仕掛け(サンコイチ番外編)

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仕掛け

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「んっ、んふっ、んうぅぅ……」
「ほらあかり、自分だけ楽しんでないで、ちゃんと教えろよ?」
「ふああぁぁっ!!あっ、あかりのっおまんこにっ、幸尚様のおっきいおちんちんが入って、中で子宮のっ……ううっ、入り口をなでなでしててぇ……はぁっ、ぁはあぁぁっ……」
「おう、それで?」
「そ、奏様がっ……んああぁ…………のどの、いいとこぉ……あっああっいぐっ」
「だめ」
「うわあぁぁっ!!」

 快楽の頂きに昇りかければ、すかさず奏がリモコンのボタンを押す。
 そのボタンはいつもとは違う首輪に内蔵された、電撃による痛みを与えるためのもの。
 途端、痛みと恐怖で身体がこわばり、快楽の波が消される。

「うぐっ……ううっ、ひぐっ……奏様、あかりが逝くの止めてくれて、ありがとうございますぅ……ひぐっ……」
「おう、ちゃんと報告できるあかりはえらいな。何度だって止めてやるから、ほら続き再生するぞ」
「はいぃ……」

 目の前のモニターには、画面いっぱいに白いドレスを纏ったヒトイヌとそれを犯す二人の男が映っている。
 パンパンと腰を打ち付けられ、ぐちゅぐちゅと淫らな水音を鳴らし、くぐもった喘ぎ声を上げ続けているのは、あの初夏の『貫通式』のあかりだった。

 今日のあかりは、いつものように後ろ手に拘束され股を開いてしゃがんだ状態で、その動画を最初から最後まで自らの口で詳しく説明するよう命じられている。

 貞操帯の中には、小さな細身のディルドが二つ固定されていた。
 どれだけ必死で下の口を締め付けようが良いところを擦ることは出来ず奥にも絶妙に届かないディルドは、目の前で幸せそうに二人の剛直をしゃぶっては嬌声を上げる過去の自分への強烈な羨望と、記憶が叩き付ける鮮烈な衝動を想起する。

(足りない、こんなのっ、足りないぃ……おしりも、おくっ届かない、細すぎてきゅってしめても全然気持ちよくないのおぉぉっ!!)

 身体は、正直だ。
 自分もその快楽が欲しいと、勝手に中はうねり、異物を締め付け続ける。
 しかし期待した刺激にはほど遠く、ただ不満が積もるのみ。

(っ、しきゅうっ、ぐって……しゅうちゅう、してっ……)

 それならば、と下腹部に力が入る。
 ああ、それはだめだ、それをやれば確実に絶頂へと駆け上がれる、だからだめなのに……そう頭の片隅で警告されても、沸騰した理性ではとても絶頂への渇望を止められない。

「はぁっ、いぎまずぅぅ!!っいだいいぃぃっ!!!

 そうして「逝きそうになったら報告」を徹底的に躾けられた頭は、それを言えば絶対に絶頂出来なくなると分かっていても律儀にご主人様の命令を守ってしまうのだ。

「ううぅ……ぐすっ、ありがとうごじゃいましゅ……」
「ん、ほら、続き。その調子じゃ尚が帰ってくるまでに終わんねぇぞ?」
「ひぃ……はいっ……!!」

 涎が、貞操帯から滴った愛液がぽたぽたと床に落ちる。
「後でちゃんと舐めろよ」と言われつつ、あかりはまた動画の説明を始めた。

(ちゃんと……幸尚様が帰るまでに……じゃないと、お仕置き……!)

 熱情と電撃の痛みに目を潤ませ、激しい渇望に止まらない涎を飲み込むことすら忘れ、あかりは自らを更にドロドロと煮えたぎった熱情の沼の底へと追い立てる。

(…………でも)

 終わらなければ、薬剤を使い二人の目の前で排泄を強要される浣腸のお仕置き。
 たが終わらせれたらそれはそれで、頭がアクメの事以外考えられず視界が狭くなるほど興奮した状態で、せめてもの慰めだったディルドすら取り出され、そのまま二人に洗浄と『日課』を施される未来が待っている。

(でも私……お仕置きになっても、嬉しいって……どこかで思ってる)

 幸いにも(?)すっかり被虐の獣に飲まれ溺れるあかりには、どちらも地獄で、どちらも天国にしか思えない。

 そんなあかりの様子を奏は(本っ当にあかりは良い奴隷だな)とにんまりしながら、終わればその尻をオナホで使おうと、痛いほど張り詰めた股間をあかりの背中に擦り付けるのだった。


 …………


 あの貫通式から8ヶ月の月日が流れた。

 その間あかりが絶頂できたのは、乳首で1回、喉で1回、アナルで3回だけ。
 当然のごとく毎日『日課』は膣という新たな部位を追加した上で続いていて、あかりが全身をヒクつかせアクメのことしか考えられなくなって半ば発狂した悲鳴を上げるまで、二人は丁寧に、しかし慎重に愛しい奴隷を追い詰め続けていた。

 オナホとしては数日に1回は使われているけれど、それでも膣を使われた事は一度も無い。
 さらに一度許可も無いのにアナルで絶頂してしまってからは「これは僕らの見立てが甘かったね」「ちゃんと止めてやらないとな」と塚野に相談の上、電撃を使った絶頂禁止の措置が採用された。
 塚野のアドバイスに従い、乳首やクリトリス、膣、アナルなどあらゆる場所で試してみたものの、あかりにとってはむしろご褒美にしかならなくて。

『……ハルなら大体どこでも止められるのにねぇ、やっぱり天然物のドMは凄いわね』
「あはぁ……私、天然の変態なのぉ……」
「ちょ、オーナー変なこと言うからあかりが悦んじゃってるじゃねぇか」

 そんなこんなで結局、スタンダードだが一番命の危険を感じて一気に波が引く首輪での刺激が採用されたという次第である。

「はぁっ……はぁっ…………」
「ん、よし。最後まで逝かずに頑張れたじゃねぇか、あかり」
「はぁぁっ、奏様っ、辛いっ、お腹ずくずくするのおぉぉ……!!」
「……あかり?」
「ひっ……!あ、ああっ、説明を聞いてくれてっありがとうございますうぅぅっ!!」
「そうそう、何よりも先にお礼。どれだけ辛くてもそこは絶対な」
「はいぃ……」

 首輪をいつものやつに取り替える。
「余計なストレスを与えたいわけじゃ無いから」と、電撃での絶頂抑制は今回のようなあかりの我慢がどうしても効かないプレイで無い限りは使わないと、最初に3人で決めてあるためだ。

 そうして貞操帯を外し「あかり、お尻使うぞ」と奏が指示すれば、あかりはその場で床に伏せ、ほんのり口を開けひくつく尻を高々と上げる。

「奏様……あかりのお尻で、いっぱい気持ちよくなってください」
「おう。随分お尻も慣れたよな、締まりが丁度良くなったというか」
「んううぅ……ぁ……奏様のおちんちん、今日も硬くて熱いのぉ…………」
「よがるのは良いけど、ちゃんとオナホの役目を果たせよ」

 ようやく待ち望んだ奏の剛直を与えられる。
 けれども、これで絶頂することは許されていない。
 そして電撃用の首輪は付けられない……つまり、オナホとして使われるときは自分で絶頂を我慢しなければならない、気持ちいいけど苦しい時間だ。

(ああぁ、勝手にお尻、きゅぅって締めちゃう……!)

