十字館の犠牲

八木山

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昼時間①

ゲームマスターなのだ

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『この中に、裏切り者インポスター☆がいるのだ』

青い部屋に響き渡る無機質な合成音声。
いや、この抑揚のない声は解説動画でも流行っている機械音声だ。
向日葵は枝豆の妖精のような声のアナウンスに耳を傾けた。

『裏切り者は、これから3時間以内に殺人事件を起こしてほしいのだ』
『殺人事件が起きたら、生き残りの中で探偵が決まるのだ』
『探偵は決められてから1時間以内に裏切り者を指名するのだ』
『裏切り者は探偵に指名されたら、この部屋に残ってもらうのだ』
『探偵が裏切り者を間違えて指名したら、裏切り者以外の人全員にここに残ってもらうのだ』
『裏切り者が3時間以内に殺人事件を起こさなければ全員ここに残るのだ』
『今回2回目なので、2時間たって誰も死んでなければ特別時間を設けるのだ』
『特別時間とは、裏切り者以外の全員が自室の外に出られない時間なのだ』
『裏切り者だけは誰か一人の部屋にも自由に出入りできるのだ』
『最後に。自分が裏切り者か探偵かは、自室で一人で自分のカードを裏返したらわかるようになっているのだ』
『以上、ず〇だもんでしたなのだ』

ずん〇もんって言っちゃったけど。
終わり終わりと言わんばかりにブー、というブザーが鳴る。

黒須は向日葵の方を向き、言った。

「外に出るためには誰か一人は最低でも死なないといけないし、誰かこの部屋に残らないといけないってことだ」

お互いがお互いの顔を見る。

「まずは自分が裏切り者インポスターか確認しよう。各々見たらすぐここに戻ってくる。それでいいか?」
「待って」

向日葵の毅然とした声に、全員が振り返る。

「いんぽすたー、って英語?どういうスペルか教えて?」


***

理不尽だ。人間を馬鹿にしているのか?そんなことで殺人を犯すわけないだろ。

(とは、一概に言えないよな・・・)

全員野垂れ死に。それだけはカンベンしてほしい。
そうなると、裏切り者側もある意味では必要な犠牲だ。

(いや、いかん、いかん。それでも人殺しだけはダメだ。夜眠れなくなる)

単なる思い付きをぶんぶんと振り払うように首を振る。
人にとってはそういう極限状態に平気でなりうるのだ
向日葵は思わず生唾を飲み、心の中で身構える。
そして、ゆっくりとカードをめくるのだった。

 生 ぎ だ い"
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