ある日、家に帰ったら。

詠月日和

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はじめに。

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 「どうか驚かないで聞いてほしい」という言葉には、往々にして『少なからず驚いてほしい』という意味合いが含まれていると思う。わざわざこんな前置きをするということは、驚くようなことを話すよ、という合図なのだから。

 この前置きをした上で実際に「へえ」とか「ふうん」とか気の抜けた薄い反応をされたなら、期待外れにがっかりするはずだ。驚かないでと言ったくせに、本当に驚かれないと途端につまらなくなる。剰えもしも、仮に、したかった話をすべて話し終えたにも関わらず「……それで?」なんて続きを促されようものなら、不満も落胆も通り越して心が折れても仕方がない。そうなるともう、会話を続ける気すら起こらなくなるかもしれない。
 勝手なことを言っているのは百も承知で、きっと本当は驚いてくれることを期待しているのだ。驚くだろうと思っているからこそ、驚かないでと前置きができるわけだ。
 「どうか驚かないで聞いてほしい」とは、つまりはそういう言葉だと私は思う。

 さて、以上を踏まえた上で、本題だ。

 私はどこにでもいる女子大生である。
 ここで言うところの女子大生は『女子大学に通う学生』ではなく、『大学に通う女子学生』と受け取ってほしい。私の通う大学は共学で、ついでに言うなら四年制だ。
 わざわざ補足しておいて申し訳ないが、こんな情報は本題にまるで関係ない。最近できた日常的な話し相手がこういった細かいところをいちいち気にしては、揚げ足を取ったり文句を言ったりと忙しないものだから、なるべく不足なく話そうとする癖がついてしまった。話が無駄に長くなるし、私の拙い話術では本筋から脱線しやすくなるため、相手や状況に合わせて改めなければならない癖だと思う。

 ということで、話を元に戻そう。

 そんな、どこにでもいる平凡でこれといった面白みのない女子大生の日常に、ある日突然変化が起きた。
 自然とありのまま無気力に日々を生きる私にとって、劇的な変化など特に望むものではなかった。日常の範囲の刺激さえあれば、それで満足な質だ。
 しかし一方で、変化は何処にだって転がっているということもなんとなく知っていた。そこには私という個人の性質などまるで関係ない。不慮の事故も、自然災害も、望まずとも発生し、予期できるとは限らないのだから。言うなれば、気づくか気づかないかの世界であったり、飛び込むか飛び込まないかの世界であったり、巻き込まれるか避けるかの世界でもあるのだろう。
 本人の望む、望まないに関わらず、色んな『ある日、突然』が誰にだって起こり得る。
 私はまだまだ若造だけれど、なんとなく、そういうものだと思っていた。理解していたはずだった。
 けれど今となっては、所詮自分に起こり得る物事などたかが知れていると心のどこかでは思っていたのかもしれない。

 それでも安心してほしいのは、私が迎えた『ある日、突然』はなかなかに平和的で、私の小市民的日常に溶け込んでしまえるようなものだった。

  
 だから、今から綴る私の日常のすべてを、その始まりを、どうか驚かないで聞いてほしい。

  

  

  
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