 しっかり食い締めて、壁を擦られて、子宮を少しでも揺らして欲しいと身体が貪欲に奏を求める。
 けれど奏も慣れたものだ。敢えてあかりが悦ぶポイントを外し、ただ自分が気持ち良く出すためだけに……まさにオナホを使うようにあかりに腰を打ち付ける。

(いっちゃ、だめ……きもちいい、もっと、もっと…………だめ、がまんっ……!!)

 さっきまで頭がおかしくなりそうな程の寸止めを繰り返した身体は、勝手に絶頂への階段を駆け上がろうとする。
 気を抜けば、胎からひっきりなしに送り込まれる快楽に飲み込まれそうだ。

 そのまま流されたいのに。
 身体はちゃんと、どこに力を入れて、どんな呼吸をして、どう意識すればこの熱を弾けさせられるかをよく知っているのに。

(……許されない……だって、私は、モノだから……)

 その全てに逆らって、己を絶望の底に叩き落とす。
 それは、途方もない苦痛と悲嘆と、けれどそれ以上にご主人様の道具としてやり遂げた奇妙な達成感と被虐を満たされた安心感を与えてくれるのだ。

(全部……許されないから、赦される)

 下腹部がきゅっと固くなれば、はぁっ、と息を吐いて身体を緩める。
 鼻から息をして、舌を引っ込めて口を閉じて、きもちいい、きもちいいけど、だめ、いっちゃだめ……

「っ、出るっ……!」

 どくん、と中に注がれた熱さを感じる。

 この瞬間の、小刻みに動く肉棒の動きがあかりは何より好きだった。
 ぶわっと吐き出されたところから全身に幸せが伝わっていって、今日もちゃんとオナホになれたとどこかホッとして。
 けれど、この瞬間が一番絶頂の危険が高いから、その心地よさを堪能することすら出来ずただ逝かないことにだけ集中する。

「ふぅ……」

(抜けちゃう……もっと、もっと欲しいよう……!)

 ああ、もっと味わっていたいのに。
 何ならその薄い膜越しじゃない、直接白濁を叩き付けて欲しいのに。
 あまりの渇望に、勝手に涙が溢れて止まらない。

 ずるり、と無情にも引き抜かれれば、入口がはくはくと物欲しげにひくつく。
 ……ひくついているのは、後ろだけでは無い。だらだらと与えられない悲しみに愛液をこぼす泥濘もまた、決して叶わぬ熱さと硬さが欲しいと訴え続けている。

「んあぁ……」としゃくり上げながらもどこか寂しそうな喘ぎ声を上げるあかりに「欲張りだな、あかりは」と奏は片付けをしながら笑うのだ。

「だって……ひぐっ、きっとゴムなしなら、もっと気持ちいいんだろうなって……ひぐっ……」
「……ま、気持ちは分かるな。ハネムーンの時の中出しはすげぇ気持ちよかったぜ。何だろなあれ、身体が気持ちいいって言うより……心?魂?なんかそんなところが満たされて震える感じ」
「ううぅ、羨ましいぃ……」
「こればかりはしゃあねぇよ。ちゃんと避妊と性病の予防をするってのは、親父達との約束でもあるんだし。……正直、俺もまた生で欲しいって思うけどな」

 お互い我慢だなとソファに座った奏の股座に、あかりがいそいそとやってくるのもいつものことだ。
「流石に出したばっかだし元気になんねぇぞ」と言いつつも、あかりが目を輝かせ美味しそうにしゃぶる姿はいつ見ても眼福で、その舌使いもこの半年で随分奏と幸尚の好みを覚えてしまったからすぐに復活させられてしまいそうだ。

「……そういえば」と、水を飲みながら奏がカレンダーを確認する。

「来週なんだよな、尚の誕生日」
「んむ……ですねぇ……あ、おっきくなってきた」
「あかりが上手すぎるんだよ!はぁ、今年は何やらされるんだろうな……」

 去年の誕生日は散々だったな……と遠い目をしながら、奏は1年前の記憶の糸を辿っていく。


 …………


 あの時期は3人とも卒業研究の発表で忙しかったはずなのに、幸尚はその合間を縫っていそいそと制作に勤しんでいたらしい。
 誕生日の日、デートしながらプレゼントを見繕ってもいいか?と尋ねたら「実はその……僕、プレゼントは奏がいい……」と顔を赤らめもじもじしながら出してきた服一式に奏は凍り付き、あかりは興奮して鼻血を出しかけたっけ。

「おま、これっ」
「へへっ、ほらあかりちゃんがラバー着せると凄く気持ちよさそうにするでしょ?だから、奏もこれを着てエッチしたら楽しいかなって」
「だからって何でこんなスケベ服なんだよおぉぉぉ!!!」

 そこに用意されていたのは、いわゆる逆バニー服である。
 普通のバニー服とは異なり、本来覆われている部分が全く覆われていない。
 つまり手足はきっちり覆って隠すのに胸も股間も丸出しになる、これを服と呼ぶこと自体を躊躇うような一品。
 ご丁寧に可愛らしい耳付きのカチューシャまで揃っている。なんだこれ、ちゃんと耳に芯まで入ってるしもふもふだし、幸尚の趣味全開じゃねぇか。

 いや、幸尚の名誉のために言っておこう。
 作りはいつもながら丁寧だったし、サイズ感はぴったりだった。むしろ適度な締め付けで、ラバーが気持ちいいというあかりやSMバーの常連客の気持ちもちょっとだけ分かったのも事実だ。
 きっとキャットスーツなら、全身を抱き締められているような心地よさなんだろうなとも想像が付く。

 付くけれど。
 何が悲しくて、男がうさみみを着けて乳首とチンコを晒さなければならないのか。
 しかも手足がきっちりラバーで覆われている分、余計にぷっくり膨らんだ乳首が強調されて恥ずかしいことこの上ない。

