十字館の犠牲

八木山

文字の大きさ
上 下
4 / 24

狂人

しおりを挟む
自分が何者かによって、自分の部屋以外の場所に運ばれたことだけは理解できた。

白い部屋から出る方法はないのか。
出られないにしても、水と食事はあるのか。
あとトイレ。それに風呂とシャワーと、freeのWi-fiがあれば完璧。

「いや、それくらいはあっていいはずなんよね」

向日葵はベッドの上で跳ねながら、つぶやく。
ベッドの上で跳ねる行為は、決して無駄とは思っていない。
弾力ふかふか、体臭もしない。間違いなく清潔で高級なベッドだ。
ジャンプして天井に手が届くわけでもない。
照明はもっと別の方法で消さねばならない。
そうしなければ、二度と安眠できん。許容範囲は豆電球。

ボインボインと跳ねたのにはもっと深い理由があった。

この部屋のどこかに監視カメラの類があるのではないか。
ここに閉じ込めて終わりというわけがない。
監禁や金が目的にしては拘束が緩すぎる。
となると、ここに連れてきた変態ヤローは私がここから出るのを見ているのではないだろうか。
例えばそう、サルが天井からぶら下がったバナナをどうとるのかの観察実験のように。

観客がいるなら応えよう!そしてスパチャを投げるがいいわ!
その心意気から、こうして5分弱にわたりベッドのバネを消耗している。

ボイン、ボイン

はたから見ればチンパンジーよりやや低い知能レベルに見える愚行。

ボイン、ボイン

それでも少なくとも、彼女にとっては深い理由があった。

「あー、狂ったフリだったんだけどなー!誰も来ないかー!」

頬を赤らめた向日葵は一人で誰に言うでもなく、にしては大声でそう言いベッドから降りた。
狂人を真似ればまた狂人である。
しおりを挟む

処理中です...