじゃ、なぜこんなことになったんじゃ!」
「身体も小さくなっちゃったしね。ちょっと待ってて、あり合わせで服を作ってあげるわ」

「ううぅっ。このまま裸になるのは嫌なのじゃ。頼む、早く服を作ってくれー!」

 魔王も大変なものだ。まあ、私はあまり関係がないことだが。ひとまず主が服を作っている間にどういう道を進むか考えておくか。
 地図を見た限り、魂の神殿はここから北東の位置に存在する。魔王軍がいない今なら真正面から神殿に入ることができそうだ。わざわざ魔物と鉢合わせする道なき道を通る必要はなさそうである。
 だが、瘴気があふれているなら少し考える必要があるだろう。あまりにも濃度が濃いならまとまって行動したほうがいいかもしれないしな。

「できたわよぉぉ!」
「なんじゃこの服は! 厳ついネコが腹で叫んでおる!」
「それはライオンよライオン。名付けるならライオンワンピースよ。オスライオンでもよかったけど、ミィちゃんは女の子だからメスライオンにしておいたわ」
「カッコ悪いのじゃ! 厳つすぎて逆にダサいのじゃ! ああ、こんなの嫌じゃ。アリア、お前のお下げでいいから服をくれー!」

「お城に戻らないとありませんよ。申し訳ございませんが、しばらくガマンしてください」
「なんということじゃ……ああ、誰でもいい。わしに、わしに服をくれー!」

 私が進路を考えているとミィは大きな絶望を抱いていた。腹、というか胴体いっぱいに大きな厳ついネコが叫んでいるような刺繍をされており、それがかわいらしい赤いワンピースに施されているのだからだろう。今のところ服はその一着しかないため、諦めて着るしかない状態だ。
 そんな状態のミィを見て主は満足げな笑顔を浮かべていた。

「うぅ、こんな姿で外に出たくないのじゃ。わし、行かなくてもいいか?」
『ダメだ。お前がいないと話にならないだろ』
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ! こんな姿で、しかもこんな服を見られたら笑われてしまう!」
『今は部下どころか人はいないだろ?』

「アリアがおる! あとお主らもな!」
「かわいいですよ、ミィ様! 赤いワンピースのお腹で叫ぶ厳ついネコってとっても斬新ですし、もしかしたら真似されるかも!」
「そんな訳あるか! わしをバカにしとるな、アリア!」

 ミィの服がダサすぎたために大騒ぎである。そのせいもあり、全然出発する気配がない。
 参った、このままでは日が暮れてしまう。その前に神殿の調査をしたいんだが。

「そんなにライオンが気に入らないの?」
「当たり前じゃ! せめて服に似合うかわいいものを刺繍してくれ!」
「ワガママねぇ。そんなんじゃあお嫁さんに行けないわよ!」
「いいから早く直してくれ! わしは恥ずかしくて堪らん!」

 ミィに言われ、主は渋々服を作り直し始める。まあ、とんでもなく似合っていなかったというのもあるからな。いい感じに改善されることを願う。
 さて、私は出発の準備でもしておくか。相棒は私が憑依するとして、主やミィ達のためにアイテムをそろえておこう。
 そんなことを考えていると、少し遠くから「うわぁっ」という声が響いた。反射的に視線を向けると、そこにはどす黒い何かをまとい赤く輝く目をした魔物がいる。
 ふっくら膨らんだ体毛とステッキを持ち、どこかの冒険者から奪っただろう魔術師の帽子をかぶったそれを見て私は思わず顔を引きつらせた。

『モコモコピエロだと!?』

 この地方にはいないはずの魔物が、目の前にいる。しかもなんだか危険な力を身体にまとっている。
 もしやあれは、瘴気じゃないか? だとしたらマズいぞ。

『ミィ、みんなを守れ!』

 私は咄嗟に叫ぶと同時にモコモコピエロはステッキを振った。直後、大きな爆発が起き、馬車ごと私をぶっ飛ばした。
 あまりの爆発力に驚きつつも私は立て直し、立っていた場所に視線を向ける。すると布を巻いて身体を隠し立っているミィの姿があった。アリアや他のみんなは無事であり、どうやら彼女が守ってくれたようだ。

