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告発

相続権

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私は、一つずつ思い出しながら、考えを話していく。
それが、菫のしたかったことに気付くための、道だと信じて。

「昔、神主の二人以外にも巫女の面接をしていた女性がいたの。桃と八重っていう女性の、二人が。そこまでの仕事を任されるんだから、二人は双子の神主と一時は夫婦関係にあったんじゃないかな。そして、桃さんは、悠人くんを生んで、夫婦関係を解消した」
「・・・僕を、生んだ?」
「根拠のない、推論です」

私は鳩羽を無視して、黄金の酒を手に取って続ける。

「遺産の相続権は悠人くんにあったんじゃないの」
「仮にそうだとしても、なぜ私が殺そうとしたということになるんですか?論理が跳躍しています」
「あなたも、二人のどちらかの娘だから」
「何の根拠があって」

しかしその声は、あからさまに何か、よくない感情を押し殺した跡が見て取れる。
一瞬見せた鳩羽の鬼気迫った顔は、どこかあの神主を彷彿とさせていた。

「この鬼のボトルに入った黄金の酒や、鬼梅酒、鬼ワインを守る仕事を任されていた。それだけの信頼を得られるのはやっぱり肉親だったからだと思う。だからこそ、ぽっと出の悠人くんに遺産を横取りされることを避けたかった。ここは表向きは有名な神社だし、遺産もそれなりにはなるんじゃないかなって」
「・・・・」

「ただでさえその酒についてあなたは一度黙秘してるのよ?・・・何とか言った方がいいんじゃない?」
と、沈黙を守り続ける鳩羽に、月白が恐る恐る話しかけた。
疑いの視線をこれ以上浴び続ければ不利になると思ったのか、鳩羽はやっと口を開いた。

「・・・まだ私がプロの警備員だった、と言う方がマシな推理ですね」
「え~?今の推理当たってるよね、?」

間髪入れずに釘をさすかのような一言を放った彩芽の目は、口調とは裏腹に笑っていなかった。

「しょーじきになりなよ、はとりんはここを継ぎたいんでしょ?」
「そんなこと、ないですよ」
「いやいや、もうそんな嘘ついたってしょうがないじゃん。」

彩芽はそのままの顔で鳩羽に歩み寄り、片手で鳩羽の両頬を挟む。
ふぐの様な間抜けな顔になった鳩羽の顔にぐっと自らの顔を寄せると、声色を一つ下げてこういうのだった。

「どっちにしたって、私はもう、、はとりんから目を離さない」
「ッ!お前、黛のッ・・・!」

「え、これって、百合ってことなのォ?」とはしゃぐ老竹だったが、それ以外の面々もジェラピケを着た若い娘がにじみ出している有無を言わせぬ雰囲気に息をのんでいる。
私も、抜けた調子の彩芽さんとは口調こそ同じなのに、まるで別人のような威圧感にたじろいでいた。
そのことに気付いたのか、彩芽は元の調子に戻って続ける。

「せめて、『蛭子』を名乗ったのかだけ正直に言おっか」
「・・・私には紅丸を殺害する動機はないし、3人を焚きつけた蛭子でもない、完白です。誓ってもいいですよ」
「それ言っちゃうと今まで誓ってこなかった分が全部疑わしいけどね」

そう言う彩芽を眼鏡の向こう側で睨みつけながらも、何も言い返さない鳩羽。
その様子を見るに、きっと悠人くんへの罠を張ったのは鳩羽なのだろう。
追いやられるように紅丸殺しの容疑者3人の方へと移動する鳩羽だったが、その三人からもやや距離を開けられ、結局彼女は誰も味方がいないような場所でちょこんと座ることになる。
鳩羽に嫌な視線を送っていた一人である月白は、彩芽に向き直った。

「この際だから、アナタが何者なのか聞いておきたいじゃない」
「おん?ただのお酒泥棒だよ?」
「はぁ?」
「だから、この酒黄金の酒もちょっと飲んじゃった。あんまりおいしくはなかったけど」
「はぁ?」

人殺しに、泥棒に。
この神社にろくな人間はいないのか。

「よくそんなこと言えますね」呆れたように鳩羽はため息を吐いた。「ボトルに入っていたダイヤを盗んでおいて」
「私が見つけた時には、ボトルには酒しか入ってなかったよん?」

首を傾げる彩芽。
鳩羽はもうこりごりだと言わんばかりに、ポツリと呟くのだった。

「呆れるほどに陳腐な嘘、これで確定です」



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