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第2章
24:印象を決めるのは最初の挨拶
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朝の食事を終え、片づけ作業を終えた私達はライオの故郷へ再び移動しようとしていた。昨日は全く進まなかったので本日は昨日以上の成果を出したいところである。
そんなことを思っていると数台の馬車がこちらへ向かってきていることに気づく。どこかの貴族が大所帯で出張でもするのか、と思い見ているとその馬車は我々の前に止まった。
はて、貴族に知り合いなんていなかったはずだが。そんなことを考えていると見知った男性が馬車から顔を出した。
「おーい、こんなところで何してるんだ?」
「あら、露店のお兄ちゃんじゃないッ! アンタ真反対に行くって言ってなかった?」
「通り道にキングスネークが出たって聞いてな。仕方ないから遠回りすることにしたんだ。それよりアンタ、昨日出発したはずだよな? どうしてここにいるんだ?」
「そんなこといいじゃないのぉぉ。にしてもすごい大所帯ね。もしかして全部商品?」
「従業員もいるよ。ま、少し大きい店を構えるから相応の人を雇ったんだ」
「あらぁ、ずいぶんと立派になったわねぇ。あ、もしかして社長になっちゃった? よく頑張ったじゃないのッ!」
「まだまだ小さいけどな。もっと大きくしていくよ。それよりもアンタ、よかったら乗ってくか? 進路はたぶん同じだと思うしよ」
「いいのッ!? ならお言葉に甘えさせていただくわ。もぉー、持つべきものはなんとやらね!」
商人の計らいで我々は馬車に乗せてもらうこととなった。これで迷うことなく進めるな、やったぜ。
こうしてゆったりとした馬車の旅が始まる。路面が整備されていないこともあってか、揺れが少し激しいがそれでも昨日よりはいい進捗だ。それに主の機嫌がとてもいい。相手をする商人は楽しげに話を聞いていることもあって、言葉が止まらない様子だ。
さて、なんやかんや昨日は大変だったからな。私は少し休むとしようか。
『ねぇねぇ、ヴァルドラー』
『なんだ聖剣? 私は少し寝たいんだが』
『その、ちょっと相談に乗ってもらいたいんだけどダメかな?』
『わかった、手短に頼む』
『えっとね、その、最近カリバーンが変なの。なんというか、とてもモジモジしてて……』
『放っておけ』
『えぇ? それかわいそうだと思うけど』
『カリバーンにとっては嬉しいことだ。それにまだ呪いは完全に払われてないからな』
『そうなの!? 姿が変わったからもう大丈夫だと思ったけど』
実際はそれが素なのだが、私は敢えて真実を告げないことにする。聖剣には悪いがこれはこれで面白い。
『奴の呪いはかなり根深いものがある。ひとまず向こうから接触があるまで放っておけ』
『そうなんだ……どうにかしてあげたいけど、それなら仕方ないね。わかった、そのままにしておく』
根本的な問題解決になっていないが、方針を示されたことで聖剣は一安心した様子だ。だが聖剣の鞘にとってはなかなかに苦しいものになるはずだ。いや、奴の性格から考えるとご褒美かもしれない。
さて、これでゆっくり寝られる。そう思っていると今度はシロブタが声をかけてきた。
『おい、助けろ! キナコが俺のおやつを盗りやがったんだ!』
『自分でどうにかしろ』
『どうにかできるならお前に相談するか! あいつ、俺より強いんだぞ!』
『お前、腐界の王だろ……』
『お前らのせいでかわいい子ブタちゃんだよ! とにかくどうにかしろ!』
ああいえばこういう。面倒な奴だ。
『主のアイテムを使え。確か、ネコジャラシという名前だったな。あれを使えばキナコは喜んでお菓子を手放すはずだ』
『そっか、その手があったか! よし、やってみる。さすが神様だな。ありがとよ!』
単純な奴だ。まあ、キナコが遊ぶ気なければネコジャラシは意味がないと思うが。
それにしてもなかなか眠れないな。このままだとロクに休めないまま目的地に着きそうだ。少しでもいいから眠りたいんだが……
「お、ここにいたか神様」
まあ、こういうことは連続で起きるものか。にしてもライオが私を探していたとはどういうことだろうか? もしや主が読んでいるのか?