 しかし、モコモコピエロは容赦なく攻撃を仕掛ける。ミィが展開した結界を破ろうとステッキを振り、爆発を起こし続けていた。

「ぐぅぅ、こいつめ。おい、神よ! あまり長く持たん。早くどうにかしろ!」

 ミィの叫び声を聞き、私はモコモコピエロに殴りかかる。夢中に攻撃しているためか、拳はこめかみを捕らえた。
 そのまま力いっぱいに殴り飛ばすと、モコモコピエロはすぐに体勢を立て直し私をにらみつける。そして持っていたステッキを振り、私に攻撃を仕掛けてきた。
 身を守り、反撃しようと身構えるが、その瞬間にミィが叫んだ。

「避けろ!」

 咄嗟に回避行動を取ると、再びすさまじい爆発が起きる。私は立っていた場所に目を向けるとそこは黒炎に包まれており、ありとあらゆるものが悶え苦しんでいるようにうめき声を上げていた。

「バカ、何ボサッとしておる! 攻撃が来るぞ!」

 ミィに言われ、私はモコモコピエロの攻撃を回避する。この爆発、もしかすると想像以上に危険なものかもしれない。もし少しでも掠れば私とてただでは済まないかもな。
 だが、このまま躱し続けていてもどうしようもない。どうにか奴の隙を見つけ出し、強烈な一撃を入れなければ。

「ちょっと何? とってもうるさいんだけど」

 私が攻撃しあぐねていると、主が騒ぎを聞きつけてやってきてしまった。ああ、ただでさえ今は相手することが難しいのに。
 そう思っていると、なぜか主が黄色い声を上げる。

「ちょっとちょっと、モコモコピエロじゃない! なんでここにいるの? いないって言ってたでしょ!」
「わからん! とにかくおばちゃんは下がって――」
「あれ今日のお得な魔物よ! 捕まえなきゃいけないわ!」

 なんてことだ。そういえば今日のお得情報にモコモコピエロがいたな。ああ、なんてことなんだ。主が大興奮してこっちに乗り込んできたじゃないか。
 頼む、これ以上面倒ごとを増やさないでくれ。

「ギギッ!」

 モコモコピエロが主にステッキを振る。私は咄嗟に走るが、間に合いそうにない。このままでは主がやられる、と思った瞬間に主はあるものをポケットから取り出した。
 それは不思議な形をした機器だった。

「ちょっと、ここホコリっぽいんだけど! ダメよこれ、お外だとしても綺麗にしなきゃ」

 主が手にした機器を握ると、ものすごい音と共におかしなことに爆発がそこに吸い込まれていった。空気を吸い込むそれはどんどん爆発と瘴気にまみれた炎を飲み込んでいく。
 なんだあれは。そう感じて見ているとミィとモコモコピエロもあんぐり口を開いていた。
 主はそのまま散らかった大地を綺麗にし、満足げな笑顔を浮かべる。モコモコピエロはそんな主を見て挑発されたと勘違いしたのか、「ギギィッ!」と叫んだ。

「あら、あなたちょっと汚いわね。待ってて、吸い取ってあげるから」

 そういって主はモコモコピエロに近づいていく。威勢を張っていた奴はそれを見て一目散に逃げようとした。
 私はその光景を見てすぐに魔法を発動させる。モコモコピエロが移動しにくいように大地を沼化させると、そのまま奴は足が取られて倒れた。

『主よ、奴は捕らえた! 遠慮なく綺麗にしてくれ!』
「神様ないすぅー。じゃ、遠慮なく綺麗にしてあげるわねぇぇ」
「キギャアァァァ!」

 こうしてモコモコピエロがまとっていたどす黒い瘴気は吸い込まれていく。奴はとても苦しんでいたが、全て吸い込まれるとそのまま気絶してしまった。
 ひとまず、どうにか乗り切ることに成功したが油断ならないな。十分に用心していこう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori
ファンタジー
転移したのはざまあ~された後にあぽ~んした王子のなか、神様ひどくない「君が気の毒だから」って転移させてくれたんだよね、今の俺も気の毒だと思う。どうせなら村人Aがよかったよ。 王子はこの世界でどのようにして幸せを掴むのか? 元28歳、財閥の御曹司の古代と中世の入り混じった異世界での物語り。 これはピカレスク小説、主人公が悪漢です。苦手な方はご注意ください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私の物を奪っていく妹がダメになる話

七辻ゆゆ
ファンタジー
私は将来の公爵夫人として厳しく躾けられ、妹はひたすら甘やかされて育った。 立派な公爵夫人になるために、妹には優しくして、なんでも譲ってあげなさい。その結果、私は着るものがないし、妹はそのヤバさがクラスに知れ渡っている。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...