 とまあ、文句の一つもこぼしたかったのだが

「可愛い……奏、すっっっごい可愛い……!」
「お、おおぅ?そっそうなの??」
「うんうんこれ凄いね!奏様の肌の白さが黒いラバーで強調されて、ほんのりピンクの乳首が良いアクセントになってる!てか奏様の雄っぱい揉み頃だよ幸尚様!」
「……興奮しすぎて敬語が取れるほどなのかよ…………あと乳首をアクセントにしないでマジで。揉み頃とか俺は果実じゃねぇし、尚はベッドルームまで我慢して」
「ごめん無理」
「いやちょ、即答過ぎるだろうがあぁぁぁ!!」

 着替えてリビングに現れた奏を見た途端、二人のテンションは爆上がりである。
 当然のように、目が据わった幸尚によってソファに押し倒されて、そのまま朝まで貪られ「誕生日だからってやり過ぎだろうが!!」と次の日ソファに突っ伏したまま床に正座する幸尚に説教したのも懐かしい。

 ……そう、その日が奏の論文発表日で無ければ笑い話で終わらせられたのに。
 よりによって見えるところにキスマークを付けられ、げっそりした顔とガラガラの声で発表を終えた奏はゼミの教授に「お盛んなのは結構だが体調管理くらいちゃんとするべきだったね」と小言を言われる羽目になったのである。

 あの時、奏は学んだ。
 いつもと違うエッチは休前日にしようと。何なら連休で休める前日がいいと。
 もう社会人になるんだし同じ轍は踏まない、仕事に支障を来すようなことだけはしないと心に誓ったのだ。
 幸尚だってその位は弁えるはずだ。いくら奏にぞっこんでも、彼は仕事に対しては非常に真面目なのだから。

 ――確かに学んだ筈だったのに、歴史は繰り返すのである。


 …………


「今年の誕生日はさ、平日だし……またコスプレを持ってきたら週末かなぁ」

 本格的にじゅぽじゅぽと喉奥で先っぽをあやされ、時折声を漏らしつつも奏はぼそっと独り言を呟く。
 それが聞こえたのだろう、ちゅぽんと喉から奏を引き抜いたあかりが、とろとろに蕩けた顔で「たぶん、今年はコスプレじゃ無いですよ」と奏を見上げた。

「そうなの?でも俺をプレゼントするのはきっと基本だよな」
「幸尚様ですからそこはブレないですね!……ただ今年は夜に何にも作ってないから」
「あ、なるほど」
「それに……」
「それに?」

(……ちょっと、大変かもなぁ…………今回のは)

 言っちゃって良いのかな、とちょっとだけ思案するも、ここは伝えるべきだとあかりは判断する。
 いくら幸尚の誕生日で幸尚のために奏が頑張るとは言え、せめて心の準備くらいはさせてあげたって罰は当たらないだろう。

「……多分、何か新兵器を使いたいんじゃ無いかなって」
「げ」
「この間ちょこっと、塚野さんと話しているのを聞いたんです。……チップがなんとか、って」
「ちょっと待った、尚のやつ何をやろうとしているんだよ!!」

 思わず大声をあげて「あ、ごめんあかり」と謝りつつも、冷や汗が止まらない。
 ……だめだ、あの二人が組んで出てきた道具だなんてその段階で嫌な予感しかしない。

 あの蛇のような超ロングディルドに、絶対に挿れちゃいけないところを犯される破滅的な快楽を教え込まれた時のことを、奏は真っ青になりながら思い出していた。
 一体今度は何で犯されるのか……不安は尽きない。

(……俺は、尚がいいのに。いっぱい気持ちよくなくたって、尚がいい)

 道具が気持ちいいのは知っている。実際あかりには散々道具を使ってきているし、そのための実験で自分で、または幸尚と交互に道具を使うことには躊躇いは無い。
 けれど愛する人だけは、その指で、肌で、そして熱い欲望だけで自分を包み込んで欲しいと思うのは欲張りなのだろうか。

 正直クリスマスには「あかりにフィストが出来たら、奏もフィストが出来るところまで拡張する」だなんて話になってテンパってしまったけれど、それも幸尚の腕をこの身体に納めるのなら、それよりずっと細いロングディルドで犯されるより頑張れそうだとすら奏は思っていた。

 だから、性懲りも無く幸尚が道具を使いたがっていることがちょっと悲しくて、ちょっとだけ腹立たしくて。

(ああ、やっぱり……奏様、ほんっと道具で犯されるの嫌がるもんね……)

 そんな様子が伺えたのだろう、心配そうにあかりが奏を見上げる。

「……奏様」
「…………分かってる。嫌なら嫌ってちゃんと言う。でもきっと受け入れちゃうんだよな、尚の誕生日だし……」

 奏はいつだって自分の気持ちを隠さない。
 悲しい気持ちも、怒りも、ちゃんと伝えている。だからだろう、結婚して以来幸尚は一度も奏に道具を使っていない。
 ローターすら使わない徹底っぷりで、道具でも何でも使って奏をぐずぐずにあやしたい幸尚が奏のために我慢してくれているのもよく知っている。
 
 だから、誕生日くらいは付き合うのも致し方ないかな、と。

(……なんて、きっと奏様は思っているんだろうな)

 奏様らしいや、とあかりは心の中で独りごちる。

 なんだかんだ言って奏は幸尚に甘い。
 あかりとの関係のように劇的なイベントでも無ければ、幼い頃の関係というのは意外と大きくなっても残るものなのだろう。今でも奏にとって、幸尚はどこか守ってあげたい存在のままだ。

 あかりは幸尚が何を準備しているかは分かっている。
 こちとら伊達に10年近く腐女子をやっていないのだ。室内飼いになったって薄い本は通販のお慈悲にあやかっているし、いずれは「幼馴染みの日」を利用してコミケに突撃しようとも企んでいる。
 だから、各種設定の流行や小道具だって、下手すれば二人よりもよく知っているかも知れない。

(まぁ、お尻ほどは抵抗はないかも……ない、といいなぁ)

 ロングディルドと違ってあれは見た目も小っちゃくて可愛いし、きっと大丈夫。そうあかりは結論づけて再び奏の息子さんをあやし始める。
 けれど、あかりは分かっていなかった。

 ――女性の『可愛い』は男性の『エロい』並みに相互理解が不可能なものだと言うことを。


 …………


「……で、今年は何をするんだ?ものに寄っちゃ週末にすっけど」
「う、うん。その……怒らないでほしいなって……」
「つまり俺が怒りそうな道具を用意したって事だな!」

 2月7日、幸尚の誕生日。
 朝のあかりの世話を終えた幸尚がリビングのソファでいちゃつきつつおずおずと切り出した言葉に、奏はもはや嫌な予感しかしない。
 しないが、ここまですまなさそうにしながらも使いたいと思うほどの道具となれば、気になるのも事実だ。