『どうした? 用事でも頼まれたか?』
「いや、特には。ちょっと聞いてもらいたいことがあってさ」
『なんだ? 言ってみろ』
「アンタの目から見てファイはどうだ?」
『どうだ、っとは?』
「いや、その、綺麗だ、とかかわいい、とか気高い、とかあるだろ?」
何を言っているんだこいつは?
まあ、確かに貴族に娶られてもおかしくない容姿ではある。だが、その戦闘技術はとても高い。真正面からぶつかればライオなんぞイチコロだろう。
「なんつーかな、ファイって綺麗だよな」
『綺麗ではあるな。だがそれがどうした?』
「恋人っているかな?」
『やめておけ。死ぬぞ』
相手は暗殺を生業としている少女だ。下手に真正面から行けば本気で殺されかねない。
「なんでだよ? 確かに命のやり取りはしたけどさぁ」
『お前の実力じゃあイチコロにされる』
「んだと! やってみないとわからないだろ!」
『やるなら十分な実力を身につけてからにしろ』
「わかったよ! じゃあ強くなってやる。神様も驚くくらいにな!」
そういってライオはみんなの元へ戻っていった。
本当にわかっているのかわからないが、ひとまず彼の恋が幸あるものになることを願うとしよう。
さて、これでやっと寝られるか。なかなかに時間は取られたがやっと一眠りが――
うつらうつらしながら眠りに落ちようとしたその時、馬車が急に止まった。おかげで私は転がり、そのまま馬車の外へ放り出されてしまう。
うぅっ、一体どうしたんだ。おかげで身体中が痛いし眠気も覚めたぞ。
『あぁん、なんだお前らぁー?』
顔を上げるとそこには立派な鎧を身にまとったオークの軍団がいた。よく見ると橋があり、さらに状況を確認するとその橋をオークが占拠しているようだ。
このことから考えると、どうやら豪炎竜グレゴリアの支配地域に入ったみたいである。
「な、なんでこの橋を魔物が占拠しているんだ?」
『なんでぇ? 考えるまでもねぇだろ。ここから先は俺達の国だ。つーまーりー、他国と繋がるこの橋は関所ってことでもあるんだよ!』
「んなの聞いてないぞ! つーかなんでオークがしゃべれるんだよ!」
『俺達はエリート! 必須スキルの言葉なんざ簡単に取得しているのよ! それよりも、この先を通りたいか? 通りたいよな! だったら積み荷と有り金を全部置いていきな! それで通してやるぜ!』
商人の男性がとても苦い顔をしている。それもそうだ、普通ならここは引き返すしかない。だが相手が相手のため、タダで引き返してくれそうにもない状況である。
だが、彼は運がいい。なぜならこの馬車には我々と主がいる。それにこの騒ぎを聞いていたら真っ先に主が飛び出すはずだ。
「ちょっとちょっと、それいくら何でもひどすぎるわよ!」
『あん? なんだババア、死にたいか?』
「うっさいわねまだピチピチの五十代よ!」
『十分ババアだろうが!』
思った通り主が食いついた。そして当然のように主のペースとなっている。
「ババアババアってうるさいわね! でもお腹はお父ちゃんより出てないから痩せてるわねアンタ。そうそう痩せてるで思い出したんだけど、お隣さんが飼っているワンちゃん、あれとっても痩せてるのよ! なんでもバリバリにスポーツをしているワンちゃんなんだってッ! ワンちゃんってすごいわ。だって毎日散歩するでしょ。おばちゃん、毎日散歩はできないわ。だって出不精なんだものッ!」
『は?』
「あ、今おばちゃんのことデブって思ったでしょ! 違いますぅー出不精とデブは違いますぅー。それにおばちゃん五十代の中じゃ痩せてるんだからね! そこ勘違いしないでッッッ!」
『何の話をしてんだよ、ババア!』
さすが主だ、何を言いたいのかわからん。
まあいい、いつもの主の言いたいことを言ってくれたおかげで全員の意識が彼女に向いている。なら、仕掛けるなら今しかないだろう。
私はそう思い、様子を見ていたライオに視線を送る。彼が聖剣を鞘から抜き、それを確認した私は飛び出す合図を出した。
『うわぁー!』
『なっ、攻撃だとー!』
