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24年8月27日
俺は犯人に心当たりがあるが君はどうだ
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「俺を、相方から引きずり下ろす・・・」マサムネギは困惑しているようだった。「そんなことして、何になる。ただの社会人漫才だぞ。フツーに声かけて組めばいいだろ」
「そうじゃなくて、彼女を独占したかったんだとしたら」
湯本の中には、答えが出来つつあるようだった。
俺は大人しく推理の行方を見守ることにした。
「私生活含め監視する中で、彼女が最も心を許している相手が漫才の相方であるあんただったとして、どんな手を使っても収まろうとしている。それも、殺された哀れな被害者の後釜としてじゃなく、人殺しの罪人の皮をかぶせて彼女が本心がアンタから遠ざかる様に仕向けてる」
マサムネギは「そうか」と小さく呟いながら、ポリポリと頭を掻いた。
湯本は止めとばかりに、マサムネギに言うのだった。
「彼女は一時期アイドルだったんだろ?厄介ファンがいてもおかしくない」
「それならお前らのセンセイが殺されんのはわかるな。ポッと出のデブが狙ってる女の隣に収まったんだ、殺したくなってもおかしくない」
マサムネギはスプーンでナンを掬い、口に放り込んだ。
その顔には、迷いが見て取れた。
まるで、見たくもない深淵を覗き込むかのような顔で、カレーの入った器を覗きこむ。
「でも本多のアニキは?別に色竜の相方になろうなんて思ってなかったはずだ」
「横須賀までバイクに乗せたのが他の誰でもない本多さんだったから、殺した」
湯本の言葉は、もはや一人の人間を名指ししているに近しいものだった。
降参とばかりに、マサムネギはナンを食べ、額に浮かんだ汗を拭った。
その顔には、安堵にも公開にも似た色が広がっていた。
おそらく、彼も「そうかもしれない」とは思っていたのだろう。
そしてできることなら、その相手を疑いたくなかったのだ。
俺は、その人物に対する疑いをマサムネギが込めたネタを、知っている。
「24日のネタ、あれはホンダと鈴木、そして名古屋弁を話す川崎という人物が登場します。彼こそ、本多さんの元相方でこの一連の事件の犯人だ、そう思ってるんですよね」
「・・・っぱ、そうなっちまうか」
マサムネギは一瞬俯き、ピッチャーからグラスへ水を注ぎ、一気に飲み干した。
どうにかして、喉元に詰まった何かを流し去りたいかのように。
その間も、俺は考える。
マサムネギの策を、遡り、追いつく。
「本多さんは横須賀に色竜さんを乗せていった後、名古屋まで向かったことが、ブログには書かれています。社会人漫才を始めた頃から親交のあったあなたは、ある可能性に気付いた。失踪した本多さんに最後に会ったのが、名古屋にいる元相方である可能性です」
そう、同じバイク乗りなら、本多の乗ってきたバイクのサイドカーに当人の遺体を乗せて東京まで運び込むことができる。
報道通り首を絞めて殺したのなら、血痕を極力残さずに公園まで運び込むこともできる。
「だから、カマをかけるために、あえてネタ中に被害者と同時に登場させた」
それに、余りにもネタにおける川崎のパートは、出来すぎていた。
「何もしていない」のに「逮捕されるかもしれない」という表現。
まさに鈴木教諭がナッツ入のカステラを食べたのを、見捨てたのを彷彿とさせる。
遺体の第一発見者であるマサムネギは、警察からアレルギー反応が死因だと聞かされたのかもしれない。
そして、遺体発見時に見つけた潰れたカステラを思い出し、殺害方法に至った。
そしてじっとりとした湿り気のある、色竜嬢を女として見ているかのような2度目のボケ。
それも、ストーカーが彼だと仮説を立てていたから。
「そこまでの確信があったのは、過去にも色竜さんに対してアプローチがあったんじゃないですか?」
マサムネギは、目を瞑り顔をしかめる。