(ま、あれだ。俺が実験台になってあかりの調教に使えるなら、それはそれでいいかもしれねぇ)

 少なくとも幸尚に、奏を傷つける意図は全くないのは分かっている。
 それに普段は奏をそれはそれは大切に――最近はあかりオナホのお陰で奏とのまぐわいは3回戦までの約束を守れるようになったし――扱ってくれる幸尚の、年に一度の可愛いおねだりなのだ。ここは一つ、大人になって聞いてやろうじゃねえか。

「で、今回は何なんだ?」と鷹揚な態度で尋ねる奏は、十数分後今の考えを猛烈に後悔することになる。

「……あの、これなんだけど」
「んん?随分小さい包みだな」

 ソファで幸尚が、床であかりが見守る中、奏はその包みを開ける。
 箱の中に入っていたのは、見こともない青いパーツだ。
 幅と長さは単4電池くらいだろうか。波状の平べったいパーツと米粒のような小さいパーツがテグスに似た丈夫そうな細くて長い糸で繋げられていた。

「……なんだこりゃ」
「あ、奏も知らないんだ。これ、プロステートチップって言うらしいんだ。あかりちゃんは」
「もちろん知ってますよ!!男の子をずっとメスにしちゃうチップですよね!へぇ、実物は初めて見たけど思った以上に可愛い見た目だねぇ……」
「今なんて!!?」

 気のせいだろうか、あかりの口から恐ろしい言葉が聞こえた気がする。
 ずっとメスにするとか、どう考えてもアウトだろうそれは。

 ただ、その大きさに奏はちょっと安堵する。
 やはりあの超ロングディルドの恐怖は大きかったのだろう、これなら中に入れられてもそんなに圧迫感もなさそうだし、無機質なものに犯される感じは少なくて済む気がする。

(うん、まあこれなら……ずっとメスに、ってのがちょっと引っかかるけど、今日やっちゃってもいいかな)

 折角だから誕生日プレゼントは誕生日にあげた方がいい。
 それに……奏だって、自分はグズグズにされるけれども幸尚が喜んでいる顔を早く見たいのだ。

「じゃ、今からやるか」と奏はトイレで手早く洗浄を済ませる。
 部屋の中はあかりに合わせてなるべく温かくしてあるから、冬でもTシャツ短パンが基本だ。今更恥じらうような関係でも無いからパパッと全てを脱ぎ捨てれば、幸尚もそれを畳みつつ生まれたままの姿になって「奏……」と少し掠れた声で囁き、ぎゅっと奏を抱き締めた。

(こういうとこなんだよな、尚を好きなの)

 特に奏が言ったわけでも無いのに、幸尚は奏を脱がせたときには必ず自分も全裸になる。
 どれだけ理性が吹っ飛んでいようがさっさと突っ込んでいようが、器用に奏を喘がせながら服を脱いで肌をぴったり合わせてくるのだ。
 きっと幸尚の中で服を着たままのエッチというのは、あかりの調教のお陰で上下関係を表すよう刷り込まれてしまったのだろう。実際、あかりを「使う」時の幸尚は絶対に服を脱がないから。

 そうやって立場の違いを明確にすること。
 それはあかりに奴隷であることを暗に突きつけ悦ばせるだけでなく、奏が幸尚にとってどれだけ特別で唯一無二の大切な人なのかを示し安心させる意味合いもあるのだろう。
 結婚という確たる形を取っていても、同性というのは……しかも性奴隷の異性を飼いながら暮らすというのは不安を生みやすいから。

(……ほんっとーに愛されてるなぁ、俺……)

 その温かな愛情に包まれながらひとしきり互いの口内を堪能し、ぷは、と唇を離す。
 見つめ合う二人の間にキラキラした橋が架かって……横から「うわぁ眼福ぅ……」と実に嬉しそうな声が聞こえてくる。相変わらずあかりはブレない。

 そのままそっとソファに押し倒される。
「はぁ、かわいい……」「大好き」と囁きながら首筋に舌を這わされ、ぬるりと温かい感触にぞくりと奏の背中を快楽が駆け上がってくる。

「っ、なおぉ……ふうっ……」
「うん、気持ちいいね」

 耳の中に舌を差し入れられ、もう片方も濡れた指でぐちゅぐちゅと抉られれば、まるで脳みそを直接弄くられるような快楽に身体の境目が薄くなる。
 7年近く幸尚の愛を全力で受け入れ続けた身体は、もうすっかりオンナノコになっていて……まだ乳首すら触っていないのに、頭の中はとろとろに蕩けて、力も入らない。

「このくらい力が抜けたらいいかな」
「なお……?」
「うん、誕生日プレゼント、使わせて貰うね」

 あ、そうだった、とぼんやりした頭の片隅で思い出す。
 あの青いチップとやらを挿れるんだっけ。

 にしてもこの体勢じゃ挿れにくかろうと「尚、四つん這いがいい……?」とのろのろ身体を起こそうとすれば、少しだけきょとんとした顔をした幸尚はすぐに理解したのだろう「大丈夫、そのままで」と奏を止めてまた口の中を貪った。

(きもちいい……音で、犯される……)

 耳と、口。
 両方から脳に響くぐちゅぐちゅという粘ついた音が、わずかな疑問すら洗い流していく。

「ちょっと待っててね、準備する」
「おぅ……」

 ぼんやりした視界の端で、幸尚が何かをしている。
 湯気の出ているコップを見るに、奏が洗浄で席を外している間に熱湯で消毒をしたのだろう糸付きのチップを、ピンセットで別の液体の入ったコップに浸けている。
 そうしてくたっとしている奏の腰の下にペットシートを敷き、ほんのり首をもたげた奏の中心を冷たい液体で拭き上げた。

(……ん?そこ、なにを……)

 手袋をはめ、ペニスの先端に潤滑剤を落とされて……

「へっ」
「力、抜いててね」

(ちょ、まさか)

 すっ、とチップの先端が鈴口に添えられた瞬間

(チップって、そっちかよ!!!)

