突撃、隣の幼なじみ!?

小日向ななつ

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本編

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 春。桜が舞うぬっくぬくした季節である。
 多くの人々が新天地に向かったり心機一転したりする季節でもあり、中にはかつての居場所を名残惜しむ人もいる季節だ。

 ワクワクとドキドキ。
 期待と不安。

 出会いと別れが入り交じるそんな季節を、俺は再び迎えていた。
 ああ、春よ。今年こそ平穏であれ!

 心の中で叫ぶ。
 なぜ叫んだかって? 隣の幼なじみがいつも騒がしいからだよ。

「蓮ちゃーん!」

 唐突に叫び声が聞こえた。
 ああ、今日も来たのか。毎度のことながら元気いっぱいだな。

 俺は仕度を済ませ、カバンを片手に階段を下りる。そのまま玄関に向かうと、そこには毎日顔を合わせる幼なじみの姿があった。

「おっはよー! 今日も寝癖が直ってないね!」
「うっせぇー。朝からテンション高いお前とは違うの」
「アタシは蓮ちゃんより寝起きがいいから! ということで付き合ってください!」
「何が、ということでだよ……。何も脈絡もないし、つーか雰囲気も何もないだろ」

「フラれた! またフラれちゃったよー!」

 たはーっとなっている目の前のバカを平手で殴りたくなるのはなぜだろうか?
 とりあえず理性で怒りを抑えつけ、俺はバカを置いて歩き出した。するとバカは追いかけるようについてくる。

 まあ、目的地が同じだから一緒に登校するのは仕方がない。というかもう慣れた。
 にしても、こいつがあんな告白をするようになったのはいつ頃だっただろうか。

「しっかしー、まさか二十回もフラれるとは思ってもなかったよ。七海とってもびっくりー」
「二十回も俺に告白してたのかよ。普通三回ぐらいで諦めないか?」
「蓮ちゃんのこと大好きだもんっ。振り向いてくれるまで諦めないよー!」

 本人の前でダイレクトに言うもんだな、こいつは。まあ、悪い気はしないけど。

 にしても、どうして俺は惚れられたんだ?
 なんかカッコいいことしたっけ?

「おはようございます、お二人とも」

 考えていると麗しい声が聞こえてきた。

 振り返るとそこには篠崎さんがいる。なぜだかわからないが、庶民的な高等学校に通う俺の同級生。あ、ちなみにクラスも一緒のご令嬢だ。
 本日も爽やかな笑顔に心地いい花の香りが堪らない。サラサラな亜麻色の髪を風が撫でていき、ふわりと揺れるスカートが何とも美しく愛らしい。

 ああ、今日も俺頑張れる!

「おっはよー、渚ちゃん! 今日は歩きなんだね!」
「車が全てメンテナンスに出てしまいまして、それで。あ、七海さん。この前のクッキー、ありがとうございました。とても美味しかったです」

「ふっふーん! 七海特製のクッキーだからね。美味しいに決まってるもん! でも、蓮ちゃんには負けるかな」
「あら、蓮さんもお上手なんですか?」

「作れるだけですよ。プロに比べたら劣ります」
「そんなことないよ、蓮ちゃん! 蓮ちゃんのパンケーキは世界一美味しいんだから!」

「食べてみたいですね。よろしければ今度の休日、作っていただけませんか?」
「喜んで! 腕によりをかけますよ!」

 俺はニッコニッコしながら返事する。
 すると渚さんはとても嬉しそうに笑ってくれた。

 ああ、楽しみだ。早く休日にならないかな。

「そういえばですが、お二人はお付き合いされているのですか?」
「ブゥゥゥゥゥ! なっ、と、突然何を!」
「いえ、いつも一緒にいますので交際されているのかと思いまして」

 いや、それは俺が七海と幼なじみだからであって特に理由はないんだが……。
 ま、まあ、ここで俺らの関係性をハッキリさせるのもいいかな。

「それがねぇ、そうじゃないんだよー。アタシ、蓮ちゃんにフラれまくっててさぁ。今日で二十回目を迎えたんだ」
「な、なんということでしょう! そんなにアタックしてフラれたのですか!?」

「まあ、こいつに色気は感じないし。それにかわいげもない。そもそも俺の好みでもないですから」
「はぅっ! 心に突き刺さる!」

「蓮さん、意外と容赦がありませんね……」

 毎日顔を合わせたら告白されるから、ハッキリ示すのも優しさだと思うのです!
 ま、これで諦めてくれたら平穏な生活が送れるし、何よりこの環境を壊したくないし。
 俺は今のままでいいんだよな。

「うぅ、渚ちゃーん!」
「よしよし。ならば二十一回目は見返してあげましょう」

「え? どういうことですか?」
「七海ちゃんの想いをしっかりと受け止めてもらえるように、私がコーディネートします。今回はそうですね、蓮さんのハートを撃ち抜くためのお手伝いです!」

「で、できるの渚ちゃん?」
「できますとも! だから覚悟してください、蓮さん!」

 えぇー!?
 なんでそんなことになるんだよ!

「さぁ、行きましょう。蓮さんをギャフンと言わせるコーディネートをしますよ!」
「あいあいさー!」

 そういってバカとご令嬢は学校へ向けて駆けていった。
 何だかわからないが、妙な不安が襲いかかってくる。
 ああ、憂鬱だ……。

◆◆◆◆◆

 学校に到着すると、教室がざわついていた。
 俺は恐る恐る顔を覗かせると、渚さんの隣に見たこともない美少女が座っている。

 あれ? もしかしてあいつ七海か?
 全くの別人になってんだけど……。

「すごーい! これがお化粧なんだね!」
「はい。眉毛を整え、肌の色を明るくし、少し明るめの口紅を塗っただけですがとてもお綺麗になりましたよ」
「渚ちゃん、すごーい! こんどお化粧の仕方教えてぇー!」

 ニコニコと笑う渚さんに、七海は嬉しそうに微笑んだ。
 それは今のままの七海のものとは違う。例えるならば、あれわかんね。とにかく笑顔が似合う美少女だ。

「さあ、勝負の時です! 蓮さんに告白ですよ!」
「わかった! でもまだ来てないみたいだけど……」
「抜かりはありません」

 渚さんが軽く手を叩く。途端に俺の周りを男子高生が取り囲んだ。
 こ、こいつらまさか!

「渚様のご命令だ。連行する!」
「う、うわぁぁぁぁぁ!」

 持ち上げられ、えっちらおっちらと運ばれていく。そのまま乱暴に捨てられると、目の前に美少女となった七海がいた。
 うっ、美少女すぎて見てられない。
 俺の知る七海は、もっとちんちくりんなはずだ!

「蓮ちゃん!」
「は、はい!」

 美少女(七海)が手を握ってくる。
 俺はそれにたじろぎながら見つめ、唾を飲んだ。

「ずっと好きでした。付き合ってください」

 何度このやり取りをしただろうか。
 わからないが、断りにくい。
 それに、渚さんが笑顔で殺気を放っている。もし断れば殺されるかもしれない。

「は、はい……」

 俺は観念した。ここまでした幼なじみと、ここまでしてくれたご令嬢に負けてしまったのだ。
 喜ぶ七海と、微笑む渚さん。取り囲んでいた男子高生達に胴上げされ、本当恐い目に合った。

 何はともあれ、二十一回目の告白で俺はガッチリと捕まってしまった。
 こうして俺と七海は、お互いの人生が終わるまで一緒に過ごしたのだった。
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