38 / 41
5:英雄に憧れた少年達
作戦開始のちょっと前
しおりを挟む
村に訪れる滅亡の未来。それを回避するためにクリス達は村の広場に来ていた。
予知能力を持つクリスタル。それを探していると広場のど真ん中にあることに気づく。
全員でそのクリスタルの前に移動し、見つめてみる。しかし、真っ黒に染まっているだけで情報らしい情報はなかった。
『ねぇ、クリス。さすがにこれじゃあわからないよ』
「うん、そうだね」
『そうだねって。どうやって情報を手に入れるの? このままじゃあ来た意味がないよ』
「わかってる。ちょっと準備が必要だから待ってて」
そういってクリスはかけているメガネを取った。そのまま近くにいた飲んだくれ男ラインに渡すと、クリスタルへ近づく。
そしてそのまま右手で触れ、数度深呼吸した後に目を閉じた。
「何する気だよ、嬢ちゃん?」
「もしかして、クリスタルを通じて未来を見るんですか?」
ラインとフィーロが少し心配しつつクリスの様子を見る。リリアも見つめていると、彼女の身体が輝き始めた。
薄らと、白い光を放つ。その様子を見てリリアは何をしているのか気がつく。
『二人とも、静かにして』
「え? でも明らかにおかしいですし……」
「大丈夫なのか、これ?」
『大丈夫。今クリスはお話ししてるだけだから』
「話? 話って、誰と?」
「あ、もしかして!」
リリアの言葉を受け、フィーロが持っていたカバンから一冊の本を取り出した。それは英雄アクセルの史実を元に書き記された小説だ。
その小説のとあるページ――英雄アクセルが予知のクリスタルに触れるエピソードがある。
それにはアクセルがクリスタルに触れ、情報を得ている描写がされていた。エピソードを読み込んでみるとクリスタルには精霊が宿っており、それが様々なことを教えてくれるそうだ。
それを読んだフィーロとラインは、改めてクリスへ目を向けた。
「すげぇ! もし本の通りなら精霊と話しているのかよ!」
「なんて人だ! まるで英雄みたいじゃないですか!」
興奮する二人に、リリアは苦笑いした。魔力さえあれば宿っている何かと話すことは簡単にできることだ。しかし、二人の様子を見ると魔力を持っていないらしい。
これでは英雄にするどころか、戦うことすらも怪しくなる。
リリアはどうやってこんな二人を英雄に仕立てるのだろう、と疑問を抱いていると彼女の身体から放たれていた光が消えた。
ゆっくり開かれる目がリリアを捕らえる。彼女が「どうだった?」と声をかけるとクリスはこう答えた。
「面白い神様だった。お茶会に誘われたし」
「え? 精霊じゃなくて神様だったんですか?」
「うん。土地を守護する神様だったよ」
「マジかよ! じゃあ本は間違ってるじゃねーか!」
「本?」
「そうみたいですね! これはすごい発見ですよ!」
話についていけないクリスは頭を傾げた。そんなクリスと興奮する男子どもを見て、リリアは呆れたようなため息をこぼす。
ひとまずクリスに助け船を出し、彼女が得た情報を聞いてみることにした。
『とりあえず、どんな話をしたの?』
「美味しい紅茶が用意してるって言われたかな。あとチョコとクッキー」
『お茶会の内容は後で聞くよ。村にどんな危険が迫るの?』
「モンスターが押し寄せてくるって。ここから北東。そこにある迷宮からやってくるって言ってた」
「モンスターが押し寄せる? もしかして、モンスタースタンピード……!」
フィーロが小説を開き、あるページを見せる。そこには北東に生まれた迷宮からモンスターがあふれ、飛び出してきた者達が村を襲うと書かれていた。
英雄アクセルはその迷宮を岩で塞ぎ、進行を食い止めたと書かれている。
「じゃあ、俺達も岩か何かで迷宮を塞げばいいんじゃね?」
「でも、これは一時的な処置にしかなりませんよ。根本的な解決ではないです」
『小説だし、モンスターがその程度で進攻を止めるのは考えにくいね。他の方法を取ったかもしれないし』
三人はどうしたのだろう、と考える。そんなことを考えているとクリスがリリアを抱き上げ、こんなことを口にした。
それは三人の頭の中になかった方法だ。
「迷宮のボスを倒すよ」
『え?』
リリアが思わず目を丸くした。
ラインとフィーロは驚きのあまりにも互いの顔を見つめる。
しかし、クリスは真面目な顔を崩さない。それどころか、とても本気だ。
「ま、待ってくださいよ! もしかして、僕達だけでやるんですか?」
「無理だって! 俺は、いや俺もフィーロも足手まといだぞ!」
『クリス、さすがにアタシも無理だと思うよ。クリスレベルがそろってるなら話は別だけど』
「わかってる。このまま乗り込んでも倒すのは難しいのは。だから迷宮の外に出てきてもらう」
『出てきてもらう? どうやって?』
リリアの問いにクリスは答える。
それは普通では思いつかない方法であり、思いついたとしても普通実行に移さない方法だ。
それでもその方法ならば迷宮に入らずに済む。
『でもクリス、例え成功したとしてもどうするの? クリスは動けなくなるよ?』
「リリアに頑張ってもらう。魔術は使えるでしょ?」
『まあ、一応は。でもクリスみたいに上手くは――』
「じゃあ大丈夫。二人のお守りを頼むね」
リリアは頭を抱えたくなった。
クリスの狙い。それをしっかり達成するためには真面目に与えられた役目を果たさなければならない。
しばらく魔術を使ってなかったので不安であるが、やるしかない。
『わかった。頑張るから無茶しないでね』
「うん」
こうしてクリス達は動き出す。
頼りない二人を英雄に仕立てるための作戦が始まる。
