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第1章

24:揺るぎない信念の進む先

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 俺を見下す巨大なタコの姿になったメモリアが空気が張り裂けそうになるような咆哮を上げる。あまりにも大きな雄叫びは俺の鼓膜を破ろうと暴れ、そのためか若干足が止まった。そんな俺を見たメモリアは狙いを定め、四本の足を力強く地面に叩きつける。
 咄嗟に俺はその攻撃を前に飛び込んで躱し、すぐにメモリアの懐へ入って迎撃を始めた。だが、大きなダメージのためか思うように身体が動かない。動けば動くほど痛みが体中に走り、そのせいで立ち上がろうとした俺はバランスを崩し、盛大にコケてしまった。

 爆裂ゴーストの爆発は軽減した。にも関わらずとんでもないダメージが身体にある。
 これは本当にヤバいかもしれない。

「くそったれがッ」

 思わず自分に反吐が出た。仲原さんに学び、いろいろと心得ているつもりだったが、いざ本当の窮地に追い詰められるとかなりキツい。本当に死ぬかも、と思っている時点で自分がどんなに危険な状態なのかわかる。
 このまま殺されてしまえば何も感じなくなるだろうな、って思っちゃうほどとんでもなく苦しい。

 だけど、俺はそんな負の感情を振り払う。楽にはなるだろうけどこんなことで死にたくない。俺はまだまだやりたいことがあるし、それに翠の病気を治していないんだ。
 このまま死んだらあいつが悲しむ。あいつを一人になんてできない。

 だから俺はまだ死ぬ訳にはいかないんだ。

「GAGAGAGAGAGAGAGAッッッッッ」

 メモリアはフラフラの俺を見て奇妙な奇声を上げている。この感じ、もしかしたら笑っているのかもしれない。
 ああ、そうだ。あいつから見たら滑稽なんだろう。死にかけているのに、無駄な抵抗をして生き延びようとしている。

 俺だって情けない姿をしていると思っているよ。でも、だからといってこのまま俺は死ぬつもりなんてない。
 何がなんでもお前を倒して生き延びる。絶対にな。

「GAAAAAAAAAAAAAッッッ」

 睨みつけたことが気に入らなかったのか、メモリアは急に怒り始めた。全身を覆っているモザイクみたいな光が激しく輝くと、再びメモリアは空気を切り裂く咆哮を上げる。
 メモリアは八本の足を強く地面を叩きつけると、あまりにも大きな身体が宙を待った。空中へ移動したメモリアは俺を睨みつけた後、頭にピラミッドみたいなオブジェを出現させる。そして俺にオブジェごと頭を向けると、今度は壁を出現させ力の限り蹴った。

 恐ろしく速い突撃。わかりやすく表現するなら、ミサイルが俺に向かってきている感覚だ。
 そんな突撃を今の俺は回避する術を持っていない。どうすることもできないで訪れるべき結末を受け入れるしかなかった。

「グリード!」
「GYEEEEEEEEEEEEEEッッッッッ」

 終わるはずだった俺の運命だけど、終わることはなかった。
 グリードが俺の前に立ち、エレキギターを掻き鳴らし爆音を放つ。するとその音に弾かれたのかメモリアの軌道が逸れる。
 思いもしないことに俺は目を見開き、まさか、と思いつつも振り返るとそこには息を切らしながら膝に手をついて立っているカナエの姿があった。

「カナエ!」

 よかった、生きてた。
 俺の胸に安心感が生まれるが、すぐに違う感情が湧き出る。それはカナエを守らないといけないという焦燥感だ。

 この状態で守り切るなんて無理に近いが、それでも俺は一人で逃げるなんてしたくない。だからカナエを守るために無理を通すしか方法がなかった。

「明志、ここは逃げるよ。このままじゃあ全滅――」
「できるかよっ。誰かが足止めしなきゃ、どのみち全滅だ」
「それでも逃げる! じゃないと明志を助けにきた意味がない!」
「……俺が足止めをする。その間に逃げろ」

「明志!」
「死ぬ気はねぇよ。だから信じてくれ」

 死ぬ気はない。でも生き延びられないかもしれない。
 死にたくはない。それでも俺はカナエを失いたくない。
 死んでしまうかもしれない。そう感じているけども俺はカナエを守りたい。

 俺は、一つの選択をする。彼女を守るために命を懸けるという選択だ。
 もしかしたら運良く生き延びるかもしれない。その時は、翠にこの出来事を笑い話として聞かせてやろう。

