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第1章
閑話:君は何を信念にして進むのか〈Side:???〉
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手に持つスマフォの画面。それには光の泡となって消えていくワーウルフィンと満身創痍ながらも勝利した少年の姿が映っている。
彼が厄災星モンスターに勝利したことでその配信のコメント欄は大盛り上がりだ。
でも、視聴者は忘れていた。彼が満身創痍だということを――
〈アカ氏ー!〉
〈おい死ぬな〉
〈まだ死ぬな!〉
〈まだ倒れるな!〉
〈お兄ちゃん! お兄ちゃん!〉
〈みどり氏! も、ももももう一回お兄ちゃんって言って!(ハスハス)〉
〈お、おおれのことおおおおお兄ちゃんって!!!〉
〈おい変態いるぞ〉
〈通報しました!〉
〈囲め囲め! みどり様を守れ!〉
〈オレ達みどり様親衛隊!〉
〈ハスハスッおおおおれは止まらうわ何をするやめっ〉
なかなかにコメント欄が騒がしい。全く、そんなに慌てることじゃないだろ。
ただ探索者の一人が倒れただけだ。
だがまあ、厄災星モンスターを倒したからといって危険が去った訳でもないか。僕はそう思い直し、Wetubeから目を離した。
これから仕事をしなければならない。主な内容はこの配信が行われている迷宮がなぜまだ星崩れの影響を受けているのか、という原因究明の調査だ。
本来、これは僕の仕事じゃない。そもそも僕は違反した探索者を取り締まることがメインの仕事なんだけど、まあ暇だから引き受けてやった。
しかしまあ、たまたまだったけどいい情報を得られたな。まさか調査対象の迷宮で生配信が行われていたとは。
でもそれ以上にいいものを見られた。
「なるほど、将来有望だね」
あいつが弟子を取ったとは聞いていた。その弟子が生配信に映り、厄災星モンスターと戦い勝つ。
その戦いぶりはなかなかに無様だった。奇跡的に覚醒スキルを使えるようになったから勝てたようなものだけど、もしそれが起きなかったらみんな死んでいただろうね。
「ふふ、ホントあいつみたいだ」
土壇場でとんでもない力を発揮する。それはホント、空想に描かれたヒーローみたいな存在だ。
ヒーローはいつも正しく、間違いもなく、みんなが支持する。振り返ることなく突っ走るのも特徴だね。
ああ、ホント仲原彩香みたいだ。僕がどんなに正しくても、間違っていない主張をしてもみんなあいつの味方をする。
反吐が出るね、ったく。
「何を見てるんすか?」
おっと、イラつきすぎて鈍感野郎のことを忘れてた。
僕はにんまりと笑い、羨ましいぐらい高い身長を持つ弟子に顔を向ける。すると鈍い弟子がとても怪訝そうな表情を浮かべた。
どうやらこの弟子にすら伝わるほど僕のイラつきはあふれているようだね。
「どうしたんすか? いつになく怖いっすよ」
「ごめんごめん。ちょっと嫌な奴ことを思い出しててね。それより、迷宮の様子はどうだった?」
「見た限り普通っすね。でも、ちょっとおかしいかもっす」
「ふぅーん。どこがどうおかしいのかな?」
「ここの歯車って確か右回りっすよね? だけど全部の歯車が逆回転してるんすよ」
「へぇー、それはそれは。なかなか見ない現象だね」
歯車が逆回転してる、ねぇ。
その原因は満月の日に起きた星崩れだと思うけど、それにしては妙だ。まるで迷宮自体の循環がおかしくなってる気がするね。
まあ、推測を立ててもハッキリした原因はわからない。だからやっぱ迷宮に突入しないといけないな。
「どうします? 入って調べるっすか?」
「当然だろ。そうしなきゃ迷宮管理局からお金がもらえないしね」
それに、ムカつくけど面白い奴もいるしね。
さあて、彼にはどんな挨拶をしようか。少なくとも味方ではないということを伝えよう。
「それじゃあ行こうか。ああ、そうだ。義久君、中はたぶん厄災星並の難易度だから気をつけてね。あと、僕が指示を出したら攻撃していいからね。ちゃんと覚えててね」
「うすっ、了解したっす」
さあ、行こう。
あのバカと重なる少年を殴り飛ばしに。
◆◆◆◆◆
はぁ~、最悪ぅ。
ここ最近、編集に編集に編集を重ねやっと特集が組めるぐらい形になってきたのにボツを食らうなんて……あ~ん、もう時間がないのにどうしろっていうのよぉー!
「どうしたの? 人生終わったみたいな顔をして」
「美雪さ~ん! 聞いてくださいよ~!」
かくかくしかじかと私は二つ上の先輩に事情を話した。
今をときめく迷宮で配信活動する探索者のみんなに取材に取材を重ね、さらに編集に編集に編集に編集を重ねて作り上げた渾身の記事をボツにされたことに泣いたとアタシは告げる。
先輩である美雪さんはなんだかかわいそうなものを見るような目をしてからアタシの頭をヨシヨシと撫でてくれた。
「それは残念ね。でも全ボツじゃないんでしょ?」
「はい。編集長いわく〈パンチが足りない〉だそうです……」
「パンチねぇ」
美雪さんはアタシが丹精込めて作った記事に目を通す。すると編集長と同じように難しい顔をした。
ああ、美雪さんが読んでもそんな感じになるんだ。うう、どうしよ~。もう時間がないのにぃ~!
「そうねぇ。リアリティーはすごく伝わるけど購買者が読みたい記事じゃないかもね」
「そ、そうなんですか……」
「七海さん、記事が載る雑誌の購買層ってわかる?」
「えっと、十代前半から半ばの男女ですね。なんというか、流行りものが気になる子達が多いと聞いてます」
「なら、もっと有名な人を取材しないといけないかもね。見た限り、購買層の興味を引く人が少ないかな」
「うっ! そ、そんな……みんな配信しててそこそこ有名な探索者なんですけど」
「そこそこじゃダメよ。こういうのは今波に乗ってる人を使わなきゃ」
うぅー! まさかの人選ミス!
でも編集長が渋い顔をした原因がわかった。あと全ボツじゃない理由も。
確かに十代のみんなが興味を引く探索者はいないなぁ~。これじゃあ特集記事を出してもペラリと流されて反響は少ないか。
だけど、これから取材は……時間的に厳しいし、そもそもそんな都合よく有名配信者なんて近くにいる訳がないし。
「あっ」
アタシが頭を抱えながらWetubeを漁っていると〈光城カナエ〉の名前が目に入った。
ここ半年でめちゃくちゃチャンネル登録者数をとんでもなく増やしている女の子で、最近だとスーパー爆茶ランキング一位を取っていた子だ。
見た感じ、ちょうど迷宮に潜って配信をしているみたい。
「んん? ここは確か〈仲戸河迷宮〉じゃん」
えっと、四つ星の難易度で中堅ならなんてことのない迷宮だったはず。でもカナエはまだそんなレベルになってないはずだから、無茶苦茶シリーズの一つなのかな。
だとしてもとんでもない無茶苦茶だと思うけど、大丈夫かな?
「この子、私も知ってるわ」
「え? 美雪さんも見るんですか?」
「たまにね。まあ、忙しいからちょびっとしか見ないけど。でもこの子って面白いわよね。よく逃げてるし、命懸けのはずなのにコメディーかと思えちゃうし」
「ですよねですよね! カナエってホント人気あって、特に若い人達から絶大な支持を受けてるんですよ!」
「そうなんだー。あ、この子を取材したらどう? 時間がないから厳しいかな?」
美雪さんが思いついたかのように言葉を言い放つ。私は一瞬考えたけど、すぐにその言葉に乗った。
「いいですね! 近くの迷宮にいるみたいだし行ってきます!」
さ、取材だ!
カメラが入ったバッグを手に取り、中身を確認していざダッシュ! 初めての特集を成功させるためにも、光城カナエを取材するぞ!
「七海さん、探索者コイン持った?」
「持ってます、大丈夫で~す!」
さ、命懸けの取材の始まりだ。
待ってろ光城カナエ! アタシの初記事メインはお前だ~!
彼が厄災星モンスターに勝利したことでその配信のコメント欄は大盛り上がりだ。
でも、視聴者は忘れていた。彼が満身創痍だということを――
〈アカ氏ー!〉
〈おい死ぬな〉
〈まだ死ぬな!〉
〈まだ倒れるな!〉
〈お兄ちゃん! お兄ちゃん!〉
〈みどり氏! も、ももももう一回お兄ちゃんって言って!(ハスハス)〉
〈お、おおれのことおおおおお兄ちゃんって!!!〉
〈おい変態いるぞ〉
〈通報しました!〉
〈囲め囲め! みどり様を守れ!〉
〈オレ達みどり様親衛隊!〉
〈ハスハスッおおおおれは止まらうわ何をするやめっ〉
なかなかにコメント欄が騒がしい。全く、そんなに慌てることじゃないだろ。
ただ探索者の一人が倒れただけだ。
だがまあ、厄災星モンスターを倒したからといって危険が去った訳でもないか。僕はそう思い直し、Wetubeから目を離した。
これから仕事をしなければならない。主な内容はこの配信が行われている迷宮がなぜまだ星崩れの影響を受けているのか、という原因究明の調査だ。
本来、これは僕の仕事じゃない。そもそも僕は違反した探索者を取り締まることがメインの仕事なんだけど、まあ暇だから引き受けてやった。
しかしまあ、たまたまだったけどいい情報を得られたな。まさか調査対象の迷宮で生配信が行われていたとは。
でもそれ以上にいいものを見られた。
「なるほど、将来有望だね」
あいつが弟子を取ったとは聞いていた。その弟子が生配信に映り、厄災星モンスターと戦い勝つ。
その戦いぶりはなかなかに無様だった。奇跡的に覚醒スキルを使えるようになったから勝てたようなものだけど、もしそれが起きなかったらみんな死んでいただろうね。
「ふふ、ホントあいつみたいだ」
土壇場でとんでもない力を発揮する。それはホント、空想に描かれたヒーローみたいな存在だ。
ヒーローはいつも正しく、間違いもなく、みんなが支持する。振り返ることなく突っ走るのも特徴だね。
ああ、ホント仲原彩香みたいだ。僕がどんなに正しくても、間違っていない主張をしてもみんなあいつの味方をする。
反吐が出るね、ったく。
「何を見てるんすか?」
おっと、イラつきすぎて鈍感野郎のことを忘れてた。
僕はにんまりと笑い、羨ましいぐらい高い身長を持つ弟子に顔を向ける。すると鈍い弟子がとても怪訝そうな表情を浮かべた。
どうやらこの弟子にすら伝わるほど僕のイラつきはあふれているようだね。
「どうしたんすか? いつになく怖いっすよ」
「ごめんごめん。ちょっと嫌な奴ことを思い出しててね。それより、迷宮の様子はどうだった?」
「見た限り普通っすね。でも、ちょっとおかしいかもっす」
「ふぅーん。どこがどうおかしいのかな?」
「ここの歯車って確か右回りっすよね? だけど全部の歯車が逆回転してるんすよ」
「へぇー、それはそれは。なかなか見ない現象だね」
歯車が逆回転してる、ねぇ。
その原因は満月の日に起きた星崩れだと思うけど、それにしては妙だ。まるで迷宮自体の循環がおかしくなってる気がするね。
まあ、推測を立ててもハッキリした原因はわからない。だからやっぱ迷宮に突入しないといけないな。
「どうします? 入って調べるっすか?」
「当然だろ。そうしなきゃ迷宮管理局からお金がもらえないしね」
それに、ムカつくけど面白い奴もいるしね。
さあて、彼にはどんな挨拶をしようか。少なくとも味方ではないということを伝えよう。
「それじゃあ行こうか。ああ、そうだ。義久君、中はたぶん厄災星並の難易度だから気をつけてね。あと、僕が指示を出したら攻撃していいからね。ちゃんと覚えててね」
「うすっ、了解したっす」
さあ、行こう。
あのバカと重なる少年を殴り飛ばしに。
◆◆◆◆◆
はぁ~、最悪ぅ。
ここ最近、編集に編集に編集を重ねやっと特集が組めるぐらい形になってきたのにボツを食らうなんて……あ~ん、もう時間がないのにどうしろっていうのよぉー!
