サンコイチ

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準備と進展

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「…………あんた、何やってんの」
「げ、姉貴」

 皆が寝静まった頃を見計らってそっと備品庫に忍び込んだ奏が鉢合わせたのは、姉の凛だった。

「あ、姉貴こそ何してんだよ」
「私?縫合の練習キットを取りに来ただけよ」
「はあ、真面目だねぇ姉貴は」

 凛はここから車で10分の所にある市中病院の研修医だ。
 早朝から深夜までまさに馬車馬のように働いている凛とは中々顔を合わす機会がない。

 しかし、こんな形で顔を合わせたくはなかった。
 何とかうまく誤魔化して……と逡巡するも、歳の離れた姉が可愛い弟の企みを逃すわけがない。

「……で?奏、あんたは何をしにきたのかな?」
「ぐっ…………黙秘権を」
「そ、母さんにバラしていいと」
「ぐぬぬ……」
「観念なさい、あんたちょいちょい備品を漁ってるでしょ、知らないとでも思ったの?全く、何悪いことしてんの」
「悪いことって、そう言うわけじゃ」
「じゃあ何してるか言えるわよね?」

 ……だめだ、これはキリキリ吐かないと解放してもらえないやつだ。

 ガックリと肩を落とした奏は観念して「お袋たちに言うのは勘弁してくれよ」ととある備品を取り出す。

「……へぇ、それ、誰に使うの?」 
「………………俺と、尚」
「ふうぅぅん……ま、いーや。寛大なお姉様は何も言わないでおこうじゃないの。お年頃だねぇ」

 凛はニヤニヤしながら、顔を真っ赤にして俯く奏に「ほら、これ」と何かの箱を投げた。
「投げるなよ」とぶっきらぼうに文句を言えば「いやぁ、青春だねぇ!かーわいいっ」とまたニヤニヤされる。
 ああもう、よりによって姉貴に見つかるだなんて、これなら兄貴の方が……だめだ、兄貴は堅物だからゲンコツと説教が飛んできた上で確実に親バレしてしまう。

「それ使うなら、手袋は必須よ。清潔第一!何やるのか知らないけど、間違えても水道水とか入れちゃダメよ」
「え、ダメなの?」
「…………はぁぁぁ、生食のボトルも持って行きなさい……」
「うぐ……その、ありがと…………」
「この借りは高くつくわよぉ?」
「うう…………」

 あとこれと、これと……と目の前で物品を見繕う凛に「……楽しんでない?」と尋ねれば「当たり前でしょ!!可愛い弟をイジるネタができたんだから」と、最近仕事で疲弊している姉は上機嫌だ。

「ま、羽目を外すのはいいけど母さんたちを泣かすようなことはしないのよ?」
「ん、おう」

 ありがと、とそっぽを向きながらブツを受け取る。
 ごめん姉貴、その忠告はすでに破られているんだと突っ込みつつ。

(いや、バレたらうちの親どころか3人の親が泣く……いやいやむしろ戦犯の俺はフルボッコじゃね……?)

 何があってもこの関係はバレちゃいけない、奏は師範の……あかりの母の鬼の形相を思い出して身震いしつつ、改めて心の中で固く誓うのだった。

 …………


「……と言うわけで、姉貴にバレた」
「はい!?」
「いや、正確な目的はバレてないけど、少なくとも俺と尚が何やろうとしてるかはバレてる」
「えええ……僕、もう凛姉ちゃんと顔合わせられないよ…………」

 秋の足音が聞こえてきた土曜の早朝。
 来週は定期試験だから、今は調教もお休み中だ。
 今日もあかりは稽古を終えたら尚の家に来ることになっているから、それまでに済ませようと奏は自宅からせしめてきた物を広げた。

「……すごい、これ本物なんだよね…………」
「おう。時間のかかるおしがまをやるのは大変だけど、これで擬似的に再現できればやり方も検討しやすくなる」

 目の前にあるのは、バルーンカテーテルとクランプ、そして生理食塩水とディスポの手袋が詰まった箱。
 ご丁寧にも姉は生理食塩水のバッグとカテーテルを繋ぐキットに潤滑用のゼリーまで入れてくれている。親切にも程があるだろう、ありがたく使わせてもらうけど。

 あかりの希望でおしがま……排尿管理調教をやることになって以来、奏と幸尚はその手のサイトを読み漁り調教プランを組み立てていた。
 今日は、実際限界までおしっこを我慢したらどんな感じなのかを二人で体験しようと目論んでいる。

 ……そう、最初は普通におしがま体験をするはすだった。
 なのに「どうせなら物理的な限界にチャレンジしねえ?」と好奇心から奏が目を輝かせて言い出したおかげで、まさかの口からではなくペニスから水分補給という荒業になってしまって。

「……あかりちゃんもだけど、奏はどうしてそういつも斜め上に走っちゃうの?」
「えーだって、ちまちま水飲んで実験とか時間かかりすぎね?直接入れちゃえば早いし」
「その過程を体験するのも大事なんじゃ…………」
「先に限界まで入れて、少しずつ抜きながら体験すりゃいーじゃん。順番が逆になるだけだって」

 いやいやそうじゃないだろうと思うも、この決定はそう簡単に覆らないことを長年の付き合いから幸尚はよーく知っている。
 こうなったら最後、幸尚にできるのはベソをかきつつ振り回されるくらいだ。

 ……そんな無茶なところも好きだから、幸尚としても奏には強く言えないとも言う。
 全く、恋した側は絶対的に不利すぎる。

「どっちからやる?」
「あ、僕からやる。……痛くしないで、ね」
「おう、たっぷり潤滑剤は塗る」

 トイレを済ませた幸尚が、ベッドに横になる。
 奏は姉に教わった通り、幸尚のペニスを消毒し潤滑剤を塗ると、滅菌バッグを開きピンセットでカテーテルを取り出した。
 ちゃんとバルーンが膨らむことも確認済みだ。

