ある日、家に帰ったら。

詠月日和

文字の大きさ
上 下
1 / 8

はじめに。

しおりを挟む
 「どうか驚かないで聞いてほしい」という言葉には、往々にして『少なからず驚いてほしい』という意味合いが含まれていると思う。わざわざこんな前置きをするということは、驚くようなことを話すよ、という合図なのだから。

 この前置きをした上で実際に「へえ」とか「ふうん」とか気の抜けた薄い反応をされたなら、期待外れにがっかりするはずだ。驚かないでと言ったくせに、本当に驚かれないと途端につまらなくなる。剰えもしも、仮に、したかった話をすべて話し終えたにも関わらず「……それで?」なんて続きを促されようものなら、不満も落胆も通り越して心が折れても仕方がない。そうなるともう、会話を続ける気すら起こらなくなるかもしれない。
 勝手なことを言っているのは百も承知で、きっと本当は驚いてくれることを期待しているのだ。驚くだろうと思っているからこそ、驚かないでと前置きができるわけだ。
 「どうか驚かないで聞いてほしい」とは、つまりはそういう言葉だと私は思う。

 さて、以上を踏まえた上で、本題だ。

 私はどこにでもいる女子大生である。
 ここで言うところの女子大生は『女子大学に通う学生』ではなく、『大学に通う女子学生』と受け取ってほしい。私の通う大学は共学で、ついでに言うなら四年制だ。
 わざわざ補足しておいて申し訳ないが、こんな情報は本題にまるで関係ない。最近できた日常的な話し相手がこういった細かいところをいちいち気にしては、揚げ足を取ったり文句を言ったりと忙しないものだから、なるべく不足なく話そうとする癖がついてしまった。話が無駄に長くなるし、私の拙い話術では本筋から脱線しやすくなるため、相手や状況に合わせて改めなければならない癖だと思う。

 ということで、話を元に戻そう。

 そんな、どこにでもいる平凡でこれといった面白みのない女子大生の日常に、ある日突然変化が起きた。
 自然とありのまま無気力に日々を生きる私にとって、劇的な変化など特に望むものではなかった。日常の範囲の刺激さえあれば、それで満足な質だ。
 しかし一方で、変化は何処にだって転がっているということもなんとなく知っていた。そこには私という個人の性質などまるで関係ない。不慮の事故も、自然災害も、望まずとも発生し、予期できるとは限らないのだから。言うなれば、気づくか気づかないかの世界であったり、飛び込むか飛び込まないかの世界であったり、巻き込まれるか避けるかの世界でもあるのだろう。
 本人の望む、望まないに関わらず、色んな『ある日、突然』が誰にだって起こり得る。
 私はまだまだ若造だけれど、なんとなく、そういうものだと思っていた。理解していたはずだった。
 けれど今となっては、所詮自分に起こり得る物事などたかが知れていると心のどこかでは思っていたのかもしれない。

 それでも安心してほしいのは、私が迎えた『ある日、突然』はなかなかに平和的で、私の小市民的日常に溶け込んでしまえるようなものだった。

  
 だから、今から綴る私の日常のすべてを、その始まりを、どうか驚かないで聞いてほしい。

  

  

  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件

石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」 隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。 紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。 「ねえ、もっと凄いことしようよ」 そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。 表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々

饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。 国会議員の重光幸太郎先生の地元である。 そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。 ★このお話は、鏡野ゆう様のお話 『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。 ★他にコラボしている作品 ・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/ ・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/ ・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 ・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376 ・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 ・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ ・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/

風船葛の実る頃

藤本夏実
ライト文芸
野球少年の蒼太がラブレター事件によって知り合った京子と岐阜の町を探索するという、地元を紹介するという意味でも楽しい作品となっています。又、この本自体、藤本夏実作品の特選集となっています。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

処理中です...