予知能力を持つクリスタル。それを探していると広場のど真ん中にあることに気づく。
全員でそのクリスタルの前に移動し、見つめてみる。しかし、真っ黒に染まっているだけで情報らしい情報はなかった。
『ねぇ、クリス。さすがにこれじゃあわからないよ』
「うん、そうだね」
『そうだねって。どうやって情報を手に入れるの? このままじゃあ来た意味がないよ』
「わかってる。ちょっと準備が必要だから待ってて」
そういってクリスはかけているメガネを取った。そのまま近くにいた飲んだくれ男ラインに渡すと、クリスタルへ近づく。
そしてそのまま右手で触れ、数度深呼吸した後に目を閉じた。
「何する気だよ、嬢ちゃん?」
「もしかして、クリスタルを通じて未来を見るんですか?」
ラインとフィーロが少し心配しつつクリスの様子を見る。リリアも見つめていると、彼女の身体が輝き始めた。
薄らと、白い光を放つ。その様子を見てリリアは何をしているのか気がつく。
『二人とも、静かにして』
「え? でも明らかにおかしいですし……」
「大丈夫なのか、これ?」
『大丈夫。今クリスはお話ししてるだけだから』
「話? 話って、誰と?」
「あ、もしかして!」
リリアの言葉を受け、フィーロが持っていたカバンから一冊の本を取り出した。それは英雄アクセルの史実を元に書き記された小説だ。
その小説のとあるページ――英雄アクセルが予知のクリスタルに触れるエピソードがある。
それにはアクセルがクリスタルに触れ、情報を得ている描写がされていた。エピソードを読み込んでみるとクリスタルには精霊が宿っており、それが様々なことを教えてくれるそうだ。
それを読んだフィーロとラインは、改めてクリスへ目を向けた。
「すげぇ! もし本の通りなら精霊と話しているのかよ!」
「なんて人だ! まるで英雄みたいじゃないですか!」
興奮する二人に、リリアは苦笑いした。魔力さえあれば宿っている何かと話すことは簡単にできることだ。しかし、二人の様子を見ると魔力を持っていないらしい。
これでは英雄にするどころか、戦うことすらも怪しくなる。
リリアはどうやってこんな二人を英雄に仕立てるのだろう、と疑問を抱いていると彼女の身体から放たれていた光が消えた。
ゆっくり開かれる目がリリアを捕らえる。彼女が「どうだった?」と声をかけるとクリスはこう答えた。
「面白い神様だった。お茶会に誘われたし」
「え? 精霊じゃなくて神様だったんですか?」
「うん。土地を守護する神様だったよ」
「マジかよ! じゃあ本は間違ってるじゃねーか!」
「本?」
「そうみたいですね! これはすごい発見ですよ!」
話についていけないクリスは頭を傾げた。そんなクリスと興奮する男子どもを見て、リリアは呆れたようなため息をこぼす。
ひとまずクリスに助け船を出し、彼女が得た情報を聞いてみることにした。
『とりあえず、どんな話をしたの?』
「美味しい紅茶が用意してるって言われたかな。あとチョコとクッキー」
『お茶会の内容は後で聞くよ。村にどんな危険が迫るの?』
「モンスターが押し寄せてくるって。ここから北東。そこにある迷宮からやってくるって言ってた」
「モンスターが押し寄せる? もしかして、モンスタースタンピード……!」
フィーロが小説を開き、あるページを見せる。そこには北東に生まれた迷宮からモンスターがあふれ、飛び出してきた者達が村を襲うと書かれていた。
英雄アクセルはその迷宮を岩で塞ぎ、進行を食い止めたと書かれている。
「じゃあ、俺達も岩か何かで迷宮を塞げばいいんじゃね?」
「でも、これは一時的な処置にしかなりませんよ。根本的な解決ではないです」
『小説だし、モンスターがその程度で進攻を止めるのは考えにくいね。他の方法を取ったかもしれないし』
三人はどうしたのだろう、と考える。そんなことを考えているとクリスがリリアを抱き上げ、こんなことを口にした。
それは三人の頭の中になかった方法だ。
「迷宮のボスを倒すよ」
『え?』
リリアが思わず目を丸くした。
ラインとフィーロは驚きのあまりにも互いの顔を見つめる。
しかし、クリスは真面目な顔を崩さない。それどころか、とても本気だ。
「ま、待ってくださいよ! もしかして、僕達だけでやるんですか?」
「無理だって! 俺は、いや俺もフィーロも足手まといだぞ!」
『クリス、さすがにアタシも無理だと思うよ。クリスレベルがそろってるなら話は別だけど』
「わかってる。このまま乗り込んでも倒すのは難しいのは。だから迷宮の外に出てきてもらう」
『出てきてもらう? どうやって?』
リリアの問いにクリスは答える。
それは普通では思いつかない方法であり、思いついたとしても普通実行に移さない方法だ。
それでもその方法ならば迷宮に入らずに済む。
『でもクリス、例え成功したとしてもどうするの? クリスは動けなくなるよ?』
「リリアに頑張ってもらう。魔術は使えるでしょ?」
『まあ、一応は。でもクリスみたいに上手くは――』
「じゃあ大丈夫。二人のお守りを頼むね」
リリアは頭を抱えたくなった。
クリスの狙い。それをしっかり達成するためには真面目に与えられた役目を果たさなければならない。
しばらく魔術を使ってなかったので不安であるが、やるしかない。
『わかった。頑張るから無茶しないでね』
「うん」
こうしてクリス達は動き出す。
頼りない二人を英雄に仕立てるための作戦が始まる。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる