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第1章
27:ひとときの休息
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「きゃーっ! かわいー!」
「何これチョーかわいー!」
それはカナエだけの悲鳴だけではなく、というかよく聞くと二人の黄色い声が頻繁に上がっており、さらによくよく聞くと歓喜しているようにも感じられた。
走っている間に違和感を覚え、それがだんだんに確信になっていく中で楽しげに騒いでいる二人の姿を見つけると俺はちょっとだけ頭を抱えてしまう。
なんせ俺の目に入ってきたのは小さなグレン二号を抱きしめ騒いでいるカナエと七海の姿だったからだ。
『うわァー! なにするダー!』
ちっちゃいグレン二号はカナエと七海にもみくちゃにされ、泣きそうになりながら大声を上げていた。俺達の道案内をしてくれるグレン二号より一回り、いや二回りも小さなそいつはカナエの腕の中から必死に抜け出そうとしている。
まあ、見た目通りにかなり力が弱いみたいで逃げられないようだけど。しかし、なんであんな小さい奴がいるんだ。というかあれ迷宮の住民だよな。たぶん。
「あ、明志君! 見て見て、かわいいの捕まえたよぉー!」
「おかえりー! これ飼っていい? すっごくかわいいんだけどー」
『はなせェー! ボクをはなせェー!』
「あーっと、元気で何よりだよ」
お前らの黄色い声を悲鳴と勘違いしてこっちに来た俺がバカだったよ。
俺はガックリと肩を落とし、頭を抱える。二人はそんな俺を見てキョトンした顔をしていたが、なんだか怒る気になれなかった。
まあ、二人とも無事でよかったと思おう。
それにしてもこのちっちゃいグレン二号は本当に何なんだ? もしかしてあいつの家族か?
迷宮村じゃあ見なかったけど、もしかして働きに出ていたとかそういうのかな。
『何しているんだお前ラ?』
そんなこんな考えているとグレン二号が声をかけてきた。布で巻かれた何かを抱えており、おそらくそれは先ほど倒したメモリアから出てきた探索者の亡骸だと俺は気づく。
ちゃんと弔ってくれるんだなって思っているとちっちゃいあいつが助けを求めるように大声を上げた。
『にいちゃんたすけてェー!』
『三号! お前なんでここにいるんダ!』
『迷宮のいちばんおくにいくってきいたから、ついてきた!』
『お前なァー……遊びにいくんじゃないゾ』
『ボクみたいのあル! だからつれてっテ!』
『帰るにも時間がかかるカ。迷惑かけるなヨ、三号』
『うン! ありがとうにいちゃんッ!』
なんかよくわからないが話がまとまったようだ。ということはこのちっちゃいグレン二号、いやもとい三号を最深部に連れていくってことか。
いやいやいや、結構なトラブルが起きている状態でそれは厳しくないか?
『心配するナ。ちょうど人手が欲しかったところダ』
「いや、人手って言っても幼いじゃないか」
『ああ見えても手際がいい。それに最終エリアにいくにはボクだけの力だとキツかったところがあル』
「そうなのか? じゃあアニキを連れてくればよかったじゃんか」
『アニキはああ見ても守り人ダ。村の守りには必要な人材でもあル。それに運がよければボク一人でどうにかできタ』
「よければって、悪かったらどうしてたんだよ?」
『かなり苦労するか、村に戻って協力者を探すかしていたナ』
なんだよその二度手間は。というか運の良し悪しで最深部に入れるかどうかも変わるのかよ。
『普通のルートではないからナ。ここから一日かかる道のりを十分で行けるルートダ』
「そりゃすごい。っで、運の良し悪しが関わるのか」
『そうダ。まあ詳しい話は後でしようカ』
「後でって、すぐには行かないのかよ?」
『行ってもいいが、そんな元気があるのカ?』
グレン二号はそういってカナエ達に顔を向けた。顔には出してないが、服はボロボロで手や足は擦り傷や切り傷、打撲など大から小まで様々なケガがある。
迷宮探索していれば避けられない戦いやトラップなどあるが、確かにこのまま突撃してしまったら確実に命を落とすだろう。
俺はグレン二号に言われ、改めて自分達の現状を確認した。
うん、このままだと死ぬな。
『ここからすぐそこと言える場所に休息できるポイントがあル。そこでしばらく身体を休めようカ』
「ありがとよ。でもいいのか? 時間がないんだろ?」
『切羽は詰まっているがここでお前達に倒れられたら同じぐらい困ル』
「そりゃどうも。心配されて嬉しいよ」
『ああ、心配してやるとモ。ボクの代わりを務めてもらうからナ』
「……どういうことだそりゃ?」
なんだか含みがある言葉だ。こいつは俺達に一体何をさせる気なんだ?
『心配するな。ボクはあくまで道先案内人ダ。だから変なことはしないサ』
「まあ信じるけどよ」
『この迷宮の命運をお前達に託すだけダ』
「急に重たいことを言うな」
『できなければ一緒に死ぬ運命ダ』
「……いいのかよ。俺達は部外者だぞ?」
『信じられなければ一緒に行動してないサ』
いつの間にそこまで信頼される存在になったんだ俺達は。
俺はどう答えたらいいかわからず黙り込んでいると、グレン二号が促すようにこう言い放った。
『そろそろ行こうカ。少しで身体を休めたいだロ?』
俺は進み出したグレン二号の背中を追いかける。グレン三号と遊んでいたカナエ達はというと、歩き始めた俺達に気づき追いかけてきた。
こうして俺達はグレン二号の案内で休憩ポイントへ向かう。そこにはこの迷宮では見なかった建物と施設があり、驚くこととなる。
◆◆◆◆◆
休憩ポイントとして辿り着いたその場所には、簡素的な作りをしたテントがあった。中に入るとベッドが二つあり、調理ができるスペースがあり、確かに休憩するには十分すぎる設備だ。
もしかしたらここに訪れた探索者が作ったテントかな。そう思っているとカナエ達がベッドへダイブし始めた。
「きゃーっ、ふかふかだぁー!」
「気持ちいー!」
「お前らなー……」
気持ちよさそうに身体をゴロゴロさせている二人を見て、まあいいかって俺は思うことにした。疲れているんだろうし、このくらいは許してもいいだろう。
そう考えながら俺はテントの外へ出た。一応、ここに近づいてきたモンスターを追い払わないといけないから見守り番をしないとな。そう思って来たんだが、先にグレン二号が火の番をしていた。
『休まなくていいのカ?』
「ああ、だいぶ回復したからな」
『探索者のスキルカ。便利でいいナ』
「俺一人じゃあ死んでたよ」
『そうカ。いい仲間に巡り会えたな』
「ああ」
グレン二号に言われた通りいい仲間に巡り会えたと思える。カナエがいなかったらどうやっていたかわからないのは確かだしな。
「それよりお前の代わりを俺達が務めるってどういうことだよ? 一緒に行かないのか?」
『そうダ。代わりにお前達に頑張ってもらウ。ああ、弟も行くナ。わからなくなったら聞いてくレ』
「放り投げてくれるもんだ。お前は何するんだよ?」
『扉を開ク。帰ってくるまでずっとナ』
俺はそれ以上のことは聞かなかった。おそらくその行為がとんでもない命懸けなんだろうって思ったからだ。
どれほど危険なことなのかわからないが、聞かないでおく。余計な心配しても仕方がないし、されたくもないだろうからな。
だから俺は、心配する代わりにこう答えた。
「すぐに終わらせて帰ってくるよ」
グレン二号は何も答えない。何を思っているのか、どんなことを考えているのかもわからないが、たぶんそれでいいだろう。
俺には俺のやることがある。こいつにはこいつのやらなければならないことがあるから、それぞれの役目を果たすだけだ。
休憩が終われば決戦が始まる。
俺はそう考え、グレン二号と一緒に見守りと火の番をするのだった。
「何これチョーかわいー!」
それはカナエだけの悲鳴だけではなく、というかよく聞くと二人の黄色い声が頻繁に上がっており、さらによくよく聞くと歓喜しているようにも感じられた。
走っている間に違和感を覚え、それがだんだんに確信になっていく中で楽しげに騒いでいる二人の姿を見つけると俺はちょっとだけ頭を抱えてしまう。
なんせ俺の目に入ってきたのは小さなグレン二号を抱きしめ騒いでいるカナエと七海の姿だったからだ。
『うわァー! なにするダー!』
ちっちゃいグレン二号はカナエと七海にもみくちゃにされ、泣きそうになりながら大声を上げていた。俺達の道案内をしてくれるグレン二号より一回り、いや二回りも小さなそいつはカナエの腕の中から必死に抜け出そうとしている。
まあ、見た目通りにかなり力が弱いみたいで逃げられないようだけど。しかし、なんであんな小さい奴がいるんだ。というかあれ迷宮の住民だよな。たぶん。
「あ、明志君! 見て見て、かわいいの捕まえたよぉー!」
「おかえりー! これ飼っていい? すっごくかわいいんだけどー」
『はなせェー! ボクをはなせェー!』
「あーっと、元気で何よりだよ」
お前らの黄色い声を悲鳴と勘違いしてこっちに来た俺がバカだったよ。
俺はガックリと肩を落とし、頭を抱える。二人はそんな俺を見てキョトンした顔をしていたが、なんだか怒る気になれなかった。
まあ、二人とも無事でよかったと思おう。
それにしてもこのちっちゃいグレン二号は本当に何なんだ? もしかしてあいつの家族か?
迷宮村じゃあ見なかったけど、もしかして働きに出ていたとかそういうのかな。
『何しているんだお前ラ?』
そんなこんな考えているとグレン二号が声をかけてきた。布で巻かれた何かを抱えており、おそらくそれは先ほど倒したメモリアから出てきた探索者の亡骸だと俺は気づく。
ちゃんと弔ってくれるんだなって思っているとちっちゃいあいつが助けを求めるように大声を上げた。
『にいちゃんたすけてェー!』
『三号! お前なんでここにいるんダ!』
『迷宮のいちばんおくにいくってきいたから、ついてきた!』
『お前なァー……遊びにいくんじゃないゾ』
『ボクみたいのあル! だからつれてっテ!』
『帰るにも時間がかかるカ。迷惑かけるなヨ、三号』
『うン! ありがとうにいちゃんッ!』
なんかよくわからないが話がまとまったようだ。ということはこのちっちゃいグレン二号、いやもとい三号を最深部に連れていくってことか。
いやいやいや、結構なトラブルが起きている状態でそれは厳しくないか?
『心配するナ。ちょうど人手が欲しかったところダ』
「いや、人手って言っても幼いじゃないか」
『ああ見えても手際がいい。それに最終エリアにいくにはボクだけの力だとキツかったところがあル』
「そうなのか? じゃあアニキを連れてくればよかったじゃんか」
『アニキはああ見ても守り人ダ。村の守りには必要な人材でもあル。それに運がよければボク一人でどうにかできタ』
「よければって、悪かったらどうしてたんだよ?」
『かなり苦労するか、村に戻って協力者を探すかしていたナ』
なんだよその二度手間は。というか運の良し悪しで最深部に入れるかどうかも変わるのかよ。
『普通のルートではないからナ。ここから一日かかる道のりを十分で行けるルートダ』
「そりゃすごい。っで、運の良し悪しが関わるのか」
『そうダ。まあ詳しい話は後でしようカ』
「後でって、すぐには行かないのかよ?」
『行ってもいいが、そんな元気があるのカ?』
グレン二号はそういってカナエ達に顔を向けた。顔には出してないが、服はボロボロで手や足は擦り傷や切り傷、打撲など大から小まで様々なケガがある。
迷宮探索していれば避けられない戦いやトラップなどあるが、確かにこのまま突撃してしまったら確実に命を落とすだろう。
俺はグレン二号に言われ、改めて自分達の現状を確認した。
うん、このままだと死ぬな。
『ここからすぐそこと言える場所に休息できるポイントがあル。そこでしばらく身体を休めようカ』
「ありがとよ。でもいいのか? 時間がないんだろ?」
『切羽は詰まっているがここでお前達に倒れられたら同じぐらい困ル』
「そりゃどうも。心配されて嬉しいよ」
『ああ、心配してやるとモ。ボクの代わりを務めてもらうからナ』
「……どういうことだそりゃ?」
なんだか含みがある言葉だ。こいつは俺達に一体何をさせる気なんだ?
『心配するな。ボクはあくまで道先案内人ダ。だから変なことはしないサ』
「まあ信じるけどよ」
『この迷宮の命運をお前達に託すだけダ』
「急に重たいことを言うな」
『できなければ一緒に死ぬ運命ダ』
「……いいのかよ。俺達は部外者だぞ?」
『信じられなければ一緒に行動してないサ』
いつの間にそこまで信頼される存在になったんだ俺達は。
俺はどう答えたらいいかわからず黙り込んでいると、グレン二号が促すようにこう言い放った。
『そろそろ行こうカ。少しで身体を休めたいだロ?』
俺は進み出したグレン二号の背中を追いかける。グレン三号と遊んでいたカナエ達はというと、歩き始めた俺達に気づき追いかけてきた。
こうして俺達はグレン二号の案内で休憩ポイントへ向かう。そこにはこの迷宮では見なかった建物と施設があり、驚くこととなる。
◆◆◆◆◆
休憩ポイントとして辿り着いたその場所には、簡素的な作りをしたテントがあった。中に入るとベッドが二つあり、調理ができるスペースがあり、確かに休憩するには十分すぎる設備だ。
もしかしたらここに訪れた探索者が作ったテントかな。そう思っているとカナエ達がベッドへダイブし始めた。
「きゃーっ、ふかふかだぁー!」
「気持ちいー!」
「お前らなー……」
気持ちよさそうに身体をゴロゴロさせている二人を見て、まあいいかって俺は思うことにした。疲れているんだろうし、このくらいは許してもいいだろう。
そう考えながら俺はテントの外へ出た。一応、ここに近づいてきたモンスターを追い払わないといけないから見守り番をしないとな。そう思って来たんだが、先にグレン二号が火の番をしていた。
『休まなくていいのカ?』
「ああ、だいぶ回復したからな」
『探索者のスキルカ。便利でいいナ』
「俺一人じゃあ死んでたよ」
『そうカ。いい仲間に巡り会えたな』
「ああ」
グレン二号に言われた通りいい仲間に巡り会えたと思える。カナエがいなかったらどうやっていたかわからないのは確かだしな。
「それよりお前の代わりを俺達が務めるってどういうことだよ? 一緒に行かないのか?」
『そうダ。代わりにお前達に頑張ってもらウ。ああ、弟も行くナ。わからなくなったら聞いてくレ』
「放り投げてくれるもんだ。お前は何するんだよ?」
『扉を開ク。帰ってくるまでずっとナ』
俺はそれ以上のことは聞かなかった。おそらくその行為がとんでもない命懸けなんだろうって思ったからだ。
どれほど危険なことなのかわからないが、聞かないでおく。余計な心配しても仕方がないし、されたくもないだろうからな。
だから俺は、心配する代わりにこう答えた。
「すぐに終わらせて帰ってくるよ」
グレン二号は何も答えない。何を思っているのか、どんなことを考えているのかもわからないが、たぶんそれでいいだろう。
俺には俺のやることがある。こいつにはこいつのやらなければならないことがあるから、それぞれの役目を果たすだけだ。
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