上 下
18 / 22
第2章

7:西鬼さんの強さ 後編

しおりを挟む
 なんだこりゃ。
 俺達は違う場所にでも移動したのか?

 そう思っていると支部長が教えてくれる。

「これは【擬似迷宮】だ。といっても本物の迷宮と違ってとんでもなくシンプルな空間だがな。詳しいシステムはわからんが、まあお前さんの心配したことは起きんさ」
「へぇー、いろいろと応用が効きそうですね」

 そんな説明を受け、俺は感心しながら言葉を返した。
 すると支部長はさらに言葉を返してくれる。

「まだ試作段階だ。この空間を維持するには莫大の魔石がいるうえ、継続時間はもって十分。だから試験時間はいいところ十分までだな」

 支部長はそう言い、ポケットから時計を取り出した。
 手にしているのは懐中時計で、少し年季が入っていそうな代物である。

 しかし、十分か。
 長いような短いような時間だ。
 下手に時間をかけて戦えないだろうし、難しい試験になりそうだ。

「それじゃあ、そろそろプロテクターを装備してくれ。時間もないし、試験を始めるよ」
『あら、もうやるの? なら私は離れて見てるわ。頑張ってね、二人とも』

 西鬼さんに促され、バニラが遠くへ離れていく姿を見送りながら俺達はプロテクターを装備する。
 しかし、西鬼さんの武器はトンファーか。
 距離を少し取って戦えば少しぐらいプロテクターを壊すことができるかも。

 そう思いつつ、俺は服の上からプロテクターを装着する。
 軽くジャンプしたり、肩を回したりしてみるが違和感がない。
 それどころか長年愛用してきたかのようにしっかりフィットしていた。

 何気なく視線をアヤメに向けると、同じようにプロテクターを装備し、動いていた。
 どうやらアヤメもその着心地に驚いているようだった。

 これで試験を受ける準備は整った。
 あとは、昇格試験に挑むだけだ。

 そう考えていると支部長が始まりの宣言をした。

「よし、準備は整ったな。それじゃあ、ハジメ!」

 その宣言が放たれた瞬間、西鬼さんは床を蹴る。
 そのスピードはあまりにも速く、気がつけば俺の懐へ入り込んでいた。

「遅いよ、黒野くん」

 マズっ。
 俺はタクティクスを変化させる暇もなく剣身で攻撃をガードした。
 しかし、衝撃を受け止めきれるはずもなく俺はタクティクスごと後ろへぶっ飛ばされる。

〈は?〉〈は?〉〈はっ?〉〈え?〉〈!!!!???〉
〈!!!???〉〈え? 何が起きた?〉〈クソガキがぶっ飛んだ?〉
〈え? え?〉〈何が起きたんだよ〉〈一瞬すぎてわからん〉
〈ふ、ザコどもが 私には見えたよ 攻撃を受けてぶっ飛ばされる瞬間がね〉

〈マジ? 攻撃されたの?〉〈本当なのか変態紳士!〉〈うえ? 攻撃?〉
〈ああ、本当だとも あれはすごかったよ〉

 何が起きたかわからないまま俺は床を転がり、ようやく止まったところで立ち上がった。
 コメント欄が盛り上がっているようだが、俺は気にせずに西鬼さんを見る。
 すると西鬼さんは楽しそうに笑い、トンファーをクルリと一回転させながらこんな言葉を放つ。

「ほう、あれをガードしますか。反応は悪くありませんね。ですが、まだまだ対応しきれていませんね」

 思わず俺は、装備したプロテクターを反射的に見る。
 そこには一筋の大きな亀裂が入っており、それを見た俺はとても信じられない気持ちを抱いた。
 確かに攻撃を防いだはずなのに、と思っているとアヤメが叫ぶ。

「クロノくん!」
「よそ見は厳禁ですよ」

 いつの間にか西鬼さんはアヤメの近くへ走り込んでくる。
 アヤメは咄嗟に魔法弾を放ち、距離を取ろうとした。
 しかし、西鬼さんが持つトンファーでアヤメが放った魔法弾は全て受け流されてしまう。

