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24年8月30日
俺はドリンクバーを見るとメロンソーダとコーラを混ぜてしまうが君はどうだ
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「長峰が根岸を捕まえた!」
水樹はウチの方を見てめっちゃテンション高くそう言うと、拳を高く突き上げてから、「ッシャァ!」と叫ぶ。
「はぁ?」と、私が間の抜けた声を出すと、つかつかと歩み寄りって肩をバシンと叩いた。
「だから、長峰が犯人を捕まえたんですよ!先生!しかも拳銃乱射の現行犯で!ははは!」
たまらないというように、眉間に手を当てる。
「売れる、これは売れるぞ」と、喜びを隠そうともしない。
「快挙快挙!快挙のシューリンガンですよ!」
「・・・韓国のシュークリーム?」
シューリンガンってなんだ?
つまりこういうことらしい。
昨日の時点で長峰ちゃんたちは背の高い男が犯人だと山を張っていたのだ。
そしてきっと、配信ライブの練習をするときに、梅田に対して何か行動を起こすはずだ、と。
だから、事前に渋谷のカラオケボックス全てに社員やバイトを張らせておいたのだという。
何と言う組織力!なんというごり押し!
「じゃあ長峰ちゃんのこと、危険ってわかってて向かわせてるじゃん!」
「それが会社員ですよ、先生」
「サイテー!クズ!人たらし!ダッセー髪型!」
やばい、言いすぎた。
ウッウンと咳払いして、水樹はウチの目の前で、初めてオールバックにしている髪を下ろした。
「でもよくそのライブ収録が今日の渋谷だってわかったね」
「昨日吉元の事務所で聞いてきたんです。折角ですし収録現場で取材をしたい、そう言ったら快く教えてくれましたよ」
そう言うと水樹はいそいそと席を立った。
お笑いは知識が浅く、これからインプットするという。
そう言って笑う男に何か聞きたいことがあったはずなのだが、どうにも思い出せない。
「とにかく先生もカラオケボックスに行かれてみては?警察がわんさと集まるところを見られるかもしれませんし」
そう言って会議室を後にする水樹。
何か流された気もするが、言っていることに間違いはない。
一人だと少し広く感じる会議室にいたたまれなくなった私も、その場を後にするのだった。
◆◆◆
「で、なんで物造がいるんだ?」
ドリンクバーの機械から黄色い炭酸飲料を出しながら、湯本は尋ねた。
グラスに氷を入れるとその分液体が少なるから入れない、というのが湯本の癖である。
「記者の人がいるのはわかったけど。肝心のお前がいる説明になってないじゃんか」
「昨日タクシー代出してもらうついでに、連絡先交換しててさ。危険な取材になるからボディーガードになってほしいって言われたんだよ」
物造はジョッキいっぱいにメロンソーダを注ぎながら答えた。
グラスになみなみ氷を入れて、キンキンに冷やす。
炭酸飲料とはこうでなくては!
「上半身裸じゃ危険じゃない?」
「カラオケで歌ってたらアツくなっちゃってさ!いい気分で神話になってたのにお前らが邪魔すんのが悪いんだぜ?」
「そもそもどうしてこの店を張ってたんだ?」
俺はそう言って、2つだけ氷の入ったグラスに入ったウーロン茶を、少しだけ飲んだ。
暑くて熱くて仕方がなかった剣道着をようやっと脱げたからか、たかが市販のウーロン茶が甘露のように感じられる。
「他にもカラオケ屋ならたくさんあるだろ?そうでなくても貸し会議室とかでもネタ合わせはできるってのに」
「それなんだけどさ、このカラオケ屋、どうやらエロ目的で使われてて有名なんだよ」
歩きながら物造は説明した。
殺人事件を起こすなら、監視カメラがエレベータについていたり、フロントで会員カードを見せないといけないような場所は選ばないだろう、そう記者の女は考えた。
同じように利用者にとって自身の素性が基本わからない方がいい建物は何か、と考えた時に真っ先に浮かんだのがラブホテルだったという。
ラブホテルだと男女でのネタ合わせには、カラオケ屋だと殺人事件には向かないが、ラブホテルの様なカラオケ屋なら両方のニーズに応えられる。
「バクサイっていうの?そういうサイトで調べたらここが出てきたんだとよ」
「はえ~」
まあ、何はともあれ。
本物の自動拳銃相手にけが人一人出さずに済んだのは、ラッキーと言うほかない。
俺たちは避難用階段から身を乗り出し、階下を眺める。
ちょうど、パーカーで顔を隠した根岸がパトカーに乗せられていくのが見えた。
まるで大作映画でも見たかのように大きく息を吐いてから、湯本はポツリと呟いた。
「あの女の人、取材はきっちりやったんかね」
「そんなこと気にしてどうする」
「やったことは許されないし、歌を本気にとって心中するとかマジで意味不明だけどさ」
コーラをチビ、と飲んで、ううむと唸る。
「推しにファンネームを別人に勝手に当てがわれて、その上で阿吽の呼吸で漫才までされたら、流石にかわいそうじゃない?」
水樹はウチの方を見てめっちゃテンション高くそう言うと、拳を高く突き上げてから、「ッシャァ!」と叫ぶ。
「はぁ?」と、私が間の抜けた声を出すと、つかつかと歩み寄りって肩をバシンと叩いた。
「だから、長峰が犯人を捕まえたんですよ!先生!しかも拳銃乱射の現行犯で!ははは!」
たまらないというように、眉間に手を当てる。
「売れる、これは売れるぞ」と、喜びを隠そうともしない。
「快挙快挙!快挙のシューリンガンですよ!」
「・・・韓国のシュークリーム?」
シューリンガンってなんだ?
