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そして、朝
犯人
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「犯人はおーぎ、あんただよね」
向日葵は、淀んだ目でまっすぐに赤い髪の男を見つめた。
「・・・えぇん?俺?なんで」
仰木はわからないという風に首を振った。
しかしそれも、真相にたどり着いた向日葵からしてみればただのこざいっくにしか見えない。
「ダイイングメッセージは、確かに存在したんだよ。それも全員を犯人として指名できるように」
向日葵はそう言いながら、テーブルの上にデッサンを広げた。
「それ、黒須のだよな」
「似てるよね、死体の格好と」
向日葵の言う通り、死体もデッサンもベッドの上で、うつ伏せだ。
指こそ書かれていないが、確かに状況は一致する。
「ツナッシー、このポーズは誰の指示だったの?」
「猫原自身が、デッサンのポーズは指定したが・・・」
「そうだよね」
向日葵は、推理の確信を語り始めた。
「にゃんたそは、事前に自分の遺体をデッサンのモデルにしたんだ」
「じゃあ、黒須が犯人じゃないか!」仰木は狼狽した。「なんで俺が犯人なんだよ!」
「にゃんたそは犯人がデッサンと自分の死体が似てるって気付くかもって、思ったんだよ。だから、犯人には、犯人が名指しされているデッサンは渡さなかった」
「そうか・・・!」黒須が唸った。「住所か」
「そう。『福城県滑川町吉良1丁目12』には、112の数字が入ってる。これは、あの本棚で言うところの『扇動の力学』の番号だよ、仰木」
ご丁寧に、「吉良」とまで添えられている。
正しくは「真鱈」も「ホーミーサイド」も、殺人犯を意味するのだが。
仰木は「おかしいって!」と椅子から立ち上がり、後ずさった。
「死体が動かされたら、それこそ訳が分からなくなるじゃないか!ただの偶然だろ!」
しかし黒須は追い打ちをかける。
「わざわざ福城県なんていう架空の住所を使ってまで彼女が残したんだ。ただの偶然なわけがない」
向日葵は、死体を動かしにくくすることまで含めて、猫原が罠を張っていたことに気付いていた。
「にゃんたそが言い出したんじゃない?返り血がかからないように布団越しに刺し殺してって。おーぎはそれを受け入れた結果、逆に死体は動かしにくくなった」
仰木は目を見開いている。
その額には脂汗がじっとりとにじんでいた。
「でもあの指の形を見て、何かダイイングメッセージを残したかもって気付いたんだ。最初から本と自分たちの名前の関係性に注目していたおーぎは、その意図にすぐに気付き、つなっしーが犯人だと読めるように本を入れ替えた」
その上で、血を使ったダイイングメッセージも偽装したのだ。
自分ではなく、黒須が犯人であるかのようにするために。
「ちがう、俺じゃない」と、小さく譫言のように仰木は呻く
「それもこれも、死体そのものがダイイングメッセージだとは思わせないための時間稼ぎだったんだよ」
つまり、猫原は最初から部屋に入ってくる犯人と交渉するつもりでいたのだ。
向日葵が入ってきたら椅子に座って殺される。
黒須が入ってきたら壁にもたれかかって殺される。
・・・そして仰木が入ってきたら、ベッドの上で殺される。
「もう一度言うけど。裏切り者は仰木だよね」
仰木が肯定するよりも前に、天井から機械音声が短く答えた。
『探偵の指名は当たっていたのだ』
『おめでとうなのだ、ヒュウガヒマワリさんとクロスツナシさんはここで脱出なのだ!』
直後、暗転する青い部屋。
ウワッ、という小さい仰木の悲鳴が聞こえたかと思うと、ふわりとした感覚が二人を襲った。
エレベーターよろしく、足元の床がどんどんと下がっているのだ。
このデスゲーム、部屋に一方的に入れる時点で裏切り者の方が多分に優位に見えていた。
・・・しかし違ったのだ。
「最初から自分が殺される」と覚悟を決めてしまえば、いくらでも対抗できる。
暗闇の中、黒須は向日葵に聞いた。
「よく気付いたな」
向日葵は恥ずかしそうに小さく笑った。