「どうしたの? 人生終わったみたいな顔をして」
「美雪さ~ん! 聞いてくださいよ~!」
かくかくしかじかと私は二つ上の先輩に事情を話した。
今をときめく迷宮で配信活動する探索者のみんなに取材に取材を重ね、さらに編集に編集に編集に編集を重ねて作り上げた渾身の記事をボツにされたことに泣いたとアタシは告げる。
先輩である美雪さんはなんだかかわいそうなものを見るような目をしてからアタシの頭をヨシヨシと撫でてくれた。
「それは残念ね。でも全ボツじゃないんでしょ?」
「はい。編集長いわく〈パンチが足りない〉だそうです……」
「パンチねぇ」
美雪さんはアタシが丹精込めて作った記事に目を通す。すると編集長と同じように難しい顔をした。
ああ、美雪さんが読んでもそんな感じになるんだ。うう、どうしよ~。もう時間がないのにぃ~!
「そうねぇ。リアリティーはすごく伝わるけど購買者が読みたい記事じゃないかもね」
「そ、そうなんですか……」
「七海さん、記事が載る雑誌の購買層ってわかる?」
「えっと、十代前半から半ばの男女ですね。なんというか、流行りものが気になる子達が多いと聞いてます」
「なら、もっと有名な人を取材しないといけないかもね。見た限り、購買層の興味を引く人が少ないかな」
「うっ! そ、そんな……みんな配信しててそこそこ有名な探索者なんですけど」
「そこそこじゃダメよ。こういうのは今波に乗ってる人を使わなきゃ」
うぅー! まさかの人選ミス!
でも編集長が渋い顔をした原因がわかった。あと全ボツじゃない理由も。
確かに十代のみんなが興味を引く探索者はいないなぁ~。これじゃあ特集記事を出してもペラリと流されて反響は少ないか。
だけど、これから取材は……時間的に厳しいし、そもそもそんな都合よく有名配信者なんて近くにいる訳がないし。
「あっ」
アタシが頭を抱えながらWetubeを漁っていると〈光城カナエ〉の名前が目に入った。
ここ半年でめちゃくちゃチャンネル登録者数をとんでもなく増やしている女の子で、最近だとスーパー爆茶ランキング一位を取っていた子だ。
見た感じ、ちょうど迷宮に潜って配信をしているみたい。
「んん? ここは確か〈仲戸河迷宮〉じゃん」
えっと、四つ星の難易度で中堅ならなんてことのない迷宮だったはず。でもカナエはまだそんなレベルになってないはずだから、無茶苦茶シリーズの一つなのかな。
だとしてもとんでもない無茶苦茶だと思うけど、大丈夫かな?
「この子、私も知ってるわ」
「え? 美雪さんも見るんですか?」
「たまにね。まあ、忙しいからちょびっとしか見ないけど。でもこの子って面白いわよね。よく逃げてるし、命懸けのはずなのにコメディーかと思えちゃうし」
「ですよねですよね! カナエってホント人気あって、特に若い人達から絶大な支持を受けてるんですよ!」
「そうなんだー。あ、この子を取材したらどう? 時間がないから厳しいかな?」
美雪さんが思いついたかのように言葉を言い放つ。私は一瞬考えたけど、すぐにその言葉に乗った。
「いいですね! 近くの迷宮にいるみたいだし行ってきます!」
さ、取材だ!
カメラが入ったバッグを手に取り、中身を確認していざダッシュ! 初めての特集を成功させるためにも、光城カナエを取材するぞ!
「七海さん、探索者コイン持った?」
「持ってます、大丈夫で~す!」
さ、命懸けの取材の始まりだ。
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