「……入れるぞ」
「うん…………うわぁ……なにこれ、痛い?し変な感じぃ…………」
「……どんどん入っていくな、まだ入る」
「ちょ、奏ほんとに大丈夫なんだよね!?」
「大丈夫だって、ほらおしっこ出てきた」
「…………うん、その報告は要らなかったかな」

 しっかり膀胱まで入ったのを確認してバルーンを膨らませ固定する。
 抜けないことを確認した奏は、ドアの上部にS字フックで吊るした生理食塩水をそのカテーテルに繋いだ。

「これでよし、と。とりあえず限界まで入れてみる。調べた感じだと結構個人差があるみたいだけど、ギリギリまで頑張ってみてくれ」
「う、うん……」

 奏がそっとクランプを外すと、暖かい生理食塩水が静かに体の中に吸い込まれていく。
 その半分も入らないうちに「……ちょっと、おしっこ行きたくなってきた」と尚が腰を動かした。

「結構少ない量でトイレに行きたくなるんだ……まだ、我慢できる?」
「ん、大丈夫…………って言ってる間に凄い行きたくなってるっ……!」
「おー500ml入った。2本目いくぞ」
「嘘でしょ、まだ入るの!!?もうかなり来てるんだけど!」
「一応1リットルくらい入る人もいるらしいじゃん。夏におしっこ出ないって叫びながらやってきた爺さん、確か1.8リットル溜まってたって言ってたし、意外と人間溜め込めるんじゃ」
「いやそれ病気のせいだよね!?」
「まあ2本目で終わりじゃね?ほら、まだ入ってる」
「あ、ちょ、これまずい、本当にまずい!!ひっ、出るっ出ちゃうって!!」
「いや入ってる」
「この状況で笑い取りに来ないで!!」

 カタカタと震え「もうダメ、もう無理……奏、とめてぇ……!」と必死で懇願する尚を尻目に「まだ少しずつ入ってるからもうちょい」と粘ること1分。
 結局幸尚が許されたのは、2本目もほぼ空になった頃だった。

「えーと、860ml……すげ、腹ぽっこり膨らんでら」
「奏……だめこれ、ほんとだめ、頭へんになるっ……」

 感じたことのない尿意と焦燥感に、脂汗がブワッと噴き出し、息が浅くなる。
「だしたいっ、だしたい……」と必死で呟いていないとおかしくなってしまいそうだ。

 漏らさないようにカテーテルをクランプし「尚、それでどのくらい動ける?」と奏が片付けをしながら振り向くと、涙目の尚は拳を白くなるほど握りしめ、必死で腰をもじもじと動かしていた。

「むり……うごくとか、むり…………」
「歩くのは」
「も、ここから一歩でも動いたら漏れる……っ!!」
「カテーテル入ってるから漏れねえし、気合いで動いてみて」
「うぐっ……ひっく、ひっく…………奏、後で覚えてなよ……」

 そうだった、これはあかりの調教のための体験だった。
 幸尚は今すぐこの忌々しい管を引っこ抜き恥も外聞もなくここで漏らしたい衝動を必死で堪えてベッドから降りると、前屈みで股間を抑え足をモジモジさせながらよろよろと歩いた。
 歩く振動さえ辛くて、一歩動くたびに変な声が出てしまう。

「そうっ、もうむりぃっ!!」
「おけ、限界だとこんな感じなんだ。ちなみにそれさ、カテーテルなしで我慢できる?」
「できるわけ、ないだろっ…………!!」
「今ここで漏らせって言われたら」
「言われなくても漏らすよぅ…………!奏、早くぅ…………」
「へいへい、じゃあ100ccずつ抜いていくから、変化を教えて」
「うう…………本当にこんなことあかりちゃんにするの……?」
「そのためにやってるんだろうが、そもそも今回のはあかりから言い出したんだし」

 クランプを外した途端、勢いよく水が噴き出してくる。
 だが奏は無慈悲にもビーカーにきっちり100cc溜まったところですかさずクランプをかけた。
 その途端、「ひっ!!」と叫ぶ幸尚の全身に震えが走る。

「んぐっ…………!!途中で止めるの、きっつい…………」
「サイト見てるとこれも気持ちいいって書いてあったけど」
「無理無理無理、後で奏もやってみなよ、てかやらせるからなっ!!」
「へいへい、ほら感想」
「…………漏らしたいっ……」
「もっと具体的に」
「くう…………」

(尚が辛いのは興奮しねえんだよな、早く終わらせようとは思っても)

 必死で説明する幸尚を眺めつつメモを取る。
 奏にとって幸尚は少なくともそう言う対象にはならないのだろう。同じことをあかりにやれば……想像するだけで興奮してくるのに。

(でも、俺あかりを抱きたいとは思わねぇんだよなぁ…………)

 あかりにとって二人が恋愛対象でないように、二人もまたあかりに対してはそう言う気持ちが微塵も湧いてこない。
 女性の体に興味はあっても、大切な所に触れるのはやはり躊躇する。
 触れてしまえば、何かが決定的に変わってしまいそうで。

 とは言え、いずれ貞操帯をつけるならそうも言っていられない。
 貞操帯装着後は、あかり自身に性器に触れる権利を一切与えないと奏は決めていた。
 それはつまり、奏や幸尚の手であかりを洗い、慰める必要が出てくる訳で。

(できるんだろうか…………尚の前で、あかりに触れる……愛撫することが……)

