十字館の犠牲

八木山

文字の大きさ
上 下
3 / 24

日向向日葵

しおりを挟む
見知らぬ部屋。見知らぬ服。
状況を説明する真実の可能性として浮上した、ワンナイト♡らぶ。

は?ないない。つーか、昨日は部屋から外出てないし
っつーか・・・そもそも今何時?配信に間に合うん?つか、配信の予定も覚えてねぇけど。草。

エンタメ系配信者として生計を立てている日向向日葵ひゅうがひまわりにとって配信とは「草」で済ませられるほど優先度が低いはずもないのだが、そんなこと彼女はお構いなしだ。
パタパタと布団を叩きスマホを探すが、見つからない。
壁を見回して時計を探すが見つからない。
あるのは壁に備え付けられたテーブルに本棚、そしてスライド型のドアくらいなもので、ここがどこで、今何時かが分かりそうなものは何も見当たらない。

「おーい!誰かいますかー!」

と大声をあげてみるも、誰も返事はない。
彼女の配信者としての豊かな深夜実況で騒いで部屋を追い出された経験上、声の響きの漢字からこの建物がしっかりとした防音設計であることが分かる。

(あーこれ、閉じ込められたってやつ?あるいは見知らぬ天井的な?)

状況を理解したのなら部屋中駆け回って脱出の手段を探せばいいのに。
彼女は何を思ったかベットに腰かけて、コメカミを両手の指で押さえながら頭を巡らせる。

ドッキリだと仮定すると、今のところ絵的にハネそうな要素は今のところない。
部屋中白すぎ・モノなさすぎ・照明焚きすぎ。
これじゃ黒幕の狂気とか恐怖よりも、チープなセンスのなさと非現実味の方が勝ってしまう。

つまりオモロないねん!かーっ!

「ないわー!色んな意味でないわー!」

リアルガチで誘拐されたんならカメラで撮って動画にしたのに!
それが彼女の叫びの真意だった。
一休宗純もびっくりの、欲深さである。
しおりを挟む

処理中です...