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第1章
10:素材を活かせばご飯は美味しい 後編
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思いもしない魔物と鉢合わせ、私は望まない戦いをすることとなった。だが相手はちょっとでも刺激を与えると爆発してしまうスライムだ。冒険者に成りたての男性の力量ではどうしようもない相手である。
なのでどうにかするために晩ご飯の内容を考えている主の力を借りることを私は決意した。
『冒険者よ』
「誰だ! どこにいやがる!」
『我が主の下を見よ。それが私だ』
「もしかして、この変な乗り物か? なんでこんなのが喋って――」
『いろいろと省くが、協力してくれ。どうにか生き延びたいだろうし、目的もあるのだろう?』
私が問いかけると彼は真剣な顔になる。どうやら話がわかる相手と認識してくれたのだろう。ならば話は早い。
まず手始めに戦っているレッドスラキングについての情報を渡す。普通なら勝てるような相手ではないのだが、やつにも弱点はしっかり存在する。
「なるほど、あのうっすら見えるコアが弱点か」
『そうだ。それさえ破壊してしまえば無力化できる。だが、問題は今ある武器では難しいということだ』
「確かにな。結構剣を振ったが、あのぷるんとした表面に全部攻撃が流される」
『正攻法で戦うならば、わざと攻撃させ表面の面積を減らし一撃を入れる。しかし、それは現状だととても厳しい』
「じゃあどうするんだよ。このまま逃してくれるような様子はないぞ」
『我が主に協力してもらう。それしか打開する方法はない』
「協力って、このババアが何かできるのかよ?」
「まだピチピチの五十歳よ! 晩ご飯抜きにするわよッ!」
冒険者の男性が思わず言い返そうとするが、私はそれをなだめた。あることを彼に言ってもらうために、今ここで余計な時間を取られたくないためだ。
ひとまず彼を冷静にさせ、その言葉を伝える。とても渋い顔をしたが、生き残るためだと念を押すと大きなため息をついて実行し始める。
「悪かったよ。それで、今晩はどんなご飯なんだ?」
「素直でよろしい。そうねぇ、今晩はチャーハンかしら。あ、デザートとしてゼリーもつけるわよ」
「ちゃ? なんだって?」
「チャーハンよチャーハン。マー君の大好物なのよ、これが。お父ちゃんはいっつもしょっぱいって言ってくるけどね。でもあの人優しいのよ。毎回文句言うけど全部食べてくれるわ。もうオマケしてコショウをバッサバッサかけちゃうわッ!」
「そ、そうか。それで、そのぜりーってのは?」
「ああ、それね。作り方は簡単よ。まずはこの小麦粉を用意するの」
主がポケットから紙袋で包まれた何かを出す。それには不思議な字が書かれており、私と彼は思わず互いを見つめ合う。そんなやり取りを知ったこっちゃないレッドスラキングは主に向かってまた赤い物体を飛ばした。主はそれを見ることなくどこかから取り出した鉄板で受け止めると、紙袋を破り中から出てきた粉を振り撒く。
そのまま全体が包まれるようにまぶすと、またどこかから取り出してきた皿にそれを置いた。
「これで完成ッ! 簡単でしょ」
いろいろと言いたいことがあるが、不思議なことに赤い物体は爆発しない。一体何をしたのだろうか、と気になっていると彼が進んでその疑問を聞いてくれた。
「な、なあ、何をかけたんだ?」
「何って、小麦粉よ。ほら、モチとかくっつかないようにするためにかけるでしょ? 片栗粉でもいいんだけど、まあくっつかないようにするだけだし」
冒険者の彼はもう目を丸くしていた。私も当然、思いもしない方法で爆発を封じ込めたことにただ驚く。
だが、これがいい挑発になったのかレッドスラキングは雄叫びを上げていた。怒りのままに攻撃を放ち、私達を焦土に化そうとする。
「うおっ! こいつはやべー!」
「ほら、ボサッとしてないで手伝いなさい! 今日のゼリーは大盛りよッッッ!」
どんどんと飛ばされる赤い物体。それを次々と受け止めては小麦粉をまぶし、無力化していく。山盛りとなっていく赤い物体いやゼリーを見て、私は不思議と食欲をなくしていった。
しかし、そのおかげかレッドスラキングはどんどんと小さくなっていく。気がつけば表面の面積はほとんどなくなり、コアがほぼ剥き出しの状態になっていた。
『今だ! 一撃を入れろ!』
「おー!」
私の合図を受け、彼はレッドスラキングにトドメを刺そうとする。だが、彼が突撃しようとした瞬間に主に腕を掴まれてしまった。
なんだ、何か失敗したか?
