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24年8月29日 みんなの漫才ライブ主宰誕生日特別会
俺は奇数人で食事をすると話題が別れて自分が入れない瞬間があるが君はどうだ
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「ハイ、馬鹿にしかできない寝苦しい夜の裏技と言えば」
「え~・・・あのホンコワ、ホントにあった怖い話、あのTBSとかでやってたやつ。あれの、トゥ~ル~ルル~ル~みたいなBGMを寝る時に流しながら、寝る」
「長いしおもんない。バリヤバいすね」
凛とした美女が、自分よりも一回り背の高い男へ、大喜利のダメ出しをしている。
俺たちは、下北沢のイタリアンレストラン「Giorno」の一角で、顔を隠しながらそれを伺っていた。
勿論、長身の男が何者なのかを探るためだ。
当の色竜嬢は、何処からともなく取り出したフリップを男に渡し、以降ずっと大喜利しているのだが、今の所席を立つ様子はないし、男の方も毒を入れてやろうとは考えていないらしく、熱心に大喜利を答えていた。
・・・他の客にとってはいい迷惑なのではないか?
「あれは川崎のアニキじゃないな。もっと背は低かったし、大喜利も上手かった。俺は『ベーコンとサラミのピザ』で」
塩っ気の強い豚肉しか乗ってなさそうなピザを頼みながら、マサムネギはきっぱりと断定した。
流石に何時もの服装で来たらバレると思ったのだろう、スーツ姿だし、韻も踏んでいない。
因みに「馬鹿にしかできない寝苦しい夜の裏技と言えば」の回答は、「水をいっぱい飲む!!!」
「有楽町で色竜さんをストーキングしてたやつに似てません?『ビッチラザニア』と『照焼チキン』のハーフアンドハーフ、『マルゲリータ』はモッツァレラ追加トッピングで」
俺がPewDiePieに怒られそうな名前のピザを頼みながらマサムネギに投げかけると、「言われてみれば背格好は似てるな」と頷いた。
因みに「馬鹿にしかできない寝苦しい夜の裏技と言えば」の回答は、「いっそ寝ずにカブトムシを取りに行く」
「つまり、元々引っ付いてたストーカーが、これ幸いと近付いたってことスか?このクアトロってやつで、『ダブルエッグ』、『3種のビーフ&チーズ』、『5つの夏野菜とかぼちゃ』、『10倍ハラペーニョ』で」
宮古島が、もはや合計で何が何種類乗ってるのかもわからないオーダーを繰り出すと、中年男性の店員は「ご注文を繰り返します」と律義に一つ一つ確認し始めた。
魔法の呪文がダラダラと流れ出る間、宮古島は慣れた手つきで色竜嬢たちをスマホで隠し撮りし始める。
こいつも、電車でぐうたら寝ているオッサンをネットに晒上げているのだろうか。
因みに「馬鹿にしかできない寝苦しい夜の裏技と言えば」の回答は、「クーラーを2個付ける」
宮古島のストーカ犯人説に、マサムネギは「それは違うと思う」と切り返した。
「むしろ、殺人犯がストーカーだったと考えるべきだろ」
「というか、あそこで大喜利に巻き込まれてる男が犯人じゃないとしたら、二人が危ないんじゃ」
「先輩、そこは大丈夫ッス」
宮古島が言うには、彼女の担当編集である長峰が気を効かせて、二人のためにタクシーを手配していたというのだ。
よく背景を理解していない物造は、昏寧堂出版と言う、刊行物の知名度はないくせにいっちょ前に会社名だけ知られている竹書房とどっこいの出版社の人間が自分に何の用だと当初困惑していたものの、
「C@の海老原さんも認める漫才師として今度取材させてほしくてぇ~その前払いみたいなものでぇ~」
という年上の女性のお願いを真に受けたらしく、名刺を受け取って結局ノリノリでタクシーに乗って帰っていったという。
「直接見てたお前から見てどうだ、焼き肉食べ太郎。アイツは何者だと思う?」
マサムネギに促され、色竜嬢と彼の漫才を振り返る。
ネタ自体は、あの男は「ノーコメント」というセリフに対し、ボケの色竜嬢がああだこうだと理屈を垂れる構成。
要は、臨時の相方が覚えるセリフ量を極限まで減らした漫才だった、と言える。
問題はそのツッコミ役。
セリフの他には、若干のリアクションがあるだけだが、それがちゃんと場をオトす機能を果たしていた。
「全体的に漫才が小慣れてたんですよね」
アマチュア漫才と言うのは、人によっては一世一代の舞台だ。
足をがたがた言わせて緊張している人もいる中で、彼はあまりにも自然に漫才をこなしていた印象がある。
「つまりそれは、俺より漫才が上手かったってこと?」
言おうかどうか迷うが、上手かったかどうかで言えば、上手かった。
マサムネギが下手というわけではない。
バトルMCとしてネタに頼れないシーンの中では、精神的に前傾姿勢になることが要求されるためだろう。
故に、暗記したセリフを読んでいる部分が分かりやすいのだ。
一方であの男はあくまでもネタの世界の中に潜り込み、自然な行動を取っているように見えた。
全体的に、ネタ臭くなかったのだ。
そこを気にするのかよ、とも言ってられない。
何せ、漫才の相方の座を狙われているのかもしれないのだ。
・・・色竜嬢があの男を選んでしまったら、その時点で被害者はこれ以上増えないかもしれないけども。
「何て言うんですかね、テレビで見る感じって言えばいいです?」
「インディーズじゃなくメジャーみたいなこと?」
「まあ、はい、多分そうです」
「マジか・・・」と、頭を抱えるマサムネギ。
その姿を見て、宮古島は呆れかえったように言うのだった。
「HipHop一本にすりゃいいじゃないスか・・・」
「え~・・・あのホンコワ、ホントにあった怖い話、あのTBSとかでやってたやつ。あれの、トゥ~ル~ルル~ル~みたいなBGMを寝る時に流しながら、寝る」
「長いしおもんない。バリヤバいすね」
凛とした美女が、自分よりも一回り背の高い男へ、大喜利のダメ出しをしている。
俺たちは、下北沢のイタリアンレストラン「Giorno」の一角で、顔を隠しながらそれを伺っていた。
勿論、長身の男が何者なのかを探るためだ。
当の色竜嬢は、何処からともなく取り出したフリップを男に渡し、以降ずっと大喜利しているのだが、今の所席を立つ様子はないし、男の方も毒を入れてやろうとは考えていないらしく、熱心に大喜利を答えていた。
・・・他の客にとってはいい迷惑なのではないか?