 そんなことを徒然と考えているうちに、やっと猛烈な尿意から解放されたのだろう幸尚が大きなため息をつく。
 その音で奏も思索を止めた。

「はぁっ…………なんか、ちんちんが痺れてる気がする……」
「マジかそんなにキツイんだ、VTuberなんてしょっちゅうやってる感じがしてたけど、そうそうやるもんじゃなさそうだよなー尚を見る限り」
「……体験すれば、わかるよ?」
「え、ええと…………尚?怒ってる?いや、ほらこれはあかりのために大事な実験だから」
「うん、だから……奏は僕とは逆に100ccずつ増やしてじわじわ高まる尿意を観察していこうね?」
「ひぃぃ…………ごめんってばぁ……」

 あーちょっとやりすぎた、と冷や汗をかきながら、奏は場所を交代しやり方を確認しつつ準備する幸尚をドキドキしながら眺めているのだった。


 …………


「で、何で俺は拘束されてるのかな?」
「いやほら、実際あかりちゃんの手は拘束するでしょ?この方がよりリアルかなって」
「そこにリアルはいるんだろうか……まぁいいや、ひと思いにやってくれ」

 尿道を異物が通る違和感に顔を顰める。
「へぇ、外からでも触れるんだね」とカテーテルの位置を確認しながらどんどん挿入していく幸尚の手つきが心なしかエロい。
 ……というか、どうもひと思いにやってくれていない気がする。

 焦ったくなって「尚、もう一気にやっちゃって」と言いかけた瞬間

「んあああっ!!」
「……あ、見つけた」

 とんでもない衝撃に、思わず高い声をあげてしまう。
 訳がわからない様子の奏とは対照的に、幸尚は心なしか嬉しそうに「ここでしょ?」とカテーテルを小刻みに抜き差しする。
 その度に「ひぎっ」「ああっ!」と勝手に声が……ああ、これ喘ぎ声じゃねぇか、と思うも止められない。

「あのね、奏…………ここ、奏のいいとこ」
「いい、とこっ!?え、いや、だってこれ」
「ここ……前立腺ってさ、お尻からだけじゃなくて尿道からも刺激できるんだよねぇ?」
「うっそだろ、てか何でそんなこと知ってるんだよ!?」
「そりゃもう、あかりちゃんが懇切丁寧に教えてくれて」
「やっぱり!!あいつ知識豊富にもほどがっ、んあっ、んあぁ……!」

 ダメだこれ、新しい扉を開いてしまう。

「尚っ、ほら、あっ、今は実験がぁっ、先だってのぉぉっ!!」
「ん、そうだね。じゃあお楽しみのところ悪いけど進めちゃうよ?」
「うぅ……はぁっ…………」
「んー勃っちゃうと入れにくいね……」
「誰のせいだ、誰のっ!!」

 幸尚があっさり引いてくれてホッとする。
 いつもの幸尚なら、奏の新しい側面を見つけるや否や、徹底的に開発してしまうと言うのに。
 流石にあかりのためとなるとそこはちゃんと切り替えられるんだ、いい男じゃん俺の恋人、と奏は心の中でニンマリする。

「入れるよ」と声がかかり、お腹の中に暖かさが広がってくる。

「100ccくらいだと何ともねーな、尚も200cc超えたあたりでトイレ行きたいって言ってたし」
「うん、まだ序の口だから……頑張ってね?」
「お、おぅ…………尚、笑顔が怖えんだけど……」
「怖くしたのは誰かなぁ?」

 そこまで怒らなくても、とこの時は正直思っていた。
 だが5分後、奏は数十分前の自分の行動を猛烈に反省する。

「奏すごいじゃん、僕よりずっと入るねぇ……」
「い、いや、もうむり、これはむりっ!!お腹裂けちゃううっ!!」
「大丈夫って奏も言ってたじゃん。僕、奏みたいに無茶はしないよ?ちゃんと1リットル入ったら終わるから」
「それのどこが無茶じゃないって、やだっもう入れないでお願いっ!!」
「僕は入れてないよ?奏のおちんちんが勝手にお水美味しいって飲んでるんじゃん」
「ううっ……ごめんってばぁ…………んあぁ……」

 これは耐えられない。
 もう座っているのすら辛くて、でも立ったところで動くこともできない。
 早く、早く止めてと懇願する声はもう涙交じりだった。

「……ふぅ、ほら1リットルはいった。僕より身体小さいのにこんなに入るなんて、奏は欲張りさんだねぇ」
「っ、ごめんなさい本当にごめんなさい、だからもう許して、出させてぇっ!!」
「……本当に反省してる?」
「してるしてるっ…………出ないの、キツすぎぃ……!」

 仕方ないなぁ、と言わんばかりの表情でその場でクランプを外され、なすすべもなく勢いよくバケツに出されていく水音を、奏は開放感に包まれながらぼんやりと耳にしていた。


 …………


「はぁ…………おしがまやべぇわ……あかりも良くこんなのやろうって思ったな…………」
「本当だよねぇ……何があかりちゃんの琴線に触れるんだろう……」

 1リットルもの排尿を一気に噴出させた奏と違って、少しずつ排泄させられた幸尚は奏ほどぐったりはしていないようだ。
 片付けを全て終わらせた幸尚は「奏はゆっくりしてて」と優しいキスを落として部屋を出ていった。

 これは終わった後あかりをしっかり休ませないとだめだと、まだあの地獄のような尿意から解放された衝撃が抜けきらない奏はベッドでぼんやり天井を眺めている。
 と、ドアが開く音が足元から聞こえた。