そんな心配を抱いていると主がこんなことを言い放つ。
「まだ作業は終わってないわよ。次はこれ、袋に詰めるの!」
「ハ、ハァっ?」
「美味しい状態で持っていかなきゃ食べられないでしょ? そんなこともわからないのアンタはッ!」
「状況がわかってんのかババアァァ!」
ああ、こんな時にとんでもない足止めが。まずい、レッドスラキングがどこかに逃げようとしている。どうにかトドメを刺さなければ晩ご飯どころの話ではないぞ。
憑依を解き、レッドスラキングにトドメを刺そうかと考える。レッドスラキングはというとしめしめといった感じに戦場から離れようとしていた。だが、そんな魔物の後ろに大きな影が差し込む。
レッドスラキングが何気に振り返ると、そこには真っ白な子ブタが立っていた。
『見つけたぜぇー!』
シロブタはレッドスラキングに飛びかかる。必死に逃げようと魔物は抵抗すると、面倒に思ったのかシロブタは大きく口を開いた。
そのままパックリと口の中へ入れ、私達の元へ近づいてきたのだった。
『ふぁふぁあー、ひゅかまへたぞー』
「何言っているのよアンタ? ったく、ちゃんと食べてからものを言いなさい!」
『ふぁべてもいひのか?』
「いいから。それで、何?」
シロブタは言われた通りにレッドスラキングを食べた。正確にはコアを噛み砕いた。途端にバフン、という音が弾け煙が口から上がる。しかし、丈夫なのかシロブタは気にした様子を見せない。
私はそれを見て、よくわからない気持ちとなる。とりあえず生き残ったんだ、という実感を持つと共に一安心する。
『スライム捕まえたぜ! でも食べちゃった』
「アンタ何してるのよ? まあいいわ、帰ったら晩ご飯よ!」
『晩ご飯? 何を作るんだ?』
「チャーハン。デザートはゼリーよ」
『よくわからないけど、いいな。早く帰って食べようぜ!』
「はいはい。あ、薬草見つけた? それがないとお金がもらえないんだけど」
『スライム探すついでに摘んでおいたぜ!』
「あら、意外とできるじゃない。じゃあ帰りましょう」
こうしてクエストは終了する。それと同時に、私達の苦労は何だったのだろうとも感じるのだった。ひとまず、無事に終わってよかった。
「えっと、こんな終わりでいいのか?」
『考えてはいけない。考えたら負けだ』
我らは冒険者の男性と共に町へ戻る。なんだか拍子抜けした終わりに、どこか納得出来ないまま帰路につくのだった。
なのでどうにかするために晩ご飯の内容を考えている主の力を借りることを私は決意した。
『冒険者よ』
「誰だ! どこにいやがる!」
『我が主の下を見よ。それが私だ』
「もしかして、この変な乗り物か? なんでこんなのが喋って――」
『いろいろと省くが、協力してくれ。どうにか生き延びたいだろうし、目的もあるのだろう?』
私が問いかけると彼は真剣な顔になる。どうやら話がわかる相手と認識してくれたのだろう。ならば話は早い。
まず手始めに戦っているレッドスラキングについての情報を渡す。普通なら勝てるような相手ではないのだが、やつにも弱点はしっかり存在する。
「なるほど、あのうっすら見えるコアが弱点か」
『そうだ。それさえ破壊してしまえば無力化できる。だが、問題は今ある武器では難しいということだ』
「確かにな。結構剣を振ったが、あのぷるんとした表面に全部攻撃が流される」
『正攻法で戦うならば、わざと攻撃させ表面の面積を減らし一撃を入れる。しかし、それは現状だととても厳しい』
「じゃあどうするんだよ。このまま逃してくれるような様子はないぞ」
『我が主に協力してもらう。それしか打開する方法はない』
「協力って、このババアが何かできるのかよ?」
「まだピチピチの五十歳よ! 晩ご飯抜きにするわよッ!」
冒険者の男性が思わず言い返そうとするが、私はそれをなだめた。あることを彼に言ってもらうために、今ここで余計な時間を取られたくないためだ。
ひとまず彼を冷静にさせ、その言葉を伝える。とても渋い顔をしたが、生き残るためだと念を押すと大きなため息をついて実行し始める。
「悪かったよ。それで、今晩はどんなご飯なんだ?」
「素直でよろしい。そうねぇ、今晩はチャーハンかしら。あ、デザートとしてゼリーもつけるわよ」
「ちゃ? なんだって?」
「チャーハンよチャーハン。マー君の大好物なのよ、これが。お父ちゃんはいっつもしょっぱいって言ってくるけどね。でもあの人優しいのよ。毎回文句言うけど全部食べてくれるわ。もうオマケしてコショウをバッサバッサかけちゃうわッ!」
