上 下
7 / 36
第1章

6:特典に大切なのは存在そのもの 後編

しおりを挟む
 冒険者ギルドに訪れた私達は、主を冒険者にするために登録作業をしていた。そんな時に若い男性が何やら騒ぎ始める。
 面倒なことにならなければいいが、と考えていると主がその男性を見つめていた。これはもしかしたら一波乱あるかもしれない。


「鑑定水晶がそう結果を出したのでそうとしか。ひ、ひとまず頑張れば星は増えますし」
「鑑定し直せ! すぐに三つ星を受けなきゃいけないんだよ!」
「そう言われましても……一度出た鑑定は直せませんし、し直すとしてもギルド規定では一年後でなければいけませんし」
「っざけんな! 時間がないんだ。すぐに行かなきゃ約束を守れないんだよ!」

 何やら大きなトラブルが起きているようだ。こういうのは関わらないほうがいい。それに私は本来、人との交流をあまり持ってはいけない存在であり積極的には関わることを許されていない。彼には悪いがここはことの成り行きを見守らせてもらおう。

「ちょっとアンタ、うるさいわよ!」

 だがそれは主が許さなかった。
 ああ、無用なトラブルは嫌なのに。

「うるさい、黙ってろ! お前には関係ないだろ!」
「だったらアンタも黙りな! 今、アタシは結構大切な説明を聞いてんだよッ」
「んだとババア!」

 男性が頭に血が昇ったのか腰に備えている剣を抜こうとし、私は咄嗟に飛んでぶつかる。男性は思いもしないことに倒れ、驚いていきながら私を見た。何が起きたのかわからない顔をする彼に主はある行動を取る。

「ねぇ、さっきの水晶を出して欲しいんだけどいいかしら?」

 彼女はまっすぐ前を向いたまま受付嬢にお願いすると、鑑定水晶が出された。
 何をするのだろうか、と考えつつ私は見守っていると彼女は思いもしない行動を取る。

「ほら、触りな。おばちゃんの分をあげるから」
「なっ! お前何を言ってんだ!」
「納得出来ないんでしょ? ならもう一回やらせてあげるわ。いいでしょ、お姉さんッ!」
「え? え、ええと、ギルド規定にはないのでなんとも――」
「なら大丈夫よ。ほら、おばちゃんの権利をあげるからやりな」

 男性は鑑定水晶を見る。一度は手を伸ばそうとするが、すぐに自分の頭を横に振った。そのまま下がり、おばちゃんにこう言い放つ。

「悪い、俺がバカだったよ。自分の都合だ。自分でどうにかしてみる」
「あら、いいの? 約束があるんでしょ?」
「同じ結果が出るよ。それにアンタの優しさに甘えてられないしな」

 男性は迷惑をかけた受付嬢に頭を下げ、どこかに去っていく。どうやら主のおかげで騒動は収まったようだ。一安心、といえばいいだろう。主もそのことがわかっているのか、去っていく男性の背中を優しく見送っていた。

「ええと、そうですね。ひとまず説明の続きをさせていただきますね」

 気を取り直した受付嬢が説明を再開すると主はそれに真剣な顔をして耳を傾け始める。ひとまず冒険者としての基本的なことを説明され、少しずつ理解している様子だった。
 私はそんな彼女から視線を外す。先ほどの騒動を収めたということもあってか、まだ主を見ている者達がいた。
 ただでさえ目立つから仕方がないかもしれないな。

「では最後に、冒険者ライセンスの説明を」
「あら、何そのカード? あ、もしかしてポイントカードかしらッ!」

「ポイント? ま、まあ似たようなものです。これは魔物を倒せばギルドポイントが加算されていきます。名前持ちなら通常の二倍、二つ名持ちなら三倍、手配書の魔物なら十倍のポイントが加算されます。あ、報酬はあらかじめ設定されていますが、状態によっては追加報酬も支払っていますので――」

「やるわ! アタシ、冒険者やるわ!」
「え? あ、あのまだ説明が――」
「ポイントカードあるならやるわよ。おばちゃん、ポイントのためなら戦場に立つわ。あ、ちなみにポイントって何と交換できるの?」
「ええと、武器や防具、冒険に役立つアイテムに、一般的なものなら食料や服も買えますけど――」

「いいじゃない便利じゃないやるじゃないッ! アタシやるわ。ポイ活始めるわ!」

 こうして主は冒険者になった。
 ちなみに鑑定水晶の鑑定結果は、星三つ。私の影響もあるが、一般の駆け出しの中ではとても高いランクだ。だからより一層、主は注目される存在になったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori
ファンタジー
転移したのはざまあ~された後にあぽ~んした王子のなか、神様ひどくない「君が気の毒だから」って転移させてくれたんだよね、今の俺も気の毒だと思う。どうせなら村人Aがよかったよ。 王子はこの世界でどのようにして幸せを掴むのか? 元28歳、財閥の御曹司の古代と中世の入り混じった異世界での物語り。 これはピカレスク小説、主人公が悪漢です。苦手な方はご注意ください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生令嬢の幸福論

はなッぱち
ファンタジー
冒険者から英雄へ出世した婚約者に婚約破棄された商家の令嬢アリシアは、一途な想いを胸に人知の及ばぬ力を使い、自身を婚約破棄に追い込んだ女に転生を果たす。 復讐と執念が世界を救うかもしれない物語。

処理中です...