「……大丈夫?」
「ん、あー……まだなんかぼんやりはしてる」
「そっか」

 いいよぼんやりしてて、と気遣う幸尚が何かを持っている気がする。
 だが気の抜けた奏の頭はまだうまく回っていない。

 ……回っていたら、全力で部屋から逃げ出したと断言する。
 俺はよく知っている。そう、主に身体で嫌と言うほど経験している。
 幸尚は奏の新しい扉を躊躇なくそして悪気なく全力で開いて、何なら扉を壊して後戻りできなくしてしまうと言うことを。

 股間に何か、冷たいものがかかる。
 そして……暖かい、けれど硬い…………あまり経験のない感触。

「……尚…………?」
「ん、大丈夫。そのまま力を抜いて、ゆっくり深呼吸して……暴れないで」
「へ…………」

 何をと尋ねようとした瞬間、ずりっと音がした、気がした。

 何か硬いものが、さっきまで散々水を飲まされた口に、刺さっていて…………

「————————!!!」
「奏、動いちゃダメ……危ないから、ね?」
「ひぎっ、いや危ないことしてんのはどっちだよ!!」

 思わず下を見て絶句する。
 そこには、まだくたりとおとなしい奏の息子さんに銀色の光る棒が突き立てられているとんでもない光景が広がっていた。
 あまりの事に奏の頭が理解を拒否している。

「ちょ、尚、おまっそれっ」
「大丈夫、これちゃんと煮沸消毒してあるから」
「いやそう言う問題!?それうちのクリニックで見たことあるぞ、何でそんなものがあるんだよ!!」
「あ、そっか。奏のお母さん泌尿器科医だもんね……これ、あかりちゃんが最初に買ってきたグッズに入ってたんだ。使い方も最初の時に聞いてるから……もう少し奥だったよな……」
「いやいやいや!話してる間は手を止めよう、な!?」

 くそう、引くところは引けるいい男だと改めて惚れ直した少し前の俺を全面撤回してやる。
 しかし流石に、こんなものが大事なところに刺さったまま動けるほどの度胸はない。
 まさにまな板の上の鯉である。

 ぬぷ、とつるりとした金属が入っちゃいけないところを割り開く感覚が気持ち悪い。
 たがきっと、そんなものはすぐに快楽に塗り潰されるのだ。

(ああ、やばい、さっきの感じからしてもうそろそろ……)

 とんっ

「~~~~~~~っっっ!!!!」

 胎の奥から広がる衝撃に、全身が弓形に反る。
 あまりの刺激に声すら出ない。

「いい顔…………ここさ、お尻からやるよりすごいらしいね?」
「ひぃっ、ぃあっ!ぁあああっ……!」
「ふふ、奏すっごい気持ちよさそう…………あぁ僕も興奮してきちゃう……」

 ブジーをゆるゆると動かされるたび、全身に衝撃が走って意味のない言葉が漏れる。
 いつも後ろから優しく押されているのとは比べものにならない暴力的な快楽に、頭の中で何かが弾けているようで。

(やばい、これ…………飛ぶ……!!)

「尚くんお昼ご飯もう食べた?……わお、尿道責めやってるんだ」

 遠くであかりがやってきた気配がするが、もうそんなことに気を使う余裕もない。

「あが……いぐぅ…………っ!!」

 次の瞬間、身体がなくなり世界が白くなって…………そこから先は覚えていない。


 …………


「ふふ、奏ちゃん飛んじゃってる…………いいなあ、私もメスイキ味わってみたい……」
「あかりちゃんはそもそも女の子じゃん」
「そうだけどさ!男の子のメスイキはロマンなの!!」
「そ、そういうもん……?」

「あ゛っ゛……あ゛お゛っ゛……!!」と濁った喘ぎ声を漏らしながらビクビク跳ねる奏を、あかりは楽しそうに見ている。
 その下半身が発情に揺れているのを幸尚は見逃さなかった。

「……あかりちゃん、興奮してる…………」
「ん、うんっ……だって、奏ちゃんがこんなに気持ちよさそうで…………堪んない……」

 食い入るように眺め、股に手を伸ばすあかりに、幸尚はふと違和感を感じる。
 一体何だろうと少し考えて、すぐにその答えに気づいた。

(…………あ、そうか)

 今は確かに調教はお休みだ。
 けれど調教をしていない期間でも、二人のセックスの時には服を脱いで二人をおかずにしながら見ていることが多い。

(調教がお休みでも、ご主人様のセックスを対等な立場で見るってのは…………奏なら、嗜めるんじゃないかな……)

 これまではどうだったっけ、と奏を泣かせながら幸尚は考えを巡らせる。

(ピアスをつけるまでは、そもそも僕らのセックスは毎回プレイだったから…………そっか、ちゃんとオンオフを分け始めてから特にルールを決めてなかったんだ)

 いつもルールを決める奏は、初めての尿道責めですっかり蕩けている。
 そのまま指で胎からも愛でているのだから、あかりに命令するどころではないだろう。
 ……一度手を止めて奏に確認すればいいのだが、そこで止まれるほど幸尚の下半身にも余裕はない。

(…………いいのかな、僕が決めても)

 幸尚に嗜虐の趣味はない。
 けれどこの数ヶ月二人を見ていて、二人が喜びそうな状況はなんとなくわかるようになって来ていた。

(…………多分、奏なら僕らのセックスはプレイとみなすと思う)

 ただ分かると言っても、幸尚が直接命令を考えて出したことはない。
 数少ない命令だって、奏の真似をしただけだ。自分で考えて命令なんてとてもできないと思っていた。

(でも、僕もあかりちゃんのご主人様なんだよね…………このままにしておくのは、違う気がするし……どうすればいいんだろう…………)

