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24年8月28日

俺に名案があるが君はどうだ

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「来たな若者、座れバカども
 俺に名案、分ける明暗」

夕方。昨日と同じカレー屋に、俺と湯本は集まっていた。
呼び出した張本人のマサムネギは、既にタンドリーチキンを頬張っていた。
全員が思い思いの注文をし終えると、マサムネギは話し始めた。

「明日のライブに俺は不参加
 そこでお前ら、手を貸さんか」

「あんたがライブに出ないのがなんで名案になる?」
「なんでライム踏んでんだ」

呆れるほどに俺たちの返答はちぐはぐだ。

「勘が鈍る、バトルしない日
 もったいぶることなく韻踏みたいし
 これは大したことないRhyming
 俺は期待したいんだ二人に」

「「おお~~」」

思わず唸ってしまった。即興にしてはお上手な韻踏み。
じゃないんだよ、俺の質問に答えろ。


「移ろう本題に。
 でなきゃ逃すぞTiming」

「「おお~~」」

俺のアンサーにまるでさっきと同じ感嘆の声を上げる、マサムネギと湯本。
Yo,Yoと調子を整えてから、カラッポの音に乗り出す。

「色竜は香盤に穴開けない
 出番変えたって逃げるわけない
 川崎嗅ぎつける必ず
 その鼻先に突きつける真実
 用意したよ、おもろいネタ
 容易にダンス、明日の舞台
 乗るかはお前らの気分次第
 でもなれるさお笑い第三世代」

二人して「「Yeah~!」」と盛り上がってしまった。
湯本に至っては「ポウポウポウポォ~ウ」と機嫌よく声を上げている。
・・・いや、はしゃいでる場合じゃないだろ!
カレー屋のご主人も苦笑いしているし、お笑い第三世代になるつもりはないのだから。

「でも俺ネタ覚えられないよ」

と、何気に前向きに答える湯本。
マサムネギは懐から丸めた髪を取り出し、輪ゴムを外した。

「台本見ながらできるネタ
 考えておいてよかった」

差し出されたプリント用紙を読み進める湯本は、「これなら俺でもできそう!」とまるで進研ゼミのフリーペーパーについてくる漫画の様な事を言っている。
湯本からひったくって読み進めるが、台本を読んでも違和感がないのはコンビの内一人だけである。
俺はきっぱりと言い放った。

「俺は出ないぞ」
「いや、出る流れだっただろ。夏の思い出作りしようぜ」
「お前じゃないが、ネタを覚えるなんて無理だ」

というか、もう十分思い出にはなっている。
アマチュア漫才のライブ見て、ラッパーに混ざってサイファーして。
大学入試のためだけの夏になると思っていたのに、こんな夏になると誰が思っただろうか。
・・・コイツ、サボローか?

「ただでさえ中世インド王朝の変遷で頭いっぱいなんだから。できても
「それは

マサムネギは俺に乗っかる形で韻を踏んだ。
大した才能、病的だ。

「意外に代理はいたりしない?」
「下手すれば犯人に狙われるかもしれない。危険に首突っ込ませられないって発想は?」

マサムネギは「鋭い指摘 like a 」肩と竦めた。
湯本は「わからん」と言う顔で、手を挙げる。

「そもそも、その川崎?をとっちめればいいんだろ?なんでこの期に及んでおびき寄せないといけないんだ?」
「顔と本名をずっと
 隠しているヘルメット
 外さないと書けないデスノート
 警察も取り合っちゃくれねーぞ」

写真を思い出す。
マサムネギが言うには、川崎は舞台上でもヘルメットを着けたままネタをしていたし、それは楽屋でも一貫していたという。
漫才はしたいが職場にバレたくないという社会人漫才師にとっては、よくあることだそうだ。
だが、流石にヘルメットを被ったままでは、色竜嬢も警戒してコンビを組んでくれない。


「そうなるとアンタ自身は現場にいるのはまずいんじゃないの」
「So,会場外で待って尾行
 そのまま本性を暴こうYa」

湯本は「ますますわからん」と言う顔で、手を挙げた。

「・・・これ色竜さんに言った方がいいんじゃないの?」

マサムネギは首をゆっくり振った。


「アイツはまだ、解散の過去を振り切れてねえんだ。下手に心に負荷をかけられない」
「もしかして有楽町で俺を捕まえたのも、彼女に内緒でストーカーを排除したかったからですか」
「ああ。アイツ、ブログじゃおちゃらけてるが、本気でストレスがたまってたからな」

韻が崩れている。
それだけ彼女のことを心配しているのだろう。
・・・これが自然体なら韻踏んでるときのこいつは何なんだよ。

湯本は、我に名案アリと言わんばかりに手を挙げた。

「例えばSNSで色竜さんに成りすましておびき寄せるのは?」
「ダメだ、アイツはカメラに映るのを極端に嫌う。きっとナリスマシのための写真なんて撮らせないぜ?」
「そりゃまたなんで?」

湯本の疑問に、マサムネギは逡巡した。
「あくまで予想だが」と加えてから、ゆっくりと一つ一つ理屈を頭で詰めるようにして、言った。

「解散は、ファンとのトラブルが原因だったんだ。メンバーの一人が受けたひどい仕打ちがトラウマになり、極端に『目立ちたがらなくなった』。俺はそう思ってる」
「だから、動画も写真も残していないと」
「ああ。監視カメラや顔つきの認証なんかも極力は避けてる」
「・・・ならなんで漫才を続けてるんだ?」


俺の当然の疑問に、マサムネギと湯本は顔を見合わせて破顔した。
湯本はひっくひっくと肩を揺らす。


「舞台に立てばお前でもわかるよ!」
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