真正面から突撃するライオ。聖剣の力もあってか、その暴れっぷりはすさまじい。しかし、彼はまだ駆け出し冒険者だ。後ろが無防備である。
そこを狙ってオーク達が近づくが、直後に白い閃きが迸った。
「もっと警戒して」
ファイがライオに注意をし、風が通り過ぎるかのようにオーク達の首や関節にナイフを突き立てていく。それは一瞬の出来事であり、彼女が動きを止めた瞬間に一斉に血の花が咲いた。
さすがの強さだ、と感心していると取り残されていた鞘とシロブタが呆然としながら立っている。
どうしたのか、と思っていると彼らはこう言い放った。
『やっべ、あいつ怖いぞ』
『ああ、素敵だ。素敵だよエクスちゃん。その攻撃性、僕に向けてくれ!』
カリバーンはどうしようもないな、と思ったのは言うまでもない。
『なっ、なんだお前ら! こんなことしてタダで済むと――』
「タダで済まないの? もぉー、仕方ないわね。じゃあこれあげるから通してよ」
『今さら金なんているか! お前、ぶっ殺してやる!』
オークの一体が主に飛びかかる。それを見た私は力一杯に大地を蹴った。同時に馬車からキナコが飛び出し、それを見た私は主に迫る剣を防ぐことにする。
腕を硬化させ、刃を弾く。直後にキナコが自慢のツメを使い、オークの鎧を切り裂いた。
大きなダメージを受けたオークはそのまま倒れ、それを見ていた仲間達はザワつき始める。
『た、隊長がやられた!』
『こいつらヤバいぞ! 隊長連れて逃げよう!』
『グレゴリア様に報告だ。い、急げっ!』
オーク軍団は一目散に退散していく。さすがというべきか、それともやりすぎと言うべきなのか。
私がそう考えていると商人が腹を抱えて大声で笑い出した。
「こりゃすげぇー! 魔物が逃げちまったよ。いやぁー、アンタすごいな。一緒にいると暇なんてしないし」
「あらそう? にしても残念ね。今のオークっていうんだっけ? 全然お得じゃなかったんだけど」
「旅は道連れって聞くし、いいぜ。付き合ってやるよ」
こうして我々は豪炎竜グレゴリアに本格的な宣戦布告をした。
これからどうなるだろうか。正直、私にもわからない。
そんなことを思っていると数台の馬車がこちらへ向かってきていることに気づく。どこかの貴族が大所帯で出張でもするのか、と思い見ているとその馬車は我々の前に止まった。
はて、貴族に知り合いなんていなかったはずだが。そんなことを考えていると見知った男性が馬車から顔を出した。
「おーい、こんなところで何してるんだ?」
「あら、露店のお兄ちゃんじゃないッ! アンタ真反対に行くって言ってなかった?」
「通り道にキングスネークが出たって聞いてな。仕方ないから遠回りすることにしたんだ。それよりアンタ、昨日出発したはずだよな? どうしてここにいるんだ?」
「そんなこといいじゃないのぉぉ。にしてもすごい大所帯ね。もしかして全部商品?」
「従業員もいるよ。ま、少し大きい店を構えるから相応の人を雇ったんだ」
「あらぁ、ずいぶんと立派になったわねぇ。あ、もしかして社長になっちゃった? よく頑張ったじゃないのッ!」
「まだまだ小さいけどな。もっと大きくしていくよ。それよりもアンタ、よかったら乗ってくか? 進路はたぶん同じだと思うしよ」
「いいのッ!? ならお言葉に甘えさせていただくわ。もぉー、持つべきものはなんとやらね!」
商人の計らいで我々は馬車に乗せてもらうこととなった。これで迷うことなく進めるな、やったぜ。
こうしてゆったりとした馬車の旅が始まる。路面が整備されていないこともあってか、揺れが少し激しいがそれでも昨日よりはいい進捗だ。それに主の機嫌がとてもいい。相手をする商人は楽しげに話を聞いていることもあって、言葉が止まらない様子だ。
さて、なんやかんや昨日は大変だったからな。私は少し休むとしようか。
『ねぇねぇ、ヴァルドラー』
『なんだ聖剣? 私は少し寝たいんだが』
『その、ちょっと相談に乗ってもらいたいんだけどダメかな?』
『わかった、手短に頼む』
『えっとね、その、最近カリバーンが変なの。なんというか、とてもモジモジしてて……』