 意を決して幸尚は「あかりちゃん」と声をかけた。

「んっ……なあに、尚くん」
「あの、あのさ…………僕が言っていいかわからないんだけど……」
「うん」
「多分、ちゃんと決めてなかったと思うんだけど……あかりちゃん、調教がお休みの時でも僕らの……『ご主人様』のセックスを見る時って…………どうすればいいと思う?」
「!!」

 幸尚から投げかけられた問いかけ。
 これまでのあかりなら「そうだねぇ、後で奏ちゃんと相談する?」と返してきていたと思う。
 幸尚もきっとそうなると思っていた。

 しかしあかりは、その言葉に弾けるように土下座し、床に頭を擦り付ける。

「っ、申し訳ございませんっ!!あかりは幸尚様と奏様の奴隷なのに、立場をわきまえず勝手にお二人のセックスで興奮してしまいました……!!」
「あ、あかりちゃん……!?」

 そう叫ぶと慌ててその場で服を脱ぎ始めるあかりに、幸尚は戸惑いを覚える。
 ……覚えながらも、奏への愛撫は欠かさない。そろそろ挿れても良さそうなくらいには解れているし。

 やがて一糸纏わぬ姿になったあかりは、再びその場で土下座する。
 その顔は少し青く怯えを浮かべていて、自分がご主人様の許可なくセックスを見物しあまつさえ興奮してしまったことに強い罪悪感を抱いているようだった。

(ど、どうしよう…………言い過ぎた……?)

 あかりの表情にチクリと幸尚の胸が痛む。
 そんな顔をさせたかった訳じゃない。ただ、あかり達が望む関係に少しでも近づけたいと思っただけなのだ。

 そんなに怯えなくていいと言いかけて、しかし幸尚は思い直す。

(でも、あかりちゃんがここまでなるのは、調教の成果……あかりちゃんが望んだ結果なんだ)

 この1ヶ月、3人は常に主従関係を意識したプレイを続けていた。
 軽微な反抗にも仕置きを加えるという方針を打ち出した奏を、最初の仕置きのインパクトが……あかりの憔悴した姿がよぎり「そこまでしなくても」と諫めた時、あかりははっきりとそれでいいと言ったのだ。

「ありがとう、尚くん。でもね、厳格な主従関係は……私も望んでいる事だから」
「でも、あかりちゃん……またあんな風にされてもいいの!?」
「んーそりゃ怖いけど……奏ちゃんは私が憎くてこんな事をやってるんじゃないから。3人の関係をずっと続けるために、だよね?」
「おう。あかりが早くこの関係に慣れてうまく使い分けられれば、尚も『ご主人様』として振る舞いやすくなる。…………その上でさ、尚とあかりのプレイ中の関係がうまくできてくればいいなって」
「……尚くん、私頑張るから。だから……尚くんはこれだけ覚えていて。私は、私がやりたいからこうしてる……尚くんがしょんぼりしなくてもいいんだよ」
「う、うん…………」

 宣言通り、この1ヶ月奏はあかりにかなりきつい仕置きを何度も繰り返していた。
 その度に「申し訳ございません!」と泣き叫び赦しを乞うあかりを、幸尚は「これはあかりちゃんも望んだ事」と必死で言い聞かせながら見守り続けてきた。

(……これは、ちゃんと奴隷である自覚ができてる証拠なんだ。ならここで僕が謝るのは多分違う)

 震えるあかりに、奏ならどうする?と考えるものの、何も思いつかない。そもそも思いついたところで幸尚にそれを言える自信はない。
 この1ヶ月、ずっとプレイ中のあかりへの接し方を考えてきた結果幸尚が悟ったのは、やっぱり奏のようにあかりを追い込む事はできないな、という事だった。

(…………でも、僕はあかりちゃんが嬉しいのがいい)

 あかりが頑張っているのは幸尚のためでもある。
 なら、自分も二人の気遣いに甘えてばかりはいられない。

 ここは信じよう、あかりを。
 それが幸尚が出した結論だった。

 頭を下げ怯えるあかりに、幸尚は優しく「あかりちゃん」と呼びかける。
 あかりはびくりと身体を震わせ「っ、はいっ!!」と大きな声で返事をした。

「……教えてくれる?あかりちゃんはどうすれば良かった……?」
「あ…………え、あっ、はいっ!幸尚様と奏様がセックスされているのが分かった時点で、ちゃんと服を脱いで見させてくださいとお願いするべきでした…………!」
「うん、それで許可されたらあかりちゃんはどうするの?」
「えと…………お二人を見ながら…………お許しがあれば、オナニーさせていただきます…………あ、お許しがなければちゃんと我慢します!!」

(なるほど、それが今のあかりちゃんの求めている命令なんだ)

 やはりあかりは聡い。
 幸尚がまだ命令に慣れていない事もきっと分かっていて、素直に、そして丁寧に話してくれる。

 私はこうやって管理されたいんです、と。

 ちゃんと伝えてくれてありがとうと幸尚はあかりの頭を撫で、そして頬をそっと両手で包み込んで目を合わせる。
 大丈夫、僕は怒ってないよと前置きして。

「そっか、それならちゃんとやろうか。今はリセット期間だから、自慰も絶頂も自由にしていいよ。でも、首輪はつけよう」
「っ、はい……」

 首輪、の言葉にあかりの目がどろりと溶ける。
 ああ本当に好きなんだ、これでいいんだと幸尚はどこか安心した様子であかりの挨拶と懇願を聞き、金属製の首輪を手に取った。

「……付けられるかな、僕初めてなんだよね…………」
「はぁ…………っ……」

 付けやすいように上を向いているあかりにその冷たい枷を添わせグッと押し込むと、カチリ、と首輪のロックがかかる音がする。
 それだけであかりはうっとりと嬉しそうに、悩ましい吐息を漏らすのだ。