「尚っちょっとまてええぇぇぇぇ!!入んない、そんなの絶対入んないっ!!!」

 さっきまでの甘い快感なんて一気に吹き飛ばす勢いで、奏は雄叫びを上げるのだった。

「だいじょぶだよ、奏。最初はちょっとキツいけど入るから」
「いやいやいやいや!入んないって!!おまっ、後ろならともかくその大きさを尿道に入れるとか正気かよ!!?」
「うーん、でも結婚するまではブジーで前立腺もしょっちゅうトントンしてたし」
「あれから何ヶ月経ってると思ってるんだ、尿道だって元に戻るだろ!!」

 というか、そっちに入れるにしてはいくら何でも形が歪すぎる。
 第一、あかりはこれの用途を分かっていて「可愛い」なんて抜かしていたのか。一体この凶悪極まりないフォルムのどの辺りが可愛いのか、小一時間問い詰めてやりたい。
 何でこんなものを尿道にって一体何の目的で、と叫ぼうとしたとき、ふと奏はあかりの言葉を思い出した。


『ずっとメスにしちゃうチップですよね』


 この形状、長い糸、その糸の先端にストッパーのように付いている小さなパーツ。
 ――男をメスにする、ここから一番近いところだなんてもう言うまでも無い。

「あ、あの、尚……?一応確認だけど」
「うん」

 真っ青になりながら震える声で恐る恐る尋ねる奏に、幸尚は実に良い笑顔で最悪の答え合わせをしてくれる。

「これね、尿道の奥に置いたままにして……ずっと奏の前立腺を尿道から愛でてくれるんだ」
「ヒィッ!」
「あ、でも確かに久しぶりだし尿道は怖いよね……そうだ、それならブジーで拡げがてら少し気持ちよくなろっか?そしたら緊張も取れてすんなりいけるんじゃないかな」
「いやお願いだから思いとどまってくれ、ついでにブジーをどさくさに紛れて使おうとするなあぁぁぁ!!」
「…………だめ、かな」
「ぐっ」

(ずりぃぞその顔!!お前、俺が尚のしょんぼり顔に弱いの絶対分かってやってるだろ!!)

 とたんに肩を落とし、奏の顔の側に座り込んでわざわざ上目遣いに見つめてくる辺り、これは確信犯に違いない。
 そして奏も分かっている。どれだけ嫌だとここで主張したところで、一度OKしてしまった以上その気になった幸尚からは逃れられないことを。

「ああもう!!今日だけだからな!!ぜっっったい二度とやんねぇから、約束だぞ!」
「うん!ふふっ、ありがとう奏」
「だからその笑顔も反則うむぅぅぅ」

 満面の笑みと共に唇に落ちてきたキスに、ああもう俺、完全に尻に敷かれちゃってる……と奏は心の中で白旗を上げるのだった。


 …………


「ひっ……あひいぃっ……!」
「うん、こんなもんかなぁ……どう思う?あかりちゃん」
「大丈夫だと思います、そのブジーよりチップは細いし」

 それから小一時間、幸尚はチップの説明をしながら奏の尿道を拡張……だけの筈が、その反応がついつい嬉しくて奏の身体の痙攣が止まらなくなるまで延々と金属のブジーで前立腺を愛で続けていた。
 お陰で説明なんて半分くらいしか覚えてない。むしろこの状態で良く半分も理解できたわ俺、とわずかに残った理性が自分を褒め称えている。

(誰だよこんな悪魔みてえなチップを考え出した変態は……!!)

 プロステートチップ、略称プロステチップ。
 尿道から挿入し、前立腺部に留置することで常時尿道側から前立腺を刺激し続ける、奏にとっては恐怖しかない、しかし幸尚やあかり(腐女子モード)にとっては「奏がずっとオンナノコになってもじもじしてくれる」夢のような道具である。
 一度挿入すれば意識的に力を入れて快楽に浸るも良し、挿れたまま生活を送って何気ない動作でいきなりメスイキさせられるスリルを味わうのも良し。
 多少使用のコツはあるものの、その効果の凄さから界隈ではちょっとした人気のグッズなのだそうだ。

「このボコボコした形状が凄くいいんだって。僕はそっちはさっぱりだから挿れても変な感じだけだったけど、奏くらい開発されてたらずっと甘イキもできるはずだって塚野さんが」
「んあっ、あぐっあぁっ……オーナーめ…………覚えてろおぉんひいぃぃ!!」
「あ、メスイキしそうかな。いいよ奏、いっぱい可愛い顔見せて、ね?」

 ぐり、とブジーで中を抉られれば、途端に目の前がチカチカして降りられない絶頂を覚え込まされる。

(くそっ、逝くぅ……準備だけでもう限界だっつーの!俺、そのうちあかりにも勃たなくなるんじゃね……?)

 一抹の不安は、器用にぐりぐりとブジーを動かされればあっさりと崩壊し、快楽に飲み込まれていく。

 きっと今日の出来事は塚野に報告されてしまうはずだ。というか、幸尚がデレデレに惚気て塚野がお腹いっぱいになるまで話すに違いない。
 明日の夜は塚野にニヤニヤされながら茶化される未来しか見えねぇなとがっくりしたいところだが、正直そんな余裕すら奏には残っていなくて。

「ふ……っ、んううぅっ……なお……尚ぉ…………!」
「うん、じゃあ始めよっか。だいじょぶ、僕が全部するから奏はそのまま楽にしててね」

 半勃ちになった奏のペニスをそっとつまんで少し引き上げると、幸尚は改めて潤滑剤をたっぷり塗ったチップの先端を鈴口につぷ、と挿した。
 さっきまでこれより大きい、数珠のように連なった形の金属ブジーであやされていただけあって、その小さな口はすんなりとチップを奥に咥え込んでいく。

「入った……結構すんなりですね」
「拡げてた甲斐があったね。奏、奥に扱いて動かしていくからね」
「うぅ……」

 裏側から触れてチップの位置を確認しつつ、ペニスを先端から根本に向かって扱きチップを奥へ、奥へと送り込んでいく。
 その度奏の口からは「んふ……」と艶めかしい声が漏れて、それだけで幸尚の股間は爆発してしまいそうだ。

「……あかりちゃん、これ終わったら喉使わせて。何回か出しておかないと、今日は僕3回戦じゃ終われなさそう」
「はいっ、いっぱい使ってください!……お尻でもいいんですよ?」
「うん、いいんだけどね……なんかさ、無意識に奏と比べちゃいそうで、悪いなぁって思うんだよね……」
「ふふ、幸尚様は奏様が大切だから仕方が無いですね!…………でも、その、お尻も使っていただきたくて……幸尚様のおちんちん、奥まで貫いてくれるから、えっと」
「そっか、そう聞いたらますますお尻は使えないね。……我慢するの、好きでしょ?」
「ぁはぁ……っ!」

 あかりを煽りつつ、手は的確にチップを奥へと誘導し続ける。
 尿道が直角に曲がる部分を越えれば、会陰から奥へできる限り押し込んで、触れない所まで入ればいいって塚野は言っていたっけ。

「もうちょいかな……奏、もうちょっと押すよ」
「ん……んあぁぁぁっっっ!!?」
「あ、良い感じになったかな」

 幸尚の太い指が、ぐっと奏の会陰を押し込む。
 これ以上は無理と言うところまで押し込んだ途端、奏の口から悲鳴混じりの甘い嬌声があがった。

「え、ああぁっ、こっこれ、尚、うあぁぁなおおぉっっ!!」
「んー?ああずっと甘イキしてるんだ……ふふ、可愛いなぁ……大丈夫、怖くないよ……いっぱい、トロトロになった奏を見せて」
「ひぅっ、はぁっはぁっふああぁぁおりられない、おりられないっ尚っ……!」

 さっきまで散々弄られ敏感になっていた前立腺は、まさにメスイキスイッチと化していたのだろう。
 そんなものをずっとオンのまま固定されれば、奏は堪ったものでは無い。

(だめ、これ、俺戻れなくなる……!!)

