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第1章
20:誰しもが抱えている傷
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俺達はグレン二号の案内の元、エリア2と呼ばれる場所を駆け抜けることになった。
だけどこのエリアには〈メモリア〉という厄介なモンスターがおり、そのため比較的安全なルートを通ることになる。
でも俺とカナエはそのモンスターがどういう風に厄介なのかわからない。詳しく教えてもらえなかったから仕方ないことだけど、もしかしたら口に出したくないモンスターなのかもしれないな。
何にしても用心に越したことはない。
『ウギャアァァアアアァァァァァ!!!』
そんなことを考えていたら唐突にグレン二号が悲鳴を上げる。なんだ、もしかしてさっき話してたメモリアが現れたのか?
俺が思わず視線を向けるとそこには真っ白に輝く粉だらけになったグレン二号の姿があった。
よく見るとその足元には白く輝くキノコがあり、それをグレン二号は踏んづけたみたいだ。その刺激でキノコが爆発し、胞子が飛び散ったようである。
「あら、これヒカリダケね。本来この迷宮に生えないものだけど」
『うぅ、初めて見たゾ。というかキノコを踏んづけるのも初めてダ。おかげで胞子だらけだゾ』
「ヒカリダケは踏んづけると爆発しちゃうもんね。あ、みんなも迷宮に潜ったら気をつけるんだよ☆」
〈おk!〉
〈潜ったら気をつけるわw〉
〈潜ることあんの?www〉
〈たぶんない!w〉
〈俺ちゃんはいつも警戒してるウホッ〉
〈お、さすがゴリラッパー〉
〈ゴリラは違う!〉
〈現役だからなおまえ!〉
〈現役ゴリラ!〉
〈ゴリラゴリラ!w〉
〈GORILLA!www〉
〈ふっ照れるウッホ〉
〈まあ俺ちゃんにかかればヒカリダケなんて簡単に回収できるウホッ〉
〈この前は群生地を見つけて大興奮したウッホ〉
〈おかげで胞子まみれになったぞウホッ!〉
〈踏んづけてるじゃねーか!www〉
【スーパー爆茶×10が入りました】
【スーパー爆茶×100が入りました】
【スーパー爆茶×75入りました】
〈っぱゴリラはゴリラだwwwww〉
〈ドジっ子ゴリラーwww〉
〈俺の感激を返せ!www〉
〈ゴリラ感激wwwww〉
〈ドジっ子ゴリラwwwww〉
〈ドジっ子ーwww〉
〈ゴリラはゴリラだわw〉
〈かなちんかわいい〉
【スーパー爆茶が入りました】
【スーパー爆茶×1000が入りました】
【スーパー爆茶×1200が入りました】
まあ、うん。割愛。
ひとまずカナエが何かをいうとすごい数の反応が来るもんだ。さすが人気配信者といえばいいかな。というか今回はすごいな。ものすごい数のスーパー爆茶が入っている。
一体どうしたんだこいつら?
