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第1章

22:凶悪なモンスター

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 俺は走る。何よりも誰よりもどんな存在よりも速く地を駆け抜けていた。
 目の前にいるのは説明することが面倒に感じるほどのモンスターの大群だ。無策でこのまま突撃すれば俺はひとたまりもないだろう。

 だけど、そんな不安は俺にはない。頼りになる仲間に応援してくれるリスナー達がいるからだ。

〈このまま突撃かよ!〉
〈いっけー!〉
〈怖くないのかお前は!〉
〈アカ氏が死ぬ訳ないだろ!ww〉

〈俺達のアカ氏を舐めるなっwww〉
〈かなちんと一緒に死線を乗り越えてきたんだぞ!〉
〈かなちんかなちん!〉〈っぱかなちんだわ〉
〈かなちん最強!〉〈かなちん無双!〉

〈最強かなちん無双させるためにも応援すっぞ!〉

【サクランボ×3 投げられました】
【ちから餅×5 投げられました】
【タフマン×5 投げられました】
【イダテンシューズ×10 投げられました】
【スーパー爆茶×20000 投げられました】
etc……

「みんなありがとぉー! これで明志君が頑張れるよ!」
「お前は戦わないのかよ!」
「頑張れ明志君っ。私、ここで踊っておくね!」
「戦えよ! ほら、モンスターがそっちに行ってるぞ!」

「きゃー! 来ないでぇー!」

 あいつは何をしたいんだよ。まあいい、カナエへのツッコミはそこそこにして俺は戦いに集中しよう。

 みんなの応援が(全部踊りながら逃げているカナエに向けてだけど)俺の力に変わっていく。
 スタミナと体力が一気に回復し、走るスピードも一気に上がる。それはもう自分じゃあ制御が難しいと思えるほどの加速だ。そう、あまりにも急激な加速をしたためモンスターの大群を突っ切ってしまうほどだった。

 だけどこのおかげで俺は新しい影糸の使い方を思いつく。だからもう一度モンスターの大群を突っ切って、思いついた戦術を俺は使ってみる。

「どうした鈍足っ。捕まえてみろ!」

 あまりのスピードにモンスターは対応できていない。それどころか全ての攻撃が空振りする始末だ。俺は翻弄しながらも一体のゴブリンに影糸をつけた。
 そのまま身体をグルグルと巻き、拘束し影糸を固定する。そのまま力の限り引っ張り上げ、自分を軸にしてゴブリンの身体を豪快にぶん回し始めた。

「うおぉおぉぉりゃあぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 力の限りにぶん回しているため俺に飛びかかろうとしていたモンスター達は一気にふっ飛ばされる。
 さらにリスナーが強化付与のアイテムを投げてくれたため回転の勢いが増していく。しまいには厄介だと思っていたオーガすら俺はぶっ飛ばしていた。

「しゃあっ! どんなもんだぁぁぁ!」

 でもさすがに回転しすぎたため、俺の目は回る。もう大の字になって倒れたい欲求にかられるほどクラクラし千鳥足になっていた。
 だが、俺が目を回したこの瞬間を待っていた敵がいる。それは被害を最小限に抑えた一体のオーガだ。

 俺の動きが完全に鈍ったタイミングを狙い、それは突撃してくる。さすがに動けなくなった俺は対応できず、最悪なことに吐き気を覚え苦しんでいた。
 そんな俺を見てか、井山がフォローに入る。

「自分の尻拭いぐらいしなさいよ!」

 突撃してくるオーガを遮るように井山が割って入り、すぐにカカトを地面に強く叩きつけた。直後、つま先に一本の刃が生えるように出現する。
 井山はそれを確認するとすぐに地を蹴り、突撃してきたオーガの肩に刃を突き刺した。オーガは当然のように悲鳴を上げると、井山は身体を回転させ抉る。痛みで顔が歪むオーガはどうにか井山を捕まえようとするがその前に俺が影糸で彼女の身体を絡め取り、後ろへ引っ張った。

 掴み取ろうとした手が空を切ると同時に、井山は袖から黒いピストルを出していた。そしてそのままトリガーを引き、弾丸を撃ち出す。
 まっすぐと飛んでいくそれは先ほど抉った肩の傷口へ飛び込んでいく。

 一発の銃弾が傷口に突き刺さる。二発目も突き刺さり、一発目の銃弾をさらに深く潜り込んでいく。そして三発目、それが同じ場所に突き刺さると、最初の銃弾が押し出される形で肩を貫いた。

「GOAaaaaaaaaaaa!!!」

 オーガは悲鳴を上げる。懸命に懸命に叫び、痛みを堪えようとするが耐えきれず叫び続けていた。
 俺は井山を後ろへ引き戻した後、すぐに違う影糸を飛ばした。頑丈な体皮を持つオーガだけど、ああなってしまえばその頑丈さは関係ない。
 そのまま影糸の先端についている針を通し、オーガを絡め取る。そして力の限り引っ張り、その巨躯を壁へと打ち付けた。