 こんなのを知ったら、雄としてあかりを使えなくなってしまう。
 そんな恐怖に襲われた奏が涙を零しながら「こわい、こわいよっ尚……!」としがみつく様子を幸尚は優しく宥めつつ不思議な気分で見守っていた。

(……可愛いな)

 自分には嗜虐の気はない。
 無いけれど、過ぎた快楽で涙を流す伴侶は、ちょっとだけ可哀相なのにとても可愛くて愛しくて、奏への想いがまた溢れそうになる。

 きっとこの気持ちのちょっと脇道にそれた延長線上に、奏があかりに感じる嗜虐嗜好はあるんだろうなと思いつつ「大丈夫だよ」と幸尚は穏やかな笑顔で奏の口をまた貪るのだった。


 …………


「やっと……おちついて、きた……んううぅ……」
「でもまだ気持ちいい?」
「ん……というかずっと……じわじわ刺激されてて、何かの拍子に思いっきり押されたら……暫く戻って来れないかも」
「そんな感じなんだ。……その、嫌じゃ無い?」
「お前な、半ば無理矢理入れておいて今更言うかよそれ」

 ぬちぬちと抜き差しする水音と、えずき声が聞こえてくる。
 ようやく連続メスイキから解放された奏はソファにもたれこんでなるべく奥を刺激しないように注意しつつ、あかりの口を楽しむ幸尚を眺めていた。

「そこまでお尻が寂しいなら」とあかりの後孔には5.5センチのアナルプラグが挿入されている。
 そろそろ日常でもこの太さを維持しつつ、少しずつ6センチへ拡張していきたいとこの間奏とも話していたところだ。

(のど、きもちいい、もっと……でも、おしりいっぱいだけど、いいとこじゃないよぉ……!)

 必死で快楽を得ようとする口と喉の動きを堪能しながら、しかしあかりには目もくれず幸尚は奏と話し続ける。

「……塚野さんにも相談したんだ。奏はおもちゃに犯されるのはいやだって言うけど、僕はおもちゃもいっぱい使って奏を気持ちよくしたいし、何か良い案は無いかなって……」
「で、その結果が尿道を犯す方向になった、と」
「塚野さん曰く『どうやっても生身で繋がれないところを補助するのなら、奏もそこまで嫌がらないんじゃ無い』って言ってて……流石にそこは僕の指じゃ届かないから」
「うんまぁ、届いたら恐ろしすぎるわな」

 そうなのだ。
 幸尚は相変わらずそのクソデカい愛情を全力で奏にぶつけてくる。
 それこそ奏の細胞の一つ一つまで、全てを幸尚の愛情で満たし、染め尽くしたいとすら思っていそうだ。

 それは雄らしい支配欲の表れなのかも知れない。
 そして、奏の気持ちが――絶対に無いと頭では分かっていても――あかりへと向かってしまう不安の表れかも知れない、そう奏は思っている。

(……三人だから不安が生じるのは、お互い様なんだよな)

 二人だけで結婚生活を送っていれば、この不安とは無縁だったかも知れない。
 三人で暮らしていても、あかりをオナホとして使わなければこの気持ちは生じなかったかも知れない。
 けれども、奴隷に堕ちたあかりがいない結婚生活なんて……そもそもあかりが欠けた関係だなんて自分達には想像も付かない。

 だから、不安は受け入れる。
 だから、互いの不安を少しでも和らげたいと、奏も幸尚も……そしてあかりも試行錯誤を繰り返している。

 それはきっと、3人が欠けるその日まで続くだろう。
 その選択に後悔は無く、その試行錯誤は決して代償などというマイナスの言葉で呼ぶに値しないから。

「……誕生日だけだぞ……んううぅ……ちゃんと、俺の身体はいつだって全部尚の愛情で満たされているから」
「うん、ありがとう……あ、出る」
「んぶうぅ……!!」

 ずるり、とあかりの口から長大な陽物が引き抜かれる。
 その白濁とあかりの体液でぬめった息子さんは、すでに3回は出しているはずなのにまだまだ元気そのもので、ああ確かにここから3回戦は余裕だなと相変わらずの絶倫っぷりに奏は苦笑するのだ。

「ほら早く、ちんこ洗って来いよ。俺はあかりを処理しておくから」
「うん、ありがとう……あ、気をつけて降りないと」
「んはぁっ…………!!」

 ガバッとソファから立ち上がった途端、思いっきり良いところを擦ったのだろう悲鳴を上げてその場に崩れ落ち涙目で腰を震わせる奏に「あかりちゃんもこっちでやっておくから、奏はそのままでいて」と幸尚は急いでバスルームに向かうのだった。


 …………


「あ、あの、奏……本当に大丈夫……?」
「大丈夫もクソもやるしかねぇだろうが!!ああもうやってやる!今日は尚の誕生日なんだからな!!」
「う、うん、ありがたいけどちょっと怖いよう……」
「お前の運転ほどは怖くねぇって!」

 夕方頃、まぐわいを終えしかし奏のチップはそのままでまったり(?)といちゃついていた幸尚のところに電話が掛かってくる。
 ディスプレイに塚野の名前を見た幸尚は、スピーカーモードにして通話ボタンを押した。

『どう、楽しんでるかしら?』
「あ、はい!もうバッチリ決まっちゃって……そのままえっちしたんですけど、こんなに奏が乱れたのを見たのは久しぶりでほんっと可愛くて……」
『はいはい、惚気は後でゆっくり聞くわ。それでなんだけど、今から二人でバーに来れる?』
「え」
『常連さん達とプロステチップの話になってね。どうせならリアルな体験談が聞きたいって』
「「えええええ!?」」

 ひょんな事から塚野の奴隷の話が出て、排泄管理用の留置カテーテルにプロステチップから発想を得た突起を付けるという賢太と二人で魔改造した凶悪な代物を使っている話をしたところ、常連客が思いっきり食いついたらしい。
「何だそのプロステチップって」「無限メスイキかよヤベぇ、CHIKA様の奴隷がちょっと気の毒になってきた」と店は大盛り上がりである。