〈おいーwww〉
〈誰だ爆茶投げてるの!w〉
〈俺だ俺だ俺だ俺だー!〉
〈ヒイロ・タカかよ!〉
〈俺が来たからにはここは爆茶まみれだ!〉
〈いくぜ!〉
【ミートパイが入りました】
〈欧米かよ!www〉
〈おまここでボケるな!w〉
〈ならこうしてやる!〉
【チェリーパイが入りました】
〈欧米じゃねーか!www〉
〈流行ったの何年前だよ!www〉
〈おい若い子にわかるのかこのネタ!w〉
〈ゴリラわかんなーいw〉
〈ゴリラお前若くないだろ!w〉
〈裏切りのゴリラ!!!w〉
〈囲め囲め!www〉
〈ゴリラを叩け!w〉
〈バカめ俺ちゃんの力に勝てる訳がうわ何をするやめっ〉
〈wwwww〉
〈www〉
〈wwwww〉
〈w〉
〈w〉
〈www〉
〈やったぜざまぁwww〉
楽しそうだな、ホント。
まあ、ミートパイやらチェリーパイやらが入ったおかげで俺達は傷が癒やされたけどな。ほぼ無駄だったけど。
ひとまず賑やかなリスナーが来たみたいだ。そう認識しておこう。
『なんだこレ? 全く胞子が取れないゾ!』
「ヒカリダケの胞子は特殊な洗剤を使わないと取れないからね。ま、後で調達してあげるわ」
『目立って仕方ないんだがナァ』
グレン二号は嘆きながら改めて胸を張り、咳払いを一度してから俺達に向き直した。カチンガチンと歯車が響き渡る中、グレン二号はこれから通る比較的安全なルートについて説明を始める。
それはなかなかに小難しい話ととてもどうでもいい情報が織り交ぜられながらの説明だったため、いろいろと省いてわかりやすく情報をまとめてみた。
まず俺達がこれから進むルートは迷宮村から点在している〈廻天の歯車〉を辿り進んでいくようだ。ここで重要なのは、どんなことがあってもルートを外れてはいけないということ。
万が一のことが起きようが何しようが絶対にルートから外れるな、とグレン二号は強調していた。それほどまでにメモリアが強力なモンスターなのかもしれない、と俺は感じ取る。
『誰かが欠けたとしても突き進メ。でなければ簡単に全滅するゾ』
「だけどさ、助かる見込みがあった場合は――」
『なら自力で立ち上がるのを信じロ。いいか、どんなことがあっても全滅は避けなければならなイ。誰かが生き残っていれば助けを呼べるし、助かる可能性が高くなル。だから生き残ることを優先しロ』
グレン二号の言葉に重みがある。それだけの経験をし、生き残ってきたのかもしれない。
こいつに一体どんな過去があったのだろうか。ヒカリダケで輝いているから、それを含めていろいろと気になる。
『さて、そろそろ出発するゾ。急がないと迷宮自体がなくなるかもしれんしナ』
・ルートを進んでいく中、明志は先ほど感じた違和感を思い出す
こうして俺達はグレン二号と一緒にエリア2を突破するために進み始める。迷宮村から見える〈廻天の歯車〉は全部で十個。もしかしたらもっと数があるかもしれないけど、ひとまずそれを目印にして歩いていく。
ひとまず一つ目の歯車に向けて突き進むけど、にしてもこの歯車もなかなかにデカいな。落ちてきた歯車よりは小さいけど、人を押し潰すぐらいにデカい。
そういえばあの時、感じた敵意は何だったんだろう?
殺意とは違う嫌に冷たい何か。しかも俺に向けてのものだった。何か恨まれることをしたかな? まあ、いろんなことしてきたから恨まれてもおかしくないけど。
心当たりはあるようなないようなって感じだし、誰があんなことをしたのかわからないな。
そんなこんなと俺は考えながら歩く。もしかしたら、もしかしたら、って考えて進んでいくと唐突に先頭を歩いていたグレン二号が『うわァッ!』と悲鳴を上げた。
『メモリアだとォッ!』
俺は反射的に前を見る。そこには人の形をした半透明な赤い何かがいた。
全身にモザイクがかったかのようなモヤがあり、動く度にザラッ、ザザラッというノイズが空気を震わせる。
確かにそれはこの世に存在してはならないということが伝わるからこそ、見た瞬間に俺の身体が震えた。
「Zzzzzzaッッッ――」
恐怖には様々な種類が存在する、と師匠でもある仲原さんが言っていた。その中でも厄介なのが、全く知り得なかった恐怖だ。
『人は未知と遭遇したらどうなるか。十中八九、変態でなければ動けなくなる。その原因は精神的なものが大きい。だからこそ、どんな状況に陥っても動けるように鍛錬しろ。でなければ、探索者はやってられん』
もしかしたら仲原さんはこのことを言っていたのだろう。
現状、俺はどう対応すればいいか迷っている。グレン二号を守らなきゃならない。けど、飛び出したら殺されるだろう。
なら逃げればいいのか。仲間を見捨てて? そんな選択は絶対に有り得ない。
じゃあどうすればいい。どう立ち回ればみんなを助けられる?
