十字館の犠牲

八木山

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二度寝

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視界が赤い。
そう、目を瞑っているのに強い光が顔に差しているんだ。
彼女はこの感覚を何度も経験していた。
「いつものアレか」と、端正な顔を飛び切り不細工にしかめて、掛布団から這い出る。
そして、うーうーと獣のように唸りながら、伸ばした手をぶんぶんとがむしゃらに振り回した。
おおよそ2秒もの間決死の探索を終えた盲目の獣ブラインド・ビーストは、ついぞ電気を消すリモコンが見つからないと悟ったのだった。

「チッ」

舌打ちをして再びもぞもぞとベッドへと戻る。
そして掛布団にくるまり、二度寝を始めるのだった。

どう考えたって電気のリモコンを手が届かないところに置いたはずがないんだけどな。
というところまでは彼女も考えることができた。
しかし、それ以上の努力にひざを折らない芯の強さこそが、彼女の魅力でもある。

さて、どれほどの時間が経ったのだろうか。
魚が陸に上がり恐竜になるのに等しい時間を二度寝に費やした彼女は、おぼろげな夢を見た。

そう、あれは去年のハロウィンのことだった。
イツメンでコスプレして渋谷を練り歩こうとしたのだ。
いなみん、みかぷ、夏の悪魔の3人は示し合わせたよユニペンギンの着ぐるみを着てきた。
ヨチヨチ歩く3人に囲まれた自分だけが、ハーレクイン。

鳥て。つか、ペンギンて。
せめて一人くらいはタキシード着てる方のペンギンで来いよ。
あー、あの時は寒かったわ。主にミニスカが。あと周りの視線ね。

夢から足がちょびっとだけ出た彼女の体が、ブルリと体を震わせる。
シンプルに肌寒い。いつものパジャマと着心地が、というか袖の長さが違う。
自ら安眠を拒絶せんがごとき愚行、全世界惰眠貪り協会員たるもの、断じてあってはならない。

「チッ・・・がよォ・・・」

舌打ち交じりに上体を起こし、上着を探そうと目を開けた瞬間だった。
窓のない、壁が真っ白の部屋が目玉を通して脳みそに投射される。

「え、ここどこ?」

思わず独り言が口から洩れる。
彼女が丹精込めて作り上げた双子の妖精ギギ群青レレえんじの部屋はそこにはなかった。

・・・まさか、された?


(ありえねぇ~・・・)
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