『放っておけ』
『えぇ? それかわいそうだと思うけど』
『カリバーンにとっては嬉しいことだ。それにまだ呪いは完全に払われてないからな』
『そうなの!? 姿が変わったからもう大丈夫だと思ったけど』
実際はそれが素なのだが、私は敢えて真実を告げないことにする。聖剣には悪いがこれはこれで面白い。
『奴の呪いはかなり根深いものがある。ひとまず向こうから接触があるまで放っておけ』
『そうなんだ……どうにかしてあげたいけど、それなら仕方ないね。わかった、そのままにしておく』
根本的な問題解決になっていないが、方針を示されたことで聖剣は一安心した様子だ。だが聖剣の鞘にとってはなかなかに苦しいものになるはずだ。いや、奴の性格から考えるとご褒美かもしれない。
さて、これでゆっくり寝られる。そう思っていると今度はシロブタが声をかけてきた。
『おい、助けろ! キナコが俺のおやつを盗りやがったんだ!』
『自分でどうにかしろ』
『どうにかできるならお前に相談するか! あいつ、俺より強いんだぞ!』
『お前、腐界の王だろ……』
『お前らのせいでかわいい子ブタちゃんだよ! とにかくどうにかしろ!』
ああいえばこういう。面倒な奴だ。
『主のアイテムを使え。確か、ネコジャラシという名前だったな。あれを使えばキナコは喜んでお菓子を手放すはずだ』
『そっか、その手があったか! よし、やってみる。さすが神様だな。ありがとよ!』
単純な奴だ。まあ、キナコが遊ぶ気なければネコジャラシは意味がないと思うが。
それにしてもなかなか眠れないな。このままだとロクに休めないまま目的地に着きそうだ。少しでもいいから眠りたいんだが……
「お、ここにいたか神様」
まあ、こういうことは連続で起きるものか。にしてもライオが私を探していたとはどういうことだろうか? もしや主が読んでいるのか?
『どうした? 用事でも頼まれたか?』
「いや、特には。ちょっと聞いてもらいたいことがあってさ」
『なんだ? 言ってみろ』
「アンタの目から見てファイはどうだ?」
『どうだ、っとは?』
「いや、その、綺麗だ、とかかわいい、とか気高い、とかあるだろ?」
何を言っているんだこいつは?
まあ、確かに貴族に娶られてもおかしくない容姿ではある。だが、その戦闘技術はとても高い。真正面からぶつかればライオなんぞイチコロだろう。
「なんつーかな、ファイって綺麗だよな」
『綺麗ではあるな。だがそれがどうした?』
「恋人っているかな?」
『やめておけ。死ぬぞ』
相手は暗殺を生業としている少女だ。下手に真正面から行けば本気で殺されかねない。
「なんでだよ? 確かに命のやり取りはしたけどさぁ」
『お前の実力じゃあイチコロにされる』
「んだと! やってみないとわからないだろ!」
『やるなら十分な実力を身につけてからにしろ』
「わかったよ! じゃあ強くなってやる。神様も驚くくらいにな!」
そういってライオはみんなの元へ戻っていった。
本当にわかっているのかわからないが、ひとまず彼の恋が幸あるものになることを願うとしよう。
さて、これでやっと寝られるか。なかなかに時間は取られたがやっと一眠りが――
うつらうつらしながら眠りに落ちようとしたその時、馬車が急に止まった。おかげで私は転がり、そのまま馬車の外へ放り出されてしまう。
うぅっ、一体どうしたんだ。おかげで身体中が痛いし眠気も覚めたぞ。
『あぁん、なんだお前らぁー?』
顔を上げるとそこには立派な鎧を身にまとったオークの軍団がいた。よく見ると橋があり、さらに状況を確認するとその橋をオークが占拠しているようだ。
このことから考えると、どうやら豪炎竜グレゴリアの支配地域に入ったみたいである。
「な、なんでこの橋を魔物が占拠しているんだ?」
『なんでぇ? 考えるまでもねぇだろ。ここから先は俺達の国だ。つーまーりー、他国と繋がるこの橋は関所ってことでもあるんだよ!』
「んなの聞いてないぞ! つーかなんでオークがしゃべれるんだよ!」
