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第1章
23:信念に立ち塞がる歪んだ正義〈Side:光城カナエ〉
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「グリード!」
明志がスキルを使って爆裂ゴーストを何重にも影を重ねたにも関わらず、閃光が目に飛び込んでくる。私は咄嗟にグリードを呼び出し、それを防ごうとした。
私の意図に応え、グリードはギターを掻き鳴らす。彼のスキル〈爆音領域〉が発動し、それが私の身体を守ろうとするが光は容赦なくその防御を突き破った。そう、明志が軽減してくれたにも関わらず光は進撃を止めなかったんだ。
どうしようもない事態。防御は破られ、回避も不可能。
そんな状況で、グリードが機転を利かせてくれた。
「GYUEEEEEEEEEEEEEE!!!」
足元にある固い地面に爆音を響かせると弾けるかのようにそこは割れ、穴ができる。私はグリードと一緒にその穴へ落ちると、闇が目に広がった。光が通り過ぎたことに気づいたのは少し遅れて響いた音を聞いてからだ。
穴の外はどんなことになったのか。少し安心した後、すぐにそんな疑問が頭に浮かんだ。グリードに手伝ってもらい、どうにか地上に出ると私はとんでもない光景を目にする。
大きな、あまりにも大きなタコと対峙する明志の姿があった。
タコは八本の足をウネウネとさせながら明志を睨みつけ、襲うタイミングを見計らっているように見える。
このままだと明志が危ないのは明白。助けなきゃ!
そんな思いで頭がいっぱいになりかけた時、誰かが私に声をかけてきた。
「そっちばかり見てていいっすか?」
思わず私は振り返る。するとそこにはボロボロの姿になった伊乃里さんの姿があった。
私は思わず「伊乃里さん!」と叫んで駆け寄る。彼女がフラフラしながら私に向かってくるが、歩く力が残っていないのかすぐに倒れ込んでしまった。その姿に私はさらに焦りを抱く。
伊乃里さんを助けなきゃ。そう思ってリスナーに呼びかけようとし、あることに気づいた。
「ドローンがないっ」
慌てて配信用ドローンを探すと先ほど起きた爆発のせいか、全てのドローンがガラクタと化していた。
強烈な爆発。それはドローンなんかじゃ耐えられるはずのない攻撃力を持っていた。ドローンを失った私は、すぐに伊乃里さんを助ける方法がないことに気がつく。みんなに頼りたくても頼れない。そんな窮地にさらなる追い打ちがやってくる。
「困ってるっすね。ま、迷宮で配信する神経がおかしいと俺は思うっすけど」
また男の人の声が聞こえた。私は咄嗟に声がしたほうに顔を向けると、そこには一人の男性が立っている。
ボサボサした茶髪に、目の下にあるひどい隈。見た感じヒョロっとしてそうな線の細い身体をしてて私でも勝てそうな感じがする人だ。
来ている服は真っ黒なスーツなんだけど、若干着崩していてどこか悪ぶっているようにも見える。口にはピアスがあり、たぶん数年前に存在した不良って分類の人だろう。
そんな不良が伊乃里さんの髪を掴み、無理矢理に彼女を立ち上がらせた。
「いやいや、さすが監査役。全然隙を見せてくれなかったっすから困ってたっすよ。軽減させたとはいえ爆裂ゴーストの攻撃を完璧に防いだのには度肝を抜いたっす」
「あ、んた……」
「ま、ちょっとした意識の逸れをしてくれたから助かったっす。いい感じにアンタを弱らせることができたし、こうして光城カナエと話しができたっすからね」
不良は笑う。まるでこうなることが当然だといっているかのように。
私はどうするべきか考えながら睨みつける。グリードは奇声を上げて威嚇しているが、不良は楽しげな笑顔を浮かべているだけで効果がない。
「なかなかにうるさいっすね。ま、負け犬の遠吠えってやつっすな」
「GYEEEEEEEEEEEEEEEッッッ!!!!!」
「あーあー、うるさい。ま、すぐに黙らせてやるっすよ」
不良はそんな言葉を口にした後、一本のナイフを右手に持った。そしてその刃を伊乃里さんの首元に添える。
まさかこの人、伊乃里さんを殺す気?!