「甘いですよ」

 西鬼さんは勢いのまま、アヤメに強烈な一撃を与えた。
 直後にアヤメの身体が宙に舞う。
 それを見たリスナー達が〈アヤメー!〉と絶叫をしていた。

「くそっ」

 俺は毒づきながらアヤメを助けるために駆ける。
 するとリスナー達のコメントがあふれ返った。

〈急げクソガキ!〉〈アヤメを助けろ!〉〈急げ急げ〉〈早く早く〉
〈光よりも早く!〉〈駆けろぉぉぉぉぉ〉〈アヤメーーーーー!〉
〈マジどうにかしろ〉〈アヤメやばい〉〈もっとスピードを〉〈とべーーー〉
〈クソガキどうにかしろーーーーー〉

 ええい、コメントが邪魔だ。
 俺はコメントから意識を外し、滑り込んで床にアヤメの身体がぶつかる前に受け止める。
 傷がないかどうか、意識があるかどうかを確認しようとするとアヤメは「いたたたっ」っと言葉を漏らした。

 どうやら意識は失っていないようだ。リスナー達もそのことに安心し、〈よかった〉とコメントをしている。
 俺もリスナー達と同じように無事を確認し、ちょっとだけ安堵しながら声をかけた。

「おい、大丈夫か?」
「う、うん。でも、プロテクターに大きなヒビが……」
「身体が大丈夫ならいいよ」
「時間も、マズいかも」

 時間か。
 俺は確認してみると、まだ一分ほどしか進んでいないことに気づく。
 あれだけの攻防をして、まだ一分しか経っていない。
 なのに、俺達のプロテクターは半壊していた。

 まだギリギリ試験終了にはなってないけど、また西鬼さんから攻撃を受けたら今度は確実に終わりだ。

「完全にやられた」
「うん。でも、ちょっとわかった」
「わかった? 何がわかったんだ?」
「西鬼さんの強さかな」

 強さか。
 確かにここまで明確にすごいとは思わなかったな。
 このままぶつかれば攻撃できずに試験終了してしまうかもしれない。

 そんなことを思っているとアヤメは思いもしないことを言い放った。

「勝つよ、クロノくん。私と一緒にね」
「え?」

 あんなに強い人に、俺達が勝つ?
 一体どうやって、と俺が聞こうとした瞬間にアヤメはこう告げた。

「西鬼さんはスキルを使ってない。だから私達がスキルを使えば勝てると思う」
「スキルを? だけど俺のスキルは――」
「大丈夫。どんなスキルでも使い方だよ。私の【詠姫】だって、ね」

 アヤメはそう言い、立ち上がる。
 俺も彼女と一緒に立ち上がり、西鬼さんを見つめた。

 いろいろとクリアしないといけない課題がある。
 全部はクリアはできないが、それでも俺達は立ち向かう。
 昇格試験に合格するために、アイテムを手に入れるためにも俺達は再び西鬼さんへ挑むのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

強制的にダンジョンに閉じ込められ配信を始めた俺、吸血鬼に進化するがエロい衝動を抑えきれない

ぐうのすけ
ファンタジー
朝起きると美人予言者が俺を訪ねて来る。 「どうも、予言者です。あなたがダンジョンで配信をしないと日本人の半分近くが死にます。さあ、行きましょう」 そして俺は黒服マッチョに両脇を抱えられて黒塗りの車に乗せられ、日本に1つしかないダンジョンに移動する。 『ダンジョン配信の義務さえ果たせばハーレムをお約束します』 『ダンジョン配信の義務さえ果たせば一生お金の心配はいりません』 「いや、それより自由をください!!」 俺は進化して力を手に入れるが、その力にはトラップがあった。 「吸血鬼、だと!バンパイア=エロだと相場は決まっている!」

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...