「……いいよ、僕たちのセックスを見て一人遊びしてて」
「はいぃ、淫乱奴隷のあかりにご主人様達のセックスを見させていただいてありがとうございますぅ……!」


 …………


 あかりが奴隷らしく振る舞ったからと言って、幸尚に刺さる事はない。
 やっぱり自分はノーマルだなと再認識するくらいだ。

 けれども、健気に命令を喜び管理される幸せを露わにするあかりは嫌いじゃない。

「ぁあっ…………ぁ……」
「……ごめん奏、待たせちゃったね」

 早速準備を始めたあかりから視線を外し、幸尚は奏の耳に囁きかける。
 その刺激すら、敏感になった身体には堪らないらしい。ピクンと身体が跳ねる。

 そろそろ幸尚も限界だった。
 尿道責めで飛んだまま朦朧としている奏はいつにも増して可愛くて……ああ、早く奏の大好きな熱を与えてあげたい。

「ねぇ、奏…………後でこれで良かったか、教えてね」
「んぁ…………な、ぉ……?」
「ふふ、また後でね。今はほら、こっち」
「っ…………尚ぉっはやく…………熱いの、ここに……」
「んんん、奏っ煽るのうますぎ……!!」

 ここ、と愛おしそうに胎をさするその姿に、目の前が赤くなる。

 慌てるな、と奏は熱い塊をそっと窄まりに触れさせる。
 最初の頃に比べれば、すっかり幸尚の形を覚えたそこはすぐに柔らかくほぐれて幸尚を暖かく出迎えてくれるようになった。

「挿れるよ……はぁ…………熱い……」
「んああぁ…………すげ、今日の尚……いつもより固くて熱くて……はぁっ、溶けそうっ……!」

 ちゅうして、と手を伸ばしてくる奏を抱きしめ、柔らかな口の中を堪能する。
 ああ、どこもかしこも熱くて甘い。本当にこのまま溶けて、奏と一つになれたらどれだけ気持ちいいだろう。

 いつも不思議でならない。
 片方が熱ければ片方はそこまで熱くなさそうな気がするのに、どうしてこの交わりというのは二人とも熱を感じるのだろうかと。

「ぁ…………んぁつ…………はっ…………あぁ……」

 いつもより反応が鈍い。
 けれど中は幸尚を歓待していて、早く奥まで貫いてと誘ってくる。

「はぁ…………奏、奥とんとんしよう、ね」
「んっ、んおほっ!?…………ぁ…………」

 欲に任せてこじ開けると後で奏が辛い事を嫌というほど教えられたから、幸尚は辛抱強く奥をあやし綻ぶのを待つ。

 そのベッドの向こうでは、あかりがベッド下の道具入れからお気に入りのディルドを取り出して床に固定し、ジュポジュポと泡立つような音を立てながら一心不乱に腰を振っていた。

「んあっ、気持ちいいっ…………中っ、ゴリゴリされるのいいのぉ…………」

 ひっきりなしに上がる嬌声に(あかりちゃんも堪能してるな)と微笑ましく思いながら、ふと心を過ぎるのはこの熱のこと。

(…………あかりちゃんは、熱が欲しいと思わないのだろうか)

 いつも無機質な冷たいディルドに後孔を貫かれ、自らの手で慰めるだけ。
 ……誰かの手で、熱のあるもので、愛される気持ちよさをあかりは知らない。
 せいぜい自分たちの交わりを眺めて「気持ちよさそう」と息を荒げるだけだ。

(あかりちゃんにも知って欲しいな…………こんなに気持ちいいんだから……でも)

 熱を交わす幸せは、恋をしないと味わえないのだろうか。
 …………少なくとも幸尚は、あかりにそういう意味では触れたいとは思わない。
 大切で、大切すぎて、自分の熱を感じさせてしまったらあかりが、自分たちの関係が決定的に変わってしまう気がして。

(奴隷である以上、あかりちゃんはずっと一人で慰めるだけなのかな…………それは、ちょっとどうなんだろう)

 あれから調べまくった情報で、主従関係であってもセックスをするかどうかは分かれていた。
 夫婦であればするのかと思いきや、塚野は「私がペニバンで犯す事はあるけど、セックスはしない」と断言しているし、本当にそれぞれの関係次第なんだろう。

(…………奏はどうなんだろうな、あかりちゃんとセックスしたいんだろうか)

「なお、もう、だめ、もうむりぃ……!」と腕の下から涙声が聞こえて、慌てて幸尚は奏に口付けを落とす。

「ん、ごめんね。奥にいっぱい注いであげるから……もうちょっと頑張って」
「あひぃぃっ!?まっ、ちょ…………かはっ…………」

 まあいいや、今は可愛い奏との逢瀬を堪能しようと幸尚は奏のギブアップ宣言をさらりと交わしさらに腰を進めるのだった。


 …………


「お前…………ほんとに加減ってもんを…………」
「うう……ごめん…………」

 目が覚めてトイレに行った奏の悲鳴で慌てて向かった二人が見たのは、「チンコ死ぬほど痛え……!」と股間を押さえて涙目で悶絶する奏の姿だった。

「……俺、もうトイレ行きたくねぇ……」
「…………り、凛姉ちゃんにこっそり診てもらった方がいいんじゃ……」
「そんな事したら一生ネタにされるじゃねえか……」

 とは言え流石にマズいんじゃ、と二人に説得され、奏は渋々恥を忍んで姉にメッセを入れる。
 すぐにお腹を抱えて爆笑しているスタンプ付きで帰ってきた返信に「気合いで乗り切れだと……」とげんなりしていた。

「血尿も出て無いなら水飲んでしっかり出せってさ。帰ったら薬くれるって」
「そっか、良かったぁ…………尚くん、奏ちゃんの反応がいいのは分かるけど最初から飛ばし過ぎだよ?」
「うっ、ごめんなさい……」

