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★7★ しつこい貴族は嫌われている

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 面倒なことになった。
 まさか俺をパーティーから追い出した張本人である貴族と鉢合わせするとは。

「ククク、いい顔をしてるなシキ・ウォーカーよ。さぞかしマズい泥水をすすってきたみたいだな」
「リヒト、一応言っておくがお前にパーティー追放されてまだ一日も経ってないぞ」
「ハーッハッハッハッ! そんなに長く感じてたか。やはりお前を追い出して正解だった!」

 何が正解なんだよ。
 つーか、目の前で高笑いしないでくれ。
 耳がキーンってしたじゃないか。

 にしても相変わらず俺の話を聞いてないな。
 聞いたと思ったら急に笑い出すし。
 これだから俺はこいつが嫌いなんだよ。

〈シキよ、こいつはなんじゃ?〉
「一応貴族だ。名前はリヒト。最近、リンベル家を引き継いだ能なしだよ」
〈ほう。してなんで貴族がこんな所にいる?〉
「知るか。それは俺が聞きたいわ」

 俺がアルフレッドの疑問に答えているとリヒトはガツガツと音を立てながら建物の中へ入っていく。
 向かう先にはクリスと談笑しているレオナードがいた。

「レオナード嬢よ、迎えに来た!」

 唐突にリヒトはレオナードの腕を取り、無理矢理身体を引き寄せる。
 思いもしないことに目を点にするレオナードは、すぐに困ったように笑い出した。

「あー、ごめんリヒト様。アタシこういうの趣味じゃないんだ」
「遠慮しなくてもいい。そうだな、君に似合う花を忘れていたよ。そうだな、今度キレイな薔薇を贈ろう」
「花はそんなに好きじゃないんだよねー」
「なら美味しいスコーンを贈ろう。こう見えても私は料理の腕は一流だ」

 リヒトは遠回しに拒絶されていることに気づいていない。
 それどころか図太くアタックをしている。

 そんなことをされるから余計にレオナードは困った表情を浮かべていた。

 まあ、そうだよな。
 意図が伝わらないとどう伝えればいいかわからなくなるよな。

〈シキよ、あの面白いバカは本当に貴族なのか?〉
「見るなアルフレッド。目が腐る」
〈ふむ、相当嫌われているもんじゃな〉

 まあ、やることなすこと裏目に出てるからな。

 俺に関していえば、仲間である女の子を口説いてたから助けたら怒られたし、貴族のパーティーになぜか呼ばれたので行ったら大勢の前でこき下ろされそうになったし、そのパーティーで口説かれて困っている少女を助けるために殴ったらパーティー追放されたし。

 ホント何をしているんだろうか、こいつは。

 あと風の噂だがリンベル家はこいつが当主になってから一気に傾いてきてるって話を聞いたよ。
 おそらく運営能力は皆無に等しいんじゃないか?

「スコーンもいいよ。それより何をしに来たんだい? アタシこう見えても忙しいんだよ」
「おっと、それはすまない。ゆっくり茶をしながら他愛もない話を交えたかったがすぐに本題へ入ろう」
「本題って、もしかしてまた誘いに来たのかい?」
「ああ、その通りさ。君ほどの腕をフリーにしておくのは勿体ない。だから僕のパーティーの専属鍛冶師になって欲しいんだ」

「前にも言ったけど、それはしないよ。こう見えても結構顧客がいてね。食べていくのには困ってないよ。それに、専属契約したら顧客の面倒が見られなくなる。信頼を裏切ってしまうことになるからって断ったじゃないか」

「フッ、そんなこと霞むぐらいに収益を得られるさ。信頼なんてまた作ればいい」
「アンタねぇ……それが貴族様の言うことかい?」

 なるほど、あいつはレオナードを自分のために引き込みたいから交渉しているんだな。
 まあ、あの腕なら欲しいだろう。

 でもレオナードはレオナードで事情がある。
 それに言っていることが最もだ。
 だから話が平行線になってて困っているようだな。

 うーん、このまま放っておくのもなんだしな。
 仕方ない、口を挟んでやろう。

「そこまでにしておけ、リヒト」
「まだいたのか底辺冒険者!」
「いちゃ悪いのかよ。それよりあんまりしつこく勧誘するな。また嫌われるぞ」
「フッ、嫌われるだって? この完璧な僕が、嫌われるなんてことあり得ない!」

 いや、お前は完璧じゃないし。
 むしろデコボコであちこちにハリボテがあるし。

「俺はお前が大嫌いだけどな」
「無能には僕の有能さはわからないさ」
「完璧なら無能にも好かれるだろうが。まあ、それよりもとっとと出ていけ。出口はあっちだからさ」

「なぜ出ていかなければならん。それにこの話は君に関係ないだろ」
「俺もレオナードの顧客だ。お前に連れていかれたら困るんだよ」
「なら指を咥えて悔しがれ。彼女の腕は僕のために使うのが一番有効だ」

 ダメだこいつ、一向に引く気がない。
 どうする? また殴るか?
 殴ってもいいよね、こいつだから。

「ちょっとアンタ! さっきから何自分勝手なことを言ってるのよ!」

 そんなこんなで怒りの着火線に火がつき始めたその時に、クリスが割って入った。
 まあ、傍から見てても迷惑な奴だから口を出さないほうがおかしい。

「ほう、まだこんな所にイモムシがいたか」
「イモム――ちょ、ちょっとどういうことよ!」
「将来性は期待できるが、まあせいぜい蛾になるだろうな。しかし、可能性はある。投資してやろう」
「何のよ! というかアンタ普通に失礼なんだけど!」

「こう見えても目利きでね。そうだな、美しく育ったら愛人にしてやろう」
「誰がなるかー!」

 クリスは怒りのままに叫ぶ。
 まあ、さすがにイモムシはひどいと思うな。
 せめて原石と言ってやれよ。

「もういいよ。ちゃんと考えてあげるから帰ってくれ」
「ちょっと、レオナード!」
「そうね、どうせだから勝負にしようか」
「勝負?」

 言葉を聞いた俺は頭を傾げる。
 たぶん、この場を収めるためにレオナードが言い出したことだろうけど何をさせるつもりだ?

「今、アタシは新しい魔剣を作るためにワイバーンの魔石が欲しいんだ。だから、アタシが求める【ワイバーンの魔石】を一番早くに持ってきた人が勝ち。アタシはそいつの提示した条件を飲むってことさ。参加者はここにいるみんなだ。どんな手段を使ってもいいから持ってきてくれ」

「それは面白い。話に乗ろうじゃないか」
「ダメよ、レオナード! そんなことしたら――」
「なら早くワイバーンの魔石を持ってきて。そうすれば今まで通りだから」

 まあ、このしつこい男を黙らせるにはこのぐらいデカい話にしないといけないか。
 というかこの勝負、俺も強制参加じゃね?

〈燃える展開じゃ! やるぞシキ!〉
「なんでお前が燃えているんだよ。まあやるけどさ」

 こうして俺達はリヒトの手からレオナードを守るために勝負することになった。
 魔剣の礼もあるし、ここは一丁やってやるか。
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