「俺の要求は二つ。一つは黙って帰ること。もう一つは二度と迷宮配信をしないこと」
「そんなの――」
「いいっすよ。要求を飲まなくても。その時はこいつが死んで、アンタも死ぬだけっすから」
不良の目がギラつく。本気で伊乃里さんを殺すつもりで、その後に私を殺す気のようだ。
その鋭い殺気は私の背中に寒気を感じさせるのに十分な威圧だった。知らず知らずのうちに足が震え、呼吸が乱れ立っていられなくなる。
相手は本気。実力はたぶん圧倒的に上。そもそも伊乃里さんを倒す相手だ。私が戦ったところで勝てるはずがない。
どうしようもない。どうすることもできない。なら言う通りにして諦めたほうがいい。
そんな言い訳をしそうになった瞬間だった。
「しっかりしろ、光城カナエ! そんなんじゃあ友達に顔向けができないだろ!」
瀕死の伊乃里さんが叫んだ。瀕死にも関わらず、叫んでくれた。
そして私が忘れかけていた一つの約束を思い出させてくれる。
伊乃里さんの言う通りだ。このまま逃げたら私は、あの人に顔向けができない。
「あらら、やる気出しちゃったっすか? ったく、面倒なことは嫌なんすけどね」
「伊乃里さんを離してっ」
「天宮さんには無駄な殺生はするなって言われてるっすけどね。まあ仕方が――」
不良が何かを言いかけて口元を怪しく緩める。私は思わず彼が見た方向に視線を合わせると、巨大なタコの姿になったメモリアに押されている明志の姿があった。
そうだ私、今配信ができてない。だから覚醒スキルが発動してないんだ。
とんでもないことに気づき、私はどうするべきか考え始める。同時に不良はこんな選択を提示してきた。
「じゃあ選ばせてやるっす。瀕死の男を取るか、瀕死の女を取るか。どっちっすか?」
選びようのない選択。だけど選ばなければならない。
もしどちらかを選ばなきゃどちらも失う。
「最悪な人」
「最悪な師匠に教えを受けているっすからね」
時間がない。どっちを選べばいい。私は、どっちも失いたくない。
そんな私の心情を知ってか、不良はいやみったらしく笑っている。
選びようのない選択。どちらを選べばいいか悩んでいると、伊乃里さんが笑った。
「カナエ、私は大丈夫よ」
信用ならない笑顔。そういえるほど素敵なものだった。
でも、今はその笑顔に私はすがることにする。
「信じる」
伊乃里さんは強い。伊乃里さんは死なない。だから、信じる。
信用できないけど、死なないって信じて私は背を向けた。
「やれやれ、そっちを選ぶっすか。じゃあ、監査役は死んで――」
「アンタ、昔っからおしゃべりだったわよね」
「あん? 確かにそうっすけど今は関係ないっす――よっ!?」
激しい音が聞こえた。だけど私は振り返らずに走る。
伊乃里さんは強い。あの信じられない顔をした時ほど、何か嫌なことをしてくる。ここ最近で学んだことの一つだ。
「明志、待ってて」
役に立てるかどうかわからない。でも、今のままじゃあ明志はメモリアにやられる。
どうにかしなきゃ。
そんな想いで胸がいっぱいになる。どうにかできるかどうかなんて考えない。絶対にどうにかすると心に決め、私は明志の元へ向かう。
絶対に助ける。助けてみせるって友達に誓って――
明志がスキルを使って爆裂ゴーストを何重にも影を重ねたにも関わらず、閃光が目に飛び込んでくる。私は咄嗟にグリードを呼び出し、それを防ごうとした。
私の意図に応え、グリードはギターを掻き鳴らす。彼のスキル〈爆音領域〉が発動し、それが私の身体を守ろうとするが光は容赦なくその防御を突き破った。そう、明志が軽減してくれたにも関わらず光は進撃を止めなかったんだ。
どうしようもない事態。防御は破られ、回避も不可能。
そんな状況で、グリードが機転を利かせてくれた。
「GYUEEEEEEEEEEEEEE!!!」
足元にある固い地面に爆音を響かせると弾けるかのようにそこは割れ、穴ができる。私はグリードと一緒にその穴へ落ちると、闇が目に広がった。光が通り過ぎたことに気づいたのは少し遅れて響いた音を聞いてからだ。
穴の外はどんなことになったのか。少し安心した後、すぐにそんな疑問が頭に浮かんだ。グリードに手伝ってもらい、どうにか地上に出ると私はとんでもない光景を目にする。
大きな、あまりにも大きなタコと対峙する明志の姿があった。
タコは八本の足をウネウネとさせながら明志を睨みつけ、襲うタイミングを見計らっているように見える。
このままだと明志が危ないのは明白。助けなきゃ!