 そんなことを思っていると、攻撃を外したメモリアが咆哮を上げた。

「GAAAAAAAAAAAAAッッッッッ!!!!!」

 モザイクのように霞む光が周囲に撒き散らされる。その光が機械的な大地に触れた瞬間、奇妙な輝きを放つモンスターが出現した。
 ゴブリン、スライム、オークにオーガ、コボルトに挙句の果てにはデーモンと様々な存在だ。どれもが俺達を睨みつけ、明確な敵意を向けると一斉に雄叫びを上げる。

 モンスターの大合唱といえばいいだろうか。いや、もはやうるさいとしか感じないからとんでもなく大きな不協和音と表現しよう。
 そのどれもが俺達を見て、今か今かと飛びかかる機会をうかがっていた。

「GYEEEEEEEEEEEEEEEッッッッッ!!!!!」

 それを邪魔するかのようにグリードが叫び、エレキギターを掻き鳴らす。モンスターの注意は一気にグリードへ向かい、躊躇うことなく一斉に飛びかかる。
 グリードは爆音を放ち、飛びかかってくるモンスターを蹴散らしまくった。だけどすぐにそれは時間の問題だと俺は感じてしまう。

「グリード、待ってろ!」
「ダメ! 明志は動いちゃダメ!」
「今どうにかしなきゃヤバいんだよっ」
「そんな身体で何ができるの? 先に死んじゃう!」

「どうにかするよ!」

 俺は止めようとするカナエの手を振り払おうとした。だが、その瞬間に一つの光景が目に浮かぶ。
 見たこともない景色。銀世界、といえばいいんだろうか。雪で覆われた世界の真ん中に一人の女の子が立っていた。その子は泣きじゃくっており、そんな姿を見る誰かが困った表情を浮かべている。

『やだよぉー。いかないでよぉぉ』
『ごめんな。これも仕事なんだ』
『しごとなんてしらない。もっといっしょにいてよ』
『そう言われてもなぁー……そうだ、今度時間ができたら遊ぼうぜ』

『こんどっていつ?』
『あっ。そうだな、お前が俺を見つけた時かな』
『みつけたとき? もしかしてかくれんぼ?』
『ああ、そうだ。お前が俺を見つけた時、また一緒に遊ぶ。いいだろ?』

『うん! ぜったいにみつけるから。だからあそぼっ』
『ああ、約束だ。絶対に俺を見つけてみろよ』

 女の子と一人の男性が指切りをする。絶対に遊ぼうという約束を交わすとそこで頭に流れ込んできた光景は消えた。

 今のは何だったんだ? まるで誰かの思い出を見たような気がした。
 まさかさっきのは、カナエの――

「明志!」

 カナエの叫び声を聞き、俺は咄嗟に前を見た。そこには一つの大きなキノコがある。ゆっくりとカサを膨らませると途端に一気に開き、胞子を散らばらせた。
 俺は動けない。何が起きたか理解できず、動くことができなかった。カナエが何かを叫んでいるけど、何を叫んでいるのかわからないほど混乱している。

 そもそも俺は何をしていたんだ。俺はどうしてここにいるんだ。
 そういえば俺はなんでここに来たんだ。ここってどこだっけ?

 あれ、俺は一体何をしたかったんだ?
 俺は、おれは、おれは?




◆◆Side:光城カナエ◆◆

「明志! しっかりして明志!」

 マズい! 本当にヤバい!
 明志が毒ポックリダゲの胞子を吸い込んじゃった。このままだと明志はどうやって死んだのかわからないまま死んじゃう!

「GAAAAAAAAAAAAAッッッッッ」

 メモリアが暴れてる。本格的に明志を、ううん私達を殺すために攻撃を仕掛けようとしている。このままじゃあ私も一緒に死んじゃうかも。

「そんなことさせない」

 明志は死なせない。絶対に死なせない。
 私も死なない。絶対に死なない。あの人との約束を果たすまで死ねないから、だからあれを倒す。

「今ならできるかも」

 あの人と明志は似ている。ビックリするぐらいおひとよしで、強くて危なっかしくて、ちょっと照れながら笑う顔も似てた。あの人かも、って思うほど似てるから、だから絶対に助ける。

 あの時できなかったことを、今するんだ。

「グリードッ」
「GYEEEEEEEEEEEEEEEッッッ」

 私の呼びかけにグリードは応える。襲いかかってきていたモンスターを蹴散らし、私の隣に立った。
 それを確認して私は探索者コインを握る。できるだけいいのが出て欲しいって願いつつ、私は宣言した。

「行くよグリード! 今回もみんなに見てもらえないけど、思いっきり盛り上げて!」
「GYEEEEEEEEEEEEEEEッッッッッ!!!!!」

 私は明志を助けるために【覚醒スキル:レベル2】を発動させ、まだみんなには見てもらえない次なるステージを駆け上りその頂でメモリアと対峙する。

 明志を守るために、あの人との約束を果たすために私の願いをコインに託す――
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