 それはそうと、よく奏ちゃんも尿道責めをやろうって気になったねと無邪気に尋ねるあかりに「いや俺は一言も良いって言ってねぇ!」と反論する。
 そもそも今日は、あかりの排尿管理調教のための準備だったんだと事情を話せば「それは、なんかその、ごめんね?」とあかりもちょっと申し訳なさそうな顔をしている。
 ……いや、その目には明らかにおしがまへの期待と興奮が見て取れるのだが。

「まあ、おしがま自体は……うん、試験が終わってから計画を練るから少し先になるけど」
「もちろんいいよ!!はぁ、楽しみだなぁ…………」
「本当に楽しみなんだ、あれが…………あかりちゃん、強すぎる……あ、そうだ奏に聞きたいことが」

 幸尚はどことなくぐったりしている奏にセックス見学のルールをどうするか尋ねる。
「どうして良いかわからなくて」と幸尚があかりの要望で決めたと事情を話せば「それで良いと俺も思う」と奏も頷いた。

「にしても、そっか、尚があかりに自主的に命令したのは初めてだよな?」
「え、うん……でもあれは命令って言うの…………?僕、あかりちゃんのおすすめに従っただけなんだけど」
「いやちゃんとした命令だろ」

 そうかなあとどことなく自信がない幸尚と「でもすごく良かったよ!……私が言い出した事だけど」とよくわからない励まし方をしているあかりを前に、奏は「……んー、そうだな…………」と思案顔だ。

 やがて「うん、やっぱりそれがいい」と一人納得して幸尚たちの方を向く。

「尚、これからは変わりばんこで命令しよう」
「ええええ!?」

 そんな、いくらなんでもハードルが高いよぉと困り顔の幸尚に「大丈夫だ」と奏はにっこりする。

「おおまかなやることは3人で決めるだろ?」
「うん」
「で、尚はまずあかりに命令するんだ。どんな事をされたいのか、どう扱われたいのか、事細かに話せってな。事前に聞くんじゃなくて、敢えてプレイで言わせる」
「へっ」
「既に奴隷としての躾も入ってきてるし、あかりが俺たちに嘘や隠し事をすることはない。それは信頼している」
「う、うん。それはそうだね」
「で、尚はそれを聞いて、どう命令するかを決めれば良い」

 幸尚は基本的にあかりが楽しければそれで良いのだ。
 なら、まずはあかりが望む事を命令することから慣れれば良いと語る。

「暫くはそれで命令することに慣れて、慣れてきたら少しずつアレンジしていけばいいんじゃね?尚だって『ご主人様』なんだから、命令はできるようになったほうがあかりも嬉しい、だろ?」
「うん。奏ちゃんに命令されるのとはまた違うんだよね…………私だけの為に命令してくださる、ってのが強くて…………はぁ……」
「おいおいそこで発情すんなよ。ま、俺はあかりも大切だけど俺の性癖にも素直だしな!」
「んっ、それも……ご主人様に合わせなさいって言うのも、いい…………」
「奏、この状況のあかりちゃんにそれは逆効果」

 それじゃ試験勉強にならないんじゃと思いつつも、幸尚は机を出し遅まきながら本来のよう目的であった試験勉強の準備を整えるのだった。


 …………


「奏はあかりちゃんとセックスしたいと思う?」
「ぶっ!!」
「えほっえほっ……な、尚くんいきなりどうしたの…………」

 今日の勉強会を終えて夕食のひととき。
 最近は幸尚が料理を覚えたおかげで、奏とあかりが食材を持ち寄り皆で夕食を作ることが増えた。
「あの子達もはや3人で住んでる」「まああの3人だから間違いもないだろう」「間違ってもむしろ良いけどねぇ」と相変わらず親たちは呑気なものだ。

 今日は豚汁と秋刀魚の塩焼きだ。
 美味しい手料理に舌鼓を打ちホッコリしていたところに、先の幸尚の爆弾発言である。
 奏は思い切り茶を噴き出し、あかりは豚汁でむせてえらいことになっている。

「いやさ、SMの関係でもセックスする人はするから。奏もあかりちゃんもしたいって思うのかなって」
「うんそうだな、疑問に思うことは良いがタイミングってもんがあるだろ!」
「それに」
「いや話聞けよ!!」

 奏と交わるとその熱が気持ちよくて溶けそうになるんだと幸尚はうっとりした顔で話す。
 そこに惚気が多分に入っていることに幸尚は気づいていない。
 そろそろ気づいてあげたほうがいい、奏が隣で恥ずかしすぎて死にかけている事に。
 あかりにとっては貴重な推しの供給だから、当然止めないが。

「それでさ、ああ言うのをあかりちゃんとも交わしたくなるのかなって……えっと、奏、どしたの?」
「どしたの、じゃねえわ…………『結腸抜かれて声も出せずに痙攣しながら必死でキスをねだる顔が可愛い』とか真顔で女の子の前で言われて平気な恋人はいねえよ!!」
「?…………可愛いから、仕方ないんじゃ」
「あかりたすけて、おれもうだめ」
「骨は拾うよ」
「ひどい」

 崩れ落ちながらも「今はまだしない」と奏は断言する。

「今は、ってことはいずれはしたいと」
「いや、むしろ……貞操帯をつけたら、あかりの……洗浄も、寸止めするのもリセットの絶頂を与えるのも、全部『ご主人様』の仕事だから」
「あ」
「その、あかりと直接的な性行為をすることはない。それはあかりの将来を考えてもやらない方がいいって尚も言ってただろ?でも、貞操帯をつける以上、指や道具で触れるのはやることになる」