〈お兄ちゃん、前!〉
翠からのコメントが頭の中で響く。おかげで止まっていた俺の時間が動き出した。
迷っている暇なんてない。死ぬかもしれないなんて恐れを抱いている暇もないんだ。
やることは一つ。グレン二号を守るために目の前の敵をまずぶっ飛ばす!
俺は地を蹴る。グレン二号に迫るメモリアに向け、探索者コインのスキルを発動させた。
影を足にまとい、そのままメモリアを蹴り出そうとする。
だけど奴は簡単に攻撃を回避した。まるで俺の攻撃がわかっていたかのような動きだ。
俺は影糸を使い、体勢を立て直しつつ次の攻撃に出ようとする。その瞬間、メモリアと目が合った。
唐突に俺の意識が闇に飲まれ、気がつけば真っ白な空間に立っている。
その空間が何なのか理解する前に、懐かしい声が鼓膜を揺らした。
『やあ、明志。迷宮探索を頑張っているな』
「親父? なんでこんな所に?」
『なんで? そりゃお前に礼を言うためにさ』
「礼? 礼って俺は何も」
『そうだったな。なら責めに来た』
「どういうことだよ?」
『なんで、俺達を選んでくれなかったんだ?』
その言葉を口にした瞬間、親父は結晶に飲まれた身体に変わっていた。
思わず俺の肺から息が吐き出されると、親父は一歩ずつ近づき訪ね始める。それはまるで、俺の選択は間違っていたかのような言いようだった。
『俺はお前に期待していた』
『だけど裏切られた。どうして裏切ったんだ?』
『こんなにも苦しいじゃないか。時間が経てば経つほど痛みが増していく』
『明志、助けてくれよ。俺は、俺達は苦しくて堪らないんだ』
気がつけばたくさんの結晶化した親父が俺を取り囲んでいた。
責め立てられる。大切な存在から、四方八方から。
「やめろぉぉぉぉぉっっっ」
くそ、くそ、くそ。こういうことかよ!
厄介だと言っていた理由がわかったよ、チクショー!
偽者だとわかってても、これはとてもキツい。トラウマほじくり返しモンスターって意味もわかった。
だからこそ、こんなことで立ち止まっている訳にはいかない。
俺は顔を上げ、立ち上がる。勢いのまま偽者に掴みかかり、殴ろうとした。
『明志、俺が悪かったよ』
だけど殴れない。そんな顔をして、そんな言葉をかけられたら殴れるはずがないだろ。
くそ、卑怯すぎるだろこれ。
『俺は信じてるよ』
『お前が俺達を助けてくれることを』
『絶対に救ってくれるって』
『だから待っているよ、明志』
やめてくれ。本当にやめてくれ。
くそ、くそ、くそ! 辛すぎるだろこれ。責められるよりも辛いじゃないか。
俺が悪かった?
あの選択をした俺が。
でもそうしなきゃ俺は翠を救えなかった。だから、だから――
「しっかりして、明志君!」
誰かの声が聞こえた。誰の声だろうか。聞いたことある気がするけど、思い出せない。
でも俺はこの声を知っている。
「起きて! 早くしないと依乃里さん達が――」
声は必死に訴える。どうして俺に訴えているのだろうか。
わからない。わからないけどこのままじゃあいけない気がする。
どうしてそんな気がしてるんだろうか。だって俺は――
「お願い起きて! みんなを、私を助けて明志君!」
俺は、そうだ思い出した。俺は迷宮に潜った。何かを助けるためにモンスターと戦って、だけどそれからは?
