ホワイトアウトのち百合

kuraku

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ホワイトアウトのち百合

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不思議な事に少しずつこの星の温度が徐々に下がって、今では日本は常冬の国に変わっていた。首都圏でもシベリア並みの寒さに毎日覆われながらも、かろうじて生活環境が維持できていた。
 だがそれも、天候一つで外に出る事すらできなくなりインフラのほとんどがストップしてしまう生活だった。
 
「はー、ぬくぅい」

 先輩である楓がコタツに手足をぶち込み、仔猫だらけの柄の昔ながらのどてらを着込みながらふにゃりと笑った。

「テレビも最近はニュースばっかりっすねぇ。ようつーべーで動画でも見るっすか?」

 ぽちぽちとリモコンでテレビをザッピングしていた後輩の綾音がリモコンを投げ出し、床にあったノートパソコンをコタツの上に置いてモニターを広げた。

「んー、あやね、手ぇ握って。寒いから」

「今、コタツに入って温いって言ってたすっよね?」

 コタツに上半身を預けてほとんど液状化している先輩に呆れたような目を向けながらも、綾音はコタツの中で楓の握った。案の定身体はともかく手は熱いくらいでコタツの外に出ていた綾音の手よりも十分に温かい。

「私よりも温いじゃないっすか、もう。それでなんか見ますか?ああ、ネトフリークで海外ドラマもいいですね」

「くふふっ、掛ったなバカめ」

 コタツの中でぎゅっと手を握ってそれから指一本一本を絡めるようにして綾音の手の感触を楽しむ。

「聞いてねぇ……もー、何なんすか。年上のくせに本当に甘えん坊っすね先輩は」

 片手をブラックホールのようなコタツの中に取り込まれながらもう片方の手でパソコンを操作する。ブラウザを立ち上げて、マウスをクリック。大学が休校になってからもうどれくらいだろうか?
 楓に家賃がもったいないとアパートを即解約され、一人住むには馬鹿みたいに広い楓の4LDKになし崩しに住み始めてどれくらいだろうか?
 へらへらにやにやとしている自分の先輩の顔にみかんでも食べようかなと現実逃避を始めた。





『ロシアからの大量難民問題で本国会では解決策を模索している中、中国ではロシア難民の暴動が相次ぎ、人民解放軍が鎮圧するといった事態に…』

 楓がつけたテレビをすぐにプツンと消す。
 いつもとかわらないニュース。世界中の人間が赤道を目指す時代だ。もちろん、世界の富裕層がその近くの土地を買い漁り、地価の高騰は青天井だった。
今や、宗教紛争を超えた土地や資源を奪い合う紛争が激化している。日本とて、関東より北にはほとんど人がいなくなっている。
資源の宝庫だった北海道から人が去り、海底資源を隣国と奪い合う状態。日本でもっともまともに暮らせる沖縄の人口がここ数年で10倍にも増えて、ここでも土地の奪い合いする始末だった。

「あ~、晴れたらコンビニ行きたいなぁ。15時になったら吹雪が止まるってさ。明日は朝7時から寒波予報でてる」

「15時ならお菓子類残ってますかねぇ。最近あそこのコンビニお菓子類の入荷少ないっすよねぇ。工場止まってるんすかね」

 二人ともコタツの上に上半身をだらりと預けながら、天才物理学教授が真夏の海辺の町で起こる殺人事件を解決する映画を横目に見ながら適当に会話している。

「そういえばさぁ、もうすぐ私の誕生日じゃん?外食の選択肢はかなり狭まるからあれだけどさ、ウチ何かしてくれるんの?この愛しい先輩様に対して」

「そういうのは誕生日の日まで言わないのが普通っす。まったく…わかりましたよ、雪像とか作ってあげるっすよ。昔の雪まつり級のやつ」

「酷いっ!今時そんなことしてたらヘイトクライム起きちゃうでしょ!」

 楓は綾音の腰に抱き着き、さめざめと泣いた。綾音は無慈悲にもその頭を両手で鷲摑みにして引き離しにかかる。

「ええい、もう!ちゃんと用意してますってば!あ!ダメッ!こらっ!?」

 楓は綾音の体内にでも入り込もうとするかのように、カシミヤのセーターに手を差し込み頭から侵入した。

「綾音が意地悪言うからっ!還る!綾音に還るから!」

「ひゃっ!この、セクハラっすよ!あ!?やんっ!…だめぇ…ほ、本気で怒るっすよ!?」

 虎視眈々とセクハラの機会を狙っている獣にその隙を与えた方が悪いのか、その巣に自ら誘導されて住むようになった獲物が悪いのか。誰にも分からない永遠の課題だ。
 
「気温は下がる一方だ!温めあおう!」

「日本中の変態が言ってる台詞のやつっす、それ!」

 15時にぴたりと吹雪が止んでどうにか人が外に出れるようになった頃、日本を含めた世界中で暴動とデモが始まる。
 緩やかに死んでいく世界でも人がやる事は何千年前から変わらない愛と欲望と憎しみだけ。良いか悪いかは関係が無いのだろう。

「パンツに手を掛けるなぁ!」

「先っちょだけ!先っちょだけだから!」

「先っちょって、アンタないっすよね!?どこの先っちょっすか!?」

 カーテンの隙間から日の光が少しだけ差した。次の極寒の吹雪までのわずかの間だけ。







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