 で、うっかり塚野が「そういや今日、幸尚君の誕生日だから奏がチップの餌食になったはずよ」と口を滑らせたものだから、新鮮な体験談を求める野次馬達が「よし二人を呼ぶぞ!」「折角だ、幸尚君の誕生日会もしよう!!」と口実を付けて……現在お誕生日席のセッティング中なのだと、後ろから「待ってるからなー!」とはやし立てる声を聞かせてくれた。

「……オーナー、それ、んっ、本当にうっかり……?」
『ふふ、さあねぇ……?まぁ未来のオーナーとしては身体張ってお客様に話題を提供するのも悪くないんじゃない?ああ、あかりちゃんは一人でお留守番出来る?』
「はい大丈夫です、檻に入れてモニターはセットしていくんで」
「おい待て尚、そこは断る口実にしろって!!」

 慌てて止めるも後の祭り。
 というか、今の幸尚に断るという選択肢は無いと見た。あの顔はうちの可愛いパートナーを見せつけながら惚気たくて仕方が無い顔だ、何年も恋仲をやってりゃ流石に分かる。

『じゃあ待ってるわよ』と電話を切る塚野の声に、奏はあの綺麗な顔に嗜虐の微笑みを浮かべた姿を思い描き「間違いなくおもちゃにされるじゃねーか」と一抹の不安を覚えつつ準備を整える。
 一方、早速あかりを檻に入れ「洗浄は帰ってからね、良い子でお留守番するんだよ」と施錠する幸尚に、あかりは「良かったですね、幸尚様」と満面の笑みを返すのだ。

「幸尚様、いっぱい奏様を自慢してきてくださいね!」
「いやいやあかり、いいのかよ!!どう見ても俺、これからネタにされに行くんだけど!?」
「ええー、だってプロステチップでSMバーにおでかけプレイだなんて、もはや新刊が出せるレベルですよ!!」
「新刊」
「モブの視線に晒されながら『だめなのに我慢できない』ってメスイキして悶える受けをそっと守りつつその痴態を堪能する攻め……だめだ推しが尊すぎて墓じゃ足りない、ここに神殿を建てなきゃ」
「あかり頼む現実に帰ってきてくれ、俺がいたたまれない」

 ……というわけで、期待の眼差しで見送られた二人は今、奏の運転で『Purgatorio』に向かっている。

 チップは当然良いところに決まったままだ。
 どうも完全に前立腺を刺激したまま固定することは今の技術では難しいらしく、動きによってはずるっと外に向かって動いてしまう。
 その度に会陰を押して元に戻さなければならないのはちょっと手間だなと思う。しかしそんなことを言えば最後、来年の誕生日はさっき塚野が話していた留置カテーテルとプロステチップの融合版なる兵器が投入されかねない。

(俺は!Mっ気はゼロなんだって!!尚が嬉しそうにするしあかりも変に期待しているから挿れたまま行くけどさぁ!!)

 奏は心の中で叫びながら、しかし全力で運転に集中する。
 奥からはじくじくと、いつも後孔から与えられるものよりずっとダイレクトな刺激が延々と送り込まれ続けているけれど、流石にそれに気を取られて事故ったら洒落にならない。

「ねぇ、奏……やっぱしんどくない?僕が運転した方がいいんじゃ」
「むしろお前の運転で、恐怖に駆られながらメスイキまで決めるなんて大惨事になるよりマシ!いいから集中させてくれ、マジで気を抜いたら」
「……抜いたら?」
「いろんな意味で、トぶ」
「ひぇ」

 もうバーに着いたら煮るなり焼くなり好きにしていいから!と叫びつつ、奏はハンドルを握るのだった。


 …………


「いやぁ、まさか奏がそんなものに手を出すとはなぁ!何、これを機会にM転する?」
「しねぇよ!!尚が言わなきゃぜっっっったいにこんなもん挿れねぇ!!」
「その割には随分お楽しみじゃない?良い感じに目も潤んでるし、嗜虐心がそそられる表情してるわよ……ふふ、今日の奏は打ちがいがありそうだわ」
「勘弁してくれよぉ……んうっ……」

 店に着けば早速お誕生日席に座らされ……たのはいいが、運転で気が昂ぶってすっかり刺激を忘れていたメスイキスイッチを着座した途端に一気に抉られ「んあっ……!!」と甘い声を上げて衆目の中思い切り達してしまったのはかなり気まずかった。
 流石にこの店に来るような猛者だけあってそういうハプニングには慣れているのか、何事も無かったかのように接してくれるのがありがたい、けどやっぱりいたたまれない。

(くっそ、これ気持ちいい……ちょっと動いたら全部ぐりってきて……頭、もってかれちまう……!)

 帰りの運転のこともあるからと酒は固辞し、スタッフ特製のバースデーケーキを頬張る。
 薄暗い店内で奏の顔がはっきり分からないのが幸いだな、と昼間のまぐわいですっかり英気を養った幸尚は、運ばれてくる料理をぱくつきながらどことなく妖艶な雰囲気を醸し出す奏を眺めてはにやけていた。

「お前なぁ……んふぅ、俺のエロい顔、他の奴に見せて平気なのかよ……」
「んー、薄暗い中でちょっと見せるくらいならいいかな。奏の可愛さを知る人が増えるのは嬉しいし。それに奏だって、あかりちゃんを見せびらかしたいって思ってるじゃん」
「え、見せびらかしたいって……奏が?」
「ん?おう。じゃなきゃ、あかりをここで展示なんてしねーよ」

 言われてみればそうね、と塚野はしかし意外そうな顔をする。
「あんたはむしろ完全に閉じ込める方かと思っていたのに」と塚野が問えば「普段はな」と時折熱い吐息を漏らしつつ奏は答えた。
 どうやらずっと快楽に頭を炙られているのだろう、少しぼんやりした様子で幸尚の方に頭を凭れさせている。

「日常は絶対に見せたくねぇよ……でも、さ、あかりは俺たちの自信作でもあるから」
「奴隷として反応するあかりちゃんは、僕は見せたくないです。でも、モノとして……作品として完成したあかりちゃんはむしろ見て貰いたいなって」
「そういうものなのねぇ……」

(見せたい、か。思いもしなかったわね)

 そう言われてみれば、彼らはあかりをこの店に飾ることには抵抗がない。
 外でプレイすることはなるべくやりたくないとは最初から言っていたが、どうやら作品としての展示はまた別らしい。