つまりこういうことらしい。
昨日の時点で長峰ちゃんたちは背の高い男が犯人だと山を張っていたのだ。
そしてきっと、配信ライブの練習をするときに、梅田に対して何か行動を起こすはずだ、と。
だから、事前に渋谷のカラオケボックス全てに社員やバイトを張らせておいたのだという。
何と言う組織力!なんというごり押し!
「じゃあ長峰ちゃんのこと、危険ってわかってて向かわせてるじゃん!」
「それが会社員ですよ、先生」
「サイテー!クズ!人たらし!ダッセー髪型!」
やばい、言いすぎた。
ウッウンと咳払いして、水樹はウチの目の前で、初めてオールバックにしている髪を下ろした。
「でもよくそのライブ収録が今日の渋谷だってわかったね」
「昨日吉元の事務所で聞いてきたんです。折角ですし収録現場で取材をしたい、そう言ったら快く教えてくれましたよ」
そう言うと水樹はいそいそと席を立った。
お笑いは知識が浅く、これからインプットするという。
そう言って笑う男に何か聞きたいことがあったはずなのだが、どうにも思い出せない。
「とにかく先生もカラオケボックスに行かれてみては?警察がわんさと集まるところを見られるかもしれませんし」
そう言って会議室を後にする水樹。
何か流された気もするが、言っていることに間違いはない。
一人だと少し広く感じる会議室にいたたまれなくなった私も、その場を後にするのだった。
◆◆◆
「で、なんで物造がいるんだ?」
ドリンクバーの機械から黄色い炭酸飲料を出しながら、湯本は尋ねた。
グラスに氷を入れるとその分液体が少なるから入れない、というのが湯本の癖である。
「記者の人がいるのはわかったけど。肝心のお前がいる説明になってないじゃんか」
「昨日タクシー代出してもらうついでに、連絡先交換しててさ。危険な取材になるからボディーガードになってほしいって言われたんだよ」
物造はジョッキいっぱいにメロンソーダを注ぎながら答えた。
グラスになみなみ氷を入れて、キンキンに冷やす。
炭酸飲料とはこうでなくては!
「上半身裸じゃ危険じゃない?」
「カラオケで歌ってたらアツくなっちゃってさ!いい気分で神話になってたのにお前らが邪魔すんのが悪いんだぜ?」
「そもそもどうしてこの店を張ってたんだ?」
俺はそう言って、2つだけ氷の入ったグラスに入ったウーロン茶を、少しだけ飲んだ。
暑くて熱くて仕方がなかった剣道着をようやっと脱げたからか、たかが市販のウーロン茶が甘露のように感じられる。
「他にもカラオケ屋ならたくさんあるだろ?そうでなくても貸し会議室とかでもネタ合わせはできるってのに」
「それなんだけどさ、このカラオケ屋、どうやらエロ目的で使われてて有名なんだよ」
歩きながら物造は説明した。
殺人事件を起こすなら、監視カメラがエレベータについていたり、フロントで会員カードを見せないといけないような場所は選ばないだろう、そう記者の女は考えた。
同じように利用者にとって自身の素性が基本わからない方がいい建物は何か、と考えた時に真っ先に浮かんだのがラブホテルだったという。
ラブホテルだと男女でのネタ合わせには、カラオケ屋だと殺人事件には向かないが、ラブホテルの様なカラオケ屋なら両方のニーズに応えられる。
「バクサイっていうの?そういうサイトで調べたらここが出てきたんだとよ」
「はえ~」
まあ、何はともあれ。
本物の自動拳銃相手にけが人一人出さずに済んだのは、ラッキーと言うほかない。
俺たちは避難用階段から身を乗り出し、階下を眺める。
ちょうど、パーカーで顔を隠した根岸がパトカーに乗せられていくのが見えた。
まるで大作映画でも見たかのように大きく息を吐いてから、湯本はポツリと呟いた。
「あの女の人、取材はきっちりやったんかね」
「そんなこと気にしてどうする」
「やったことは許されないし、歌を本気にとって心中するとかマジで意味不明だけどさ」
コーラをチビ、と飲んで、ううむと唸る。
「推しにファンネームを別人に勝手に当てがわれて、その上で阿吽の呼吸で漫才までされたら、流石にかわいそうじゃない?」
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