 そうだった、前にそんな事を言っていたなと幸尚は二人の熱弁を思い出す。
 何でも貞操帯をつけたら最後、あかりに性器に触れる権利はなくなるのだと。
 あかりの性欲は全てご主人様が管理するもので、例えお風呂であっても貞操帯は外せず、メンテナンスとして外す時は必ず手足を拘束して一切触れられないようにするのだそうだ。

「それってさ、僕らがあかりちゃんを気持ちよくできないと」とおずおず尋ねれば「そりゃもう、ご主人様による生殺し確定かな」と奏はきっぱり断言する。
 …………あかりちゃんはその横で「それも良いかも」なんて呟いているけど、それは聞かなかったことにしよう。

「だからその時が来たらあかりに触れる。…………その、尚、俺の恋人は尚だけだから」
「それは心配してない」
「言い切った」

 そこを気にしてくれる奏が可愛い……おっと、これ以上はいけないと幸尚はかぶりをふる。

 ただ奏は、あかりが嫌じゃないかは気になると零す。
 いくら幼馴染で、既にとんでもないものを見せ合っている仲とは言え、恋愛感情のない相手に性的に触れられる事に嫌悪感は無いだろうかと心配なのだ。

 夕食を食べ終え、洗い物をするのは奏だ。
 あかりは机を片付けお風呂に湯を張り、幸尚は奏の隣でお皿を拭いている。
 ちゃんとパジャマも持参していたから、今日も3人泊まりであかりは朝になれば稽古に戻るつもりなのだろう。

「ね、それなら試してみる?」
「何を?」
「……私に触ってみる?」
「「えっ」」

 返事をする間もなく、あかりはその場で服を脱ぎ捨てる。
 そして二人の目の前に座り「はい」と胸を差し出した。

「えええ、こんな軽いノリで触ってみて良いのかよ……」
「だって、いずれは触るんでしょ?なら今触っても一緒だよ」
「あかりの理論がおかしい」
「ほらがばっと!!」
「「うわあああああ」」

 突如二人の右手を手に取ったあかりが、自分の胸に手を押し付ける。

 むにゅ、と柔らかく、それでいてハリのある感触に…………二人の頭は完全に停止した。

「男の子はみんなおっぱいが好きなんだよねぇ、ただの脂肪の塊なのにさ…………あれ、どうしたの二人とも」
「あ、あああ、あかりちゃんのおっぱい、ふわふわ、おっぱい…………」
「お前な、俺らにも心の準備ってもんがあんの!!尚見ろよ、完全にぶっ壊れてるじゃんか!!……にしてもクッソやわらけえな…………」
「っんうっ……」
「あ、ごめん」
「ん、いいっ…………なんか、触られるといつもより……んあっ…………」

 フニフニとその柔らかさを堪能しながら頂をカリカリすれば、あかりの口からは悩ましい声が漏れる。

「ぁっ…………んっ………………んあぁっ……」
「気持ちいいよな、乳首って……俺、男なのに奏のおかげですっかり開発されちゃったもんな……こうやって、クリクリされながら先端をさするのも……」
「ひいぃっ!それ、きもちいぃ……っ!!んあっ尚くんっ、両方はあぁ…………」
「あ、尚、戻ってきた」
「……ふかふか…………やわらかい……」
「だめだ戻ってきてねえ」

 二人の手が、あかりの胸を愛で続ける。
 必死で腰を揺らしているところを見るに、相当感じているようだ。

(反応が全然違うな……俺だって尚に触ってもらう方が気持ちいいけど、あかりは俺たちの手でも怖くはならないんだ)

 その事実にホッとする。
 健全なる若者だ、下半身は当然元気になっているが、不思議とあかりに情欲が湧かないのはそれだけ幸尚にぞっこんだからだろうな、と一人心の中でごちる。

(これなら、大丈夫かもしれないな)

 奏が心の中で安堵する一方、あかりもまた、いつもとは全く違う快感に戸惑いを覚えていた。

(こんな、こんなにっ…………奏ちゃんと尚くんの指、あったかくて気持ちいい……っ!)

 じゅわんと愛液が溢れたのを感じる。
 乳首だけでこんなに気持ちがいいなんて、この指でクリトリスやお尻を触られたら……

 と、その時幸尚がのそりと動いて。

「奏…………」
「ん?…………んんん?おい待て奏、おっぱいに興奮したのは分かるけど何でこっち向いてあっ」
「……奏…………ちんちん痛い…………慰めて……」
「いやどうしてそうなった!?こら、降ろせってあかりそのまま放っておいたらだめだろって聞いてねえぇぇ…………」

 そっとベッドに奏を下ろしのしかかる幸尚に、あかりは暫しぽかんとし、そして「ぷっ」と噴き出す。

「尚くんは本当に奏ちゃんが好きなんだねぇ……私、ダシに使われちゃったみたい」
「いやごめんあかり、この詫びは必ずって尚は正気に戻れっ!!」
「正気だよ、奏…………ね、見て、あかりちゃんのおっぱいでこんなに硬くなっちゃった……責任とってよ、ね?」
「何で俺が責任とるんだよおぉ…………」

 まさかの本日2回目に目を白黒とさせる奏を「強く生きて、奏ちゃん」と励ましつつ、あかりはこの熱をどうにかするため首輪を手にしてその場に土下座するのだった。

 なお次の日、案の定ベッドの子となった奏により「尚はあかりが貞操帯をつけるまでに、あかりのおっぱいで暴走しないようになりやがれ、このおっぱい星人が!」とこんこんと説教を受けた幸尚は、それ以来折を見てはおっぱいチャレンジをして玉砕し、その度に奏を泣かす羽目になるのである。
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