赤トウガラシを噛み潰したように顔を赤くし、口を大きく開け、息を大きく吸った。
「・・・・・・MCスシ、ラップよりキレがあるじゃねえか。まるでナミダ寿司だぜ」
いや、焼き肉食べ太郎です。
「そうじゃなくて、彼女を独占したかったんだとしたら」
湯本の中には、答えが出来つつあるようだった。
俺は大人しく推理の行方を見守ることにした。
「私生活含め監視する中で、彼女が最も心を許している相手が漫才の相方であるあんただったとして、どんな手を使っても収まろうとしている。それも、殺された哀れな被害者の後釜としてじゃなく、人殺しの罪人の皮をかぶせて彼女が本心がアンタから遠ざかる様に仕向けてる」
マサムネギは「そうか」と小さく呟いながら、ポリポリと頭を掻いた。
湯本は止めとばかりに、マサムネギに言うのだった。
「彼女は一時期アイドルだったんだろ?厄介ファンがいてもおかしくない」
「それならお前らのセンセイが殺されんのはわかるな。ポッと出のデブが狙ってる女の隣に収まったんだ、殺したくなってもおかしくない」
マサムネギはスプーンでナンを掬い、口に放り込んだ。
その顔には、迷いが見て取れた。
まるで、見たくもない深淵を覗き込むかのような顔で、カレーの入った器を覗きこむ。
「でも本多のアニキは?別に色竜の相方になろうなんて思ってなかったはずだ」
「横須賀までバイクに乗せたのが他の誰でもない本多さんだったから、殺した」
湯本の言葉は、もはや一人の人間を名指ししているに近しいものだった。
降参とばかりに、マサムネギはナンを食べ、額に浮かんだ汗を拭った。
その顔には、安堵にも公開にも似た色が広がっていた。
おそらく、彼も「そうかもしれない」とは思っていたのだろう。
そしてできることなら、その相手を疑いたくなかったのだ。
俺は、その人物に対する疑いをマサムネギが込めたネタを、知っている。
「24日のネタ、あれはホンダと鈴木、そして名古屋弁を話す川崎という人物が登場します。彼こそ、本多さんの元相方でこの一連の事件の犯人だ、そう思ってるんですよね」
「・・・っぱ、そうなっちまうか」
マサムネギは一瞬俯き、ピッチャーからグラスへ水を注ぎ、一気に飲み干した。
どうにかして、喉元に詰まった何かを流し去りたいかのように。
その間も、俺は考える。
マサムネギの策を、遡り、追いつく。
「本多さんは横須賀に色竜さんを乗せていった後、名古屋まで向かったことが、ブログには書かれています。社会人漫才を始めた頃から親交のあったあなたは、ある可能性に気付いた。失踪した本多さんに最後に会ったのが、名古屋にいる元相方である可能性です」
そう、同じバイク乗りなら、本多の乗ってきたバイクのサイドカーに当人の遺体を乗せて東京まで運び込むことができる。
報道通り首を絞めて殺したのなら、血痕を極力残さずに公園まで運び込むこともできる。
「だから、カマをかけるために、あえてネタ中に被害者と同時に登場させた」
それに、余りにもネタにおける川崎のパートは、出来すぎていた。
「何もしていない」のに「逮捕されるかもしれない」という表現。
まさに鈴木教諭がナッツ入のカステラを食べたのを、見捨てたのを彷彿とさせる。
遺体の第一発見者であるマサムネギは、警察からアレルギー反応が死因だと聞かされたのかもしれない。
そして、遺体発見時に見つけた潰れたカステラを思い出し、殺害方法に至った。
そしてじっとりとした湿り気のある、色竜嬢を女として見ているかのような2度目のボケ。
それも、ストーカーが彼だと仮説を立てていたから。
「そこまでの確信があったのは、過去にも色竜さんに対してアプローチがあったんじゃないですか?」
マサムネギは、目を瞑り顔をしかめる。
赤トウガラシを噛み潰したように顔を赤くし、口を大きく開け、息を大きく吸った。
「・・・・・・MCスシ、ラップよりキレがあるじゃねえか。まるでナミダ寿司だぜ」
いや、焼き肉食べ太郎です。
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