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5:英雄に憧れた少年達

作戦開始のちょっと前

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 村に訪れる滅亡の未来。それを回避するためにクリス達は村の広場に来ていた。
 予知能力を持つクリスタル。それを探していると広場のど真ん中にあることに気づく。
 全員でそのクリスタルの前に移動し、見つめてみる。しかし、真っ黒に染まっているだけで情報らしい情報はなかった。

『ねぇ、クリス。さすがにこれじゃあわからないよ』
「うん、そうだね」
『そうだねって。どうやって情報を手に入れるの? このままじゃあ来た意味がないよ』
「わかってる。ちょっと準備が必要だから待ってて」

 そういってクリスはかけているメガネを取った。そのまま近くにいた飲んだくれ男ラインに渡すと、クリスタルへ近づく。
 そしてそのまま右手で触れ、数度深呼吸した後に目を閉じた。

「何する気だよ、嬢ちゃん?」
「もしかして、クリスタルを通じて未来を見るんですか?」

 ラインとフィーロが少し心配しつつクリスの様子を見る。リリアも見つめていると、彼女の身体が輝き始めた。
 薄らと、白い光を放つ。その様子を見てリリアは何をしているのか気がつく。

『二人とも、静かにして』
「え? でも明らかにおかしいですし……」
「大丈夫なのか、これ?」
『大丈夫。今クリスはお話ししてるだけだから』
「話? 話って、誰と?」
「あ、もしかして!」

 リリアの言葉を受け、フィーロが持っていたカバンから一冊の本を取り出した。それは英雄アクセルの史実を元に書き記された小説だ。
 その小説のとあるページ――英雄アクセルが予知のクリスタルに触れるエピソードがある。
 それにはアクセルがクリスタルに触れ、情報を得ている描写がされていた。エピソードを読み込んでみるとクリスタルには精霊が宿っており、それが様々なことを教えてくれるそうだ。
 それを読んだフィーロとラインは、改めてクリスへ目を向けた。

「すげぇ! もし本の通りなら精霊と話しているのかよ!」
「なんて人だ! まるで英雄みたいじゃないですか!」

 興奮する二人に、リリアは苦笑いした。魔力さえあれば宿っている何かと話すことは簡単にできることだ。しかし、二人の様子を見ると魔力を持っていないらしい。
 これでは英雄にするどころか、戦うことすらも怪しくなる。
 リリアはどうやってこんな二人を英雄に仕立てるのだろう、と疑問を抱いていると彼女の身体から放たれていた光が消えた。
 ゆっくり開かれる目がリリアを捕らえる。彼女が「どうだった?」と声をかけるとクリスはこう答えた。

「面白い神様だった。お茶会に誘われたし」
「え? 精霊じゃなくて神様だったんですか?」
「うん。土地を守護する神様だったよ」
「マジかよ! じゃあ本は間違ってるじゃねーか!」
「本?」
「そうみたいですね! これはすごい発見ですよ!」

 話についていけないクリスは頭を傾げた。そんなクリスと興奮する男子どもを見て、リリアは呆れたようなため息をこぼす。
 ひとまずクリスに助け船を出し、彼女が得た情報を聞いてみることにした。

『とりあえず、どんな話をしたの?』
「美味しい紅茶が用意してるって言われたかな。あとチョコとクッキー」
『お茶会の内容は後で聞くよ。村にどんな危険が迫るの?』
「モンスターが押し寄せてくるって。ここから北東。そこにある迷宮からやってくるって言ってた」
「モンスターが押し寄せる? もしかして、モンスタースタンピード……!」

 フィーロが小説を開き、あるページを見せる。そこには北東に生まれた迷宮からモンスターがあふれ、飛び出してきた者達が村を襲うと書かれていた。
 英雄アクセルはその迷宮を岩で塞ぎ、進行を食い止めたと書かれている。

「じゃあ、俺達も岩か何かで迷宮を塞げばいいんじゃね?」
「でも、これは一時的な処置にしかなりませんよ。根本的な解決ではないです」
『小説だし、モンスターがその程度で進攻を止めるのは考えにくいね。他の方法を取ったかもしれないし』

 三人はどうしたのだろう、と考える。そんなことを考えているとクリスがリリアを抱き上げ、こんなことを口にした。
 それは三人の頭の中になかった方法だ。

「迷宮のボスを倒すよ」
『え?』

 リリアが思わず目を丸くした。
 ラインとフィーロは驚きのあまりにも互いの顔を見つめる。
 しかし、クリスは真面目な顔を崩さない。それどころか、とても本気だ。

「ま、待ってくださいよ! もしかして、僕達だけでやるんですか?」
「無理だって! 俺は、いや俺もフィーロも足手まといだぞ!」
『クリス、さすがにアタシも無理だと思うよ。クリスレベルがそろってるなら話は別だけど』
「わかってる。このまま乗り込んでも倒すのは難しいのは。だから迷宮の外に出てきてもらう」
『出てきてもらう? どうやって?』

 リリアの問いにクリスは答える。
 それは普通では思いつかない方法であり、思いついたとしても普通実行に移さない方法だ。
 それでもその方法ならば迷宮に入らずに済む。

『でもクリス、例え成功したとしてもどうするの? クリスは動けなくなるよ?』
「リリアに頑張ってもらう。魔術は使えるでしょ?」
『まあ、一応は。でもクリスみたいに上手くは――』
「じゃあ大丈夫。二人のお守りを頼むね」

 リリアは頭を抱えたくなった。
 クリスの狙い。それをしっかり達成するためには真面目に与えられた役目を果たさなければならない。
 しばらく魔術を使ってなかったので不安であるが、やるしかない。

『わかった。頑張るから無茶しないでね』
「うん」

 こうしてクリス達は動き出す。
 頼りない二人を英雄に仕立てるための作戦が始まる。
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