「まぁ、岩岡県なんてどこにもないってのは、ウチでもぎりわかるからね」
向日葵は、淀んだ目でまっすぐに赤い髪の男を見つめた。
「・・・えぇん?俺?なんで」
仰木はわからないという風に首を振った。
しかしそれも、真相にたどり着いた向日葵からしてみればただのこざいっくにしか見えない。
「ダイイングメッセージは、確かに存在したんだよ。それも全員を犯人として指名できるように」
向日葵はそう言いながら、テーブルの上にデッサンを広げた。
「それ、黒須のだよな」
「似てるよね、死体の格好と」
向日葵の言う通り、死体もデッサンもベッドの上で、うつ伏せだ。
指こそ書かれていないが、確かに状況は一致する。
「ツナッシー、このポーズは誰の指示だったの?」
「猫原自身が、デッサンのポーズは指定したが・・・」
「そうだよね」
向日葵は、推理の確信を語り始めた。
「にゃんたそは、事前に自分の遺体をデッサンのモデルにしたんだ」
「じゃあ、黒須が犯人じゃないか!」仰木は狼狽した。「なんで俺が犯人なんだよ!」
「にゃんたそは犯人がデッサンと自分の死体が似てるって気付くかもって、思ったんだよ。だから、犯人には、犯人が名指しされているデッサンは渡さなかった」
「そうか・・・!」黒須が唸った。「住所か」
「そう。『福城県滑川町吉良1丁目12』には、112の数字が入ってる。これは、あの本棚で言うところの『扇動の力学』の番号だよ、仰木」
ご丁寧に、「吉良」とまで添えられている。
正しくは「真鱈」も「ホーミーサイド」も、殺人犯を意味するのだが。
仰木は「おかしいって!」と椅子から立ち上がり、後ずさった。
「死体が動かされたら、それこそ訳が分からなくなるじゃないか!ただの偶然だろ!」
しかし黒須は追い打ちをかける。
「わざわざ福城県なんていう架空の住所を使ってまで彼女が残したんだ。ただの偶然なわけがない」
向日葵は、死体を動かしにくくすることまで含めて、猫原が罠を張っていたことに気付いていた。
「にゃんたそが言い出したんじゃない?返り血がかからないように布団越しに刺し殺してって。おーぎはそれを受け入れた結果、逆に死体は動かしにくくなった」
仰木は目を見開いている。
その額には脂汗がじっとりとにじんでいた。
「でもあの指の形を見て、何かダイイングメッセージを残したかもって気付いたんだ。最初から本と自分たちの名前の関係性に注目していたおーぎは、その意図にすぐに気付き、つなっしーが犯人だと読めるように本を入れ替えた」
その上で、血を使ったダイイングメッセージも偽装したのだ。
自分ではなく、黒須が犯人であるかのようにするために。
「ちがう、俺じゃない」と、小さく譫言のように仰木は呻く
「それもこれも、死体そのものがダイイングメッセージだとは思わせないための時間稼ぎだったんだよ」
つまり、猫原は最初から部屋に入ってくる犯人と交渉するつもりでいたのだ。
向日葵が入ってきたら椅子に座って殺される。
黒須が入ってきたら壁にもたれかかって殺される。
・・・そして仰木が入ってきたら、ベッドの上で殺される。
「もう一度言うけど。裏切り者は仰木だよね」
仰木が肯定するよりも前に、天井から機械音声が短く答えた。
『探偵の指名は当たっていたのだ』
『おめでとうなのだ、ヒュウガヒマワリさんとクロスツナシさんはここで脱出なのだ!』
直後、暗転する青い部屋。
ウワッ、という小さい仰木の悲鳴が聞こえたかと思うと、ふわりとした感覚が二人を襲った。
エレベーターよろしく、足元の床がどんどんと下がっているのだ。
このデスゲーム、部屋に一方的に入れる時点で裏切り者の方が多分に優位に見えていた。
・・・しかし違ったのだ。
「最初から自分が殺される」と覚悟を決めてしまえば、いくらでも対抗できる。
暗闇の中、黒須は向日葵に聞いた。
「よく気付いたな」
向日葵は恥ずかしそうに小さく笑った。
「まぁ、岩岡県なんてどこにもないってのは、ウチでもぎりわかるからね」
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