 ……いや、むしろ別なのはこの店なのかもしれない。

 もうそろそろ限界なのだろう、幸尚の膝に突っ伏し腰をピクピク震わせる奏を幸尚は優しくあやしつつ、常連客達とその使い方や効果について惚気まじりの体験を話している。
 ギャラリーもその体験や奏の状態には興味津々だが、そんなぐでぐでに蕩かされた奏に対してもからかいの言葉一つかけずに見守りつつ、幸尚の話に相槌を打っていた。
 ……長年ここに通い詰め、奏のことも良く知る彼らは分かっているのだ。愛しい伴侶の頼みでもなければ、決して見せたくない姿を奏が晒している事を。

(本当に、ここのお客は……賢太さんの運営の賜物かしらね)

 様々な歪みを抱えた人たちが集う場だからこそ自然と生まれた他者への寛容。
 賢太はあと10年くらいで奏に店を譲りただのスタッフになると言っていたが、きっと賢太が作ってきたこの店をこの二人なら、そしてここのお客なら理念を崩すこと無く引き継いでくれるに違いない。

 だから、ちょっとだけ思いを馳せる。
 手塩にかけて作り上げた奴隷という作品を、見せるという行為に。

(……あれから16年。二度と家からは出さないと決めていたけれど……今なら、ここなら……)

「……あの、塚野さん」

 塚野がぼんやり物思いに耽っていると、ふと横から困ったような表情で幸尚が声をかけてきた。
 いつの間にか奏は幸尚に跨がり、完全に理性を飛ばして「なお……なお、いぐっ……なおぉ……」と甘い囁き声を漏らしキスをねだりながら身体をヒクつかせている。

「完全に入っちゃってるわねぇ。連れて帰る……にも動けないか」
「う……その、流石にこれは……僕も、今は立てないです…………ごめんなさい」
「ああいいわよ、元々こっちが無理言っちゃったんだし。マゾブタたちは私が纏めて面倒を見るから心配しないで」
「ありがとうございます、ってマゾブタ……!?」
「ふふっ、私のお客はみんな人間じゃ無いわよ!」

 そうよねぇ?と泰然とした顔で問いかければ「もちろんです、CHIKA様!」と歓声が上がる。
 その圧倒的なカリスマ性に、この人は本物の女王様なんだなと幸尚は改めて思い知らされるのだ。

(これも、塚野さんの『普通』の一つ……凄いなぁ……)

 いくつもの顔を使い分け、それでいて決してどれにも溺れない。
 塚野の店の店員となり接することが増えた今、幸尚はその強さに尊敬の念を抱いていた。
 上司としては厳しい人だけれど、それも見守られる子供の関係から対等な仕事仲間になったが故だと思うとどこか嬉しいものがある。

 そして幸尚は同時に、奴隷服の制作に励む日々の中で自分の世界がどれだけ狭かったのかを思い知らされる。
 世の中には思った以上に歪みを抱えた人は多くて、その向き合い方も多種多様で。

(……人の数だけ『普通』はあるんだ)

 だからこそ思うのだ。
 全ての普通に応えることは出来ないだろう。
 それでも、自分達や塚野と同じような歪みを抱え『普通』を模索し生きる人の背中をそっと押せる物が作れたら――

「はぁっ……なお……とまんねぇ……なおっ、なおっ……」
「うん、大丈夫。お客さんはみんな塚野さんが引き受けてくれてるから……安心して、逝って」
「ひいぃぃぃっ!!!」

 幸尚の囁く声が、熱い吐息が耳に吹き込まれ、更に会陰を押されてチップの位置を直されたた瞬間、ひときわ高い声を上げて奏は更なる高みに押し上げられる。
 けれども喧噪にかき消されたその声を聞き届けたのは、愛しい人をそっとかき抱く幸尚ただ一人だった。

「……ありがとう、奏。最高の誕生日プレゼントだよ」


 …………


「てわけでね、それからずーっとしがみついたまま、腰を一生懸命押しつけてきて……ずーっと『尚、尚っ』て名前を呼びながら逝ってるんだ。宝石みたいな涙ってああ言うのを言うんだね、店の照明で煌めくのがまた奏に似合っていて……」
「ふああああ!!何その展開美味しい……名前を呼びながら逝き続けるってのがまたいい!!はっ、幸尚様その話全部メモに」
「大丈夫、今朝奏の後始末を終えてから一気にテキストに起こしたから。ただその、あかりちゃんは興奮しちゃって余計に辛くならないの……?」
「辛いです。もう、ずっとおまんこぐちゅぐちゅされたくって堪んないです。でも腐女子はやめられませんから!!」
「うん、平常運転だね!」

 次の日の朝。
 結局二人の帰りを待ちながら熟睡してしまったあかりは、朝の挨拶が終わるやいなや「それで、昨日はどうでした?」と目を輝かせながら二人のデート話を幸尚にせがむ。
「もうさ、最高だったよ!聞いてあかりちゃん!」と幸尚はそれはそれは嬉しそうに昨日の奏の様子を細部まで逐一あかりに聞かせるのだった。

 そこから遅れること半日、ようやくベッドから起き上がれた奏は這々の体でリビングに降りていった途端、延々と幸尚があかりに昨日の内容を惚気続けている現場に遭遇する。
 そう、細部まできっちりと……半ば意識が飛びかけて幸尚の運転でここまで帰宅し、ようやくチップを抜かれたと思ったらそのまま夜の部が始まってしまったことまで、抜かりなく。

「もうやめて、俺もう死ぬ、色々死ぬから!!」

 事態を把握するなり奏はソファに撃沈し、終いには「あんな醜態を晒すだなんて、もう店になんか行けねぇ」としょぼくれて人生初の出勤拒否をしたせいで、1週間ほど塚野が毎日迎えに来て無理矢理店まで連れて行く羽目になったのである。

「ったく!この程度のことでガタガタ言わない!!ほら、しゃんとして行くわよ!」
「この程度って言うなよ!俺、Sなんだぞ!なのにあんなの」
「そんなことで何か言ってくる奴がいたら、私の鞭の餌食にしてあげるわよ!」
「塚野さん強い……」

 なお、肝心のチップはと言えば廃棄……とはならず、家の中限定で奏に使用を許可された数少ないえっちグッズの仲間入りをしたのだそうだ。
「後ろじゃないし、その、ずっと……尚が抱き締めてくれるから」とそっぽを向きながら真っ赤な顔で呟く辺り、どうやらまんざらでも無かったらしい。

「でも二度と外では着けないからな!!俺のメス顔を見て良いのは尚だけ!分かったか……って、ちょ、何で尚の息子さん、叱られながら臨戦態勢になってるんだよおぉぉ!!」
「今のは奏様が悪いです」
「うん、僕だけにメス顔を見せてくれるって言ったからね、ここは有言実行で」
「誰が今すぐやれと言ったあぁぁぁぁ!!!」

 ――奏の悲鳴がこだまする志方家は、今日も平常運転である。
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