そんな思いで頭がいっぱいになりかけた時、誰かが私に声をかけてきた。
「そっちばかり見てていいっすか?」
思わず私は振り返る。するとそこにはボロボロの姿になった伊乃里さんの姿があった。
私は思わず「伊乃里さん!」と叫んで駆け寄る。彼女がフラフラしながら私に向かってくるが、歩く力が残っていないのかすぐに倒れ込んでしまった。その姿に私はさらに焦りを抱く。
伊乃里さんを助けなきゃ。そう思ってリスナーに呼びかけようとし、あることに気づいた。
「ドローンがないっ」
慌てて配信用ドローンを探すと先ほど起きた爆発のせいか、全てのドローンがガラクタと化していた。
強烈な爆発。それはドローンなんかじゃ耐えられるはずのない攻撃力を持っていた。ドローンを失った私は、すぐに伊乃里さんを助ける方法がないことに気がつく。みんなに頼りたくても頼れない。そんな窮地にさらなる追い打ちがやってくる。
「困ってるっすね。ま、迷宮で配信する神経がおかしいと俺は思うっすけど」
また男の人の声が聞こえた。私は咄嗟に声がしたほうに顔を向けると、そこには一人の男性が立っている。
ボサボサした茶髪に、目の下にあるひどい隈。見た感じヒョロっとしてそうな線の細い身体をしてて私でも勝てそうな感じがする人だ。
来ている服は真っ黒なスーツなんだけど、若干着崩していてどこか悪ぶっているようにも見える。口にはピアスがあり、たぶん数年前に存在した不良って分類の人だろう。
そんな不良が伊乃里さんの髪を掴み、無理矢理に彼女を立ち上がらせた。
「いやいや、さすが監査役。全然隙を見せてくれなかったっすから困ってたっすよ。軽減させたとはいえ爆裂ゴーストの攻撃を完璧に防いだのには度肝を抜いたっす」
「あ、んた……」
「ま、ちょっとした意識の逸れをしてくれたから助かったっす。いい感じにアンタを弱らせることができたし、こうして光城カナエと話しができたっすからね」
不良は笑う。まるでこうなることが当然だといっているかのように。
私はどうするべきか考えながら睨みつける。グリードは奇声を上げて威嚇しているが、不良は楽しげな笑顔を浮かべているだけで効果がない。
「なかなかにうるさいっすね。ま、負け犬の遠吠えってやつっすな」
「GYEEEEEEEEEEEEEEEッッッ!!!!!」
「あーあー、うるさい。ま、すぐに黙らせてやるっすよ」
不良はそんな言葉を口にした後、一本のナイフを右手に持った。そしてその刃を伊乃里さんの首元に添える。
まさかこの人、伊乃里さんを殺す気?!
「俺の要求は二つ。一つは黙って帰ること。もう一つは二度と迷宮配信をしないこと」
「そんなの――」
「いいっすよ。要求を飲まなくても。その時はこいつが死んで、アンタも死ぬだけっすから」
不良の目がギラつく。本気で伊乃里さんを殺すつもりで、その後に私を殺す気のようだ。
その鋭い殺気は私の背中に寒気を感じさせるのに十分な威圧だった。知らず知らずのうちに足が震え、呼吸が乱れ立っていられなくなる。
相手は本気。実力はたぶん圧倒的に上。そもそも伊乃里さんを倒す相手だ。私が戦ったところで勝てるはずがない。
どうしようもない。どうすることもできない。なら言う通りにして諦めたほうがいい。
そんな言い訳をしそうになった瞬間だった。
「しっかりしろ、光城カナエ! そんなんじゃあ友達に顔向けができないだろ!」
瀕死の伊乃里さんが叫んだ。瀕死にも関わらず、叫んでくれた。
そして私が忘れかけていた一つの約束を思い出させてくれる。
伊乃里さんの言う通りだ。このまま逃げたら私は、あの人に顔向けができない。
「あらら、やる気出しちゃったっすか? ったく、面倒なことは嫌なんすけどね」
「伊乃里さんを離してっ」
「天宮さんには無駄な殺生はするなって言われてるっすけどね。まあ仕方が――」
不良が何かを言いかけて口元を怪しく緩める。私は思わず彼が見た方向に視線を合わせると、巨大なタコの姿になったメモリアに押されている明志の姿があった。
そうだ私、今配信ができてない。だから覚醒スキルが発動してないんだ。
とんでもないことに気づき、私はどうするべきか考え始める。同時に不良はこんな選択を提示してきた。
「じゃあ選ばせてやるっす。瀕死の男を取るか、瀕死の女を取るか。どっちっすか?」
選びようのない選択。だけど選ばなければならない。
もしどちらかを選ばなきゃどちらも失う。
「最悪な人」
「最悪な師匠に教えを受けているっすからね」
時間がない。どっちを選べばいい。私は、どっちも失いたくない。
そんな私の心情を知ってか、不良はいやみったらしく笑っている。
選びようのない選択。どちらを選べばいいか悩んでいると、伊乃里さんが笑った。
「カナエ、私は大丈夫よ」
信用ならない笑顔。そういえるほど素敵なものだった。
でも、今はその笑顔に私はすがることにする。
「信じる」
伊乃里さんは強い。伊乃里さんは死なない。だから、信じる。
信用できないけど、死なないって信じて私は背を向けた。
「やれやれ、そっちを選ぶっすか。じゃあ、監査役は死んで――」
「アンタ、昔っからおしゃべりだったわよね」
「あん? 確かにそうっすけど今は関係ないっす――よっ!?」
激しい音が聞こえた。だけど私は振り返らずに走る。
伊乃里さんは強い。あの信じられない顔をした時ほど、何か嫌なことをしてくる。ここ最近で学んだことの一つだ。
「明志、待ってて」
役に立てるかどうかわからない。でも、今のままじゃあ明志はメモリアにやられる。
どうにかしなきゃ。
そんな想いで胸がいっぱいになる。どうにかできるかどうかなんて考えない。絶対にどうにかすると心に決め、私は明志の元へ向かう。
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