ああ、そうか。そういうことか。これは夢なんだ。夢だからあり得ない状態で親父がいる。
なら、目覚めなくちゃ。みんなが待っている。
途端に白い空間が消え、断ち切られていた意識が戻る。開いた目に入ってきたのは涙を流し、俺を見つめているカナエの姿だった。
状況が把握できない。でもすぐに立ち上がらなきゃ。
そう思って身体を起こそうとした瞬間、カナエは俺を抱きしめた。
「ダメっ! 動いちゃダメだから!」
何か言われたのだろうか。
わからないけど、カナエは俺を抱きしめたまま泣いている。
くそ、今どうなってるんだ?
早くしないとさらにヤバいことになるかもしれない。
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
『ノアァァァァァ!』
そんなことを思ってると知らない女性とグレン二号の悲鳴が上がった。本当にヤバいかもしれない。だけど動けない。
このままじゃあマズい、気がする。
『スマン、こいつを頼ム!』
「うきゃあー!」
誰かが転がってくる。見るとそこには探索者とは思えない姿の女性がいた。首からカメラを下げており、見た限り記者といった感じだ。
そんな女性を守るように井山が立つ。そしてメモリアを睨みつけた。
俺はメモリアを見る。その姿は先ほどとは違い、タコのようなものに変わっている。
その足にグレン二号が絡め取られていた。気を失っているのか、動く気配がない。
「待て!」
メモリアはグレン二号を絡め取ったままどこかへ去っていく。俺は身体を起こそうとしたが、カナエに抱きしめられてしまう。
俺はその手を振りほどき、助けに向かおうとする。だけど彼女はただ涙を流し、俺に訴えた。
「行かないで」
俺の頭をギュッと強く抱きしめるカナエがいた。その顔を見ると涙でとてもグシャグシャになっている。
グレン二号を助けないといけないけど、そんなカナエを見たら置いていけなくなった。
「わかったよ」
俺は去っていくメモリアの背中を見つめながら、静かに泣いているカナエが落ち着くまでずっと待った。
それが何を意味するのか、理解しながらも。
だけどこのエリアには〈メモリア〉という厄介なモンスターがおり、そのため比較的安全なルートを通ることになる。
でも俺とカナエはそのモンスターがどういう風に厄介なのかわからない。詳しく教えてもらえなかったから仕方ないことだけど、もしかしたら口に出したくないモンスターなのかもしれないな。
何にしても用心に越したことはない。
『ウギャアァァアアアァァァァァ!!!』
そんなことを考えていたら唐突にグレン二号が悲鳴を上げる。なんだ、もしかしてさっき話してたメモリアが現れたのか?
俺が思わず視線を向けるとそこには真っ白に輝く粉だらけになったグレン二号の姿があった。
よく見るとその足元には白く輝くキノコがあり、それをグレン二号は踏んづけたみたいだ。その刺激でキノコが爆発し、胞子が飛び散ったようである。
「あら、これヒカリダケね。本来この迷宮に生えないものだけど」
『うぅ、初めて見たゾ。というかキノコを踏んづけるのも初めてダ。おかげで胞子だらけだゾ』
「ヒカリダケは踏んづけると爆発しちゃうもんね。あ、みんなも迷宮に潜ったら気をつけるんだよ☆」
〈おk!〉
〈潜ったら気をつけるわw〉
〈潜ることあんの?www〉
〈たぶんない!w〉
〈俺ちゃんはいつも警戒してるウホッ〉
〈お、さすがゴリラッパー〉
〈ゴリラは違う!〉
〈現役だからなおまえ!〉
〈現役ゴリラ!〉
〈ゴリラゴリラ!w〉
〈GORILLA!www〉
〈ふっ照れるウッホ〉
〈まあ俺ちゃんにかかればヒカリダケなんて簡単に回収できるウホッ〉
〈この前は群生地を見つけて大興奮したウッホ〉
〈おかげで胞子まみれになったぞウホッ!〉
〈踏んづけてるじゃねーか!www〉
【スーパー爆茶×10が入りました】
【スーパー爆茶×100が入りました】
【スーパー爆茶×75入りました】
〈っぱゴリラはゴリラだwwwww〉
〈ドジっ子ゴリラーwww〉
〈俺の感激を返せ!www〉
〈ゴリラ感激wwwww〉
〈ドジっ子ゴリラwwwww〉
〈ドジっ子ーwww〉
〈ゴリラはゴリラだわw〉
〈かなちんかわいい〉
【スーパー爆茶が入りました】
【スーパー爆茶×1000が入りました】
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まあ、うん。割愛。
ひとまずカナエが何かをいうとすごい数の反応が来るもんだ。さすが人気配信者といえばいいかな。というか今回はすごいな。ものすごい数のスーパー爆茶が入っている。
一体どうしたんだこいつら?