「GOAッ」

 あまりの衝撃だったためか、オーガの動きが止まる。そして倒れていったモンスターと同様に光の泡となって空間へ溶け込み始めた。
 俺は息を切らしながらその光景を眺める。いつ見ても綺麗であり、儚い。まるでこの結末を望んでいたかのような悲しい眺めだ。
 毎回、モンスターの命の終わりを見ている俺だが、これはいつまでも慣れない。だからずっと新鮮な気持ちのまま、綺麗だなって思ってしまう。

「ナイス! さすが我が弟が認めた駆け出しね」

 井山がにししっと笑いながら背中を叩いてくる。結構痛いが、あまり嫌な思いは抱かなかった。
 俺はちょっと文句を言いつつも、求められたハイタッチに応じる。そのままモンスターが消えるのを待ち、グレン二号が残した痕跡を探そうと考えていた。

 だが、その考えは甘かったことを痛感させられる。

「あれ? なんだか変だよ」

 異変に気づいたのはカナエが最初だった。その言葉を聞いた俺は、何気なく死んだモンスターに目を向ける。
 すると妙なことに光の泡が一定の場所に集まっていた。

 確かにおかしい。普通、こんな風に集まるはずないのに。
 そう思っていると隣にいた井山が叫んだ。

「みんなすぐにここから離れて!」

 どうしてそんなことを叫んだのか。なぜ離れなければいけないのか。
 その答えはすぐに判明する。

 集まった光の泡。それは一つの形へと変化する――それは迷宮探索に置いてもっとも警戒しなければならないモンスター〈爆裂ゴースト〉というものだ。
 出会ったら最後、どれほど強い探索者でも逃げるしかない。なぜならそのモンスターは、名前の通り大爆発を起こすとんでもない存在のためである。

「SYASYASYASYASYAッッッッッ」

 爆裂ゴーストは楽しげに愉しげにたくさんゲラゲラと嗤ってピョンピョン笑い転げた。俺はすぐにスキルを発動させようとしたその瞬間、それは舌を出す。
 長い長い非常に長い舌を地面にベローっとつけ、だらしなくヨダレが垂れた途端にその身体に亀裂が入り光が溢れ出た

「SYAAAAAAAAAAAAAッッッッッ」

 間に合わない――俺の心に大きな絶望がよぎる。
 どうにかしたいけど、どうしようもない。でもどうにかしないとみんな死ぬ。
 考えている暇がない。だけど考えなきゃ助かりようがない状況だ。

 どうする。どうするどうするどうする。
 何かいい方法はないのか?

 だけどどんなに考えても打開策は見つからなかった。

〈光を閉じ込めろっす〉

 一つの声が頭の中に飛び込んできた。俺はすがる気持ちでそのコメントに従う。
 探索者コインのスキルを使い、爆裂ゴーストの身体を影で包み込む。時間が許す限り、何重にも影で身体を包み込んだ。

 それでも爆裂ゴーストはお構いなしに身体の内側から光をこぼしていく。そして、その時がやってきた。

「SYAッッッッッ!!!!!」

 強烈な光が溢れると影のフタを突き破り、俺達に襲いかかった。
 あまりにも強い光は俺の皮膚を切り裂き、抉り、焼いていく。何がどうなっているのか理解できないほど全身から痛みが頭に飛び込んでくる。

 数秒間の出来事。だけどその数秒間で、俺は今まで感じたことのない痛みに襲われていた。

「くそ、くそ痛ぇー!」

 どうにか生き延びた。だけど爆裂ゴーストのせいで状況が全く把握できない。
 カナエと井山はどうなったんだ? 死んでないよな?

「ぐぅっ」

 あいつらを探したいけど、俺の身体がヤバい。たぶん思っている以上にとんでもないことになっているかも。
 いや、それでもあいつらの無事を確認しないと。

 俺はそんなことを思いつつ途切れそうな意識をどうにか繋ぎ止めていた――しかし、神は試練を与える。

「GAAAAAAAッッッッッ」

 それはまさかの登場だった。なぜなら追いかけていたはずのメモリアが、俺の目の前で大きな咆哮を上げていたためだ。
 どうしてこんな所にこいつが、ということを考えるよりも俺はあることに気づく。

 こいつがここにいるということは、こいつは俺達が追っていたことに気づいていた。そしてさっきのモンスターハウスは、こいつが仕掛けた罠だったんだ。

「チクショーが」

 考えもしなかった最悪な状況。俺はそれでも立ち上がった。
 待っている妹が、家族がいる。だからこそやられる訳にはいかない。
 それに、カナエ達がどこにいるかもわからない。だから一人で逃げる訳にはいかないんだ!

「いいぜ、返り討ちにしてやる!」

 絶体絶命。そんな言葉が似合う状況で俺は力を振り絞る。
 生きて帰るためにも、カナエ達が生きていることを信じて目の前に立つ凶悪なモンスターと対峙したのだった。
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