「あれは川崎のアニキじゃないな。もっと背は低かったし、大喜利も上手かった。俺は『ベーコンとサラミのピザ』で」
塩っ気の強い豚肉しか乗ってなさそうなピザを頼みながら、マサムネギはきっぱりと断定した。
流石に何時もの服装で来たらバレると思ったのだろう、スーツ姿だし、韻も踏んでいない。
因みに「馬鹿にしかできない寝苦しい夜の裏技と言えば」の回答は、「水をいっぱい飲む!!!」
「有楽町で色竜さんをストーキングしてたやつに似てません?『ビッチラザニア』と『照焼チキン』のハーフアンドハーフ、『マルゲリータ』はモッツァレラ追加トッピングで」
俺がPewDiePieに怒られそうな名前のピザを頼みながらマサムネギに投げかけると、「言われてみれば背格好は似てるな」と頷いた。
因みに「馬鹿にしかできない寝苦しい夜の裏技と言えば」の回答は、「いっそ寝ずにカブトムシを取りに行く」
「つまり、元々引っ付いてたストーカーが、これ幸いと近付いたってことスか?このクアトロってやつで、『ダブルエッグ』、『3種のビーフ&チーズ』、『5つの夏野菜とかぼちゃ』、『10倍ハラペーニョ』で」
宮古島が、もはや合計で何が何種類乗ってるのかもわからないオーダーを繰り出すと、中年男性の店員は「ご注文を繰り返します」と律義に一つ一つ確認し始めた。
魔法の呪文がダラダラと流れ出る間、宮古島は慣れた手つきで色竜嬢たちをスマホで隠し撮りし始める。
こいつも、電車でぐうたら寝ているオッサンをネットに晒上げているのだろうか。
因みに「馬鹿にしかできない寝苦しい夜の裏技と言えば」の回答は、「クーラーを2個付ける」
宮古島のストーカ犯人説に、マサムネギは「それは違うと思う」と切り返した。
「むしろ、殺人犯がストーカーだったと考えるべきだろ」
「というか、あそこで大喜利に巻き込まれてる男が犯人じゃないとしたら、二人が危ないんじゃ」
「先輩、そこは大丈夫ッス」
宮古島が言うには、彼女の担当編集である長峰が気を効かせて、二人のためにタクシーを手配していたというのだ。
よく背景を理解していない物造は、昏寧堂出版と言う、刊行物の知名度はないくせにいっちょ前に会社名だけ知られている竹書房とどっこいの出版社の人間が自分に何の用だと当初困惑していたものの、
「C@の海老原さんも認める漫才師として今度取材させてほしくてぇ~その前払いみたいなものでぇ~」
という年上の女性のお願いを真に受けたらしく、名刺を受け取って結局ノリノリでタクシーに乗って帰っていったという。
「直接見てたお前から見てどうだ、焼き肉食べ太郎。アイツは何者だと思う?」
マサムネギに促され、色竜嬢と彼の漫才を振り返る。
ネタ自体は、あの男は「ノーコメント」というセリフに対し、ボケの色竜嬢がああだこうだと理屈を垂れる構成。
要は、臨時の相方が覚えるセリフ量を極限まで減らした漫才だった、と言える。
問題はそのツッコミ役。
セリフの他には、若干のリアクションがあるだけだが、それがちゃんと場をオトす機能を果たしていた。
「全体的に漫才が小慣れてたんですよね」
アマチュア漫才と言うのは、人によっては一世一代の舞台だ。
足をがたがた言わせて緊張している人もいる中で、彼はあまりにも自然に漫才をこなしていた印象がある。
「つまりそれは、俺より漫才が上手かったってこと?」
言おうかどうか迷うが、上手かったかどうかで言えば、上手かった。
マサムネギが下手というわけではない。
バトルMCとしてネタに頼れないシーンの中では、精神的に前傾姿勢になることが要求されるためだろう。
故に、暗記したセリフを読んでいる部分が分かりやすいのだ。
一方であの男はあくまでもネタの世界の中に潜り込み、自然な行動を取っているように見えた。
全体的に、ネタ臭くなかったのだ。
そこを気にするのかよ、とも言ってられない。
何せ、漫才の相方の座を狙われているのかもしれないのだ。
・・・色竜嬢があの男を選んでしまったら、その時点で被害者はこれ以上増えないかもしれないけども。
「何て言うんですかね、テレビで見る感じって言えばいいです?」
「インディーズじゃなくメジャーみたいなこと?」
「まあ、はい、多分そうです」
「マジか・・・」と、頭を抱えるマサムネギ。
その姿を見て、宮古島は呆れかえったように言うのだった。
「HipHop一本にすりゃいいじゃないスか・・・」
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