〈おいーwww〉
〈誰だ爆茶投げてるの!w〉
〈俺だ俺だ俺だ俺だー!〉
〈ヒイロ・タカかよ!〉
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〈いくぜ!〉
【ミートパイが入りました】
〈欧米かよ!www〉
〈おまここでボケるな!w〉
〈ならこうしてやる!〉
【チェリーパイが入りました】
〈欧米じゃねーか!www〉
〈流行ったの何年前だよ!www〉
〈おい若い子にわかるのかこのネタ!w〉
〈ゴリラわかんなーいw〉
〈ゴリラお前若くないだろ!w〉
〈裏切りのゴリラ!!!w〉
〈囲め囲め!www〉
〈ゴリラを叩け!w〉
〈バカめ俺ちゃんの力に勝てる訳がうわ何をするやめっ〉
〈wwwww〉
〈www〉
〈wwwww〉
〈w〉
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〈www〉
〈やったぜざまぁwww〉
楽しそうだな、ホント。
まあ、ミートパイやらチェリーパイやらが入ったおかげで俺達は傷が癒やされたけどな。ほぼ無駄だったけど。
ひとまず賑やかなリスナーが来たみたいだ。そう認識しておこう。
『なんだこレ? 全く胞子が取れないゾ!』
「ヒカリダケの胞子は特殊な洗剤を使わないと取れないからね。ま、後で調達してあげるわ」
『目立って仕方ないんだがナァ』
グレン二号は嘆きながら改めて胸を張り、咳払いを一度してから俺達に向き直した。カチンガチンと歯車が響き渡る中、グレン二号はこれから通る比較的安全なルートについて説明を始める。
それはなかなかに小難しい話ととてもどうでもいい情報が織り交ぜられながらの説明だったため、いろいろと省いてわかりやすく情報をまとめてみた。
まず俺達がこれから進むルートは迷宮村から点在している〈廻天の歯車〉を辿り進んでいくようだ。ここで重要なのは、どんなことがあってもルートを外れてはいけないということ。
万が一のことが起きようが何しようが絶対にルートから外れるな、とグレン二号は強調していた。それほどまでにメモリアが強力なモンスターなのかもしれない、と俺は感じ取る。
『誰かが欠けたとしても突き進メ。でなければ簡単に全滅するゾ』
「だけどさ、助かる見込みがあった場合は――」
『なら自力で立ち上がるのを信じロ。いいか、どんなことがあっても全滅は避けなければならなイ。誰かが生き残っていれば助けを呼べるし、助かる可能性が高くなル。だから生き残ることを優先しロ』
グレン二号の言葉に重みがある。それだけの経験をし、生き残ってきたのかもしれない。
こいつに一体どんな過去があったのだろうか。ヒカリダケで輝いているから、それを含めていろいろと気になる。
『さて、そろそろ出発するゾ。急がないと迷宮自体がなくなるかもしれんしナ』
・ルートを進んでいく中、明志は先ほど感じた違和感を思い出す
こうして俺達はグレン二号と一緒にエリア2を突破するために進み始める。迷宮村から見える〈廻天の歯車〉は全部で十個。もしかしたらもっと数があるかもしれないけど、ひとまずそれを目印にして歩いていく。
ひとまず一つ目の歯車に向けて突き進むけど、にしてもこの歯車もなかなかにデカいな。落ちてきた歯車よりは小さいけど、人を押し潰すぐらいにデカい。
そういえばあの時、感じた敵意は何だったんだろう?