『俺達はエリート! 必須スキルの言葉なんざ簡単に取得しているのよ! それよりも、この先を通りたいか? 通りたいよな! だったら積み荷と有り金を全部置いていきな! それで通してやるぜ!』
商人の男性がとても苦い顔をしている。それもそうだ、普通ならここは引き返すしかない。だが相手が相手のため、タダで引き返してくれそうにもない状況である。
だが、彼は運がいい。なぜならこの馬車には我々と主がいる。それにこの騒ぎを聞いていたら真っ先に主が飛び出すはずだ。
「ちょっとちょっと、それいくら何でもひどすぎるわよ!」
『あん? なんだババア、死にたいか?』
「うっさいわねまだピチピチの五十代よ!」
『十分ババアだろうが!』
思った通り主が食いついた。そして当然のように主のペースとなっている。
「ババアババアってうるさいわね! でもお腹はお父ちゃんより出てないから痩せてるわねアンタ。そうそう痩せてるで思い出したんだけど、お隣さんが飼っているワンちゃん、あれとっても痩せてるのよ! なんでもバリバリにスポーツをしているワンちゃんなんだってッ! ワンちゃんってすごいわ。だって毎日散歩するでしょ。おばちゃん、毎日散歩はできないわ。だって出不精なんだものッ!」
『は?』
「あ、今おばちゃんのことデブって思ったでしょ! 違いますぅー出不精とデブは違いますぅー。それにおばちゃん五十代の中じゃ痩せてるんだからね! そこ勘違いしないでッッッ!」
『何の話をしてんだよ、ババア!』
さすが主だ、何を言いたいのかわからん。
まあいい、いつもの主の言いたいことを言ってくれたおかげで全員の意識が彼女に向いている。なら、仕掛けるなら今しかないだろう。
私はそう思い、様子を見ていたライオに視線を送る。彼が聖剣を鞘から抜き、それを確認した私は飛び出す合図を出した。
『うわぁー!』
『なっ、攻撃だとー!』
真正面から突撃するライオ。聖剣の力もあってか、その暴れっぷりはすさまじい。しかし、彼はまだ駆け出し冒険者だ。後ろが無防備である。
そこを狙ってオーク達が近づくが、直後に白い閃きが迸った。
「もっと警戒して」
ファイがライオに注意をし、風が通り過ぎるかのようにオーク達の首や関節にナイフを突き立てていく。それは一瞬の出来事であり、彼女が動きを止めた瞬間に一斉に血の花が咲いた。
さすがの強さだ、と感心していると取り残されていた鞘とシロブタが呆然としながら立っている。
どうしたのか、と思っていると彼らはこう言い放った。
『やっべ、あいつ怖いぞ』
『ああ、素敵だ。素敵だよエクスちゃん。その攻撃性、僕に向けてくれ!』
カリバーンはどうしようもないな、と思ったのは言うまでもない。
『なっ、なんだお前ら! こんなことしてタダで済むと――』
「タダで済まないの? もぉー、仕方ないわね。じゃあこれあげるから通してよ」
『今さら金なんているか! お前、ぶっ殺してやる!』
オークの一体が主に飛びかかる。それを見た私は力一杯に大地を蹴った。同時に馬車からキナコが飛び出し、それを見た私は主に迫る剣を防ぐことにする。
腕を硬化させ、刃を弾く。直後にキナコが自慢のツメを使い、オークの鎧を切り裂いた。
大きなダメージを受けたオークはそのまま倒れ、それを見ていた仲間達はザワつき始める。
『た、隊長がやられた!』
『こいつらヤバいぞ! 隊長連れて逃げよう!』
『グレゴリア様に報告だ。い、急げっ!』
オーク軍団は一目散に退散していく。さすがというべきか、それともやりすぎと言うべきなのか。
私がそう考えていると商人が腹を抱えて大声で笑い出した。
「こりゃすげぇー! 魔物が逃げちまったよ。いやぁー、アンタすごいな。一緒にいると暇なんてしないし」
「あらそう? にしても残念ね。今のオークっていうんだっけ? 全然お得じゃなかったんだけど」
「旅は道連れって聞くし、いいぜ。付き合ってやるよ」
こうして我々は豪炎竜グレゴリアに本格的な宣戦布告をした。
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