「そ、そうか。それで、そのぜりーってのは?」
「ああ、それね。作り方は簡単よ。まずはこの小麦粉を用意するの」
主がポケットから紙袋で包まれた何かを出す。それには不思議な字が書かれており、私と彼は思わず互いを見つめ合う。そんなやり取りを知ったこっちゃないレッドスラキングは主に向かってまた赤い物体を飛ばした。主はそれを見ることなくどこかから取り出した鉄板で受け止めると、紙袋を破り中から出てきた粉を振り撒く。
そのまま全体が包まれるようにまぶすと、またどこかから取り出してきた皿にそれを置いた。
「これで完成ッ! 簡単でしょ」
いろいろと言いたいことがあるが、不思議なことに赤い物体は爆発しない。一体何をしたのだろうか、と気になっていると彼が進んでその疑問を聞いてくれた。
「な、なあ、何をかけたんだ?」
「何って、小麦粉よ。ほら、モチとかくっつかないようにするためにかけるでしょ? 片栗粉でもいいんだけど、まあくっつかないようにするだけだし」
冒険者の彼はもう目を丸くしていた。私も当然、思いもしない方法で爆発を封じ込めたことにただ驚く。
だが、これがいい挑発になったのかレッドスラキングは雄叫びを上げていた。怒りのままに攻撃を放ち、私達を焦土に化そうとする。
「うおっ! こいつはやべー!」
「ほら、ボサッとしてないで手伝いなさい! 今日のゼリーは大盛りよッッッ!」
どんどんと飛ばされる赤い物体。それを次々と受け止めては小麦粉をまぶし、無力化していく。山盛りとなっていく赤い物体いやゼリーを見て、私は不思議と食欲をなくしていった。
しかし、そのおかげかレッドスラキングはどんどんと小さくなっていく。気がつけば表面の面積はほとんどなくなり、コアがほぼ剥き出しの状態になっていた。
『今だ! 一撃を入れろ!』
「おー!」
私の合図を受け、彼はレッドスラキングにトドメを刺そうとする。だが、彼が突撃しようとした瞬間に主に腕を掴まれてしまった。
なんだ、何か失敗したか?
そんな心配を抱いていると主がこんなことを言い放つ。
「まだ作業は終わってないわよ。次はこれ、袋に詰めるの!」
「ハ、ハァっ?」
「美味しい状態で持っていかなきゃ食べられないでしょ? そんなこともわからないのアンタはッ!」
「状況がわかってんのかババアァァ!」
ああ、こんな時にとんでもない足止めが。まずい、レッドスラキングがどこかに逃げようとしている。どうにかトドメを刺さなければ晩ご飯どころの話ではないぞ。
憑依を解き、レッドスラキングにトドメを刺そうかと考える。レッドスラキングはというとしめしめといった感じに戦場から離れようとしていた。だが、そんな魔物の後ろに大きな影が差し込む。
レッドスラキングが何気に振り返ると、そこには真っ白な子ブタが立っていた。
『見つけたぜぇー!』
シロブタはレッドスラキングに飛びかかる。必死に逃げようと魔物は抵抗すると、面倒に思ったのかシロブタは大きく口を開いた。
そのままパックリと口の中へ入れ、私達の元へ近づいてきたのだった。
『ふぁふぁあー、ひゅかまへたぞー』
「何言っているのよアンタ? ったく、ちゃんと食べてからものを言いなさい!」
『ふぁべてもいひのか?』
「いいから。それで、何?」
シロブタは言われた通りにレッドスラキングを食べた。正確にはコアを噛み砕いた。途端にバフン、という音が弾け煙が口から上がる。しかし、丈夫なのかシロブタは気にした様子を見せない。
私はそれを見て、よくわからない気持ちとなる。とりあえず生き残ったんだ、という実感を持つと共に一安心する。
『スライム捕まえたぜ! でも食べちゃった』
「アンタ何してるのよ? まあいいわ、帰ったら晩ご飯よ!」
『晩ご飯? 何を作るんだ?』
「チャーハン。デザートはゼリーよ」
『よくわからないけど、いいな。早く帰って食べようぜ!』
「はいはい。あ、薬草見つけた? それがないとお金がもらえないんだけど」
『スライム探すついでに摘んでおいたぜ!』
「あら、意外とできるじゃない。じゃあ帰りましょう」
こうしてクエストは終了する。それと同時に、私達の苦労は何だったのだろうとも感じるのだった。ひとまず、無事に終わってよかった。
「えっと、こんな終わりでいいのか?」
『考えてはいけない。考えたら負けだ』
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