殺意とは違う嫌に冷たい何か。しかも俺に向けてのものだった。何か恨まれることをしたかな? まあ、いろんなことしてきたから恨まれてもおかしくないけど。
心当たりはあるようなないようなって感じだし、誰があんなことをしたのかわからないな。
そんなこんなと俺は考えながら歩く。もしかしたら、もしかしたら、って考えて進んでいくと唐突に先頭を歩いていたグレン二号が『うわァッ!』と悲鳴を上げた。
『メモリアだとォッ!』
俺は反射的に前を見る。そこには人の形をした半透明な赤い何かがいた。
全身にモザイクがかったかのようなモヤがあり、動く度にザラッ、ザザラッというノイズが空気を震わせる。
確かにそれはこの世に存在してはならないということが伝わるからこそ、見た瞬間に俺の身体が震えた。
「Zzzzzzaッッッ――」
恐怖には様々な種類が存在する、と師匠でもある仲原さんが言っていた。その中でも厄介なのが、全く知り得なかった恐怖だ。
『人は未知と遭遇したらどうなるか。十中八九、変態でなければ動けなくなる。その原因は精神的なものが大きい。だからこそ、どんな状況に陥っても動けるように鍛錬しろ。でなければ、探索者はやってられん』
もしかしたら仲原さんはこのことを言っていたのだろう。
現状、俺はどう対応すればいいか迷っている。グレン二号を守らなきゃならない。けど、飛び出したら殺されるだろう。
なら逃げればいいのか。仲間を見捨てて? そんな選択は絶対に有り得ない。
じゃあどうすればいい。どう立ち回ればみんなを助けられる?
〈お兄ちゃん、前!〉
翠からのコメントが頭の中で響く。おかげで止まっていた俺の時間が動き出した。
迷っている暇なんてない。死ぬかもしれないなんて恐れを抱いている暇もないんだ。
やることは一つ。グレン二号を守るために目の前の敵をまずぶっ飛ばす!
俺は地を蹴る。グレン二号に迫るメモリアに向け、探索者コインのスキルを発動させた。
影を足にまとい、そのままメモリアを蹴り出そうとする。
だけど奴は簡単に攻撃を回避した。まるで俺の攻撃がわかっていたかのような動きだ。
俺は影糸を使い、体勢を立て直しつつ次の攻撃に出ようとする。その瞬間、メモリアと目が合った。
唐突に俺の意識が闇に飲まれ、気がつけば真っ白な空間に立っている。
その空間が何なのか理解する前に、懐かしい声が鼓膜を揺らした。
『やあ、明志。迷宮探索を頑張っているな』
「親父? なんでこんな所に?」
『なんで? そりゃお前に礼を言うためにさ』
「礼? 礼って俺は何も」
『そうだったな。なら責めに来た』
「どういうことだよ?」
『なんで、俺達を選んでくれなかったんだ?』
その言葉を口にした瞬間、親父は結晶に飲まれた身体に変わっていた。
思わず俺の肺から息が吐き出されると、親父は一歩ずつ近づき訪ね始める。それはまるで、俺の選択は間違っていたかのような言いようだった。
『俺はお前に期待していた』
『だけど裏切られた。どうして裏切ったんだ?』
『こんなにも苦しいじゃないか。時間が経てば経つほど痛みが増していく』
『明志、助けてくれよ。俺は、俺達は苦しくて堪らないんだ』
気がつけばたくさんの結晶化した親父が俺を取り囲んでいた。
責め立てられる。大切な存在から、四方八方から。
「やめろぉぉぉぉぉっっっ」
くそ、くそ、くそ。こういうことかよ!
厄介だと言っていた理由がわかったよ、チクショー!
偽者だとわかってても、これはとてもキツい。トラウマほじくり返しモンスターって意味もわかった。
だからこそ、こんなことで立ち止まっている訳にはいかない。
俺は顔を上げ、立ち上がる。勢いのまま偽者に掴みかかり、殴ろうとした。
『明志、俺が悪かったよ』
だけど殴れない。そんな顔をして、そんな言葉をかけられたら殴れるはずがないだろ。
くそ、卑怯すぎるだろこれ。
『俺は信じてるよ』
『お前が俺達を助けてくれることを』
『絶対に救ってくれるって』
『だから待っているよ、明志』
やめてくれ。本当にやめてくれ。
くそ、くそ、くそ! 辛すぎるだろこれ。責められるよりも辛いじゃないか。
俺が悪かった?
あの選択をした俺が。
でもそうしなきゃ俺は翠を救えなかった。だから、だから――
「しっかりして、明志君!」
誰かの声が聞こえた。誰の声だろうか。聞いたことある気がするけど、思い出せない。
でも俺はこの声を知っている。
「起きて! 早くしないと依乃里さん達が――」
声は必死に訴える。どうして俺に訴えているのだろうか。
わからない。わからないけどこのままじゃあいけない気がする。
どうしてそんな気がしてるんだろうか。だって俺は――
「お願い起きて! みんなを、私を助けて明志君!」
俺は、そうだ思い出した。俺は迷宮に潜った。何かを助けるためにモンスターと戦って、だけどそれからは?
ああ、そうか。そういうことか。これは夢なんだ。夢だからあり得ない状態で親父がいる。
なら、目覚めなくちゃ。みんなが待っている。
途端に白い空間が消え、断ち切られていた意識が戻る。開いた目に入ってきたのは涙を流し、俺を見つめているカナエの姿だった。
状況が把握できない。でもすぐに立ち上がらなきゃ。
そう思って身体を起こそうとした瞬間、カナエは俺を抱きしめた。
「ダメっ! 動いちゃダメだから!」
何か言われたのだろうか。
わからないけど、カナエは俺を抱きしめたまま泣いている。
くそ、今どうなってるんだ?
早くしないとさらにヤバいことになるかもしれない。
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
『ノアァァァァァ!』
そんなことを思ってると知らない女性とグレン二号の悲鳴が上がった。本当にヤバいかもしれない。だけど動けない。
このままじゃあマズい、気がする。
『スマン、こいつを頼ム!』
「うきゃあー!」
誰かが転がってくる。見るとそこには探索者とは思えない姿の女性がいた。首からカメラを下げており、見た限り記者といった感じだ。
そんな女性を守るように井山が立つ。そしてメモリアを睨みつけた。
俺はメモリアを見る。その姿は先ほどとは違い、タコのようなものに変わっている。
その足にグレン二号が絡め取られていた。気を失っているのか、動く気配がない。
「待て!」
メモリアはグレン二号を絡め取ったままどこかへ去っていく。俺は身体を起こそうとしたが、カナエに抱きしめられてしまう。
俺はその手を振りほどき、助けに向かおうとする。だけど彼女はただ涙を流し、俺に訴えた。
「行かないで」
俺の頭をギュッと強く抱きしめるカナエがいた。その顔を見ると涙でとてもグシャグシャになっている。
グレン二号を助けないといけないけど、そんなカナエを見たら置いていけなくなった。
「わかったよ」
俺は去っていくメモリアの背中を見つめながら、静かに泣いているカナエが落ち着くまでずっと待った。
それが何を意味するのか、理解しながらも。
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これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
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